フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

ひな祭り ー当日ー 黎明 PFCSss13

 「これで終わり……ですか」

 目の前には、ソラたちの絶望を体現するかのような存在が浮いている。全員が力を合わせて、ようやく沈黙させたエアリス。それが全く同じ姿形で三機。
 容赦ないガトリングガンから仲間を守るため、ペストマスクの医者が真っ正面に立ち被弾した。さらに流れ弾を先生が弾き、ようやく敵の攻撃を防げた。
 しかし、ペストマスクは床で仰向けのまま動かない。先生は左手に玉が被弾しており、地面に膝をついている。
 
 エアリスはすでに発射体勢に移っている。次にガトリングガンを掃射されれば敗北確定だ。そうでなくても、ここにいるソラ、クライド、バトー、ショコラ、そして傷ついた先生にこの状況を逆転できるだけの力は残されていない。
 例えこちらが万全であったとしても、すさまじい再生能力と圧倒的な攻撃力を合わせ持つ、エアリス三機を沈黙させるような手はないだろう。
 ソラの頭に様々な幻影がフラッシュバックした。誘拐された時の光景、助けられた時に浴びた日光、ヒーローになった日の様子、ルーカス様、そして……愛する人の顔。
 自分はこれから死ぬんだ……。ソラは死を覚悟して、下を向き、両腕を前で交差した。これから走るであろう激痛に耐えるためだ。
 地面に向いたとき、ペストマスクと目があった。腕に緑色に輝くメスが握られていて、柄をこちらに差し出していた。ソラは反射的にペストマスクが何を望んでいるかを察して、そのメスを受け取った。


 その瞬間、解剖鬼の言葉が脳裏に響いた。一秒にも満たない出来事にも関わらず、ソラは解剖鬼の伝えたことを全て理解した。

 『このメスは私の力、パラレルファクター・アンダーグラウンドの源だ。メスの内に妖怪の魂が宿っている。このメスを失えば、今の私は仮死状態になってしまうが致し方ない』

 『飛び去ったエアリスを逃せば恐らく都市国家カルマポリスに向かってしまうはずだ。カルマポリスはこの国からそう遠くはない上、町のエネルギーをワースシンボルと呼ばれる巨大な水晶に頼っている。ワースシンボルが奴の手に奪われれば、国一つ分のエネルギーがエアリスの手に落ちることになる。さらに運が悪いことに、カルマポリスは妖怪の国だ。PFを量産できる下地が揃っている』

 『あと少し耐えれば、人質がいたために動くことが出来なかった、カルマポリス・ドレスタニア・アンティノメル・リーフリィ・ライスランド・クレスダズラ連合軍が増援に来る』

 『増援が来るまでエアリスを押さえつけて欲しい』

 『無理を承知で頼んでいる。私が始めたのにもかかわらず、自分の尻拭いさえ出来ない。君の見込んだ通り、私はとんだ悪党のようだ。厄介ごとだけ押し付けて、自分は仮死状態ときているクズだ』

 『だがパラレルファクターの力だけは本物だ。主でないソラでは潜在能力を引き出すだけで精一杯だろうが、君は私たちの中で一番若く、可能性がある。自分を信じるんだ』

 『もうすぐ夜が開ける。君が勝つにしろ負けるにしろ、黎明の刻、決着がつく。世界を救え!ソラ!!』


 メスはソラの中に取り込まれるように消えていった。

 ソラは今まさにガトリングガンを放とうとしているエアリスと、仲間の間に立ち、ナイフを構えた!

 ソラは感情がなかった。正確に言えば押さえつけていた。過去に誘拐されたとき、恐怖や苦痛などの圧倒的な負の感情をから自分を守るため感情を、記憶を封印した。ソラが今までずっと敬語で話し、表情を変えずに感情をこめず話すのはこのためであった。
 しかし、解剖鬼のメスに触れることで神経を一時的に書き換え、ソラの記憶と心が甦った!



 ソラの心に鼓舞されるかのようにバトーが立ち上がった。

 「……救い出さなければならない人がいる。エスヒナと約束したんだ。絶対に……彼女を……セレアを助けると!」

 クライドもそれに続く。

 「俺たちには帰りを待ってくれる人がいる。こんなところで倒れたら、ラシェやラミリア達になんて言い訳すればいい!俺を信じてくれる人がいるんだ。俺は絶対にあきらめない!」

 先生が再び闘志を燃やす!

 「私は絶対にお前に打ち勝ち、勝利の白米を、(あとお菓子も)子供たちと一緒に頬張るのだ!こんなところで立ち止まっている暇はない!」

 エアリスがドレスを翻しながらいい放つ。


 『何をどうしようが、この絶望的な戦力差は変わらぬ』
 『貴様らの冒険はここで終わりだ』

 『菓子にうつつを抜かした過去のお前ら自身を恨むがよい』

 ソラは嘲笑を響かせるエアリスを無視してクライドに話しかけた。

 「クライド、剣を借りるよ」

 「その様子……何か手があるんだな!」


 ソラは静かに頷くと、クライドから剣を受け取った。


 「解剖鬼さんから、とって置きのプレゼントを貰ったんだ。俺は……いや『僕は』……僕のままで戦う」

 「ソラ……その口調……」

 「……僕のこの口調、見せたことなかったね」

 ソラはエアリスに向き直ると剣とナイフを構えた。解剖鬼のメスによってソラの潜在能力が引き出されていく。
 それが頂点に達したとき、ソラは剣を振るった。

 剣は何もないはずの空間を切り裂き、穴を作り出した。その中にソラが入ると、エアリスのうち一機が真っ二つに引き裂かれ、その間からソラが飛び出した。
 さらにもう一機のエアリスの胴をぶったぎる。

 「入ると別の場所に瞬間移動する穴を作ったのか!なんという奥義!奇跡でも起きたか!」

 先生が思わず叫んだ。

 3機中2機のエアリスが胴をぶったぎられ、攻撃を中断した。
 残る一機は掃射に成功したが、先生が刀を使い、何とか玉を弾いた。片腕ケガしているわりに全く剣の腕が落ちていない。

