フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

ルビネルの施術願い

ルビネルの捜索願い PFCSss

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/28/091650

ルビネルの手術願い PFCSss2

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/31/172102

ルビネルの協力願い PFCSss3

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/01/083325

ルビネルへの成功願い PFCSss4

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/02/153244

ルビネルの豪遊願い PFCSss5

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/03/075127

ルビネルの修行願い PFCSss6
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/04/224102

こちらのssの続きになります。





 「逃げ出すなら今だぞ?私は止めん。むしろ手助けする」
 「いいえ。私の思いは誰からなんと言われようが変わらないわ」

 解剖台に横たわる艶かしい肉体。鹿の足のように細く美しい足、引き締まった腹、豊満な胸、そして台の上に散らばる黒髪。

 それを見下ろしているのは、全身を濃い青色のビニール性手術着に身を包んだ私だ。ペストマスクも使い捨て用のものに着替えている。

 私の能力は『メスを使って切る、留める、縫合(回復)する』というものだ。つまり解剖をメス一本で行うことが出来る。メスで触れさえすれば恐ろしいほど精密に操作出来ため、化け物じみた手術も可能になる。

 今回の手術は全身に鬼遺伝子を移植すること。ただ、直接移植するには全身の細胞一つ一つにメスで直接触れなければならず非現実的だ。そこで私は鬼遺伝子ウィルスを開発した。全身の細胞に感染し、鬼遺伝子を埋め込んだあと、勝手に自己崩壊するウイルスだ。

 このウィルスをメスに仕込み、全臓器に埋め込むことで、最低限の時間と労力で、全身に鬼遺伝子を行き渡らせる。
 が、彼女の肉体を切り刻むという事実はかわらない。

 「さあ、ドクター早くはじめて。こうして寝てるだけでも、ちょっぴり怖いんだから」

 「だったら止めればいいじゃないか」


 もっともそんな選択は彼女に残されていない。彼女がもし、手術を耐え、『あの人』を止めれば、たくさんの人が犠牲から免れるはずだ。私的な恋人への思いと激情が、社会的な理由を得たことにより、さらに強固になった。もはや誰も彼女を止められはしない。


 「わかった。……その前によく体を見せてくれ。君の生の肉体を見ることが出来るのはこれが、最後だから」

 「いいわよ。好きなだけ見て頂戴」


 見れば見るほどもったいない肢体だった。穢れのない純粋無垢に見える、白い肌。それも、今日で最後だ。鬼遺伝子の副作用は外見にも反映されてしまう。

 本当になぜこの体を切り開かなければならないのか。

 どれだけの時間がたったかわからなかったが、とうとう私はみるべきものを全て見終えてしまった。


 「ありがとう。私は君のその美しい体を一生忘れない。そして、さようならルビネル」

 「ええ、失敗したらまた来世で会いましょう」


 私は注射器を取り出すと、ルビネルの腕の中央にあるか細い静脈に麻酔薬を注入した。彼女は目をつぶり、静かに寝息をたてはじめた。

 私は解剖用のメスを手に持つと、ゆっくりとルビネルの白い肌に突き刺した。

 ひとたび術式が始まれば、私の心は嫌がおうにも冷静になる。私はまるで決められた作業をこなすロボットのように、ルビネルの体を切り刻んでいった。


 この瞬間、人とは何なのであろうかといつも思う。体を切り開き、臓器の一つ一つをまじまじと見つめると、これが人の生命を維持しているとは到底思えない。
 卵豆腐を少し薄くしたものにシワをつけ、一ミリに満たない黒く細いホースを張り巡らした物体が、人の記憶や行動、俗に言われる心とやらですら管理しているらしいが、とてもそうは思わない。

 肉屋のモモ肉をもう少し濃くした握りこぶし大の物体にちょっぴりの黄色い脂肪と、植物の蔓のように血管が巻きついたものが、生命を司る心臓という臓器なのだと言われると酷くげんなりした気分になる。

 垂れ下った黄色いスポンジのようなぶよぶよした半円形の物体に触れるのが、男の夢らしい。何だか笑えてくる。

 理屈でわかっていても感情が拒否する。これがあの可愛らしい少女の中身だとは思えない。確かに整然と収納され、芸術的とも言える配列で、生命を維持している臓器たちは非常に精巧で美しいとは思うが、それとこれとは違う。

