金弧同人即売会に散る PFCS交流ss
登場人物
金弧:
紫電海賊団の一員。健全で重度でキモいのロリコン。まさかのござる口調はTwitterにて話題を読んだ。
ルビネル:
女学生。アトマイザーからエネルギーを摂取することで一時的にボールペンを操れる。服や靴に仕込んで空中浮遊まがいのことも可能だが……。
━━
(やっぱり、外交官を味方につけると強いわね。ただ、何でここをおすすめされたのかしら)
ルビネルは何の因果かドレスタニアの同人即売会に来ていた。
(あ!あれ、あのたれ目の鬼の人……海賊のコスプレだ。良くできてるなぁ……。セミロングで右目を隠して眼帯変わりにしてるのかな?バンダナはアクセント?)
ルビネルは金狐を無意識のうちに凝視していた。
(ややッ!?おなごの気配…。見目麗しゅう黒髪ツリ目の女子が拙者のツノにビンビン来ている視線を感じるでござるwww)
(※金弧にそんな能力はありませんので偶然の妄想です)
それに対してルビネルは今、黒ロン・つり目・黒制服・スカート短め・黒ニーソ・ローファーという殺意に満ちた装備していた。その殺傷能力に本人は気づいていない。
「すいません、あなた、同人即売会について詳しいですか?私、買い方もよくわからなくて……」
金狐の肩に軽く触れる。
「オッヒホォ!!??い、い、いえ拙者まだ撮ってないぞなもし誤解ですぞ未遂はセーフであり…」
持ってたアウトロリな本を床に落としてばら撒く
「今何て言いました?おねえさん やさしいから しょうじきにいえば ゆるしてあげるよ」
地面に散らばった本を手に取ろうとする。
「……いい本を持っているじゃない。幼女××系?ふーん、こういうのが好みなんだ……」
ルビネルが本を手にしようとしたとき、スカートが無防備に!
「ぬうぅ…!!未遂でつかまる位ならばいっそのことマジモンになってしんぜよう!男・金弧!!フラッシュは O N でござる!!!!」
カッシャァ!!!!!
「ひゃあ!音!今の音!ちょっと待って!あ……、私のお又……」
手に持った本でガードを固めるルビネル。危ない本が数冊立ち並んで女の子のスカートのなかをガードするという酷い絵ずらになった。
「あわゎゎゎゎゎ」
その状態で顔を真っ赤にして慌てるルビネル。
「こ、これは…!?芸術…屈託のなき芸術でござる…。社会的な人生の最後にこのような神秘に立ち会えたことをロリの神に感謝致す…」
両手首を合わせながら天に掲げる。
「捕まえてみろやあああああああああああああおらあああああああああああああ!!!!!!!」
人だかりが出来上がった。
(どうしよう、パンツの中撮られたぁ!?)
ルビネルは震える足でゆっくりと立ち上がった。
「この変ッッッッ態ッッ!」
ルビネルの逆襲!制服に仕込んだボールペンを推進力に空中で一回転、華麗に踵落としの体制にはいる。が、同様のあまり攻撃がそれて、金狐の頭にルビネルの又が!
「ブフォ!!??現代にあるまじき昭和のアニメじみたハプニングエロス…!?神はやはり我が性癖までも全知全能か!?鼻血が止まらぬでござる!!うおおぉぉぉ!!」
ブフォォォォォォォオオォォォォ!!!!!
金弧、即売会に散る。
「嫌あぁぁぁぁ!!血ぃついた血ぃ!!バッチぃ!」
げしげしと金狐に追い打ちをかけるも、パンツの中は丸見えである。
「(こいつをどけなきゃ!)誰か医者の方いらっしゃいませんかー!!」
ルビネルの声に答える医者が一人
「医者だ。担架持ってきたぞ(ペストマスクのコスプレ)」
「へへ…お医者さん、彼女しらねぇんだ…。蹴れば蹴るほど生き返る生物ってのがこの世に二種類居ることをよ…。イナゴ豚と…変態さ…」
完全にコスプレ会場かと勘違いした客がわらわら寄ってきた。ここは闇の即売会。アンダーグラウンドである。
「後生だ…もっと強く、下のほうまで頼む…」
「変態ッ!変態ッ!」
必死にしたの方まで蹴り続ける。が、ルビネルはどこかで容赦してしまい、金弧にとっては完全にご褒美である。
医者は言った。
「異常なし。念のためとりあえず止血だけしておく。……海賊船が近くに停泊しているはずだ。一緒に運ぶぞ」
「えっ、ちょっと待って!私も!えぇー!」
「ブヒヒ…今宵の即売会は良イベでござったな…。あ、女王様、その本だけは回収して欲しいでござる。アングラ大人気レア物限定徹夜ダッシュ5分完売の玄人向けでありましてな?」
アウレイス×リリィの超純愛三部作。タオナンのタコシチュガレキフィギュア付き。
「アウリィとリリィ……へぇ5分完売……ふぅーん」
興味ないよ……的なフリをしてパラパラとめくる。
「あっ……こういうプレイもありか……。このキスシーンいいわね……。タオナンのフィギュアの完成度もこれまた……ゴクリッ」
改めて金狐を見つめる
「あなた改めて…いい趣味しているわね!」
「何!?この良さをわかっていただけるか!!これは作者が作者にヌっ殺されてしまう危険性を含んだ罪深い一品でありましてな!ヌフフ、なんて良く出来た純白パンツ娘でござるかwww」
写真の履歴を見ながら鼻血を噴射し続けている。
「……って純白パンツ娘は余計!画像消して!ほんと、お願いっ!」
金狐に往復ビンタ!マゾには効果抜群だ!