 「君に何が起きているのかはわからない。でも、何はともあれ……やってやれ!ソラ!」

 クライドに氷斬剣を新たに作り出し、渡したバトー。その声援にソラが答える。

 「うん!ただ、長くは持ちそうにないんだ。攻撃の度に力が抜けていくのを感じる。一人で戦うと多分、一瞬でいつもの状態に戻ると思う」

 ショコラが嬉々とした表情でフォローする。

 「私たちがサポートするので、出きるだけ長く持たせてください。皆で戦うんです!」

 ソラは光のともった目で声援に答えた。


 「貴方達の安全も考えないとね!」


 そう言うと目に止まらない速さでナイフで仲間の空間を切り裂き、万が一ガトリングガンが撃たれても関係ない方向へと繋がるワープホールを作り出した。

 「僕らは戦うんだ……仲間のために、皆のために!」

 ソラは剣には炎を、ナイフには冷気をまとわせた。この力によりエアリスの機能を停止させるようとする。

 エアリスの内二機は復元を終えるとマシンガンを乱射した。

 さらにもう一機は手を刃のついたドリルに変形させ突っ込んできた。

 「僕には効かない!」

 ソラは目の前の空間を切り裂きマシンガンの玉を防ぎつつ、ドリル持ちのエアリスの頭部を空間ごと切り裂き、異空間に消し飛ばした。

 「ソラ!ナイスだ!シャゥ!!!」

 頭部を破壊されたエアリスの体を、先生が一刀両断した。エアリスはたちまち気体と化し、蒸発する。

 「僕は戦うんだ!逃げない!どんな逆境だろうと仲間と支えあって乗り越えてやる!」

 さらに、マシンガン持ちのうち一機に接近すると、炎の剣と冷気のナイフでエアリスを目に止まらぬ速さで一気に切りつけた。

 切りつけられたエアリスは再生不良に陥った。フラフラと地面に落下するエアリスをショコラがとらえた。

 「これで止めです!」

 ショコラの奇襲により二機目のエアリスは頭部を凍結され、胴体は蒸発した。

 残る一機のエアリスも両手を剣に変えてソラを強襲する!

 「効かないよ!僕は今…全てを出し切る!」

 エアリスの剣を、胴体を、頭部を、熱気の剣と冷気のナイフで切り裂く!
 そして、墜落したエアリスにバトーとクライドが止めをさした。

 「矢面に立って、皆を助ける。困っている人がたとえこの地のはてにいようとも全力で助けにいく!そこに国も種族もない。それがアンティノメルの……ヒーローだッッッ!!!」

 オオオオ!というすごい早さでなにかが飛行する音が、破れた絵画の穴から聞こえてきた。

 ソラはその隙に、ナイフとメスを持ちかえ、先生の傷口から銃弾を摘出し、服を破り包帯の代わりにして治療する。
 さらにエアリスが開けた絵画の穴の中に入り、奥へと突き進んでいく。絵画の中は緩い傾斜になっており、幅十メートルはある巨大な通路となっていた。左右の壁に蛍光灯が埋め込まれており、無機質な光で部屋を照らしている。

 奥からジェット噴射の音と共に、もう一機のエアリスが出現した。


 『エアリス5 交戦する。貴様らはどうあがいても勝てん』

 「まさか、あやつは量産機か!」

 「でも、僕たちは既に君たちを停止させる術を持っているよ!さあ、止まれっ!」

 出てくれば出てくるほどソラの腕は上がっていく。ソラはクライドに炎を宿らせた剣を返すと、ナイフでエアリスの頭部を的確に凍らせた。

 クライドは残る魔力を全て使い、剣の炎を強めるとエアリスの頭部に突き刺す。さらにショコラが追撃をして、流れるようにエアリスを破壊した。

 ソラ、クライド、バトー、ショコラ、先生はさらに奥へと突き進んでいく。下り坂が終わると、通路の左右の壁がガラス張りになった。その中にはまるでファッション展のマネキンのように、直立したまま動かない、エアリスが並んでいる。

 「エアリスが同時に起動できるのは恐らく三機まで。でも、在庫は……相当な量がありそうだね」

 クライドが苦悶の声をあげると、ソラが言った。

 「でも、何機来ようが僕たちは負けない!」

 ソラはメスを手に持つと、空間を切り裂きワープホールを作った。数百メートル先に繋がっている時空の穴だ。
 ソラたちがワープホールを潜り抜けた先には、巨大な空間が広がっていた。薄暗い空間に黒いビルのような建物がいくつも立ち並んでおり、その窓一つ一つの内側に緑色の液が満たされており、異形の生物が浮いている。
 異世界にでも来たかのような錯覚に陥る空間を進んでいると、真横の建物の窓がいきなり割れて、中からエアリスが飛び出してきた。


 『エアリス6 交戦する。言っていられるのも今のうちだ』
 『エアリス7 交戦する。やがて、決して勝てないことに気づくだろう』


 ソラは解剖鬼のメスを大きく振りかぶると、新たに飛来した二機のエアリスに向かっていった。
 ナイフでエアリス6を凍らせ、頭部を解剖鬼のメスで突き刺す。アンダーグラウンドが発動し、脳神経を書き換え修復機能を無力化する。
 さらにソラのメスを避ける際に隙のできたエアリス7に、ショコラが剣を突き立て、クライドが熱し、バトーが止めを刺す。

 五人はさらに突き進んでいく。

 突然、クライドの黒髪が激しく揺れ、暴風が一行を襲った。カマイタチだ。
 ソラとその後ろにいた先生、なんとか耐えることができた。ショコラに至ってはあり得ない動きでカマイタチをかわした。しかし、バトーが風の刃に容赦なく切り裂かれた。吹き飛ばされて、建物の壁に激突する。


 「バトーさん!」


 ソラが近づこうとしたとき、


 「俺に……構うな!お前の成すべきことを成せぇ!」


 とすさまじい剣幕でバトーが叫んだ。


 「……でも……」

 「行けッ!ソラ!」


 迷うソラの手をクライドが引いた。クライドはバトーの意思を尊重したのだった。


 『エアリス8 交戦する。いい加減、諦めたらどうだ?』
 『エアリス9 交戦する。何機倒されようか蚊ほどにも
効かぬ。どこまで行こうと貴様らの望む場所にはたどり着けぬ』
 『エアリス10 交戦する。貴様らに与えられるのは絶望だけだ』



 「だったら早いところカルマポリスに行ったらどうなんだい?この奥にエアリス……いやクロノクリスにとって絶対に俺たちに渡すことのできない大切なものがあるんだよね?だから俺たちを野放しに出来ない。余裕ぶっていても内心は慌てているんだろう?」


 ソラはエアリス8に熱を帯びたナイフを突き刺し沸騰させ、ショコラに向かって投げた。ショコラが的確に頭部を凍らせ、クライドが胴体を切り裂き、先生が頭部を『白米断』して破壊する。

 さらに気合いをいれるとエアリス9に解剖鬼のメスとナイフで、すさまじい斬激を放ち、再生不能になるまでエアリスを切りつけた。

 だが、このときにソラの体に変化が訪れた。


 「ハァ……グッ……なんでしょう……急に力が……」


 急速に解剖鬼のメスの力が衰えてきたのだ。

 『エアリス11交戦する。パラレルファクターの力はそう容易く扱えるものではない』
 『エアリス12交戦する。時間切れだ。消えるがいい!』

 一瞬の隙をつき、クライドにエアリス10が接近した。クライドは燃ゆる炎の剣で切りつけようとするが……


 「こんなときに……クッ……まっ……魔力切れ……かよ」

 クライドの剣が弧を描きながら宙を舞った。

 脇腹を貫かれ、クライドはその場に膝をつき、ゆっくりと倒れる。クライドを中心に赤い円が広がっていく。
 真っ先にショコラがクライドに近づき、傷口を凍らせようとする。

 だが、二人のエアリスのガトリングガンによって阻まれてしまった。
 ソラはなんとか避けたものの、先生が被弾してしまった。


 「ぐふぅ……ちっ……おむすびさえあれば……」


 倒れていく先生を見ながらソラはショコラに叫んだ!


