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フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

ひな祭り ー当日ー 世界を救った勇者 PFCSss8

 ノア教にさらわれていた人質が、アンティノメルのヒーローに保護されていくのを眺めながら、エスヒナとエアリスはノア教付近にあった倉庫に向かった。
 倉庫のなかは各国の軍人がせわしなく動いていた。ノア教制圧のために用意した作戦本部、それがこの倉庫である。
 そのなかでも訊問用の一室で、エアリスとエスヒナは向き合った。

 エアリスがノア教の情報提供と引き換えに要求したのはエスヒナとの面会だった。
 気まずい雰囲気のなか、全く悪びれずエアリスは口を開いた。エアリスはノア教の正装を脱ぎ捨てており、白いドレスを着用している。
 こうしてみると、エアリスは年端も行かない子供にしか見えない。公園で走り回っていてもなんの違和感もないだろう、とあたしは思った。





 「エスヒナ、お主チュリグの出身じゃよな?」

 「ん?いや、キスビットだけど?」

 「人違いか」


 あたしは世間話かな、と考えた。エアリスは捕らえられていた人にもごくごく普通に接していたし、できる限り恐怖心を植え付けないように努力もしていた。


 「わらわはこの教団の力を利用して、世界の種族差別をなくそうと活動していたんじゃ」

 「え、あんた何やろうとしてたの!?」


 そして、驚愕する。


 「具体的にはこの教団を操り、エルドラン国を占領して、『お主らの国もこうなりたくなかったら種族差別を早急に止めさせろ』と声明を出そうとしていたんじゃ」


 まるで明日の朝御飯を語るかのような表情で、何を言っているんだ!あたしは慌てて反論した。


 「でもあんた、例えそれで種族差別が一時的に消えたとするよ?でも、種族の根底には種族のあり方や考え方の違いが原因になっているんだ。お互いがそれを理解しようと歩み寄らない限り、何度だって差別は起こる」

「情が差別をなくすのか?情けで差別を消せるのか?ふざけるな!!そんなことで差別が消えるのならば、わらわはもとより存在せぬわ!恐怖で押さえつければよかろう」


 ドンッとエアリスが机を叩いた。エアリスの白い手から、銀色の液体が飛び散る。しばらくして、ひとりでに飛び散った液体がエアリスの手に向かって集まり、同化した。


 「恐怖なんて所詮一時的なものだよ。慣れてしまえばどうってことない。それに順応して乗り越える力を人は持っているんだ」

 「グッ……」


 緊迫した雰囲気が部屋を支配していた。あたしは直感的にこのやり取りが世界の命運を握っている、ということを感じ取った。
 まずは相手……エアリスを知らなければ。エアリスがなぜそんな極端な思想になってしまったのか。そして何を望んでいるのかわからないと、話しようもない。


 「そもそも、あんた、どこの出身で何者なんだ?」
 「……クロノクリスは従順で強い力を持つ手下を欲していた。そこで目をつけたのが人種差別によって死んでいった子供たちじゃ。子供は純粋で何色にも染まる。その上差別が憎い、という点で強い思念でこの世にとどまり続けておる。そこで、クロノクリスは数えきれぬほどの子供の魂を、反人種差別という思想によって束ね、それをあらかじめ用意した肉体に召喚した。そうして目覚めたのがわらわじゃ」


 唖然としてしまった。あんまりにもあんまりな生い立ちじゃないか。
 エアリスの表情も相まって、とても心苦しい気分になる。


 「じゃあ、単純に考えてもバカみたいな量の魂を小さな体に宿しているわけか」

 「そう。そして、魂の量が多ければそれだけ妖怪の呪詛の力や精霊の信仰の力も強くなる。わらわは普通の人からすれば考えられないほどの力を得たのじゃ」

 「その力を使って世界から差別をなくそうとしていた、と」


 エアリスはピンクの唇を噛みしめて、押し黙った。銀の髪の毛は細かく震えていた。
 そして、宿敵を語るときのように鬼のような形相で矢継ぎ早に語った。


 「……エルドラン国では種族統合の時、妖怪の乗る乗り物は反対派の者たちに強襲された。こどもの親は妖怪なぞ学舎にふさわしくないとデモを起こした。そして学舎では妖怪の子を模した人形を吊し上げにして、数十人で暴行した。外食しようにも、妖怪とそれ以外では区別された。差別反対を掲げるものはたとえ、同胞であろうとぼこぼこに殴られた。お主にも心当たりがあるじゃろう。これが差別の現実じゃよ。わらわは、わらわは差別をする奴等が憎い!叩き潰したいのじゃ!」