なぜか、ペストマスクの医師は驚きを隠せない、といった様子だ。
「……!?まあ、いい。よし、反対側を持て。一気に行くぞ」
人を掻い潜り会場の外へ歩みを進める。
「わが脳内フォルダの保存領域は500ゼタバイトは硬いですぞ…グフゥ…」
「ゼタ!テラでもペタでもイクサでもなくゼタ。くっ、勝ち目がない。まあ、いいわ」
鬼の回復力は往復びんたを軽々と上回る。故に金弧は勝ちを確信(?)していた
「そういえば…即売会の回り方…と言っていたでおじゃるか…?」
担架を両手に持っているために手が出せない。ルビネルは諦めて話続けることにした(呪詛の効力は切れたし……)
「……言ったわよ。『即売会の回りかた』。どうやったらそんな本が手にはいるのかって」
素っ気なく答えるルビネル。
「まず第一に入念なサークルチェックが大切だ。いいか、会場のやつらは毎年様々な手を使って徹夜組にペナルティを設ける。泊まりはちゃんとリサーチしろ。そして女性とはいえガチな奴はガチだ。キャリーバッグなんて持ってきたらつまみ出される。ペットボトルは二本。常温と、一本は必ず凍らせろ。」
突然、実用的な知識が飛んで気でびびるルビネル。
「うわっ!そんなに気合い入れて行くものなの!?キャリーバッグ!?ペットボトルを凍らせる?なんなの?!」
「友人が居るなら手分けすることだ。財布に入れるのは500円玉と千円冊。万冊や小銭は回転率が悪い。サークルによってはそれだけで後ろに並びなおさせる。目当てのサークルに中途半端な金額の新参が居る可能性を考慮してファスナー付きポケットのあるウェストポーチは最強だ。財布なんて使うなよ?」
「えっ……ええ?!」
怒濤の新知識に本気で困惑しているルビネル。
「まだ、他にもルールがあったりするの?」
「今ので2%といったところか。こっちはロリ島だが向こうは完全にナツメリーゼで埋まっている。竜人や獣化サターニア専門の人外島もあり、期間は三日間。順番は毎年ランダムだが腐れ淑女向けの日、変態紳士向けの日、にわか一般人向けの日に分かれている。プロはもちろんビジネスホテル生活だ。」
「こっこれが……同人即売会……グフッ」
ルビネルは頭がショートしてよくわからなくなった。
「ごっ……後日また、調べて行くわ」
そして謎の敗北感に包まれる。
「買うだけが即売会じゃないさ。ウチの姉御も必死に俺たちの目をかいくぐってふりふり海賊っ娘コスプレでコスプレ会場を楽しんでいる。勇気が無いのか、撮る専だがな。俺たち海賊はそんな姉御を危険に晒さないよう、影から見守ってんのさ。それぞれコスプレしてな。俺はその間留守番を任されてる。」
「なるほど、コスプレも大きな目玉なのね。って!紫電さんも来てたの!ああっ!写真とればよかった……」
本気で悔しがる学生。
「ところであなた留守を番任されてるのよね?こんなところにいていいの?」
「ダメに決まってるでござろうwwwwwwwwデュフフwwwwwww致し方なしwwwwwwwwwww」
この世のすべてから見放された救い用のない俗物を睨むような表情で金狐を見下す。
「お主、相当な逸材でござるな…。わが国で今急上昇中のエリーゼ女史と組ませれば業界も大荒れ不可避では…。純白は好印象、それにこの胸…ラインも美しい…。妖艶さはロリとはまた違ったリーサルウェポンであり…ブツブツ…」
「エリーゼさんと私の百合本……」
何かを妄想して押し黙った。
「確かにあの人は太ももだけじゃなくて、もっと他にも弄りようがあった。でも、あの人の攻めは強すぎるからなぁ…どうしても私が受けに…ブツブツ」
妄想にふける二人をほっといてドクターがめんどくさげに言った。
「取り合えず船上についたから放り投げるぞ(変態ばっかだな……)」
「グハァ(ベキィ)!!お、おなごよ…その秘蔵の本は戦友の証として授けよう…(布教用だし)。次に会う時は友として容赦はしない…。『自由に生きて立派に死のう』。それがオタク共の掟だ…。」
金弧はガクっとその場で倒れた。あと10分後、忌刃が買い物から戻る事を金弧はまだ知らない。
「この人いいこと言ってるみたいに気絶したけど……全然かっこよくないわ……。じゃあ、私はこれで」
言葉とは裏腹に秘蔵の本を大切そうに手に持った。
「なるほど、白い紙袋も必須ね……くすねておこうかしら」
振り回されたわりにはご機嫌で会場に帰っていくルビネルであった。
━━━
解剖鬼「(最初から最後まで私だと気づかれなかった。ルビネル、あいつ天然か?っていうか何あれ!?真面目な学生じゃなかったの?何であんなやつと息合っちゃうの!?……まあいい、レウカド本は確保できたし、今日のところはよしとするか……)」
ひな祭り ー当日ー 《雛祭り》 PFCSss15
ショコラの剣の付け根に、ソラと一緒にエアリスと戦ったときに付着した、エアリスの一部を氷付けにしたままくっつけている。ショコラは剣と触れた者の思考を読み取ることができる。エアリスの体の一部と剣が常に接した状態を維持することで、ショコラはすべてのエアリスの思考を読み続け、攻撃をかわすことができたのだ。
そんなことを知るよしもないショコラは、通路の最後の扉をあっさりとこじ開けた。
「こっ……これは?!」
ショコラは目を見張った。通路を抜けた先は黄昏時の草原だった。
「この、地面の黒いのって何?」
エスヒナが足元にある、半ば地面に埋まった黒い物体を指差した。私はペストマスクの位置を直すと、呟いた。
「棺桶だ。等間隔に無数に配置されている」
ショコラが顔をひきつらせていた。氷の刃を介して何が入っているのかわかってしまうのだ。
しばらく広大な墓地を歩いていくと、目の前に銀色の液体で満たされた湖があった。そして、その対岸にノア輪廻世界創造教の教祖がいた。
赤いローブに身を包み、この世が終わりそうな時でも平然としていそうな、冷徹過ぎる表情。紛れもなく、クロノクリスだ。
クロノクリスが指をパチンと鳴らした。
一呼吸置いた後に、湖の水面に美しい銀色の髪の毛が、愛らしい少女の顔が、麗しいウェディングドレスが、ちっちゃな可愛い足が、浮上する。
さらに数千もの棺桶から一斉に黄金色の光が少女に向かって放たれた。
空中を浮遊する少女はゆっくりと眼を開くと、貪欲に光を吸収し、その顔に似合わぬ邪悪な笑みを浮かべる。
エアリスが誕生したのだ。
「あんなに簡単に作れるものなのか!?」
エスヒナが驚愕の声をあげた。
「常温で気体である液体金属。それを幾千もの魂で物質状態を制御し、肉体とする。それがエアリスの正体だ。銀の湖を介して電話感覚で私はエアリスに指示を出せる。もっとも魂の量の関係から、同時に遠隔操作出来るのは、三機までが限界だ」
「じゃあ、クォルが戦っている一機、サヴァ様たちの戦っている二機で打ち止めなんだ?」
エスヒナがいぶかしげに尋ねる。それに対しクロノクリスは嘲笑を交えながら答えた。
「だが、この空間内であれば直接操作できるのだ。つまり、ここなら操ろうと思えば十機でも二十機でも同時に操ることができる」
「ばかな!そんなこと出来るはずかない!」
私は思わず叫んだ。それが事実なら本当に勝ち目がなくなる!