 「行ってください!この場は僕たちがしのぎます!」


 ナイフでショコラの横を切り裂いた。空間の裂け目が作られ、ショコラの体が勝手に引き寄せられる。


 「そんな、無茶苦茶ですよ!今すぐやめて……」

 「ショコラさん、皆を……世界を頼みましたよ……俺は……もう……無理です」


 弱音を吐き出す。口調、声の抑揚、いつものソラへと戻った。消え去る直前にソラに解剖鬼のメスを託す。

 ショコラはワープホールによって、さらに数百メートル前方まで飛ばされた。
 残ったソラは無表情でエアリスと向き合っている。

 『ほう。ショコラ一人だけ先に行かせたか。まあ、よい。あやつにアレがどうこうできるはずがない』
 『我々は残ろう。エアリス12、ショコラを足止めしておけ』
 『エアリス12 了解した。抜かるなよ10、11』


 一機減ったとはいえ、まともに動けるのはソラだけだった。先生、クライド、バトーはもはやピクリとも動かず、耐え抜いたソラも、感情と潜在能力の解放の代償として全身の筋肉が痙攣していた。


 「でも、それでも俺は……」

 『そうか。ならば死ね』

ひな祭り ー当日ー キーフード PFCSss12

 「これ、どうやって開けるんだろうな~」

 エスヒナは机にふして、ため息をついた。額のバンダナがずり落ちそうになって、慌てて直す。
 エアリスの去った後の部屋で、ずっと彼女のくれた箱と格闘していたのだった。

 「うーん。剣で切っても再生する。魔法を受けても傷つかない。俺様でもさすがにお手上げかなぁ」

 リーフリィ自警団の団長であるクォルも途方に暮れた顔で手のひらサイズの箱を見た。継ぎ目のないフォルム、目の装飾以外はなんの特徴もない、金属製の箱だった。
 かわいい女の子に良いところを見せたいクォルだったがお手上げだった。
 エスヒナは二度目のため息をつく。

 「重要な物が入っていると思うんだけどなぁ」

 エスヒナは正方形カドを床につけて、対角のカドを指で押さえ、くるくる回転させて遊び始めた。

 「それにしても、これどんな技術で作られてるんだ?剣で切ろうが液状になって再生する。一応目の装飾が再生の機能を持っているみたいだけど、肝心の装飾そのものも、再生しちゃうとなると……。エスヒナ、なんかエアリスがヒント言っていなかったか?」

 くるくる回転する箱。エスヒナはエアリスが何て言っていたかを思い出していた。




 『これ、どうやって開けるんだ?』

 『秘密じゃ。少なくともそなた以外には開けられん』




 私以外にはむり。なんだろう?暗号か何かか?うーん。目の装飾……



 「クォル。この部屋から出て、あたしがいいよって言うまで待ってくれない?試したいことがあるんだ」

 「おっ、何か気がついたか?」

 「うん。ただ、第三の目を開けるから……」

 「わかった。絶対に部屋には入らない」

 クォルはそそくさと部屋から出ていった。部屋に鍵をかけると、エスヒナは慎重に額につけていたバンダナを外した。そして、サムサールの特徴である第三の眼を開いた。
 エスヒナの種族であるサムスールは、額に第三の眼を持つ。その瞳を見たものは特定の感情に囚われてしまう。そして、額の持つ感情を、そのサムスール自身は持たない。エスヒナの瞳が持つ感情は……

 「クォル!やったぁ!開いたよ!あんたのアドバイスのお陰だ」

 額にバンダナをつけたエスヒナが、扉の外に待っているクォルに抱きついた。よほど箱を開けられたのが嬉しかったらしい。

 「うぉ!?やったなエスヒナ!」

 一方クォルは、棚からぼたもちを下さった天に感謝した。が、世話しなく働いているアンティノメルのヒーローらの冷たい視線を感じて、すぐにエスヒナから離れた。
 机の上に開きかけている箱がおいてある。

 「まさかこんな形であたしの力が役にたつとはなぁ。はじめてだよ、こんなの。今まで邪魔としか思ったことはなかった……」

 額のバンダナを撫でながらエスヒナが笑った。

 「あばたもえくぼだな。すごいと思うぜエスヒナ!それじゃあ早速中身を開けてみるか……ん?」

 《お主の手でショコラに渡すのじゃ♪♪》

 「メッセージが側面に出てきた?さっきまでこんなのなかったよね、クォル?」

 「俺様が護衛するから安心して?」

 「えっ!あたし行くの?!っていうかあんたがあたしの護衛!?」

 「えっ……まっ……まあ、この分だとエスヒナが渡さないと意味を成さないんだろうからなぁ。まあ、あっちにはバトーもクライドもいるし、その上俺が行くとしたら護衛にグレムがつく。心配すんな」
 
 クォルの心に浅い傷がついた。

 「まあ、後のことはともかく、とりあえず開けてみよっか」

 エスヒナはゆっくりと立方体の蓋を開けた。

 「えっ……」

 「これ、あれだよな。ドレスタニアの……」



 コンコンッ、と扉の叩く音がした。



 「どうぞ?」

 エスヒナはゆっくりと扉を開けた。

 まず最初に茶色いコートを身に纏った鬼が出てきた。

 「おはようございます。自警団団長クォルさん。私はアンティノメルの警察を統括するルーカスと申します」

 次に露出の多い民俗衣装に身を包んだ女性が入ってきた。見るからに活発そうである。

 「我は今回クレス王国、ダズラ王国連合部隊を率いるダズラ王国王女、スヴァ=ローグじゃ。出会えて高栄じゃ」

 クォルはあんまりの豪華メンバーにたじろいだ。

 「えっ……アンティノメルの警察のトップとダズラ王国の王女様!?」

 「ドレスタニアにて外交官を勤めさせて頂いておりますエリーゼです。ガーナ様の代理で参りました。以後お見知りおきを」
 
 「……レカー城親衛隊副隊長のオムビスと申す」

 エスヒナは自分の記憶を手繰り寄せるので精一杯だった。誰も彼もが学舎や新聞で見聞きしたような名前ばかりだったからだ。
 彼女の褐色の肌に冷や汗がだらだらと浮き上がる。