 ただ、これこそがルビネルの肉体であり生命であるという事実に変わりはない。これを絶やしてはいけない。

 ガーナ王に渡された『設計図』の情報を頼りに、私は黙々と作業を進めていった。

 手は震えない。指先の神経の一本一本に命令を出しているような気分だ。恐ろしいほど自分の腕が、指が、自由に動く。

 自分の出来ることを淡々と進めるのだ。あの鬼畜に言われたではないか。普段と同じように冷酷に冷徹に、やるべきことをやる。そうすればきっと……

 大粒の汗が額から垂れるのを感じる。体力には自信があるはずの自分の肉体が明らかに悲鳴をあげていた。さすがに休憩なしでぶっ続けで手術をするのは、いくらなんでも無茶だ。とはいえ鬼遺伝子ウィルスの進行具合を常に確認しなければならないため、休んでいる暇もない。制御に失敗したら水の泡だ。

 ルビネルは言った。『私が止めなければならない』と。彼女はそれだけのために自らの肉体を捨て、化け物と成り果てようとしている。私にそれを止める権利はない。私に出来るのは、彼女の意思を尊重し、彼女の思いに答え、確実に手術を成功させることだけだ。

 ひたすらメスを動かす。この一刀が彼女の未来を切り開くのだ、と自分に言い聞かせる。しかし、実際は彼女の肉体を傷つけ命を削っているに過ぎない。
 精神的にも肉体的にもあまりに辛い所業だった。どうすればこの苦痛から逃れられるのだろう。考えても答えは見つからない。今自分のしていることが正しいと信じて進むしかないのだ。

 ここが正念場だ。私の心が折れないうちに手術よ、終わってしまえ!

 数時間後、私は部屋の端で座り込みながら、心電図の波形を眺めていた。だんだんと弱まっていく電気信号に危機感を覚える。彼女に薬剤を注入しつつ、もしものために準備を急ぐ。だんだんと乱れる彼女の呼吸。流れ出る汗。各種検査を開始する。

 だが、その検査中に心電計がアラートを発した。私は心臓マッサージをしつつ、いくつかの薬剤を彼女の腕に注入した。焦燥感にかられ、発狂しそうになる自分をどうにか理性で押さえつける。

 病巣と思われる場所にメスを突き刺し引き抜いてから数分待つと、彼女は静かな呼吸を取り戻した。
 意識が飛びそうなのを必死にこらえながら彼女の様子を見守る。
 耐えろ……耐えてくれ、今が峠だ。ここを乗り越えればッ!

 そして、さらに数十分後、彼女がもぞりと動いたのを見て、慌てて駆け寄った。



 「おはよう、ルビネル。気分は?」


 私はベッドに横になっている彼女に声をかけた。ゆっくりと彼女は目を開ける。そして、自分の体がどうなったのか、ということを長い時間をかけて受け入れた。

 「……生まれ変わったみたい。とても自分のからだとは思えない。……随分と奇抜な模様ね」

 「呪詛によるの黒色の肌と鬼遺伝子の副作用である青い表皮が混じりあった結果だ。顔と手首足首だけはどうにか元の形を維持した。私のようにコートを着れば問題ないだろう」

 おめでとう、とは言えなかった。彼女の寿命は残り六日と十四時間だ。それに、いくら手術に成功しても、負けてしまっては意味がない。

 「そう……」

 疲れからか、安心からか、再び彼女は眠りについてしまった。顔だけ見れば以前と変わりない。それがせめてもの救いだろう。

 私は手術が終了したことを伝える緊急コールを行い、引き継ぎに来た凄腕のアルビダ医師に必要事項を伝えると、目の前が真っ暗になった。

ルビネルの修行願い PFCSss6


ルビネルの捜索願い PFCSss

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ルビネルの手術願い PFCSss2

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ルビネルの協力願い PFCSss3

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ルビネルへの成功願い PFCSss4

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ルビネルの豪遊願い PFCSss5

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⬆このssの続きです。


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 ガーナ王がドレスタニアの一流の占い師に聞いたところ、ルビネルの探す『人』は今日から丁度一ヶ月後に、とある場所に行くことで出会えるらしい。占い師曰く、『三本の腕のうち、最初の一本があった場所』と言ったそうだが、私にはなんのことかさっぱりだった。
 だが、ルビネルは一度その場所に言ったことがあるらしくピタリと場所を言い当てた。

