フールのサブブログ

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ひな祭り当日 ーいざ狙撃ナリー PFCSss1

 ドレスタニア上空にて

 「寒いナリー」
 「殺す助、我慢だ」

 グレムはサムライ型の小型アルファを撫でた。そして深夜から早朝にかけて行われたブリーフィングの内容を反復した。

 〈今回の作戦は人質の救出だ。それ以外のことは考えなくていい。敵は無視して構わない。ノア新世界創造教の本堂から人質さえ救出できれば、ドレスタニア、アンティノメル、リーフリィ、ライスランド、カルマポリス連合部隊が制圧する〉

 早朝の冷たい空気がグレムの肌をつつく。片手で手綱を握りつつ、工具のたっぷりはいったコートを体に密着させた。いくらイナゴ豚に加護があろうと、完全に冷気を防げるわけではないらしい。十数匹のイナゴ豚に騎乗する仲間達は皆寒そうにしていた。鬼ならともかく人間にこの寒さは厳しい。
 グランピレパの技師である私は、ダルーイの酒場であのペストマスクの医者に声をかけられた。この作戦に世界の中でも優秀な戦士が集まると聞いて『研究したい!』と参加したが……。

 〈本堂は西塔、東塔、宮殿にわかれており、それぞれ渡り廊下で連結している。西・東塔は大体ドレスタニアの一軒屋が5~6件入る程度の敷地に6階建ての建物となっている。宮殿はドレスタニア王宮程度の大きさだ。宮殿の中央に大礼拝堂があり、廊下を挟んでその回りを小部屋が囲んでいる構造となっている〉

 敵の空に対する警備はカルマポリスのある東側に重点を置いている。通常海路でしか敵が進入してこない、キスビット側の警備は手薄だ。

 〈比較的警備が手薄な西塔、東塔に二チームに分けて上空から侵入する。塔の上部では、警備兵が常に見張っているが、狙撃で眠ってもらう。侵入後は渡り廊下から宮殿内に入る。人質は宮殿内の出入口のある南側、西塔と東塔から一番遠い北側に囚われている〉

 〈以上が作戦だ。何か質問は?〉

 〈誰が狙撃を行うのですか?〉

 〈狙撃はグレムと殺す助が行う。我々に長距離かつ精密射撃が出来るような仲間はお前以外いない。それ以外の遠距離を攻撃出来る者は塔の周囲を巡回する騎竜兵を狙う〉

 遠くに見えた大陸がどんどん近づいてくる。同時に胃がキリキリと軋み、寒いのにも関わらず汗が出てくる。
 
 『まもなくエルドランの首都に到達する。首都圏に入ったら本堂まで数秒で到達する。総員着陸に備えろ!グレムと殺す助は狙撃準備!』

 自らのメスで喉に直接魔法薬を塗り、声を大きくした解剖鬼が言った。
 グレムはカガクと呼ばれる術で作り上げたボウガンを、殺す助の頭にガチリと固定した。殺す助の両目からターゲットの拡大画像が写し出される。
 敵は白い修道服に身を包んでいた。右手にロッドが握られている。
 あとは殺す助の頭の後ろのチョンマゲを引くだけだ。チョンマゲが弓のトリガーになっている。

 「敵、十二時の方向に発見ナリ!」
 
 ボウガンに加護のついた矢をセットする。先端には麻酔薬な塗り込まれており、敵に刺さると眠らせる。ライスランド産の木からとれるゴムが加工されており、敵を傷つけない工夫がされている。
 
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 「左に5度ずらすナリ!」

 左に5度!慎重にボウガンの位置を調整する。手が汗ばんできた。息も洗い。
 でも、これをやり遂げなければ後に続く皆に迷惑をかけてしまう。そう思うと、余計に手の震えがひどくなった。
 
 「落ち着くナリ!グレムが失敗しても、きっと皆笑ってフォローしてくれるナリ!」
 「ははっ、笑われるのはちょっとな」

 フゥー、と息を吐いて心臓の高鳴りを押さえる。そうだ、私には皆がついている。

 『グレム!私がフォローする。失敗したときの作戦も考えてある。失敗していい!とにかく撃つんだ!』

 ペストマスクの声を聞いて、チョンマゲに手をかける。

 「3……」

 全身の力を抜くと同時に、集中力を最高まで高める。

 「2……」

 黙々と何かを作るのが好きだから、

 「1……」

 私は、皆の道を作り出して見せる!

 「殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺す助!!」

 自然に体が動いた。ボウガンから発射された矢は塔の見張りに吸い込まれるように刺さった。
 
 「ヒットナリ!次もこの調子でいくナリ!」

 次々と西・東の屋上の見張りを眠らせていく。途中でワイバーンに乗って空を警備している兵士がいたが、あまりの仕事の早さに、仲間がやられたことに気づいていない。

 『よくやったグレム!邪魔な見張りは消え去った。敵のワイバーンに気づかれないよう、迂回して侵入する!』

 私は役目を果たしたぞ。

 「やったぞ!殺す助!さすが私の子だ!」
 「照れるナリ~」

 殺す助の写し出す映像に他の仲間が移った。イナゴ豚の尻を叩きながら、こちらに手を降っている。

 「パラ、リリス!私たちはやったぞ!」

 声は届いていないし、私の顔は見えていないだろう。でも、今の私には充分だった。

 そして、ここからが本番だ!
 
 「いざ侵入ナリ!」