 「おっ……おう。俺はリーフリィ自警団団長のクォルだ。よろしくお願いするぜ!」

 ひきつりながら笑うクォルの横で、エスヒナは頭を下げまくっていた。

 スヴァ=ローグはニヤリと笑った。

 「ようやく人の目や法の網を潜り抜けてきた、ノア輪廻世界創造教を公的に潰せるチャンスが来たのじゃ。存分に叩き潰そうぞ!」


 なんでこんなところに来ちゃったんだろう……とエスヒナが後悔しはじめた時、ドレスタニアの外交官が机の上に置かれた箱に気がついた。

 「これ……ガーナチャンプルー、ですよね?」



━━━

ひな祭り ー当日ー 絆の力! PFCSss11

 「わかったのか!ショコラ」

 ショコラは自信ありげに頷いた。


 「彼女には致命的な欠点があります。それは……」

 「我に弱点などない!」


 エアリスは手をヒモ状に変えてショコラにつかみかかろうとした。しかし、ショコラのやたら軽快なステップで交わされてしまう。


 「ほらほら、どうしましたか?弱点がわかられて不安ですか?」


 一瞬ショコラが私たちに顔を向けた。いつものショコラからは想像できないくらい、鋭い目付きだった。


 「あいつ……まさか……自ら囮に?」
 

 私はバトーに顔を向けた。バトーも作戦を悟ったらしい。


 「くっ……奴は話し合う隙すらくれない。こうでもしないと作戦を練れん。なにも言わずに……真っ先に一番危険な役目を買っていきやがった……」

 バトーが悔しさに顔を歪めると、その肩を先生が叩いた。

 「危険を承知で請け負った、ショコラの心意気を無駄にはできん!さて、早速だが、あやつは熱や冷気を浴びたとき再生の速度が落ちていた。温度変化に弱いのではないか?」

 先生の言葉に対し、私がすかさず口を開く。その後ろでショコラがエアリスのガトリングガンをかわしている。見事に敵の注意を引き付けていた。

 「医学校でまなんだことなんだが、物質には活動状態というものがある。俗に言われる個体、液体、気体というやつだ。本来は温度で変化するものだが、エアリスの場合は恐らく、液体金属を液体↔個体を意図的に操り肉体を構成しているのだろう」

 クライドが頷く。

 「それなら、凍結されたときに再生に時間がかかったのも理にかなっているね。恐らく無理矢理体温を引き上げて、自分の体を個体から液体にしようとしたから時間がかかったんだ。あと、さっきから顔を全く変形させていないから、人で言う脳の辺りに再生を司る機関があるのかも」

 続いてソラが結論にたどり着いた。

 「つまり、極端な温度変化に弱いということですか?ならショコラさんかバトーさんがエアリスを凍らせてクライドさんが炎の魔法をエアリスの頭部に当てれば……」

 私がソラの言葉を引き継ぐ。

 「エアリスは自分の体を制御しきれずに自壊するはずだ。例えるなら、外が冷えているからと暖炉を炊いたら、突然真夏のような気温になり、暖炉の熱と合間って熱中症になったバーサン……、みたいな感じか」

 ソラが訝しげな表情をこちらに向けた。

 「解剖鬼さん、意味はわかりましたが、なぜその例えにしたのかが全く理解出来ません」
 
 「私なりのくだらんジョークだ」

 私はエアリスの方を向く。

 「なんという持久力。だが、いくら凍らせたところで我は倒せぬぞ?やはり、はったりだったか。ハッハッハ!」
 
 私たちはショコラとエアリスの間に割って入った。部屋の中央でエアリスと向き合う。エアリスの後ろの絵画は、マシンガンによって穴が無数に空いている。教王にとって、もはや神を信仰するのはどうでもいいことらしい。

 「ショコラ、お前のお陰で助かったぞ!」

 エアリスはチッと舌打ちをすると、ショコラを指差した。

 「まあ……よい。ショコラ。貴様は一番最後に殺してやる」

 エアリスの背中の飛行ユニットからミサイルが合計6発放たれた。さらにマシンガンで追撃してくる。
 私は先生の影に隠れて銃弾から守ってもらいつつ、メスを投げた。メスが突き刺さった四つのミサイルは着弾することなく空中で爆発した。残る二つはバトーの作り出した氷柱によって迎撃された。
 敵の注意はミサイルを迎撃したこちらに向いている。

 「いまだ!」

 ソラがショコラの目の前でかがんだ。ショコラはソラを踏み台にして華麗にジャンプする。さらに風の魔法で浮き上がったクライドがショコラをトスし、さらなるジャンプを可能とした。横からエアリスを強襲する!

 だが、エアリスが気づくのが早かった。エアリスはの全関節を90度曲げることで、一瞬でショコラと向き合った。さらに腕がナイフに変形しかかっている!

 「ショコラ!避けろ!」

 出来るはずがない、とわかっていても反射的に叫んでいた。あまりのショックにスローモーションになった。交通事故直前に車がゆっくりと見えるアレである。
 回りの仲間が全員揃って苦悶の表情を浮かべている。空中でエアリスの腕がゆっくりと伸びていく。ショコラは避けられないと察し、相討ち覚悟で剣を振るう。だが、どうみてもショコラの剣よりもエアリスのナイフが体を突き刺すのが先だった。
 私は目をつむりたくなるのを我慢し、ショコラの最後を凝視する。私がこの旅にショコラを誘ってしまったからこうなってしまった。本来なら一人で旅立つべきを仲間を道連れにしたのだ。すべての責任は私にある。だが、今私に出来ることは彼の死を見守るしか出来ない。
私の責任だ。私の責任なのだ。この先ショコラを失ったドレスタニアが、この世界がどうなるかわからない。しかし、どうなろうとも私がしたことであり、私の罪だ。

 ちくしょう……。

 畜生ぉおおおおおおおお!!!




 私が涙を垂れ流しながらみた光景は、ショコラの死ではなかった。何者かによって放たれた矢によって、エアリスはこめかみを貫かれ、体勢を崩していた。

 「行くんだ!ショコラ!!」

 グレムの怒号が遠くから聞こえてきた!彼とコロ助の放った一撃がこの世界の運命を変えたのだ。
 この瞬間、この光景を見ていたショコラとエアリス以外の誰もが叫んだ。

 「行けぇぇぇぇぇぇ!」

 ショコラの一撃がエアリスを捕らえた!エアリスの胸が、ドレスが手足が顔が、一瞬にして凍りつく!
 さらにクライドが剣に炎を宿らせ、墜落するエアリスに突撃した!あらんかぎりの力でエアリスを切り裂きまくる!さらに一旦距離をおき、前方に手をかざして炎の魔法を魔力が尽きるまで連射した!
 
 「ばかな!なぜ再生しない!我は不死身だぞ?!不死身なのになぜ体が崩れるのだ!」

 「あなたは不死身ではありません。神でもありません。独りよがりの……ただの狂人です!」

 ソラは崩壊寸前のエアリスの顔に打撃を食らわせた。エアリスの顔が液体になりながら砕ける。

 「うぬに利用された子供たちの思いがわかるか!『斬滅――米櫃(コメヒツ)』ウシャア゙ア゙ア゙ァ!」

 先生がエアリスの胴体をズタズタに引き裂く!その横でバトーが二刀の剣を振りかぶる!