 占い師の言葉で決戦の日を特定した私たちはその日までの計画をたてた。

 主に稽古についての計画だ。





 ドレスタニア城の一室でガーナ王とルビネルが向かい合っていた。私はそれを腕を組み壁に寄りかかりつつ眺めている。
 ルビネルはサポーターをつけた右拳を大きく振りかぶると、ガーナ王に向かって殴りかかる。それに対してガーナは足を一歩引き上体を左にひねり、脇を閉め、肘を軽く曲げつつ拳を付きだす。
 ルビネルの力のこもった拳はガーナ王の腕に受け流され、あっさりとかわされてしまった。前のめりになったルビネルの足を、ガーナが足さきを使って軽く引き寄せると、ルビネルはいとも簡単にすっころんでしまった。

 「拳は必ず最短距離でつき出さなければならない。振りかぶるなど愚の骨頂だ」

 ガーナは右拳を腰まで引くと、しゅっとジャブを極めた。脇を締め、途中まで力を抜きつつ前に拳をつきだし、最後に腕の筋肉を緊張させ極める。そして極めたと意識した時にはすでに力を抜いて次の動作に繋げられるように構える。最低限の力で最高最速の拳撃を繰り出したのだ。あまりの合理さに恐怖を覚える。

 「さすがです。ガーナの旦那」

 隣で見ていた老人がニヤリと笑った。
 私たち三人は決戦を前にしたルビネルに武術指導をしていた。鬼の遺伝子を移植すれば格闘戦も可能になる。ルビネルは既存の戦術であるボールペンを操る呪詛に加え、格闘も出来るようになる。だが、紛いなりにも格闘術を身に付けておかなければそれも宝の持ち腐れだ。そこで、私たちはルビネルにあれこれ手解きしているのだった。

 「解剖鬼、お手本に相手をしてくれるか?」

 私は下がるルビネルと入れ替わる形で静かにガーナ王と向き合った。

 「かかってこい」

 「怪我をしても知らんぞ?」

 私は訓練用の木製の短刀を取り出すと構えた。ガーナ対して慎重に距離を詰めていく。ガーナ王は時々踏み込んで牽制をかけ挑発をしてくるが、決して私の射程に入ってこようとしない。
 私は見切りをつけ一気に踏み込んで短刀を振った。矢継ぎ早に斬撃を繰り出していくも、突如としてガーナが繰り出した小石によって優劣が決まった。
 攻撃に集中して防御がおろそかになった私は、無理に小石をさばいたため懐ががら空きになった。決してガーナの動きは早くなかったものの無駄がなくあっさりと私の腹に一撃を食らわせた。
 ルビネルがガーナに向けて拍手を送った。

 「体の使い方次第で凡人でも化け物に勝てるのだ。さあ、次だ。ルビネル」

 私はうめきながら「あんたが化け物だろうが」とぼそりと呟いた。
 老人に聞こえたらしく意地悪な笑みをこちらに向けてくる。悪童か、お前は。

 ガーナの真似をして必死に拳のからうちをするルビネル。あれほど動ければ将来は有望だろう。いいや、有望だったというべきか。

 ルビネルは汗を頬に滴らせながらガーナ王と打ち合う。りりしく健康的で美しい横顔が私の気持ちをさらに暗くした。

 「そうだ。それでいい」

 「はい!ありがとうございますっ!」

 ハキハキとした声はとても一ヶ月後に死ににいく者とは思えない。私の知る余命一ヶ月の人は、あのように目を輝かせたりはしなかった。ただただ死の恐怖に怯え、私に亡者のごとく泣きついてくる。
 ルビネルは違う。本人が死にたい訳ではない。死に値するような罪もない。誰に憎まれている訳でもない。将来有望で、未来ある若者だ。私はそんな人に対して、死を伴う危険な手術をした上で想像を絶する苦痛をあたえ、死地に送り出すことなど望んではいない。



 「随分と暗い顔をしているようじゃの」



 腹を抱える私に、ウェディングドレスを着た少女が話しかけてきた。銀髪を揺らめかせ不敵に微笑んでいる。
 私はその姿に戦慄し思わず後ずさった。老人がすぐそばでゲラゲラと笑い声をたてた。焦げ茶の帽子がずり落ちそうになるほどだ。

 「滑稽ですぜ。旦那ぁ」

 私は老人の言葉を無視して彼女に話しかけた。彼女の背丈は私の身長の大体半分ちょっとしかない。確かに滑稽な光景ではある。

 「ばっばかな、なぜお前がここに?!」

 「こやつに話しかけられてのぉ。強い輩と戦えると聞いて見にきたわけじゃ。ちと、早すぎたがのぉ」

 どうやら老人が強化後のルビネルの最終テストとしてつれてきたらしい。セレア・エアリス。液体金属の体をもつアルファ(金属生命体)である。私は以前、他者に乗っ取られたこいつに半殺しにされたのだ。それ以来ウェディングドレスを見ると身構えてしまう。


 「なるほど、なかなかいい感覚をしておるのぉ」

 「ああ。だがそれだけではない。約一ヶ月後、彼女に強化手術を行う」

 私はぶっきらぼうにそう答えた。

 「お主がか。意外じゃのお。そこで笑っている奴にでも脅されたか?」

 「そうです。俺が脅しやした。そうすりゃ旦那も言い訳できるでしょう?それに、あのお嬢さんの決意は本物だ。俺は惚れたんですよ、あの芯の強さにね?