「我は神だッ!!」
クロノクリスは近くにあった棺桶を踏みつけながら、演説を続けた。
「しかも、我はこの棺の中の魂一つ一つと融合している。貴様が今の私を封印したところで、棺からもう一人の私が甦るだけだ。見ての通り魂のストックはいくらでもある。倒されるわけがない」
教王は一息ついて、どす黒い笑みを浮かべる。
「どこまでセレアを利用すれば気が済むんだ!平和を望んでいるはずのセレアを戦争に利用し、ピンチになれば、自分の身代わりにして……あんたに……人の心はないのかッ!」
エスヒナが瞳に涙を浮かべながら叫んだ。彼女は直接セレアの話を聞いているのだ。憤怒に身を包むのも無理はない。たが……
「それがどうした!我がこの世に君臨すれば、絶対神ノアの元、世界はひとつとなる。その頂点に我が立つ。我がこの世を理想郷に先導するのだ!その為なら、そこら辺に落ちているゴミにも劣るような下劣な魂を使い捨てるくらい、なんのためらいもない!」
「この屑野郎!!」
怒りが頂点に達したエスヒナを私が取り押さえた。今は怒りに身を任せて動くべきではない。だが、エスヒナの、クロノクリスを完膚なきまでに叩きのめしたいという気持ちも痛いほどよくわかる。だが、我慢だ。
ショコラは平生を装っているが、手に持つ剣が震えている。
「なんとでもいえ!怒りに任せ殴りかかってこい!その瞳で私を射抜いてみろ!肉体を持たずとも存在できる時点で、我の前にはどんな物理的な武器も、あらゆる兵器も無力だがな」
クロノクリスは大きく手をひろげ、高笑いを響かせた。
間を置かず、何機ものエアリスが次々と誕生していく。悪夢のような光景だった。
「ハッハッハッハッハッハッ!!見ろこの美しき光景を!芸術品だよ彼女らは!世界を支配する美しきお雛様だ。さぁ、始めよう、雛祭りを!!」
暁に照らされて不敵な笑みを浮かべるウェディングドレスの少女。低コスト、低労力、ハイスペック、全てを兼ね備えた究極の量産兵器がそこにいた。恐るべき兵器が空を、地を、埋め尽くしていく。
かっ、……勝てない。ここまで来ると仲間を何人つれてこようが無駄だ。ハサマ王か、プロレキスオルタでもつれてこない限り無理だ。全員にカマイタチを放たれて、三人分のひき肉と、二匹分の豚肉の完成だ。ずいぶんとグロテスクな三秒料理だッ!ライスランドの料理コンテストにでも出ていろ!クスがッ!
完全に起動する前に何らかの対抗手段を用いなければ負ける!!
「あわわわわ!どどどどうしましょう!?」
ずれ落ちそうな王冠を押さえながらショコラが言った。
「エスヒナ、そういえば何か持っていなかったか?」
ようやく冷静さを取り戻したエスヒナは、陰りのある顔で首を横に動かした。
「銀色の箱。中身は……『ガーナチャンプルー』なんだけど……」
私は唖然とした。
「は?ドレスタニア名物の?あのガーナチャンプルーか?」
知り合いが好んで食べていた。一度食ったら忘れられないくらい苦い食べ物である。でも何でそんなものをセレアはエスヒナに渡した?
「あ、それ、昨日セレアと一緒に食べました。彼女は美味しそうに並べていましたが……」
見るからに嫌そうな顔だな……。まあ、苦手な奴に罪はない。癖が強すぎるだけだ。
「……?強い……苦み……セレアが知っている……」
エスヒナが何かを察して私に聞いてきた。
「何か思い付いたのか?もう、あんたしか頼れそうにない。あたしはあんたの指示に従うよ」
苦み……たしかうるさいとも言っていた。彼女に痛覚はない。だが、視角・嗅覚・味覚・聴覚・触覚といった、生体の基本機能は備わっている。
そうだ!それだ!これなら行けるかもしれない。
「ショコラ、エスヒナ!最後の作戦を言うぞ!」
二人の顔がぱぁ!と明るくなった。
たが、私の作戦を聞きくうちに驚きの表情に変わり、そして、どんどん萎えて来るのが伝わった。特にエスヒナ。
「はぁ!そんなんでエアリスが倒せんの!?あいつ、世界有数の実力者を数人同時に相手にして、なお優位に戦いを進めるような奴でしょ!それがこんな……」
ふざけているのか、と憤るエスヒナをショコラがまあまあ、と押さえた。
「私は行けると思いますよ。少なくともセレアなら、引っ掛かってくれると思います」
エスヒナはショコラの謎の自信に驚きつつ、仕方ないかといった、顔で渋々承諾した。
「はぁ、ドレスタニアの王が言うんだったら仕方ないか。まあ、普通にやっても駄目なのは目に見えてるしね。単純明快だし。それに……確かにセレアなら引っ掛かる気がする」
「二人とも協力に感謝する」
勝負は一瞬だ。失敗したら負けだし、仮に作戦通りに行っても効かなかったら無意味だ。
この一瞬に全てをかける!
地上にいる数十機のエアリスが一斉にかまいたちの呪詛を放とうとする。さらに空中でカラスのように大量にはびこるエアリスが一斉にガトリンガンを向けてきた。
「エスヒナ、今だ!」
エスヒナは腹を膨らませて大きく息を吸うと、思いっきり、全身全霊をかけて叫んだ!
「セレアァァァァーーーーーーーーーー!!!」
アンダーグラウンドによって声帯に直接魔法薬を塗り、増幅させた魂の爆音である。
ペストマスク越しでも聞こえるその声は、エアリスにも届いた。一瞬、あまりの音量に加え『セレア』と呼ばれたことによって、全機フリーズする。
エスヒナという、心を許した人に名前を呼ばれたことで、眠っていた何百何千という魂が一斉に反応した。一度に膨大な量の感情がクロノクリスに流れ込んだことで、一時的にクロノクリスの人格が子供たちの感情に押し返されたのだった。
「ばっばかな!セレアの人格は完全に封印したはずだ!なぜだ!」
その隙に、ショコラがイナゴ豚をカタパルト変わりに、勢いよく射出!手に持ったガーナチャンプルーの入った箱を思いっきりクロノクリスの口にぶちこんだ!
