決戦兵器エアライシス
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セレアの朝食
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セレアと後輩兵器
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起動_エアライシス
⬆の続きです
登場人物
・エアリス
機械少女。液体金属の肉体を持つのじゃ。
・ガーナ
ドレスタニア元国王。鋭い観察眼と感情に左右されない決断力を持つ。あまりにも深い教養のために最近、解説王の異名を得た。弟がセレアの友達。
・タニカワ教授
カルマポリスにあるとある学校の教授。呪詛について詳しいためガーナ元国王に呼ばれた。セレアと知り合い。
・エアライシス
カルマポリスの兵器。運用法が見つからなかっただけで、戦闘力そのものは非常に高い。多種多様な呪詛(魔法)を扱う。
━━━
ヒルルルル、という何かが空から降ってくる音と、ドォォォンという爆発音がけたたましい重奏を奏でている。
倉庫内の至るところで突然無数の爆発が巻き起こっている。一回爆発するごとに床が吹き飛び、地面がめくれ、天井付近まで廃材が舞う。私はワイバーンの上でただただその様子を震えながら見ている。
天を見上げるとそこに天井はなく、『夜空』が広がっていた。夜空に光の点が現れたかと思うと数秒後に、倉庫のどこかで車一台余裕で入りそうな大きさの半球状の爆発を引き起こし床にクレーターを残す。
騒音の中、ワイバーンの後方に乗っているガーナ元国王が声を張り上げた。
「何が起こっている、タニカワ教授」
「……流星です。膨大な呪詛を用いて架空の夜空を作り出し、流星群を召喚したのでしょう。それよりも、セレアの姿が!」
絶え間ない流星の雨。その爆心地にいるはずのセレアの姿が見えない。私はセミロングの銀髪をはためかせ、白いワンピースを着こなす少女の姿を必死に探した。
隕石の雨が倉庫の中を埋めつくし、そこら中の床をクレーターの色に染め上げたころ、ようやく攻撃が止んだ。幻想の夜空はまるで霧のようにかききえてしまった。
「せっ……セレアァ!!」
セレアは四肢を切断され心臓から下が欠けた、いわばトルソーのような状態で宙に浮いていた。私が茫然として彼女を見ていると、銀色の液体がセレアにまとわりつき、腕や足がみるみるうちに生えていく。呆然としている私をよそにガーナ元国王が落ち着いた声で言った。
「セレアの肉体は液体金属で出来ており、単一の攻撃ならいくら食らおうが再生出来る」
なんという回復力。ガーナがセレアに信頼を置くのも納得できる。あの天災とも見分けのつかない壮絶な攻撃を受けたのにも関わらず、平然としている彼女の姿に兵器としての恐ろしさを垣間見た。
「さて、わらわのターンじゃ」
エアライシスからガガガガガッ、と金属がぶつかり合う音が聞こえ、数枚の歯車が床に転がる。よく見るとセレアの腕がガトリングガンに変形し発砲しているのがわかった。
銃弾の雨あられを受けるエアライシス。だが、攻撃なぞ全く眼中にない、といった風に口を開いた。やせ我慢が得意らしい。
「ほう、翼もないのに空を飛ぶか」
「お主、翼があるのに空を飛ばないのか?」
左右の翼と角の部分に黄緑の魔方陣が描かれ、そして消えた。
ワンテンポ遅れてエアライシスの体を透過性の高い膜が覆い、次に濁った赤色いに変化し消える。最後に角の魔方陣が光るとエアライシスの輪郭が薄緑に光った。
「なっ、バリアじゃと?! 弾がはじかれて……」
セレアが言い終える前にエアライシスの角と翼に再び現れた魔方陣が現れた。それを見たセレアは急発進。その直後、セレアのいた場所に像をまるごと一頭焼けそうなほどの火柱が立っていた。
さらにセレアの目の前から突如雷撃が襲いかかった。真っ正面から被弾する。両腕を盾に変形させガードしたものの動きが鈍った。最後にセレアを中心に場違いな猛吹雪が倉庫の中を吹き荒れた。
眼前で巻き起こる自然現象の数々に、私は情けない声をあげることしか出来ない。
「セレアの体は常温で気体の金属を呪詛で操作して液体や固体に変えて維持している。例えると、本来気体である空気を無理矢理呪詛で凍らせて固体にしているようなものだ。だから温度変化にセレアは非常に弱い」
「それでは、加温と冷却を繰り返したらそのうち彼女は……」
「逆にそれさえ避ければ、彼女はほぼ無敵だ」
セレアはなんとか吹雪を避けようと後方に逃げるも、少し後退した所でいきなり墜落する。
さらに地面が突如裂けてその割れ目の中に引きずり込まれた。セレアの体が地面の奥へとズブズブと沈む。
天井付近に小さい何かが見えたかと思うと、落下している短い時間のなかで瞬時に成長して、根が槍のように変形した見事な巨木が出来上がった。
「セレアの後方に超重力の魔方陣を仕掛けてからの地割れ、そして木の槍……三種の呪詛を連続で発動している!」
直撃した樹木は腹を引き裂き地面にめり込ませながら深々と突き刺さった。
驚き続ける私に対して、超冷静にガーナ王が戦闘を目視している。
「なるほど。息もつかせぬ呪詛式の魔法の連発、それが奴の戦いか。逃げるぞ、タニカワ教授。先程の流星で倉庫の壁に穴が空いている」
「……しかしセレアは!」
「彼女は自らの命を無駄にするような愚か者ではない」
私が手綱を強くひくと、ワイバーンは倉庫の壁に開いた穴を正確に潜り抜ける。薄暗い空間に黒いビルのような建物の群れ。先程の巨大空間に戻ってきていた。
一息ついて私がちょうど後ろを振り向いたとき、穴から炎色のエネルギーの放流が吹き出してきた。続けて倉庫が二三回フラッシュする。
「私は、夢でも見ているのか」
そう呟いたとき、この部屋を区切っていたはずの壁がまるまる吹き飛んだ。壁であった断片は黒い建造物に突き刺さったり、床を板チョコレートかなにかのようにかち割ったり、私たちの頭上を通り抜けて冷や汗をかかせたりした。
壁がなくなり、ここからでも倉庫の中の様子を容易に見ることが出来る。黒い洞窟とでも言えばいいのだろうか。もはや原型は完全になくなっていた。
その中に私が見つけたのが、全てが消え去った闇の中で何事もなかったかのようにたたずむ狼のような巨大生物……
「ガルルルゥゥゥ!!」
「超至近距離からの攻撃ならバリアも無意味じゃなぁ!」
……に、斬りかかるセレアの姿だった。