 ルビネルはガーナに対して必死に拳や蹴りを放っている。先程のアドバイスが効いたのか、かなり正拳付きの精度が上がっている。
 ガーナがセレアに気づいた。が、特に何事もなかったかのようにルビネルの攻撃をいなした。セレアに関しては恐らく現ドレスタニア国王であるショコラから聞いていたのだろう。

 私は老人に対してため息をついた。

 「それでも成功率六割の上に、成功しても戦闘後に再手術しなければ寿命が一週間になるような殺人手術をやるのは気が引けるがな。ガーナと言い、お前と言い、彼女の意思と宿命を尊重するのはわかるがちょっとは情けを……」

 「敵にしろ味方にしろ情けをかけているようでは『やつ』に勝てんぞ?」

 私は目を見開いてエアリスを見つめた。ドレスについた埃をポンポンと払うとエアリスは続けた。

 「わらわもあやつの存在に気づいておる。あんまりにも強大な呪詛であったからのぉ。そこでどうしようか考えていたところ、そこのジジイを知ったのじゃ。お互いあやつを止める、という共通の目標のもと、わらわは同盟を結んだ」

 「ルビネルが負けたときの保険ですぜ」

 私は少しうつむきペストマスクを撫でる。一瞬、脳裏に血まみれになって地面に突っ伏すルビネルの像が浮かんだ。

 「ルビネルが負けたときセレアがあいつの相手をすると」

 セレアは幼すぎる顔にシワを寄せた。まるで機嫌を損ねた幼子のようだ。だが、その口から放たれる言葉にはしっかりとした重みがある。

 「いいや、わらわでは勝てぬ。精々できることはお主らが逃げるまでの時間稼ぎじゃ」

 かつて十数人の英雄と対決し、生き残った猛者の容赦ない一言だった。

 「おっと時間じゃ。また後日会おうぞ。恩人よ」

 そう言ってセレアは行ってしまった。思わず私は首を左右に振った。セレアが勝てない相手とはいったいどんな奴なんだ。邪神か何かだろうか。

 「全く……自由気ままなガキですねぇ」

 その数十秒後ショコラ王の笑い声が王宮に響き渡ったが私は耳を塞いでやり過ごした。


 決戦を一ヶ月後にそなえ、私たち三人でルビネルを徹底的に鍛え上げた。もともとルビネルに格闘に心得があったのもあり、みるみるうちにルビネルは上達していった。

 私は彼女のひたむきな姿勢を見て、ますます強化手術に対して反感を抱くようになった。しかし同時にルビネルの必死さにも心を打たれた。彼女は命を捨ててでも恋人を止めたいのだ。

 私にはもう、何が正しくて何が間違っているのかわからない。

 だれか教えてくれ……。

ルビネルの豪遊願い PFCSss5


ルビネルの捜索願い PFCSss

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ルビネルの手術願い PFCSss2

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ルビネルの協力願い PFCSss3

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ルビネルへの成功願い PFCSss4

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⬆のssの続きです

 私はドレスタニアの噴水で、煙管に火を灯す。煙が沸き立つ筒に口を着ける。気管支が煙によってあぶられゴホゴホと蒸せた。知り合いが旨そうに吸っているのを見て真似してみたが、やはり私には合わないらしい。
 こんな奇妙なことをするのも過度のストレスから一瞬でも逃げたいからだった。

 「ゴホッゴホッ……」

 私は建物の影で蒸せつつ、ドレスタニアの広場にある噴水を覗いていた。いつも見ている裏通りの噴水とは違い、コケもボウフラも沸いていない澄んだ噴水だった。
 そこに黒いワンピースに身を包んだ少女と、貴族服に身を包んだ女性が仲睦まじく腰かけている。手に持っているのはリンゴ飴だろうか。