「ムグゥゥゥ?!!」
その瞬間だった。聴覚によって表面に浮上した子供たちの感情が、ガーナチャンプルーの味によりさらに後押しされた。まるでダムで無理矢理押さえていた水が決壊するかのように、激情がエアリスを飲み込む。
突然、ショコラの隣にあった墓の蓋がはずれた。中からサターニアの少年が目覚めた。
「お兄ちゃん、ぼくたちと遊んでくれた」
次にエスヒナの回りにあった、棺桶から鬼の女の子が起き上がった。
「おねぇちゃん、わたしたちの話し相手になってくれた」
そして私の目の前の棺桶から、精霊の青年が目覚めた。
「おばさんはオレたちのことを助けようとしてくれたな」
「オッオバ……!?それ、言っちゃダメなやつだからな!みんなに秘密にしてるんだから!まったくこれだから子供は……」
私が衝撃の告白を聞いたときにはすでにほとんどの棺桶から子供たちが目覚めていた。
『助けてくれてありがとう』
『遊んでくれてありがとう』
『悩みを聞いてくれてありがとう』
『おいしいものを食べさせてくれてありがとう』
何千という子供たちからの感謝の言葉が夕日の草原に染み渡っていく。私は素直に感嘆した。これが本来のセレア、か。
しばらくして、だんだんと、お礼のざわめきが小さくなっていく。
完全に沈黙したとき、銀の湖から一人のエアリスが浮上した。ウェディングドレスではない、子供用の白のワンピースを身にまとった、かわいい女の子だった。私たちが見た中でももっとも若いエアリスだ。そんな彼女が子供っぽい笑みを浮かべ、私たちに語りかけてくる。
「わらわたちはセレア。差別を受けてこの世に未練を残していった魂……」
彼女の声に合わせて、棺桶から解放された子供たちが口を動かしていた。
「よくぞ、わらわたちを再び目覚めさせてくれた。本当にありがとう。本当に、本当に、ありがとう……。そしてクロノクリス、お前はもう終わりじゃ」
子供たちが一斉にクロノクリスを指差した。統率のとれすぎた動きに、一瞬恐怖を感じた。
エアリス誕生の時にも見られた、黄金色の光がクロノクリスの体から解き放たれた。すると、まるで風船が萎むかのようにクロノクリス体がみるみるしぼんで痩せこけていく。
「ぬぉぉぉあああ!力が抜ける!私が支配したはずの子供たちの魂が離れていく!融合が……魂の繋がりが……リンクが……解ける!!」
それを確認したショコラは、クロノクリスの頭部に氷の剣を突き立てた!
「おのれぇぇ!ショォォォォォォコォォォォォォララァァァァ!!!」
驚愕の表情のまま、彼のハゲ頭が、胴体が、手足が凍っていく。ついにクロノクリスは完全に凍りついてしまった。
同時に、ドレスを着た量産型のエアリスが全てを蒸発して消え去った。
甦る甦るとクロノクリスがほざいていたのは、子供たちの魂一つ一つと融合していることが前提だ。融合をとかれた今、クロノクリスはただの人も同然。一人の魂の力では液体金属を操ることすら出来ない。肉体が凍らされた今、クロノクリスは完全に動きを封じられたはず……
……だった。
だが、それでもクロノクリスは消え去りはしなかった。
クロノクリスの肉体からぼんやりとした光が抜け出ていく!
「油断したな!私は魂だけでも生き延びられる不死の存在。肉体を抜け出して誰かに憑依すれば……」
霊体となったクロノクリスの高笑いが聞こえてくる。
「不味いぞ!あれは礼拝堂でエアリスを乗っ取った時の!」
「また、誰かが乗っ取られるんですか!」
「しつこすぎる!」
万事休すか。私の心がとうとう折れかかったときだった。
魂だけと化したクロノクリスが……。
「なっ、なんだ貴様ら!離れろ!この糞餓鬼がぁぁぁ!」
子供たちが許すはずがなかった。数百人の子供たちが殺到し、クロノクリスの魂をもみくちゃにする。
「やめろ!何をする気だ!」
「子は親に似ると言うじゃろう?お主がやったことと同じじゃよ。呪術により、お主の魂を棺桶の中に封印する!皮肉じゃな」
「うわぁ!そんな!暗い中でたった一人永遠の時を過ごせと言うのか!止めろ!頼む、止めてくれぇぇぇーーー!!!」
ガゴンッ!
……それがクロノクリスの最後だった。
「あたしら、やったんだよな?作戦成功?」
エスヒナが信じられない、といった顔で私を見つめる。
実感のわかないまま、私とエスヒナは急いでショコラの元へ駆け寄った。
そんな私たちをセレアは微笑ましく見守っていた。
私たちは勝ったのだ。
旦那モドキとは
旦那モドキ
ドレスタニア王宮に住んでいる謎の生物です
飯さえ食わせれば雑用を一通りこなしてくれます。特に掃除が好き。
雑用の合間によくカエルとかの解剖をしています。そっとしておきましょう。そのうち掃除しだしますので。
たまに高い声で「はよ、はよ」とか「そうじ」「カイボー」とか言ってます。
ドレスタニア王宮に沢山いるっぽいので一匹位頂けると思います。
因みにご飯をあげるとすり寄ってきます。害はありません。
━━実際にクロマさんが観察したそうです━━
●クロマ(何だろうこの生物。誰かに似てるけど)
「ソウジ!」「センタク!」「メシ!」「カイボー」
王宮ではぶつくさ言いながら掃除してます。割りと楽しげ。人とぶつからないように頑張ってます。因みに奴とはほぼほぼ無関係。
●クロマ(しばらく見ていよう)
せっせせっせと雑用をこなしていきます。
……城の庭にカエルの死骸が落ちていただようです。一斉に群がって解剖をし始めます。
「メス!カイフク!イジョウナシ!シインタゾウキフゼン!」
●クロマ(壮観だな)
満足したら、もうスピードで掃除して、塵一つなくなりました。
「メシノジカン!」「メシノジカン!」「メシッ!ハヨ!ハヨ!」
昼時になり、一斉に食堂へ向かっていきました。因みに一列に並んで、人が通ると道を譲り、大変行儀がよさそうです。
●クロマは定期的に観察しに来るかと決意して帰って行きました。
厨房のおじさんが「急かすな!急かすな!今うまいもんを持ってくるからよぉ!」
旦那モドキーズ「はよ!はよ!」「はよ!はよ!」「はよ!はよ!」「はよ!はよ!」「はよ!はよ!」
クロマの去ったあとに、旦那モドキの人だかりが厨房の回りに出来あがりました。
このあとおじさんが大鍋を持ってくると、学生食堂みたいに勝手に旦那モドキが配膳していき、食事の用意とかも全部自分で行いました。料理の量は半端なく必要ですが、雑用はやってくれるので人手はあまり必要ないのです。
食べ終わると自分で食器を回収し、おじさんに返し、満足して帰っていきます。
━━観察終了━━
結論:旦那モドキとは➡便利以上の何かです。
ただし、食費が半端なくかかります。一般家庭で買うのはまず無理です
