ルビネルとセレアの死闘願い PFCSss9
ルビネルの捜索願い PFCSss
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/28/091650
ルビネルの手術願い PFCSss2
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/31/172102
ルビネルの協力願い PFCSss3
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/01/083325
ルビネルへの成功願い PFCSss4
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/02/153244
ルビネルの豪遊願い PFCSss5
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/03/075127
ルビネルの修行願い PFCSss6
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/04/224102
ルビネルの施行願い PFCSss7
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/07/175035
ルビネルの決闘願い PFCSss8
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/14/220451
⬆こちらのssの続きになります。
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Self sacrifice after birthday 9
私と老人そしてガーナはそれぞれワイバーンにまたがり、固唾を飲んで向かい合う二人を見守っている。
全員の視線の先には二人の少女。片や黒髪に黒コート。片や銀髪に白いワンピースに、ランドセル型の飛行ユニットが目をひく。
老人はカルマポリス呪詛式通信機を取り出した。私たちもそれに倣う。老人のつれてきた部下たちによって、二人の様子が脳内に直接送られてきた。視界内の物体を正確に追える妖怪と、その妖怪の視界を周囲の人間に共有する精霊の加護だ。
「二人とも、出来れば俺たちの視界の範囲で戦って下せぇ」
二人は頷くとそれぞれ臨戦態勢に入る。セレアの右腕が銀色の液体と化し、全く別の形に変形していく。最終的にセレアの右腕はガトリングガンに変形した。銃口から無数の弾丸が射出される。
実は、セレアの体は液体金属で出来ている。全身のうち三ヶ所を自在に変形出来るのだ。今のところ判明している変形出来る部位は、肩から先と太ももから先、そして背中だ。
ばらまかれる銃弾に対して、ルビネルは縦横無尽に空中を動き回り避け続ける。追撃に撃たれた二発のミサイルもペンで易々と迎撃した。
「手術前に比べて動きが明らかに良くなっている。動体視力や判断力もかなり上がっているようだ。しかも肉体が鬼と化しているお陰で呪詛も無理がきくらしいな」
冷静に分析するガーナの声が無線機から聞こえた。
ルビネルはさらにエアリスに接近すると、ボールペンを乱射する。セレアは避けようとするも、ボールペンの追尾能力が高くなかなかふりきれない。
「ほぉ、少しはやるようじゃの?」
セレアの背中の飛行ユニットが瞬時に巨大化した。セレアを優々と隠す程の大きさだ。三角形の飛行ユニットは、足元にバーナーを装着した黒い凧のように見える。
「あれは何ですかい?」
「セレアが高速飛行するときの形態だ。速度は速いが減速しにくいのと、曲がりにくいのが欠点だ。また、高速飛行中にダメージを受けると停止せざるを得ないという弱点もある。液体ではあるが金属だ。過冷却されると凍ってしまう」
ふむ、というガーナ王の声が割り込んできた。
「随分と詳しいのだな」
「半殺しにされたから研究した。本人と一緒にな」
セレアは体をのびーっとして、日向で横になっている猫のような姿勢になった。万歳をして顔を上に向けている。飛行ユニットが猛烈な業火を吹き出したかと思うと、セレアは私の視界から消えた。いつのまにか、飛行するルビネルの後ろをとり、ガトリングガンを連射している。
ルビネルはジェットコースターが如くシャトルループを決めてセレアの背後を取りに行く。負けじとセレアもルビネルの背後を狙い続け、両者きりもみしながら空中を高速移動する。だんだんとセレアとルビネルの距離が縮まり、ルビネルが追い詰められていく。
「まるで鳥獣の戦いですぜ。人型の妖怪がする戦い方じゃねぇ」
「ペンだけでよくぞここまで出来るものだ」
「片手だけしか使ってないな……。セレアは背中の飛行ユニット含め、全身のうち三部位を変形出来るはずだ」
とうとうセレアとルビネル、追うものと追われるものの関係が逆転した。急旋回でセレアの背後をとったルビネルは、無防備なセレアの背中にボールペンを投げ込んだ。
セレアは飛行形態を解くと、ガトリングガンを剣に変え、ボールペンを叩き落とす。
呪詛により、強度が増したボールペンは簡単には壊れない。弾かれたボールペンは完全に破壊されるまで、まるで磁石に引きつく金属のようにセレアに食らいついていく。
「右腕だけでペンの嵐を防ぐとは」