 「お前は純粋な幼子の魂を己の欲に利用した、悪魔だ!」

 最後にバトーがエアリスの頭部を凍結させた。


 長い静寂がこの場を包んだ。


 ……終わった。


 エアリスの残された体が液状に溶けていき、そのあと蒸発する。これまで、蒸発して攻撃を避けるような素振りを見せなかったことから、気体となった肉体を彼女は制御することが出来ないはずだ。


 「……勝った。全員の力を全て用いてようやく……」


 一気に力が抜けたような気がした。同時に全身の傷の痛みが私を襲った。あまりの痛さに座り込む。


 「でも、セレアが……」


 ショコラの声は悲壮に満ちていた。


 「彼女は悪意はなかった。方法は強引だったが、俺たちに差別を止めさせようとしただけだった。なのになぜ……」


 バトーが天上を仰ぎ見た。


 「人を利用して命をもてあそぶクロノクリス……。全て奴のせいです」


 ソラが悔しさで拳を握りしめる。


 「彼女を救いだしてあげたかった……」


 先生の声にははりがまるでなかった。



 全員が沈むなかで、何か妙な異音が聞こえた。オオオオォォォォと、高速で何かが飛んでくるような音だ。

 私は何かと辺りを見回した。どうやらその音は、不気味な神、ノアの肖像から聞こえてきているようだった。頭から地を垂れ流し、この世の全てをもてあそぶかのような嘲笑を浮かべる、クロノクリスの崇めた神。

 「なんだ!これは!」

 私が叫んだ時だった。ノアの肖像の口が盛り上がった。まるで何かを吐き出すかのようだ。そして、紙が耐えきれず破れ、その中から出てきたものは……。

 「そんな……」

 見覚えのある顔だった。華奢な足、ウェディングドレスに、ガトリングガンと化した両腕。背中の戦闘機のような飛行ユニット。少女には似合わぬ力に溺れた邪悪な笑み。



 『エアリス2 交戦する』
 『エアリス3 交戦する』
 『エアリス4 交戦する』



 一同唖然として、一瞬無防備になった。

 容赦なく3機6丁のガトリングガンが私たちに向かって掃射された。私は自分の身を守るので精一杯……だった。……なんだ、頭がぼんやりする。おかしい……。血が暖かいぞ?信者たちの……垂れ流した血液は……既に冷えているはずだ。

 いや……そもそもなぜ……私は地面に伏せて……。仲間は……どうなった……クッ……。

 いっ……意識が遠く……


 「こやつ、助か………とわかって身代……に!」

 「しっか……てください!」

 「下がっ……私とバトーが傷…凍…せ……」

 

 ……。

PFCS 新国? 豊穣の国━━エルドラン

国名:
エルドラン

位置:
 都市国家カルマポリスから西に数百キロ離れた位置。

町並み:
 農村がほとんどだが、ノア輪廻世界創造教の本堂がある首都は、異様に発展している。中世ヨーロッパの用な感じである。各地に教会がある。


種族:
 全種族バランスよく。妖怪は少し少ない。


概要:
 大陸で起きた妖精戦争の戦地となり、大方の農村は壊滅状態になる。長い時間、国あげて努力したものの復興は難航。行き詰まったエルドランが協力を仰いだのがノア輪廻世界創造教の長にして圧倒的なカリスマを誇る教王クロノクリスであった。

 クロノクリスの尽力により農村は急速に復興。

 今では有名な農業大国にまで成長した。見渡す限りの美しい畑が国のシンボルとなっている。

 鬼、妖精、妖怪、アルファ、そして人間が共同で農作業にいそしむ。民族差別の『み』の字も見当たらない。

 国家交流でライスランドのコロシアムにも参戦。華々しい活躍を見せている。

 今やこの国そのものが戦争の復興と繁栄の象徴である。

 国の条例から、『一期一会』をモットーにしており、鬼や妖怪、妖精関わらず訪れた人には郷土料理による手厚い歓迎があり、観光名所も有名な箇所がかなりある。特に民族宗教(地域特有の宗教)であるノア輪廻世界創造教の本堂が有名。

 住むにしても税が低く、良心的な価格の住まいも多い。ただし、人口や移民問題等から国外からの移住が完全に禁止されている。残念……。

 犯罪も少ない上、他の国々と条約を結んでおり、他国からの侵略の心配も少ない。

 もともと犯罪者が少なく、検挙率も高いため治安も抜群。夜でも子供が出歩けるほど。

 周囲の海域も常に厳戒体制で海賊は全くいない。お陰で安全に国に出入りできる。



 住むのにも遊びにいくにももってこい、のどかで平和な国。

 これが豊穣の国エルドランである。


 皆!是非遊びに来てねっ!



出身
・ クロノクリス・マグナレクス
・ ジェームズ・マクラウド
・ ジョン・ブラウン
・ アルベルト・グズラット
・ ギーガン・グランド

・ セレア・エアリス
・ 解剖鬼










レウカド「カルマポリスの西に位置する国、『豊穣の国エルドラン』。表では観光に力をいれ種族平等をモットーとしている農業大国。だが実際には人間至上主義で闇取引の穴場となっている腐りきった国、だったか?」


セレア「……エルドラン国では種族統合の時、妖怪の乗る乗り物は反対派の者たちに強襲された。こどもの親は妖怪なぞ学舎にふさわしくないとデモを起こした。そして学舎では妖怪の子を模した人形を吊し上げにして、数十人で暴行した。外食しようにも、妖怪とそれ以外では区別された。差別反対を掲げるものはたとえ、同胞であろうとぼこぼこに殴られた」


エスヒナ「妖怪差別は表向きにはなくなっているとされるが、実際には表面化しなくなっただけだ。平然と行われてる」


解剖鬼「ノア輪廻世界創造教又は……新世界創造教。アンティノメルのギャング精霊が関わっている他、人身売買・麻薬取引・武器の密輸などの隠れ蓑になっている。エルドランを裏から操っている。国の要人が信者だ。法も何もあったものではない」


ソラ「ノア輪廻世界創造教はエルドラン国を支配するほどの強大な組織です。単純な戦闘力だけで言えばハサマ王を除くチュリグと互角などと噂されています……」


ルビネル「妖怪から魂を抽出して、呪詛の力を移植する技術。つまり妖怪を殺して力を得る禁術……俗にいうパラレルファクターの技術が我が国、カルマポリスからエルドランに流出しました。それ以降、何百という妖怪が拉致されています……」

カルマポリスについて PFCS

pfcs.hatenadiary.jp

信仰都市国家:カルマポリス
f:id:TheFool199485:20170212210952j:plain


●カルマポリス

 妖怪が作り上げた都市国家。ワースシンボルから得られるエネルギー(既存のエネルギーに例えるなら電線を繋げなくてもいい電気)により、工業や貿易が発展している。
 町の風景は驚くべきほど近代的で100年進んでいると言われている。