 「ゼェ……ヒュー……おっ収まった……」

 彼女たちの脇に紙袋が置かれている。中からのぞいているのは洋服か?それともかわいいぬいぐるみか?
 二人ともにこにこしながら話続けている。時々ほっぺに触れたり、足をさわりあったりと、何やら危なげな雰囲気を醸し出しているのは私の気のせいだろうか。

 「煙草なんか吸うもんじゃないか……」

 煙管をポケットにしまう。
 彼女らがどこかに移動する。あの通りの先ということはカフェか……。
 いっこうに会話の止まる気配がない。何であそこまで高速に絶え間なく話続けることが出来るのかわからない。憧れはするが。
 「うんうん」と、激しく外交官の言葉にうなずく少女。得意気になって話しているのが、あのエリーゼさんだとは思えない。
 エリーゼ外交官の言葉にはしゃいで、リンゴ飴を落とすルビネルはとても可愛らしい。

 エリーゼ外交官が自然かつ優美な動作でルビネルの手をとった。カフェまで先導していく。エリーゼ外交官の顔がきらきら輝いて見える。これが外交官のシックスセンスか?そして、なぜそこで顔を赤らめるルビネル!

 カフェに入ると、私から二人は見えなくなってしまった。

 キャピキャピ話をし続ける二人を見守るのはとてもつらかった。本来であれば、あれがルビネルの姿なのだ。

 霊安室で遺体と変わらぬ無表情で、淡々と自分の死に場所について語るのがルビネルだとは決して思わない。

 私は白昼のドレスタニアでため息をついた。


 「何でこんなことになった」


 以前、ルビネルは奴と戦ったことがあったらしい。そして、十数人の仲間と共に瀕死まで追い込んだ、とも。私はその話を軽く流していたが、図書館で読んだ資料のなかに、それについての記述があった。

 強大な力をもつ者を倒したとき、その『力』が放出され、近くにいた人にこびりつくことがあるらしい。その人は『力』に暴露され続けることになる。『力』に常にさらされた体はそのうち『力』に対して耐性を持つ。
 ワクチン接種の原理に似ている。体は病気にかかるとその病原体に対しての抵抗力を作る。それを利用し、弱毒化した病原体を注射することで、実際に病気にかからなくても体の中でその病原体に対する免疫ができるのだ。
 『奴の力』がこびりつき、あらかじめ暴露され続けた結果、ルビネルは奴の能力に対する耐性を獲得したのだ。だから、老人の部下たちと共に、奴と戦ったときも、彼女だけは生き残ることが出来た。

 奴の能力は老人でもかなわなかったことから、非常に強力であることが予想される。それに耐性があるというのは、すさまじい武器だ。

 力がこびりついても、耐性ができるにはその量や質、そして個人差が大きく関与する。ルビネルが奴への耐性を得たのは不幸中の不幸なのだ。

 奴を打ち倒すにはルビネル以外、適任がいない。


 「何度考えても同じか」


 カフェからルビネルとエリーゼ外交官が出てきた。相変わらず仲睦まじく話している。

 なぜあんな子がこんな使命を背負わなければいけないのだろうか。変われるのなら変わってやりたいが、それが出来ないのは私が一番よくわかっている。

 私は本日何度目かのため息をついた。自分の無力さを呪う。まあいい、いつもと同じことだ。

 私に出来ることをしよう。

ルビネルへの成功祈願 PFCSss4

ルビネルの捜索願い PFCSss

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ルビネルの協力願い PFCSss3

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Self sacrifice after birthday 4


 「久しぶりだな」

 図書館の地下五階。本来人が立ち入ることのない埃臭い空間の、更に奥の机にもたれ掛かる私に、図々しく話しかけるガーナ。
 ガーナ『王』が私のロングコートの服のシワをみてガーナは一言呟いた。

 「ほとんど丸腰か……取り上げられたな。私が利用したときよりも深刻に見えるが」

 「あまり話しかけないでもらえるか。鬼畜め」

 ばつが悪そうな小さく低い声で拒絶を示すと、ガーナは微笑しながら向かいに腰をおろした。
 裏社会の人間から見たらドレスタニアを支配しているのは彼だ。一般には元国王と言われているが、実際には裏から国を牛耳っている。