 当然エアリスの魂にはエルドランで差別された子供の魂も、チュリグで差別された子供の魂も入り交じっていはず。だから、エアリスは各国の種族差別をさも自分が受けたかのように語るんだろう。
 そんなエアリスにたいして、あたしは無念の思いがこもった声を口から発した。


 「あたしの親友にね、キスビットのジネという都市の生まれの子が居てさ」


 一息ついてエスヒナは続ける。


 「ジネでは鬼以外の種族は生まれたときから卑下される。子供は最初から夢や希望なんかない。生きていくために必要な知識や教養、技術、社会性、そういったことも知らないまま育つんだ。当然そんな状態じゃ仕事につけない。そもそも、奇跡的に技術や教養を持っていても『鬼じゃない』、たったそれだけで社会から廃絶される。生き残るために残された道は麻薬か恐喝か闇市か……犯罪が収入源なんだ。こんな状態で、差別を止めろと脅しても、逆効果だ」


 脳裏に焼き付いたいまいましい記憶が、鮮明に思い起こされた。心が張り裂けそうになる。
 そんなあたしの話をエアリスは親身になって聞いてくれた。


 「そなたは、ジネを……キスビットという国をそんな国にしてしまった奴等が憎くないのか?」

 「憎い。けど……、いつまでもいがみあっていたら、お互いなんにもわからないだろ?まずは一歩、歩み寄ることが差別解決には必要なんだと思う。エウス村長のように……」

 「そうか……」


 エアリスはもう、反論する気がないようだった。肩を落として、自分の手を見つめている。


 「あたしの夢はキスビットがかつて種族を差別していた鬼と、差別される側だった三つの種族の子供が、一つ屋根の下で暮らしてさ、一緒に笑いあっているような国になってほしい。種族ではなく人格で人を評価するような、そんな国になってほしい。そのためには、力で押さえつけてもダメなんだ。じっくりと辛抱強く話し合っていかなくちゃいけない」


 下を向いたままエアリスはポツリと呟いた。


 「……どうやらわらわが間違っていたらしい。すまんな。エスヒナ」

 「なんであんたが謝るんだ?」

 「間違っているとわかっていて意地をはってしもうたからのぉ。今回人質を救出しにきた者たちを見て思ったんじゃ。あやつらには種族なぞ関係ない、とな」


 彼女が顔をあげた。優しく微笑む彼女の頬に、涙が伝っていった。


 「あたしらだってはじめは差別する奴等を憎んでいたさ。でも、エウス村長の『お互いを知る』って言葉を聞いたとき、救われたんだ。今のだって殆んどエウス村長からの受けおりだよ。それを勝手に自分で解釈して、あんたに話しただけ」


 あたしはエアリスに、ニッと笑いかけると、彼女の肩を撫でた。


 「十分じゃよ。お主、見かけによらず大人じゃのぉ」

 「『見かけによらず』、は余計だ!」

 「ハハハハハ」
 「アハハハハ」

 二人でひとしきり笑いあった後、エアリスが言った。


 「ありがとうな、エスヒナ。わらわはこれから後始末をしにいく。自分で始めたことじゃ、自分で終わらせなければのぉ」
 「あたしはここに残るよ。行ってもきっと足手まといだろうからね」
 「そうか、なら……これを持っておけ。何かの役にたつかもしれん」


 エアリスの手から金属製の箱がみるみるうちに浮き上がってきた。世にも奇妙な光景に目が釘付けになる。


 「あんたの能力、すごいな」
 

 あたしは手渡された箱をまじまじと見た。銀色で掌サイズの正方形だった。箱の上に瞳の模様が描いてある以外、蓋も何も見当たらない。継ぎ目ひとつ無い完全な正方形だった。


 「これ、どうやって開けるんだ?」
 「秘密じゃ。少なくともそなた以外には開けられん」


 そう言ってエアリスは席をたった。あたしもポケットに箱をしまってから、ワンテンポ遅れて立つ。
 

 「バトー。終わったよ。エアリスは信頼出切る。あたしが保証するよ」