 そのかわりにワースシンボルの影響下は緑黄色の霧が絶え間なく漂っており、非常に不気味とされる。遠くから見ると緑黄色のドームの中に都市が封じ込まれているように見える。
 ドームの外には田園地帯が広がっている。
(因みにカルマポリスの機械はワースシンボルのエネルギーに依存しているため、郊外にでるとほとんどの家電製品は使用できなくなる)


●種族
 主に住んでいるのは妖怪とアルファ。小数だが鬼も住んでいる。人間、精霊は住んでいない。

・妖怪
 この街の人工のうち9割を占める。ワースシンボルに依存して生活している。
 ちなみにここの出身の妖怪は、呪詛の力が強い代わり、緑の霧(ワースシンボルの影響下)でしか呪詛を発動できない。
 郊外で使用するにはアトマイザー等の容器にエネルギーをつめて携帯する。かなり高額。

・アルファ
 アルファは光る装飾をつけられて町の名物になっている。主に街の清掃を担当している縁の下の力持ち。


●町の建物
・時計塔
f:id:TheFool199485:20170213230441j:plain
 カルマポリスの叡知を集めた時計塔。地下にワースシンボルが安直されている。


・ワースシンボル
 地元の神社に祭られている神様のようなもの。エネルギーを町に供給している。

・高層建築物
 ワースシンボルのエネルギーが届く範囲に出来る限り建物を作ろうとした結果、高層建築が立ち並ぶ無機質な街並みになった。
 マンションの他にファッション店や百貨店等、様々な商業の建物がある。


f:id:TheFool199485:20170212093147j:plain
f:id:TheFool199485:20170322215954j:plain

ルビネル
種族:妖怪(アルビダ)
年齢:ギリギリ成人
職業:学生

口調:
状況によって口調を使い分ける。人初対面や立場が上の人にはですます調で話すが、親しくなると、くだけた口調になる。

体格:
胸はあまりない。体つきは非常によく、同姓から嫉妬されるほど。

その他:
舌や指がとても器用。


 妖艶な雰囲気とそれに似合わない社交的な性格を持つ。天然気質で変なことをやらかす度に友達を増やしていく猛者。
 呪詛とシンボルの研究をしていて、公共の場で発表したこともある。研究について語るときは普段からは想像できないほど凛々しくなる。
 『妖術』の呪詛を持つ。『約1ミリリットル以上のインクを有したことのあるペン』を自在に操る。
 
 趣味は社会科見学・研究目的などと称して旅行に行き、旅先でかわいい女の子と遊ぶこと。



・タニカワ教授
種族:妖怪
年令:見た目より10歳は老けている。
職業:学校の教授
 年令相応の落ち着いた性格、年令不相応の整った顔、そして甘い配点から生徒からの人気が熱い教授(タニカワ教授のファンより)。
 守りの呪詛を使え、対象の物体、もしくは範囲に同心円状のバリアを作る。一度に二つまで。銃弾をも防げるが、一度強い衝撃を受けるとすぐ壊れてしまう。交通事故に合ったときも咄嗟に発動したが、あっさりと車に突き破られた。
 壊された後は数呼吸した後、作り直しが可能。




==

ルビネルの能力の詳細



1ミリリットル以上インクの入ったペンを操る呪詛。アトマイザーを吹き掛けてから約7+-2分効果が持続する。

1.効果範囲
 半径約?メートル。同時に合計14本位まで。

2.精度
 目に見える範囲であれば?メートル離れた人の首を撃ち抜ける位。
 手足を動かす感覚でペンも動かせる感じ。つまり、視界に入っていないと、体に密着させていない限り精度はめちゃくちゃ落ちる。
 ボールペンを浮かせてスケートをすることもできる。しかし、ペンしか操作できないため、実際に行うには板か何かにペンを固定しなければならない。
(感覚がわからない人は左右一本ずつ、計二本のペンに乗ってみよう。怪我しても知らないけど)

3.速さ
 達人であれば剣で叩き落とせる位のスピード。軌道を曲げると少し減速する。

4.耐久力
ボールペンの耐久力に依存するため、ペンが重さに耐えられないほどのものだと折れる。
 
5.弱点
 的を視認しないと当てることが出来ない。実際に、弱点が水中に隠れている大蛸━レイオクトには全くの無力だった。

老人と調味料!? PFCSss

「さて、お前は確かライスランドの料理コンテストに出ると言ったな?」

「ああ。言いやしたけど、それが?」

「すんごく個人的に私はお前のことを応援している。お前に料理コンテストに勝って欲しいんだ。だから、私はエルドスドのセンセーづてに栄養士を紹介してもらって、グレムと共同して味について研究してみた!」

 「ちょっ!マジですかい!」


 意味不明だ、とでも言いたげに老人は目を見開いた。私は気にせず話を進める。


 「食べ物を美味しく感じる理屈として、まず視覚だ。色鮮やかな新鮮な食べ物を想像してみるといい。それだけで美味しそうに見えるだろう?」
 

 老人が少し嫌そうな顔をして口を動かした。


 「確かにそうですなぁ。前に旦那が出してくれた、青いカレーの破壊力は抜群でしたもんねぇ……。食欲が削がれる削がれる……」

 「グレムが新開発した青色の合成着色料を、興味本意で入れてみたらああなった。」


 私もあのカレーを食いきることは出来なかった。青くて辛い液状の何かである。


 「そして匂いだ。匂いを封じ込めるシートに食い物の匂いを染み込ませ、目隠しをした人に嗅がせると、正確に食べ物の見た目や味を思い出すことが出来たそうだ。よだれをだらだら出しながらな」

 「食べ物の匂いを嗅ぐだけで、お腹が空いてくるアレですかい?」


 パァッ!と老人の顔が明るくなった。よほど青いカレーの破壊力がすさまじかったらしい。


 「そうだ。最後に味だ。人間の味覚は,食物に含まれる分子やイオンが味細胞膜上にある味覚受容体(特定の物質が触れると味を電気信号として脳に信号を送る器官)に作用することによって生じる感覚だ。そこに作用するのは主に塩類や酸類、そしてアミノ酸だ。それらの量とバランスが人間の甘みや苦味、旨味を決めている。つまり、うまいと感じる比率でアミノ酸と塩類と酸類を合成し、それを食べ物にぶっかければ大抵のものは美味しく感じる」


 「ということは……?」

 「さて、これらを総合して、まず合成着色料と合成香料、合成甘味料を作ってみた。このトマトを見てくれ」


 首を傾げる老人の前に、トマトを置いた。赤くてつやつやしていていかにも美味しそうなトマトだ。


 「へぇ、……なんか不気味なくらい綺麗な赤色ですなぁ」


 訝しげに老人はトマトを鑑定している。


 「赤125号と黄色984号という着色料を合成したものにつけた。さらに保存剤である四酸化プロテシレ・ナトリウムをぶっかけてあるからこの状態で賞味期限は一ヶ月以上だっ!さあ、食ってみろ」