 「まぁそう言うな、単純な世間話だ。君にとっては余計な話かもしれんがね」

 無言で向き合う解剖鬼とガーナ。感情を隠し通すマスクに対し、感情を読み取らせない鋭く紅い目。お互いに察する、牽制の態度。先に沈黙を破ったのは、ガーナであった。

 「死ぬのか、あの子は」

 眉一つ動かすこともなく、悲しい顔も見せず、苦しい声もあげない冷徹非道な『王』の言葉。しかし、死地を巡った解剖鬼だからこそ察する、王の気遣い。
 早い話が、状況を把握し即座に現実をうけとめ、ルビネルの未来が悪い結果になることを既に『覚悟』している態度である。だからこそ、ガーナは解剖鬼に話しかけに来たのだ。

 「……決まった訳じゃない」

 即答は出来なかった。だが、できる限りの事をする、と意志を見せることはできた。癪に障る『王』に向けた抵抗の意志。
 可能性は決めつけるものでは無い。だからこそ、即答できない自分にほんの少しだけ苛立った。実際に経験則から判断すると、失敗する可能性の方が高い。

 「そうか」

 私のわずかに震える握りこんだ拳を見て、ガーナはにこりと微笑んだ。ふと、手元の資料に目を落とす。サバトの記録…歴史…考察…。自身が戦うわけでもない相手の弱点や欠陥を探ろうと、自然に読んでいたものがそれらであった。
 心のどこかで、ルビネルが負ける前提で調べていたことに気づく。

 「現実を受け止めるということは、希望を産み出す手段である。やるべき事をやるしかないぞ」

 ガーナは机に紙束を置いた。

 「これは……?」

 「私の父親が母に施してきた、遺伝子操作の実験記録だ。図書館の記録ではなく、私物だ。より分かりやすい言い方をすれば…我が弟の設計図だよ」

 一切感情を見せなかったガーナが、明らかに忌々しい物を見る顔つきで答えた。

 「燃やすつもりだったが、何かの役に立ちそうなら君に預ける」

 そう告げると、ガーナは出口へ戻っていった。

 「『設計図』か、これがガーナ王の解釈なのか?」

 私は資料を手に取りパラパラとめくる。わずかな枚数目を通しただけで、ガーナの表情の理由を察した。なるほど、これを研究した奴は、少なくとも私よりは外道らしい。
 私はあくまで人を成仏させたあと、解剖して医学データを得るのが仕事だ。このような狂気に満ちた人体実験は行っていない。

 「なるほど、興味深い」

 だから、手術の参考になるデータが手元ににほとんど存在しないのだ。理論上は手術可能とはいっても、前例のない手術は高確率で失敗する。例えば数十年前、とある病院で理論上可能とされ、実行に移された臓器移植。だが、拒絶反応に関して、当時は存在すら知られておらず、患者は数日でお亡くなりになった。
 ガーナ王が渡してくれたものは、それを補完する、貴重な研究データだ。特に薬剤による詳細な影響や、副作用に関しての細かい記述は非常にありがたい。

 ガーナ王にしては随分と気のきいたプレゼントだ。ペストマスクの位置を調整すると、ルビネルにきびすを返し、図書館を後にした。

ルビネルの協力願い PFCSss3

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Self sacrifice after birthday 3

 六人用の広い机の上に乱雑に広げられた本の山。ひとりでに動き、器用に本のページをめくりつつ、必要な箇所を市販のノートに書き写す17本のボールペン。そして、そのボールペンたちに向かって指揮者のように指示を出す少女。
 本の内容は公に出来ない禁術や、人道を外れた研究成果。知ってはならない世界の裏側についてなど。カルマ帝国を壊滅させた、ドラゴンの召喚ですら、ここにある文献で再現可能である。
 少女は本を棚から取り出しては机の上に広げ、ボールペンを操る力によって、高速でまとめノートを作っていた。

 私はそんな少女を本棚の狭間から見ていた。本来であればこの図書館は立ち入り禁止であるが、老人とルビネルが『とある人物』を説得してくれたお陰で、私も入ることが出来た。
 私はそれに感謝しつつ、ルビネルの手術の成功率を少しでも高めるために、手当たり次第、生体や呪詛についての禁書を開いては閉じていた。
 ……と、噂をすれば彼が来た。


 「勉強熱心なものだな、ルビネル。何か聞きたいことはあるか?」


 セミロングの髪の毛が額の包帯に触れている。整った顔に鋭すぎる眼光を宿し、ルビネルを見据える。
 ルビネルは黒い長髪を揺らし、振り向いた。男を見た瞬間、ルビネルの険しかった表情が本の少し緩む。


 「ガーナ様、ありがとうございます。まさに今聞きに行こうとしていた所です」


 ルビネルが一礼すると、ボールペンも一斉に静止し、ガーナの向きに傾いた。
 ガーナはドレスタニアの元国王であり、ここドレスタニア図書館の鍵を管理している。
 ガーナは私に目を向けたが、私が気にするな、というジェスチャーをすると、再びルビネルと向き合った。