ペストマスクに見える頭で鳥のように口を開きパクパク食べます。不味くても別に何とも思いませんが、ある程度美味しいときは「ウマイ!ウマイ!」と料理を誉めてくれます。公正公平なので、料理コンテストにも審査員に抜擢されました。
……満足するまでに数人前を軽く平らげますが。
そのため、安定して食事を供給できる王宮にしかいません。
ドレスタニア王宮にはそれが何匹も居座っています。
食費さえ出せれば確実にリターンはそれ以上です。とはいえ、数も少ないので見つけるのがまず大変、というデメリットも……。
因みに生活条件がいいとペアでどっかに消えて、帰ってくるときになぜか何匹か増えています。生活環境が厳しくなると、いつのまにかいなくなります。
野生はレアなので、家出した旦那モドキは大抵どこかの王宮やらなんやらに捕獲されて、またそこで雑用を始めます。そうでなくても、勝手に居場所を見つけて居座ります。以下ループ。
多分クロマさんクラスの方なら容易に手なずけられるでしょう
因みにこいつが消えると破産のサインです。気を付けましょう。
ドレスタニア・アンダーグラウンド
概要:実は長田さんのかいたss
登場人物
解剖鬼:自殺志願者の安楽死を生業とする死の医者。法律的には大量殺人犯。
ガーナ
ドレスタニアの元国王。冷酷非情とまで言われ、超有能な人。その過去を知るものは少ない。
━━
「…これは私でも手遅れだ。そもそも、怪我や病の類いじゃないな」
長身でずっしりとしたコート姿にペストマスクをつけた医者が顔を背けるそぶりをする。牢に閉じ込められた鬼は呻き声をあげながら壁を引っ掻き続けた。通路に鳴り響くガリガリと爪の反響する音は、一人の物ではない。
「治すつもりならわざわざ貴様なぞ呼ばん。意味はわかるな」
冷徹な国王は金色の板が詰まったトランクケースを見せるように置き、数歩離れる。
「悪いが、拒否権はないと思ってくれたまえ。勝手に我が国で好き放題やってくれた前科もある。バレないとでも思ったか」
「つまり…殺せ、と。自分の手は汚さず、殺人鬼に犯罪者を裁かせる…そういう腹か?」
「理解しているなら急いでもらおうか。時間が惜しい」
マスクの医者は小さく舌打ちをする。
「鬼畜め…。生憎だが断る。他を当たることだ」
牢から伸びた手が、弱々しく医者の髪を掴む。掠れ、震えた声で言う。
「ダメだ……殺してくれ……頼む……」
医者は首を振った。
「……未練はないのか。この男に閉じ込められ、拷問の痕まで酷く残っている。こんな生殺しのような仕打ちを受け、殺されていいのか…!?」
国王は眉ひとつ動かすこと無く、その光景を無表情で見ている。
「愚かにも不老不死を目指した成れの果ての姿がその者共だ。早く楽にしてやれ。見苦しい。」
他にかけてやる言葉はないのか。医者は拳を強く握りしめ、王を睨み付けた。
牢の鬼はわずかに笑った。
「お医者さん…いいんだ…。死んでもそいつは恨み続けてやる…。あの世って奴があるなら…俺たちがそいつを八つ裂きにするさ…」
医者は鬼の目を見た。死ぬ気などない、強い意志を持った瞳をしていた。
「…」
「未練を持ったまま死ぬのが幸せな奴もいるのさ……」
「ありがとよ」
最後に彼はそう言っていた。幸せそうな顔で、殺気を放ったまま死んでいった。
そのまま全ての牢の犯罪者達を殺していった。
全員、全く同じ死に顔をしていた。
王を呪い殺してやる、そう強く念じたままに、次々と死んでいった。
「これでいいんだろう、外道」
「あぁ、助かった。」
そのまま立ち去ろうとする国王の背に、突如、意思に反した殺人衝動が沸き起こった。気づけば医者は、王の身体をメスで大きく切り裂いていた。
「…何…!?」
困惑の声を漏らした者は、医者の方だった。
「やはりサバトと化したか…。」
赤く熱を帯びた剣が医者の背後の黒い泥を焼き焦がす。医者は切り裂いた国王の腹部にある、『牢の鬼と同じ傷跡』を見ていた。
死を願う程に苦痛を感じる筈の傷は、背後の泥に共鳴して脈を打っている。
「その傷は…一体なんだ…」
メスをコートにしまう。困惑しているせいで、何度か入れる場所を間違えた。
「知る必要はない。」
傷を押さえる手が、血が出るほど強く腹部に食い込んでいる。
「…また手がつけられなくなったら協力してもらう。」
王は再び背を向けた。
帰り道は誰に出会うことも無く、港を出ても何の問題もなく船でのんびりと帰れた。
医者は表情ひとつ変えない王の顔を思い出す。
良く考えてみれば、あの顔は無表情ではなかったのだと気づいた。
憎まれることも知り、呪われることを承知で、王は見ていたのだろう。
金塊に映るマスクを見て、医者は呟く。
「彼も…既に手遅れだろう。しかし…裁くのは私ではない…」
金塊を、今日の死者の数だけ海に投げていく
「本望なのだろう。ドレスタニアの『王様』は」
沈んでいく金塊の中、私は一つ余分に投げ込んだ。
END
とある密輸商の独白
俺は老人。名前はない。90代前半の精霊。国際指名手配者。仕事は密輸、闇取引、交渉、斡旋、暗殺……まあ、色々だ。金が手にはいるんだったら何でもしやす。まあ、それなりに信念はありやすがね。
好きなものは金と義理。嫌いなものは『有利になると調子に乗る悪党』。
まあ、自己紹介はこれくらいにしておきやしょう。
今回は俺の仕事の中でも一風変わったものを話したいと思います。まあ、暇潰しにでも聞いてくだせぇ。
先日、奇妙な植物を検挙した。サグヌ草━━名前だけつけられているものの詳細は一切不明だった。俺は密輸に関わるような草は大体把握している。何者かが新しい麻薬を開発しようが俺に入ってくるはずだ。
不自然に思った俺は、図書館でこの草について調べるよう部下に指示したが、結果は散々だった。
くしゃみが止まらない。どうやらこのサグヌ草はくしゃみを誘発するようだ。気が散りやがる。今度ペストマスクの旦那にお願いして鼻を治してもらうか……。
俺は植物を専門とする精霊に話を聞くことにした。ルウリィドの商人を経由して精霊サラトナグに手紙と共に包装したサグヌ草を贈る。『この草に関して、知っていることを教えて下さい。相応の報酬を払う』と。
事態はより悪化した。精霊サラトナグでさえ、詳細についてしらなかった。ただ、こいつの毒によって引き起こされるくしゃみの対策法に関してはわかった。一応ガーナに伝えておく。
さらに、サグヌ草には意図的に毒が仕込まれているということもわかった。どこまでもヤバそうだ。
犯罪シンジケートを使ってギャング精霊、ノア教等の有数な犯罪組織にも聞いてみたが、この草に関しては何も知らないらしい。どこの組織でも取り扱っていない、大精霊ですら知らない、突如として現れた新種の草。