 私はトマトを指差して老人の瞳をガン見する。老人の瞳孔が瞬く間に縮まり、明らかな拒否の姿勢を見せた。


 「えっ……俺が食うんですかい?」

 「大丈夫だ。法に引っ掛かるようなものは使ってない」


 ゆっくりと老人はトマトに手を伸ばした。私はじれったくなり老人にトマトを握らせて、鼻の近くに持っていった。


 「……うん、香りもいいな。微妙に強すぎる気がするけども」


 痛いところをつかれたな……。


 「保存材の匂いを誤魔化しているためだ。技術の進歩でどうにでもなる」

 「正直、食べるのに勇気がいるんですが……」


 異形の何かを見ているような表情をしている。そんなに嫌か?ウーン、やはり見た目が派手すぎたかな?赤125号ではなく赤43号を使うべきだったか。まあ、なんにせよとりあえずフォローの言葉をかけておく。


 「大丈夫。食わせて倒れたやつはいない」

 「倒れる倒れないっていう基準がそもそもおかし……」

 「さっさと食え!さぁさぁさぁ!食えばお金やるから!ほらほらほらぁ!化学調味料てんこもりっもりの美味しいトマトだぞぉ!」


 私はトマトを強引に老人の顔に突きつけた。


 「わかった。クッ……頂きます」


 アムッ。シャキ……シャキ……。ゴクッ。


 「クゥゥゥゥ!!……旨いな。味は。なかなかいけますぜ……」


 歯形のついたトマトを鋭い目付きで見つめている。素直じゃない奴だ。まあ、前々からだが……フフフ!


「そうだろう?うまいだろう?」

「なんか騙されている気がするんですが……」

「まあ、確かに。五感を化学調味料で騙している、といって差し支えないだろう」


 別にそんなつもりはないんだがなぁ。単純に美味しいものを作ればいいと思ったんだが。人は所詮道徳だとか健康だとか、もろもろの概念よりも先に、うまいものを食べたいという、原始的で圧倒的な欲望を持っている。


 「あぶねぇ旨さですね。食べ続けると危なそうと認識していながらも、目の前にあると病的に食べたくなる」

 「いや、危なくないから。大丈夫だから。国から認可されている物質ばかりだし、依存性とかそんなものあるわけないだろう?単なる添加物だ。薬物じゃあるまいしさぁ」

 「いや、人工的に化学物質を合成してる時点で……」

 「気のせいだ!」


 私は無理矢理話をたちきった。なんだか無性に研究成果を老人に話したい気分だ。なんていうか、口が止まらない。


 「これを使えば賞味期限ギリギリの危ない食べ物でも、新鮮な見た目、匂い、味に戻すことができる。さらに賞味期限も一月は延びる。安価で旨い食べ物を安定して提供できる。これは食文化の改革だ!」


 これを量産できれば、作り手や場所に関わらず同じ味が再現できるようになる。安いバイトでもそれなりの料理を提供できる。安価で品質が保証されており、なおかつ保存がきく。そしたら一ヶ所の工場で食品を大量生産し、賞味期限の長さを武器に世界の各店舗に向けて輸出、仕上げを各店舗のバイトに任せれば……!

 って、何を考えているんだ?私は。

 とりあえず深呼吸をして老人に向き合った。


 「……あと、その研究の過程で産まれた副産物だ。ほい」


 クールダウンした私は小瓶に入った粉末を老人に手渡した。


「なんですか?この粉は?」

アミノ酸のなかでもうさぽん類の美味しさの秘訣である旨味成分のうち一つ、ウサタミン酸を塩と合成し取り出した粉末だ(現代で言うと旨味調味料である)。ウサタミン酸ナトリウムを産みだす『うさぽん』にライスランド産の白米と昆布を食わせて採血、その血液をろ過すると抽出できる。因みにこれは保存料や加工料を一切使用していない純粋な調味料だ。俗に言う『うさの味』だ」


 ふーん、とちょっとだけ期待している様子で、老人は一つまみ口に入れた。


 「……!?」


 すると、目を見開き、口をぽっかりあけて、口を押さえた。


 「これはッ!旦那これッ!これだよ俺が欲しかったのはっ!……貰えるだけもらっていいですかい?」


 私は少し首をかしげてから答えた。


 「ああ。製造法が製造法なだけに、かなり高価なものだがいいのか?合成調味料のほうがずっと安いが?」


 私は様々な色のついた液体をコートの中から取り出す。緑・赤・橙・青・黄・紫・黒……


 「ウゲッ……いっ……いや、これだけでいいですぜ!」

 「……?そうか。遠慮しなくていいのに……」




 数日後


f:id:TheFool199485:20170408213808j:plain

 「これで行きやすぜ!!カルマポリス風海鮮鍋!」

材料:
カルマポリスオオメガニ(蟹。カルマポリス原産)、
デイオクト(蛸。カルマポリス原産)。
バーミリアンセロイド(セロリみたいな植物。エレジア婆より)
ウミウシ(ベリエラ産)
うさの味(隠し味)


他多数。



━━



 「私もできた!ギガハッピーミート丼!(保存料添加物二倍盛り)」

 「……それは食べ物ですかい?」

少し昔話をしよう PFCSss

 わたしの故郷、エルドランは大陸で起きた妖精大戦に巻き込まれていたの。だから、とても妖精と妖怪を恐れていた。
 でも、わたしの恋人は妖怪だった。彼はその事を隠してわたしと付き合っていた。
 彼は目立たないけど優しい妖怪だった。生物学が大好きで、普段はあまりゃべる人じゃないのに、生物の話になると途端に話続けるの。わたしがやんわり話を止めると、彼は顔を赤くして恥ずかしがるのがお決まりだった。
 彼の話からは、興味のない人でも楽しく聞けるように、考えて工夫しているのが伝わってきた。
 わたしはそんな彼と一緒にいるのが大好きだった。あえて、生き物の話題をふってずっと話を聞いてるの。そのうち、一日に何時間も話をするようになって、気がついたら付き合っていた。
 先に告白したのはどっちだったっけ。彼は「まだ成人してないじゃないか」と、照れつつわたしに指輪をはめたの。
 それから、わたしは彼の旦那を名乗るようになっていった。友達からは身長の差でお父さんとお子さんって呼ばれてたけど。
 そんなある日、家で彼と夕食を食べていると……突然怖い人たちがやって来て、何もかもが終わった。押さえつけられ、目隠しと手錠をつけられると車の中に連れ込まれた。手錠をつけられるときに指輪が落ちてしまった。泣き叫びながら逃れようとしたけれど無理だった。せめて、指輪を拾いたかった……。
 わたしと彼は離ればなれにされたあと、怖い人に船でつれていかれた。行き先はノア新世界創造教の本堂だった。

 本堂での生活は最悪だった。暴力拷問実験恥辱、思い出すだけでも涙が溢れてくる。でも、どんなに辛いことでも、愛する人の顔を思い浮かべれば乗り越えられた。
 入獄から数週間した頃だった。寒い寒い牢屋の中で一人で泣いていると、ペストマスクの男が部屋に入ってきた。そして、大きな何かを投げつけられた。
 わたしに投げつけられたのは魂を抜かれ永遠の眠りについた彼だった。指にはわたしが落としてしまった婚約指輪が輝いていた。
 こうなってしまったのは、彼に告白したわたしのせいだった。その上、彼の肉体を研究に利用する非道な自分が許せなかった。そして何より、数々の悲劇を作り出しているエルドラン、さらにはそれを放置するこの世界そのものが憎かった。
 わたしはどこまでも辛く暗いこの世界に対しての復讐を誓った。

 絶対に彼と一緒に幸せになってやる、と。

 あのときの姿のまま!
 あのときの心のまま!
 あのときの記憶のまま!