 「私には三つほど質問があります。一つめは、どこにいるかもわからない人を探す方法についてです」

 ルビネルは千里眼の呪詛についてのメモ書きを指差した。それを見たガーナは、静かに頷くと語りはじめた。

 「人捜しの能力…。これは概念的方法であれば、大した力を使わずとも可能だ。明確な位置を探ることはこの世界においては不可能だろうが、信仰による占いや手がかりを辿る力に長けたものならばヒントとして得る事は容易い。我が国にも占いを行える者がいる。訪ねるといいだろう」

 ルビネルは軽く会釈すると次の質問を投げ掛ける。

 「では、次の質問を。ディランやサバトに乗っ取られた……と思われる人物を救う方法はあるのですか?」

 「乗っ取られた人物、これはその者により異なる。場合によっては引き剥がせるだろうが、引き剥がすどころか既に死を迎えている場合もあるだろうな。お捜しの者の生態がわからなくてはその可否もわからぬ」

 ガーナの言葉を聞き、決意したように最後の質問をいい放った。

 「では、そういった異次元の力を持つ者共と渡り合うだけの力を手に入れる方法はあるのですか?」

 「渡り合う力、か。それがあるならば問題は起きない。我が弟の持つ剣であれば時空ごと封印することができるが、例え瞬きすら行えぬ空間に閉じ込めても、時間的封印は、その分、彼らに力を得る刻が与えられるだけである」

 サバトやディラン、といった相手とはそもそも渡り合う術がない、という残酷な事実だった。

 「あり得ない進化をするほどの力をもつサバトのような相手には、永続的封印が最も愚かな行動であることは明白だ。故に、甦ることを前提に繰り返し殺すことを我が国では選択している」

 ルビネルは唇を噛み、唸った。

 「私がわかるのはディランかなにかに乗っ取られている、という事実だけ……。対処法もわからない。封印しようにも仮に敵がサバトだった場合逆効果、となると殺すしか方法はないのですね……」

 「若い頃の私ならば迷うことなく手にかけるが、そういう時代でもない。『必ず喰らいつくす呪詛』と公言した不死者から未だ生き延びている例もある」

 腹を少し見せる。想像を絶する痛みを伴うであろう、おぞましい傷が刻まれていた。全体を見ずともその壮絶さは充分ルビネルに伝わった。
 同時にガーナが言う、人の可能性というものの片鱗も感じたのだった。敵がどんなに強大で恐ろしいものであろうが、それを乗り越えるだけの力を人は秘めている。それをガーナは身をもって示していた。

 「この世界の者を甘く見ているということだ。
君だけの問題ではない。私もサバト相手ならば剣を抜こう」

 ルビネルはこの図書館に初めてきたとき以来、はじめて笑顔を見せた。

 「心強いお言葉、ありがとうございます。ぜひ、お助け願います」

 私はそんな彼女に一抹の不安を抱えつつ、次の禁書を取り出した。




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長田さんにガーナ様を貸して頂きました!さすがカリスマ、風格が違うッ!

ルビネルの手術願い PFCSss2

ルビネルの捜索願い PFCSss

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Self sacrifice after birthday 2


 私は心地よいベッドの上で目覚めた。下着を含め、全ての物が剥ぎ取られていた。種も仕掛けもないパンツとガウン、それが今の私の持ち物の全てだ。ただ、二メートルの身長を持つ自分の体は無事だった。


 「旦那の体、不気味で仕方がなかったですぜ?」

 「観賞用ではないからな」

 私は自分の体を見て自重げに笑う

 「さて、強化手術に必要な物を教えてくださいませんかね?右腎臓の変わりに入っていた閃光爆音菅も丁寧に抜かせて頂やしたぜ?」


 私は右腰のあたりをさすってから、舌打ちをする。


 「わかったもう抵抗はしない。ただ、手術に必要な物品は私の研究室にある。取りに行きたい」

 「じゃあ、ここにある最低限の衣類だけ着てくだせぇ」


 私は布製の服だけ身に付けて、数十人の見張り役と共にエルドラン国のとある墓地へと向かった。私の地下研究所のうち一つは納骨堂に直結しており、墓から入る。

 私は老人の監視している中、墓を暴き、薬品保管庫へと続く、隠し階段を降りた。薬品棚から必要最低限の薬品を入手する。

 私がその後つれられたのは老人が管轄するエリアにある病院だった。一般市民にまぎれ、当然のように受け付けを通り抜けると、霊安室に連れられた。
 そこに幽霊が如くルビネルがたたずんでいた。白いワンピースはこの場所にお似合いだが……。