推測されるのは一番ヤバイルートだ。ガーナの旦那ならなにか知っているかも知れない
サラトナグからの情報を元に、サグヌ草に対する防護マスクの開発をアンティノメルに依頼する。アンティノメルはギャング精霊と共同してマスクを開発した。さらにこれをカガクに詳しいグレムに改良をお願いする。
こうして俺は、苦難の末に手にいれた至高のマスクを手に、ドレスタニア王宮に訪れた。
ドレスタニア王宮にてガーナ王と謁見する。
「王の旦那。先日お知らせしたサグヌ草、それと対策用のマスクです」
車イスに乗っているのにも関わらず尊厳に満ち溢れている。旦那はマスクをつけると、サグヌ草を静かに手にとった
「これが噂のくしゃみ草か」
聡明な瞳でまじまじと草を観察する。
「こいつを裏で引いてんのは恐らく、同業他者か異世界関連のヤバイやつらです」
「うーむ。私にもこの草に関しては聞いたことがない。全くの新種の植物。作られたにせよ偶然の産物だろう。ただし、経験上、異世界から召喚されたものではなさそうだ」
「となると……」
俺はアンティノメルに来ていた。とある人物と出会うためだ。その中でも奴がアジトに使っているとされる住居のうち一つに侵入した。
「会いたかったですぜ?クレインの旦那」
「なっ!お前みたいな大物中の大物が何でこんな所に!つーかどうやって俺の居場所を嗅ぎ付けやがったッ!」
同業他者。それが俺の導き出した答えだ。その中でも俺の目を掻い潜るようなトップレベルの実力者、となると自ずと絞られてくる。同業他者は最初から疑ってはいたものの、尻尾をなかなか出さなかった。
考えたあげく、俺は闇医師を片っ端からあたっていった。サグヌ草の最初の被害者はサグヌ草を発見した奴のはずだからだ。
「クレインの旦那、サグヌ草を撒いたのはあんただろう?わざわざギャング精霊とも違う別ルート使って、念入りに偽装した上でな。レウカド先生のカルテにまんま名前が残っていやしたぜ?」
「ちッ!ああ、そうさ!俺が売りさばいた。欲しがる奴がいたからな」
クレインは幻術を使って逃げようとする。
「おおっと、旦那ぁ。ドアから出ようたってそうは行きやせんぜ?」
クレインか扉から出ようとしたとき、無数のワイヤーがクレインの体を切り裂く。原始的なワイヤートラップだった。
「うわぁぁぁ!」
「敵は人だけじゃないんですぜ?幻術で人を騙せても罠はだませない。あんさんは能力を過信しすぎだ」
ライフル銃を構えつつ、懐から金属製の棒を取り出すとクレインに向かって投げた。クレインの懐にぶっ刺さる。
「ぐぁっ!」
「あんたが考えているよりもサグヌ草はずっと危険な代物だ。くしゃみは一度引き起こされると長期間治らない上に重度になると肺炎を引き起こす。すぐにこいつの貿易を止めろ」
「ちっ、わかった……わかったよぉ!俺達でもこいつの扱いには困っていた。こいつの花粉は防ぎようがない。無差別にくしゃみを伝染させていく」
「じゃあ、自分がサグヌ草にかかるリスクを知っていて、その危険性もわかった上で旦那は貿易をしていたわけだな?その交易相手は誰だ!」
ライフル銃をクレインの首に突きつける。さっき投げたあの棒が発信器がわりになっているお陰で、俺は幻術だろうがなんだろうが、クレインの位置を正確に把握している。俺の使える数少ない魔法のうちの一つだ。
「話せば見逃してくれるのか?」
「さあな、内容次第だ」
クレインはゆっくりと口を開いた。
「召喚師…仮面をつけた召喚師だ」
厄介なことになった。サグヌ草を召喚師が大量に仕入れていたのは、恐らくカモフラージュのためだ。
サグヌ草は新種の植物ゆえに、確立された利用法がくしゃみ誘発以外にない。
強大な存在を召喚するために、民衆の目をサグヌ草に向ける。そして国々が混乱している間に召喚の儀式を済ます。簡単な話だ。
どこにいるかもわからない召喚師をしらみつぶしに探すのは、さすがの俺にも無理だ。ガーナの旦那に伝えて、各国に協力を要請するしかねぇ!
俺はクレインの家を囲んでいる部下に指示すると、ドレスタニアに帰国した。
密輸の障害になるサグヌ草を消すだけの簡単な仕事のはずだったんだがねぇ…。
こうしてラゼロイドマギが出現するより前に、先手を打つ形で、仮面召喚師の掃討作戦が開始された。
とある老人の告白 ~完~
ひな祭り ー当日ー 最後の砦 PFCSss14
戦いの音を背後にクォルとエスヒナ・解剖鬼を乗せたイナゴ豚はショコラの後を追って行った。
膨大な量の本がひしめき合う図書室に響く剣のぶつかり合う音、銃声。
『どうした?避けてみろ。ショコラ!貴様は剣で我を刺さなければ能力が発動しない。地面に刺して、地面そのものを凍らせ、その上に乗っている者を凍らせるということも出来るようだが、こうして浮いている限りは届かない。詰みだよ、詰み。神の力の前には何者も無力なのだ』
白いウェディングドレスに赤色の斑点が残る少女。しかし、その顔は少女に見会わぬ険しい表情だった。
それに対して、ショコラは剣を構えていた。青い貴族服に身を包み、ずり落ちそうになる王冠と眼鏡を整えて、あどけない顔に余裕の笑みを浮かべる。
過剰なステップの神業的足さばきでエアリスのガトリングガンを避ける。
『貴様……?何者だ?我の知っているショコラは容赦なく敵に刃を振るうような者ではない。身を危険にさらし敵に情をかける愚か者。それが我の知っているショコラだ』
「……僕は剣を重ねればわかります。あなたの中にセレアはいない。クロノクリスであったときのほんのわずかな感情も今では感じられない。あなたはただの量産機です。命も魂も感じられない、意志と力だけで動く人形です。そんな今のあなたに情などかける必要はない」
『シックスセンス(第六感)か。だが、それだけでは貴様の能力は説明できん。剣から動作を読み取ろうとしても、考えを読めるのはぶつかり合うその瞬間だけだ。次の攻撃を予測できても、全ての攻撃をかわすなどということは出来ないはず。なぜだ……なぜかわせる?』
エアリスは腕を槍に変形させ、ショコラを串刺しにしようとする。だが、無駄があり、最適化もされていないはずのショコラの動きを、なぜかとらえることが出来ない。
剣、ナイフ、ガトリングガン、ミサイル、かまいたち……何をしようがショコラはバレリーナのような奇怪なステップで避けてしまう。
『ちっ、あともう一機いれば何とかなったものを。かくなるうえ……』
「俺様登場ぉぉぉぉぉおおお!!」
突然の大声と共に、廊下の奥からイナゴ豚に乗った剣士が姿を現した!
