フールのサブブログ

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ひな祭りの外側 ━ハサマ王編 上━ PFCSss

━━時系列不明━━

 数百人は入れる礼拝堂。その祭壇に座り、もくもくと読書を進める人物がいた。その背後には、高さ十数メートルにもなる巨大な壁画が描かれている。
 壁画に描かれた人物の胸像は、酷く異様なものだった。その人物はげっそりとした顔つきで眼球がなく、眼窩から血が滴っている。髪の毛に見えるものはよくみると血液であり、見るものを不快にする。
 これこそがノア新世界創造教で数千人が信仰する、創造神である。

 祭壇とは反対側の扉から息を切らした白衣姿の男が入ってきた。木製の机の間を通り、祭壇にだどりつくや否や、早口でこう言った。

 「教王様!只今カルマポリス付近をハサマ王が飛行中との情報が入りました。真っ直ぐ我々の研究施設を目指しているとのことです」

 祭壇で本を読んでいた人物がゆっくりと顔を上げる。……あくびを響かせながら。

 「ノア新世界創造教とあの研究施設の関係がばれれば、確実にハサマ王は我々を消しにくるだろう」
 「いかがいたしましょう?」
 「……エアリスを出せ」

 教王クロノクリスは数百万円(日本円に換算)はするペンで研究者をつついた。

 「エアリスですか?!我々の最終兵器ではありませんか!」
 「あの研究施設がばれればどのみちエアリスの存在は明らかとなる。いち早く研究施設を破壊し、我々が関与しているという証拠を隠滅させろ」
 
 慌てていた研究者は、その言葉を聞いてすぐに後ろを向いて走り去っていった。

 「ふう。これで読書を再開できる」


━━



 「確かここらへんだったはずなんだけと」

 ハサマは作り上げた竜巻で自らの体を浮かせ、天空から地上を探索していた。
 アンティノメルからカルマポリス国西に謎の地下研究施設があるという連絡があったのだ。━━捜索に行ったカルマポリス軍の小隊が行方不明という情報も含めて。
 しかし、実際にハサマ王が出向いた先に待ち受けていたのは、ひたすら続く森林地帯だった。

 諦めて地上を探索することにしようか迷った時、彼女は『飛来』してきた。

 「おお!ハサマ殿、こんなに早く出会えるとは思わなかったぞ!」

 見た目はウェディングドレスを着た少女だった。セミロングの銀髪に、アルビノ以上に白い肌を持っている。
 そして何より、ウェディングドレスの背中に彼女の身長より頭ひとつ大きい、黒い三角形の構造物がくっついていた。下からボンベのようなものが左右一つずつついており、そこから勢いよく炎が吐き出されている。

 ハサマ王はそんな異質の存在に全く動ずることなく返事をした。

 「割と会えるよ!君だれ?」
 「えっ……と、エアリスじゃ!」
 
 少女は、無邪気に答えた。しかし、瞳孔のない白い目は全く笑っていない。

 「君、そこを退いてくれないかな?ハサマ、急いでるから」
 「ここにはわらわにとって大切なものを隠しておるのでな」

 突然、彼女の背中の物体からミサイルが二発発射された。ミサイルは森のど真ん中を向かっていった。ハサマ王はその場から全く動かず雷を落とした。
 ミサイルは目的地に着弾する前に空中で飛散した。

 「へぇ、そっちにあるんだ。君の大切な場所。どんな場所なの?」
 「いうなればわらわの実家じゃ。実家にある恥ずかしい本を発見される前に始末する、というのはお主の国でもあるであろう?」

 さも当然、というような顔で少女は言った。ハサマ王は不思議そうな顔で答える。

 「でも、普通は家ごと爆破しないよね?」
 「まあ、具体的には研究データじゃな。わらわは平等が好きで差別が嫌いでの。短絡的じゃが、とりあえず民族差別の蔓延る国を一通り潰そうと思って、戦力増強していたのじゃ。発見されると他の国に対策されてしまうのじゃ」
 「んー、うちの国民にあんまり変なことしないでねー?」

 ドスの効いた笑顔に対して、エアリスもケラケラと笑う。

 「わらわはお主の国に手出しするつもりはないぞ。チュリグは公平な国だからの」
 「鬼は大体の子が怖がってるけど。戦闘以外は」
  「アンティノメルとかキスビットに比べたらそこまで深刻じゃないからの。後回しじゃ」
 「後回しということはそのうち来るんだよね?」

 エアリスは子供がイタズラがばれて、もじもじするような仕草をした。

 「まあ、差別を改善しないならのぉ。それもいたかなしか」
 「それなりに改善してるんだけどねー。中々ね、消えないんだよ」
 「そうか。まあ、以前に比べたら大部マシじゃし、大丈夫かの。因みに邪魔立てするのであれば容赦しないとからな?」



 「え、するけど?」



 ハサマ王はエアリスに対して、当然といった顔で、速攻で言葉を返した。
 それに対してエアリスも全く動じず、

 「やはりそうか。なら、この場でやりあうか?丁度お主の実力も気になっていたところじゃし。今までの戦いでは、お主は全く力を出していないから想像もつかん。わらわの悲願とは別に興味があるのぉ」

 突如、エアリスの腕が液状に変化し、右腕がガトリングガン、左腕がチェーンソーに変形した。
 それに対してハサマ王は「はい、どーん」と微動だにせず、天から雷を三発うちはなった。
 雷はエアリスに直撃したものの、僅かに怯んだだけで彼女は反撃に出た。ガトリングガンを乱射しつつ、チェーンソーを振り上げてハサマ王に突っ込む。

 「粉々になるんじゃッ!」

 ハサマ王は飛行するときと同じ要領で竜巻を発生させ、弾丸を弾き返した。さらにその竜巻をエアリスに向かって飛ばす。
 エアリスの体に弾丸が食い込んだものの、彼女は竜巻もなにも気にせずハサマ王に向かってチェーンソーを振る。いつのまにかガトリングガンであった右手もチェーンソーに変化していた。

 「弾丸が効かぬなら物理でごり押すのみじゃ!」
 「なるほどね。でも雷はね。こんな使い方も出 来るんだよ」

 電撃をまとった手刀がエアリスのチェーンソーとぶつかり合う。両者は打ち合いながらすさまじい速度で天空を舞った。ハサマ王の雷の余波により、森のあっちらこちらに落雷の跡ができる。
 森からバタバタと大量の鳥が飛び出し、ハサマ王らと反対の方向へと逃げていく。
 その間にも二人は半径数キロメートルはある森を飛び回っておる。

 「これではどちらが天か地かわからぬな」

 ハサマ王が地上にいったん着地する。と、同時に小形のクレーターがハサマ王を中心にして広がった。
 続いて上からエアリスがすさまじい速度で切りつける。ハサマ王は両手でチェーンソーを受け止めると、地面はさらに沈下し、クレーターが二重になった。
 ハサマ王はあどけない顔でニヤリと笑い、
 
 「はい、これでおあい子」

 着地する直前に僅かに貯めた雷を放出する。六発もの雷がハサマ王の掌から解放された。
 雷は爆音と共にチェーンソーをぶち破り、エアリスの頭部に直撃した。彼女の頭部は銀色の液体となり、吹き飛んだ。しかし、数秒後にもとの形に復元する。

 「すごいね、丈夫だね。復元までできるんだ」
 「まさか一瞬で体が吹き飛ぶとは。それにしてもウルサイ技じゃのぉ……」