集結の園へ 寄り道
⬆坂津さんの小説の外伝的立ち位置となります。これを読まなくても楽しめるように書いてはいますが、読むとより理解が深まるかと思います。
登場人物
・ルビネル
カルマポリス出身のアルビダ(妖怪)。学生で呪詛と呼ばれる力の研究をしている。ボールペンを操る力を持つ。
・アウレイス
キスビット出身のアルビダ。美しい銀色の髪の毛と白い肌、紅の瞳を持つ。人見知りが激しいらしい。
・エウス村長
アウレイスの住む村の村長。船の一室を貸してくれたナイスガイ。今回は名前だけ。
なんの因果か、エウス村長が用意した船に乗せてもらったルビネル。旅の疲れもあって、エウス村長の村に住むアウレイスに相談して、個室を貸してもらい骨休めをしていた。
「無理いっちゃってごめんなさいね。個室で二人、だなんて……」
ルビネルはベッドに腰かけると目の前の少女に話しかけた。強い意志が感じ取れる赤い目。その中心を彩るルビーのような深紅色の瞳。
「いえ、お役にたてて光栄です……」
裾の長いシンプルな衣。
ルビネルと同じく透き通るような白い肌。
新品の銀食器を彷彿とさせる銀色の髪の毛。末端が漆のように黒く変色しており、それがさらに銀をきらびやかに魅せる。黒髪であるルビネルからしてみれば夢のまた夢だった。黒をここまで美しい銀色に染めるような整髪料はこの世に存在しない。
そして、……褐色に染まった肩口。
「改めて自己紹介をするね。私の名前はルビネル。ただの学生よ?あなたは?」
「キスビットのジネのアウレイスです。よろしくお願い……」
ルビネルはもじもじと自己紹介をするアウレイスの首に手を回して、一気に引き寄せる。アウレイスが中腰になり、ルビネルの体と密着する。
ふぅ……ん。いい胸ね……。
「ひっ!?」
突然の出来事に動揺するアウレイスの様子をほほえましく見つつ、髪の毛の香りを堪能する。そして、アウレイスの耳元にゆっくりと囁く。
「アウレイス、人見知りなのはわかるけど……二人きりの時は敬語を使わないで。ため口でいいのよ?」
肩に手を置いてから、そおっと押して、体から離してあげる。向き合ったらアウレイスの絹のように白い顔は赤面して今にも湯気が出そうだった。
肩から手を話さずに、にこりと微笑む。
「わっ……わかりまし……わかったわ。これでいいのよね……?」
ルビネルはそおっとアウレイスの肩を撫でる。アウレイスは左肩を気にして顔を背けた。
「あなたは魅力的なんだからもっと自信を持ったほうがいいわよ、アウレイス?」
「出来ないの……私はルビネルみたいに、きれいじゃないから……」
アウレイスは左肩からルビネルの手を払い除けようとした。しかし、ルビネルはそれに抗い、肩をなで続ける。
「私は過去に左肩から左胸、左脇腹付近までを噛み千切られてしまったの。その時生死をさまよったんだけど、友達が身を犠牲にして救ってくれた。彼は死にはしなかったけれど、代わりに赤ちゃんまで体から記憶まで全て若返ってしまって……」
アウレイスはうつむいて固く口を閉ざした。自責と自己嫌悪に陥り、どうしようもないのだろう。価値のない自分のために、他人の生きた時間を奪ってしまった。彼女が感じている責任の重さは計り知れない。
ルビネルはそんな彼女を見て、心底美しいと思った。他人のためにここまで真剣に思いやれる人間などそういないから。
そして、人を深く思いやれる女性は他人を強く惹き付ける。人をよく見て、気遣うことや、誉めることが出来る。
唯一彼女に足りない自信を持たせてあげれば、すごく魅力的な女性になるはずだ、とルビネルは考えた。
「なら、尚更自信を持つべきよ。あなたの浅黒い肌はそのまま、彼の行いの勲章。彼にとってあなたはそれだけの価値があったのよ。自分の価値観だけで、自分を判断するのはよくないわ。素直に、彼の思いを受け止めてあげたら?」
アウレイスの両ほほにそっと手をそえて、彼女の顔を上げさせた。ルビネルはひまわりのような屈託のない笑みをアウレイスに捧げる。
「そっか、私が自分の価値を貶めることは、彼の決死の思いを否定することになるのね……。わかったわ。私、がんばってみる!ありがとう、ルビネル!」
パアッとアウレイスの顔が明るくなった。
「フフフッ!今の笑顔が一番よく似合っているわ」
本当にアウレイスの笑顔はかわいい。ずっと見ていたいなぁ。でも、この子を素直に笑わせるのはなかなか難しそうね……。
「あっ、そうだ!今度この旅が終わったら、カルマポリスに遊びに来ない?ファッション店とか、ブランド店とかも楽しいけど、なんといっても遊園地がすごいのよ!」
「遊園地?」
アウレイスが頭にはてなマークを浮かべた。
そんな彼女に対して、ルビネルはメモ帳を取りだし白紙のページを開いた。ルビネルの力によってボールペンが独りでに、遊園地の遊具を描いていく。
「そう!遊園地に一歩足を踏み入れると、見渡す限り遊び場とか遊具で埋め尽くされてるの。例えば、観覧車って言って、ゴンドラに入って数十メートルの高さまでゆっくりと登っていって遠くの景色まで見渡せるの。すっごく綺麗なのよ!」
「そんなものがあるの?!」
図示された観覧車を指差しながらルビネルはアウレイスに微笑む。
一方アウレイスはそんなものがこの世に存在するのかと驚きつつ、前のめりになってルビネルの話を聞いていた。
「すんごいスピードで動く列車に乗って登ったり下ったりしてスリル満天なジェットコースターとか……」
「これは!」
「これはコーヒーカップって言ってね……」
ルビネルはアウレイスの質問に、とても丁寧に答えていった。途中で談笑を挟みつつアウレイスと話す時間は、ルビネルにとって、とても楽しい一時だった。
とうとう話題が尽きると、アウレイスはルビネルの手を取った。
「絶対に連れていってね!遊園地!」
「ええ。約束するわ。引きずり出してでもあなたを迎えに行くから!」
エウス村長への手紙を書き終えると、意気揚々と二人は部屋を後にした。