ショコラに気をとられていたエアリスは反応することが出来なかった。イナゴ豚から飛び降りたクォルがエアリスの胴体をぶったぎる。
地面に落ちさえすればエアリスはショコラの射程内だ。ショコラが地面に剣を突き刺すと、剣から白い蛇が這い出るかのように地面が凍っていき、エアリスに触れた瞬間、彼女を凍結させた。
「クォルさん、ありがとうございます!」
「ショコラ、お前は俺様が乗ってきたイナゴ豚に乗って、エスヒナと解剖鬼と一緒に最深部を目指せ。俺様はここに残る」
「危険すぎます!相手はその道の達人三人でようやく渡り合える強さです」
クォルは自分を親指で指すと、大声で笑った。
「大丈夫だ。死なない程度に頑張るから。クライドちゃんやバトーちゃんの敵も打たなきゃいけないしな。……それに、ここで誰か囮にならなきゃ先進めないだろ」
クォルはそういうとエアリスを剣で切り裂いた。
「でも……」
クォルはニヤリと顔を歪め、ショコラを睨んだ。決死の覚悟をみたショコラは折れるしかなかった。
「わかりました。健闘を……祈ります」
ショコラがイナゴ豚に乗るとエスヒナと、それにしがみついている解剖鬼を乗せたイナゴ豚が後ろからやって来た。
「クォル!なんであんたも来ないの」
「女の子にかっこいいところを見せるためだッ!行け!」
ショコラはメスを解剖鬼に向かって投げた。メスは解剖鬼がキャッチするまでもなく、首もとに突き刺さると、そのままめり込んで行った。
その瞬間、死んだように動かなかった解剖鬼が、生き返ったかのように声を発した。あのメスは解剖鬼のために、ソラのエネルギーをちゃっかり拝借していたらしい。随分と主人思いのPFのようだ。
「行くぞ!ショコラ、エスヒナ」
レウコトリカとルビネル PFCSss
解剖鬼「おい、ドクターレウカド。紹介状を持ってきた。いるか?……いないなら居座るぞ?」
ルビネル「えっ、そんなにフランクなんですか?ドレスタニアでは結構コワイと噂聞きましたが?」
兄「あんたの紹介状で来る患者は嫌な予感しかしないな…」
ルビネルを見つける。
兄「…はじめまして、医者のレウカドだ。怖がることはない」
妹「お仕事だー!」
どたどたと忙しない足音が中から聞こえる。
解剖鬼「大丈夫。私の患者ではかなりの常識人だ。って……んん?レウカド恋人いたのか?」
ルビネル「こちらこそはじめまして。ルビネルです(あっ……二人とも好みの顔……)」
黒髪を揺らしながら優雅に挨拶するルビネル。
妹「こんにちはー!」
ふたりに向かって挨拶をする。
レウカド先生「そうだ、恋人だな」
恋人というところを強調しつつレウコトリカを抱き寄せる。
妹「はじめまして!お兄ちゃんのレウカドと妹のレウコトリカです!」
解剖鬼「えっ……(嘘ぉ!顔も性格もまるで似てない!)。ゴホンッ!彼女は一応まだ学生だ。よろしく頼む」
今回は素直に立ち去ろうとする。
ルビネル「ご配慮感謝します。(向き直って)はじめましてレウコトリカさん!ちゃん付けしていい?」
解剖鬼「?!」
レウカド先生(動揺してるのをはじめて見た…)「ああ」
レウコトリカ「いーよー!ルビネルちゃんって呼んでいい?」
ルビネル「レウコトリカちゃんいいよ!えへへぇ~」
さりげなくレウコトリカと握手する。
「レウカド先生こんなに可愛い妹さんがいるなんて羨ましいです!」
一方でキラキラとした瞳をレウカドに向ける。
そそくさと立ち去る解剖鬼。
解剖鬼(レウカドの妹?あれが?え?ん?ルビネルってあんなに気さくだったっけ?あれ??)
レウコトリカ「わーい!ルビネルちゃん!兄さん!さっそくドレスタニアで友達できた!ともだち!」(本気で嬉しい)
レウカド「よかったな!」(本気で嬉しそう)
レウカド先生「フフ、クハハ…君は見る目のある学生だとわかった。診察費治療費、共に半額にしよう…」
レウカド先生(アイツ前に妹に会ったと言ってなかったか…?)
解剖鬼(ヤバヤバイ!出任せに嘘をついたのがバレる!後で口裏合わせようとしてたのにッ。クッ……ルビネルあとは任せたッ!本気でヤバヤバイ!)