 「用意はできたの?ドクター」

 「ああ」


 こうなっては、老人に逆らっても無駄なので正直に説明をする。


 「鬼に存在する強化遺伝子を直接移植する。ただ、適正が合うかどうかは移植してみなければわからない。成功率は六割といったところだろう」


 ルビネルは一切の表情を捨て去ったような無表情でぼそりと言った


 「それで、成功すれば私は強くなれるの?」

 「ああ。鬼遺伝子はどれだけの量の遺伝情報を持つかによって、その発現の度合いが変わってくる。もっともたる例が紫電海賊団の忌刃だ。恐ろしい怪力と力の持ち主だろう?あれは鬼遺伝子が強く発現したために、肉体が鬼から見ても異質とも言うべきほど強化された結果だ」


 私は霊安室に横たわるご遺体をちらりと見ると、大きくため息をついた。


 「ただし、肉体強化してから一週間のピークの後、肉体が力に耐えられず自己融解する。つまりお前の言う『敵』と戦い初めてから、一週間以内に私の下へ戻り、再手術をしなければ死ぬ」


 老人は私の肩に手を置くと冷徹にいい放った。


 「じゃあ、旦那の気持ちが変わらないうちに、こちらにサインを」


 私は思わず首を左右に振った。


 「お前に情けはないのか、老人!」

 「そりゃ、……嫌ですよ。胸が痛む。止めたい気持ちもある。将来有望な奴を死ににいかせるなんざ、正気の沙汰じゃねぇ。でも、無理なんですよ。俺たちはお嬢にかけるしかないんです」


 老人は茶色い帽子を深くかぶり直した


 「私の戦う相手は少なくとも生物兵器と同等かそれ以上の存在なの」


 ルビネルは無表情の中に一点の陰りを見せた。どうやら『相手』に対して個人的な因縁があるらしい。


 「ルビネルは奴に呼び掛けて唯一反応を見せた存在なんです。そのとき、ルビネルのペンがほんのちょっぴりだが、奴に怪我をおわせた」


 私は今日何度目かのため息をついた。


 「それだけで、それだけで……ルビネルにかけるのか?」

 「遭遇したとされる俺の部下は全滅していやす。強さに関係なくですぜ?不意打ちされた訳でもない。真っ正面から好条件でうちの精鋭がそいつに挑み、完膚なきまでにやられた」


 苦虫を噛んだような表情をした。よほど悲惨なやられ方をしたらしい。


 「うちらにはもはやどうすることもできやせん。ここまで来ると天災と同レベル、出会ったら最後です。そんな理不尽を許してはおけねぇ」


 ルビネルはせがむように私にすり寄ってきた。


 「お願い。私は止めなければならないの。あれ以上酷いことをさせたくない」


 私はルビネルの両肩を持つと怒鳴った。


 「なぜ、命を投げ捨てようとする!成功率は六割だと言ったはずだ。成功しても死ぬ可能性の方が高いということは充分わかっただろう。何より、完璧に手術が成功したとしても、老人の手におえないような奴に勝てるとは思えん!」

 「無謀だと言うことはわかってる。でも、私はいかなくちゃいけない。これからあの人によって、もっと沢山の人が殺されてしまう」

 「なぜだ!なぜそんなに『あの人』に拘る!」

 「それは……」

 ルビネルは大きく息を吸い込むと、目一杯の声量で私に思いをぶちまけた。
 この場所で、この状況で、ルビネルが愛する人への切実な思いを告白してきた時の衝撃は想像を絶するものだった。
 私は脳天を殴られたかのような強いショックを受けた。石化の魔術を受けたかのように全身が硬直してしまった。
 その言葉に対する返答を私は持っていなかった。

 死んだ恋人の体を手術し、身に纏うという狂気とも言える手術を行った私には、彼女に口出しする権利はもうなかったのだ。
 愛しの人をこの世に再び再現するために、百ではおさまらない人数を殺し、成仏させてきたのは紛れもない私自身だ。
 愛する人のためなら何でも出来る、ということを自分で証明してしまっている。今の彼女を誰にも止めることはできない。


 私はそれでも、数時間にわたって粘ったが、折れることになった。ただ、手術自体を行うのは少し後にするということに決まった。その間、私は老人に命を握られたまま過ごすこととなった。