 わたしたちはもう一度出会い、一点の曇りもない幸せを手にいれてやるっ!
 わたしは彼の指から指輪をとり、もう一度自分の指にはめた。もう二度と奪われたくないと願った。
 その時、ペストマスクの男のポケットから薄紅色に輝くなにかがわたしの胸に突き刺さった。何がわたしの心臓を貫いたのか理解したとき、わたしは『能力』に目覚めた。
 魂の力を使って、外科的な肉体の治療をする力だった。わたしの心臓は薄紅色のメスに貫かれているにも関わらず、能力によりメスと接触している部分がすさまじい速度で修復され続け、動きを止めることはなかった。
 わたしは胸に突き刺さったメスを抜くと、ペストマスクの男に投げつけた。

 そして、皮肉を込めてそいつのマスクを奪った。

 それを境に能力は急激に開花していき、しまいには頭を撫でるフリをして後頭部に指を指すだけで、神経を弄れるようになっていた。
 わたしは整形と色仕掛けで看守達をおびき寄せ、エンドルフィン(脳内麻薬)依存症にして支配した。
 次に恋人の遺骸を手術して筋力を増強した。さらにもともと小柄だったわたしの体を若返らせ、さらに小さくすることで、遺骸を身にまとった。
 不意打ちで信者を気絶させつつ、ノア教の本堂を脱出。
 そして私の体と遺骸の間に空気を入れ浮くことで、泳いでエルドラン国を脱出した。これしか、彼と一緒に脱出する方法がなかった。


 脱出した後、私は能力を研究した。
 わたしは適当な野性動物で、どのくらいの精度でどのようなことができ、何が出来ないかを把握した。
 研究の結果、恋人の魂の宿ったメス以外の普通のメスでも能力が発動することがわかった。また、メスで触れないとなにも出来ないが、逆にメスを握り脳に突き刺すと、簡易的な神経の書き換えや記憶の操作まで出来ることがわかった。
 さらには時間をかければノア教で行ったように、恋人の体を神経や臓器の位置その他もろもろを調整することで、私の肉体の一部として生まれ変わらせるような、高度な技能も会得していた。
 (私自身に施した幼体化は常に能力影響下である私自身にしか出来ないが……)
 とはいえ、すさまじい精度に自分でも驚いてしまった。

 わたしはメスを使い、見た目から性別や国籍をも偽り、エルドラン国の医療機関に入った。露骨な妖怪差別に腹が立ち、数年でやめてしまったが。
 しかし、そこで病人と接っしたときに、死するときに魂の力が得られること、さらには魂の治療にも私の『力』が使えることがわかった。最後に……彼の魂を完全に甦らせるには数百人成仏させなければならないことも。
 そして、私が医療機関で発揮した優秀な解剖技術に目をつけたのが、あの元ドレスタニア国の王であるガーナだった。
 ドレスタニアで発生する自殺志願者の処理、解剖、そして死亡理由の擬装を依頼してきた。
 お互いに知り得たことは他言しないこと、遺体を利用して医療の貢献になるような研究データを集めること、その他複数の条件を設けて、私は承諾した。(そのうち一つに表向きは国際指名手配者扱いとなり、もしもドレスタニア兵に捕らえられた場合、犯罪者扱いで相応の裁きを受ける、というものもあった。そのため、私はガーナに雇われているのにも関わらず、ドレスタニア兵に追われるという複雑な立場になった)

 私は恋人を甦らせるためにひたすら人を解剖し続けた。

 でも、死に行く人たちにふれあうことで、考えが変わった。貴族階級の人間にも関わらず、自らの安楽死を依頼する人もいれば、凄惨な人生を送ってきたのに『私は幸せだ』と言い切る妖怪の奴隷もいた。それを見て、変えるのは環境ではなく自分であることを思い知らされたのだった。幸せの形もひとそれぞれなんだということも知った。
 それからは、ドレスタニアに限らず、ひたすら死と向き合い、神父紛いのことをして、人を成仏させてきた。
 私はある種の使命感を感じていた。
 死を望む人にとって生きるだけでも大変な苦痛だ。その苦しみを傷みなく、安らかに、人の役に立つ形で取り除くことが出来るのは私だけだ。
 私がやらなければ誰がやる?

 死は平等だった。子供がいようが後世に語り継がれようが、やがて皆から忘れ去られる。死んだら大抵の人は何も残らない。だからこそ、生きる過程――生きざまが大切であることも知った。

 私は自分の生き方に疑問を持ち始めた。今まで私は『彼と幸せになる』という『結果』に依存するしかなかった。彼こそがたったひとつの心の支えだったから。幸せの形や、幸せになる方法、……そもそも幸せにならなくてもよかったはずなのに。


 私は新たにいきる理由を探し求め、解剖業を営みつつ、世界を旅した。そして、ひとつの明確な目標を見いだした。
 私のような化け物をこれ以上産まないよう、ノア新世界創造教を打ち倒し、祖国エルドランを救うと言う目標を……。




解剖鬼「……というわけで、今日は幼女の姿のままでーとだぞぉ!レウカドぉ!遊園地に行ってメリーゴーランド乗って、コーヒーカップルで… うふふふふふふふふ!!」
 」

レウカド「あっ悪夢だ……。そもそもあんた、恋人がいるのにいいのか」

解剖鬼「恋人なら魂が体の一部になってるから心配するな。心臓に突き刺さってる」

レウカド「それに、恋人を甦らせるために解剖してたんじゃないのか?こんな……遊び呆けていいのか?」

解剖鬼「前はな。だが、ただ普通に生きるだけでも辛い世の中に、わざわざ死んで安らかになった奴を引き戻すのは酷だろう?」

レウカド「……ああ。少なくともお前と同じ空間で生きているのが辛いぞ」

解剖鬼「因みに今逃げ出したら全裸でドレスタニア軍の人に抱きついて『レウカドに犯される』って大声で叫ぶから」

レウカド「……幼女の皮を被った悪魔」

解剖鬼「違うな。恋人の遺骸を被った幼女を被った悪魔だ」