ルビネル「本当に!ありがとうございます!レウカド先生優しいですねッ!レウコトリカちゃんもこんなお兄さんいて嬉しいよね~」
レウコトリカをナデナデ。
レウカド先生(まさかアイツ…)
レウカド先生「ルビネルさん、だったか、こんどあの解剖鬼に会ったら『楽しいデートをしましょうね』と伝えておいてくれ」
笑顔だが目だけが笑っていない。
レウコトリカ「兄さん優しいけど怒ると怖い!」
ルビネルの艶のある黒髪を撫で返す。
ルビネル「(怖ッ!)えっ……ええ。喜んで」
ルビネルのポケットからボールペンとメモ帳が飛び出し、宙に静止し、独りでにメモを取り出した。よく見るとメモ帳にもボールペンがくっつけてある。
「レウコトリカちゃんありがとう!もっと撫でて」
顔をレウコトリカに近づけた。
レウカド先生「…!びっくりした…それは妖術かなんかか」
レウコトリカ「いーよー」なでなでなで
レウカド先生(なんか近くないか…)
ルビネルはキリッとした表情にかわる。
ルビネル「妖怪の呪詛です。アルビダなので。もっとも、私の場合アトマイザーを用いないと発動すら出来ませんが……。(胸ポケットから香水容器を取り出す)」
その横でレウコトリカに撫でられまくる。撫でられるのが気に入ったらしい。
レウカド先生「ふむ、俺はこれしかしらんからな」
仕事道具の煙草を見せる。
ルビネル「因みにそれは呪詛の類い……それとも精霊の魔法?それを治療に使うんですか?」
レウカド先生「ああ、アルビダ特有の能力を煙にして吐くことによって引き出すらしい。これを治療にも使うがただのまやかしみたいなものさ。実際に効果を感じるのは短時間だけだ」
レウカド先生「ところで今日は何しに?」
レウコトリカ「レウに撫でられに来た!?」
ルビネルは顔を緩めてレウコトリカにと向き合う。
「そうそうレウコトリカちゃんに撫でてもらって癒されに……って、もちろんそれだけじゃありませんよ?最近なんか体がだるくって……」
レウカド先生にも微笑みかける
レウコトリカ「しんどいの?大丈夫?」
心配そうに見つめる。
レウコトリカ「兄さんお医者さんだから良くしてくれるよ!」
レウカド先生「寒気や生理不順はあるか?」
ルビネル「ええ……最近周期が狂ってて。ドクターは婦人科に詳しくないからってまわされたんです。検査値に異常がないから多分ストレス性だろうとは言われたんですけど……」
診断書をレウカド先生に見せる。(外科的には正常だったので大したことは書いていない)
ルビネル「心配してくれてありがとう」
レウカド先生「…俺もべつになんでもできるというわけではない…婦人病も…恥ずかしながら最近齧った程度だ。…こんなこと聞くのもなんだが、一週間ほど前に性交渉をしたことは?ストレス性だとしたらピルを処方させてもらうが」
レウコトリカ「せーりでおなかいたいの?」ルビネルの下腹部を撫でる。
ルビネル「フフフッ。『そういうこと』はしてません」
妖しく微笑みながらレウコトリカの肩に左手を置く。
ルビネル「ただ、最近で言えばハサマ王の過去を聞いたり、ドレスタニアの裏を知ってしまったり、禁術のエグい歴史を調べたり……色々と重なりましたね……」
レウコトリカの手に右手を被せる
レウカド先生「…研究熱心な学生ということか。ここでは婦人病の診察はやっていないから薬だけ処方させてもらう。違法だが」
レウコトリカ「んー?痛くない?」
ルビネル「痛くないよ~」
とうとうレウコトリカのほっぺたにまで手を出すルビネル。
ルビネル「レウカド先生、助かります……あっヤバこの触感癖になりそう!かわいいよレウコトリカかわいいよヨシヨシ!心配してくれてありがとうね」
レウコトリカにデレデレになってきた。
レウカド先生「ひっ…」
誰かを思い出して一瞬怯えている。
レウコトリカ「くすぐったいよ~えへへよかったあ」
ルビネル「むーにむーに♪あれ?どうしたんですか?レウカド先生」
少し悩んでから心配そうな顔でレウコトリカに聞く。
ルビネル「レウコトリカちゃん、何か私レウカド先生に変なことしたかなぁ?」
レウカド先生「いや!なんでもない…俺は薬をとってくる…」
レウコトリカ「なにもしてないと思うけどねー」
ほっぺたをむにむにしかえす。
ルビネル「うわぁー!気持ちー!えへへっ。ところでレウコトリカちゃんは趣味とかある?」
謎の頬っぺたムニムニ合戦が勃発する。
お兄ちゃんは別室にお薬取りに…
レウコトリカ「えー、なんだろー、きれいな石をあつめて、それでサンキャッチャー作り!お店の看板のもレウがつくったんだあ!」
学生「えっ!あれあなたが作ったの!綺麗だったな……看板に光が反射してキラキラして……。プロ顔負けじゃない!エライ!」
レウコトリカの両手を握って目を輝かせる。
レウコトリカ「占いのおばばに習った!レウ、首輪とか腕輪もつくれる!ルビネルちゃんに、作ったげる!」
ルビネル「本当にッ!いいの!?ホントーに!ありがとう!私も次来たときお菓子作ってくるね!」
喜びのあまり握った手を上下に振る。ほしいものを買ってもらった子供のような笑顔をする。
レウコトリカ「うん!いいよー!やった!お菓子楽しみー!」
戻ってきたお兄ちゃん
レウカド先生「な、仲良くなってるみたいでよかったな…ほら処方箋だ。寝る前に飲むだけでいい。正常な月経が始まったら飲むのを止めるんだ」
ルビネル「レウカド先生ありがとうございます。これでようやく安心です……」
優雅な手つきで処方箋を受けとる。
「ところで、レウカド先生……今度お礼をしたいので、また来てもいいですか
?是非……食べて頂きたいものがあるので……」
レウカド先生「あ、ああ…構わないが…ここはあまり食べ物を持ち込むのは…」
レウコトリカ「こんどお菓子とアクセサリー交換するんだあ」
レウカド先生「そうなのか、それなら…」
無邪気に笑いつつ、レウコトリカに
ルビネル「レウコトリカちゃん。ナイスフォロー!」
さらに、レウカド先生の唇に指を当てつつ、
「ええ、そうです。アクセサリーとお菓子を交換するだけですから……。フッ……フッ……フッ!」
妹の表情は自慢げだ。
レウカド先生「…う」
ルビネルの手をどける。何かを思い出して寒気を感じた。
レウカド先生「今日はもう…いいな…また今度だ。楽しみにはできそうもない」
察してすぐに手を引っ込めたルビネル。
ルビネル「あらぁ……苦手なんですね。ごめんなさい。……クスッ!わかりました」
一瞬で童顔の愛らしい顔に戻る。
「今のは忘れてくださいねっ!」
そしてレウコトリカと肩を組む。
ルビネル「ごめんね。お兄さんに嫌な思いをさせちゃったみたい」
レウカド先生「…ああ、お大事に」
レウコトリカ「うーん、兄さん女の子苦手みたいだから?」
ルビネル「……そっかぁ。何はともあれ、ありがとうございました!」
ルビネルは来たときと同じように礼儀正しく礼をして帰っていった。……何度も振り返ってはレウコトリカに手を振りながら。
レウコトリカ「今度はアクセサリーつくって待ってる!」
レウコトリカは手をぶんぶんと振り返した。