ガーナ王の言葉に私は頷く。実際にはガーナは他のワイバーンに乗っているので、彼から私は見えていないが。
「当然だ。セレアは片腕だけでソラやライスランドの先生、クライド、バトーの二刀流……他にも様々な達人たちとわたり合っている」
ボールペンだけでは埒があかないと考えたのか、とうとうルビネル本体がセレアに突撃した。セレアの頭上から回転しながら強烈な裏拳を叩き込む。
さすがのセレアも左手を使わざるを得なかった。肘を曲げて、ルビネルの裏拳を受け流した。ルビネルは攻撃の手を緩めず、受け流された反動を利用して、後ろ蹴り、回し蹴り、横蹴り、と流れるようにラッシュをかける。
必殺の一撃はコンクリートすら砕くとされる鬼の筋力。そして、それをマッスルスーツのように補助する全身に隠されたペン。
蹴る瞬間には足に仕込んだペンを操作し、蹴る向きに動かすことで攻撃の速度を加速させている。運動量は速さの二乗に比例するから、加速による影響は手数だけでなく、打撃の威力にも貢献している。クォルの大剣を受け止めるセレアの剣でも防ぐのは容易ではないはずだ。
「鬼の再生能力で呪詛の肉体への負担を無視出来るし、逆にペンを操る呪詛で打撃を強化できる。予定通りですぜ」
異なる二種族の力を同時に、それも高出力で、扱えるものなどこの世には殆ど存在しない。単純な戦闘力だけで言えば、かなり上位の存在になったはずだ。もっとも、その代償が大きすぎて釣り合っていないが。
「セレアの方もルビネルの動きを読み、力を受け流し最低限の労力で攻撃を防いでいるな。お前の戦況報告によれば、セレアは回復力にものを言わせて防御などせずに相手を叩きのめすとのことだったが……」
「数々の強敵と戦ったことで学習している。前と動きが同じなわけがない」
じりじりとセレアが押されていく。両手をフル活用してボールペンと拳を受けつつ、剣撃をくりだしているようだが、このラッシュはセレアにも厳しいらしい。前半とは売ってかわってルビネルのペースだ。
「ふむ。打撃の強さは鬼の中でもトップクラス。じゃが付け焼き刃の格闘技術に加えて、近接戦闘そのものの経験が浅いから生身で言えば、ソラや紫電といったプロには一歩及ばない。呪詛は汎用性が高い上にそれなりに強力じゃが、EATERやハサマといった規格外の強さではない。二種族の力を合わせて、ようやく強者に勝てるか程度の実力じゃ」
不穏な通信が入った後、セレアは両腕を採掘機についているドリルのような形に変形させ、ダメージ覚悟で突進した。なんとか避けたものの、突然の出来事にルビネルは一瞬無防備になった。その隙をつき、セレアは腕をさらにヒモのように変形させルビネルの体に巻き付ける。
そのまま、高速飛行しつつ前方から後方に向けて暴風の呪詛を発動。向かい風にルビネルを叩きつける。かまいたちがルビネルの背中を切り裂いていく。
そして止めと言わんばかりに、スクリュードライバーの流れに持ち込んだ。海面にルビネルが打ち付けられる。あの早さでは地面に叩きつけられるのと同じだ。普通の妖怪ならまず生きてはいないだろうが……
「……お主はよく頑張った。武芸者でもない、一般人であるお主が短期間で人としての限界を越えた。素晴らしいと思う。じゃがな、もうわかったじゃろう?お主がこの期間でいくら努力しようと一線を越えることは出来んのじゃ。あと二年、恵まれた師に従事すればよかったものを……」
「本当にそうかしら?」
海から水柱が建った。その頂上から人影が一直線にセレアヘ向かっていく。
ルビネルは拳を腰まで引いている。ためをつくり、必殺の一撃をセレアヘ食らわせるつもりだ。
突如として浮上したルビネルにセレアは少し驚いている様子だ。両腕を交差して防御の構えに移る。
ルビネルの拳はセレアのガードに阻まれてしまった。
「おしかったのぉ、ルビネル」
「いいえ?」
ルビネルの拳がセレアのガードをぶち抜き胸部を打った。その瞬間、無数のペンがセレアに突き刺さる。
腕を失いガードの出来ないセレアに対して、拳とペンの連打が襲いかかる。セレアの肉体がボロ雑巾のようにほつれて、原形を失っていく。
「及第点……じゃな」
ルビネルがラッシュを止めたときには、セレアは宙に浮かぶ銀色の水滴と化していた。
「ほう、あれをくらってまだ戦えるんですかい?」
老人の疑問にガーナ王の丁寧な解説が付け加えられた。
「鬼に伝わる技術であるパンプアップだ。全身の筋肉に血流を送り込むことで、一時的に筋肉を膨大させる技術。それによって衝撃への耐性が増加する。さらに背中に仕込んだペンを操作することで、海面に直撃する寸前で速度を弱めた上、受け身をとった。咄嗟にしてはなかなかの判断力だ」
ガーナ王の言葉に少しだけ安心した気がした。これなら、ルビネルは敵を倒して帰って来るかもしれない。
「相変わらずえげつない汎用性ですね。ボールペンの呪詛。まあ、セレアがどっからどう見ても本気を出していなかったのが気になりやすが、まあいいでしょう。俺は自信をもって彼女を推しますぜ」
老人も満足げに笑った。彼らの様子を見て、私はようやく覚悟を決めた。
「ルビネル、今の気分はどうだ?」
「……落ち着いてる。全ての感覚が研ぎ清まされて、全身が闘いに対して、適応しているような気がする。初めての感覚だわ。もう、体の動かしかたや特性も理解した。次はこんな無様な闘い方はしない」
「そうか……。お前たちがそう言うのなら……私も腹をくくってルビネルを送り出すことにしよう」