フールのサブブログ

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夢見る機械 液体金属式妖怪型多目的防衛兵器 ss7

 量産型エアリス。太古にカルマポリスの内戦に運用された、液体金属式妖怪型多目的防衛兵器である。液体金属のために頭部・左右碗部・左右脚部・背部のうち三ヶ所の簡易的な変形機能に加えて、液体金属で作られている自己修復装置が搭載されており、物理的な破壊はほぼ不可能。その上、銀の泉と呼ばれる制御機構さえ工場に作ってしまえば、低コストで量産可能という悪夢の兵器だった。
 弱点は一機起動するだけでカルマポリスの消費エネルギーの約十分の一に相当するエネルギーを消費し続けること。ワースシンボルが呪詛に犯されている今、三機以上を起動する余裕はない。
 また、物質の状態変化を利用して肉体を制御しているため、過冷却や過熱に弱い。


 「右に避けろ!」


 セレアはタニカワ教授の言葉を聞いて反射的に避けた。セレアの右耳にけたたましい破裂音が聞こえた。遅れて体の右半分だけ異様に冷たくなった。
 視界が回復したセレアの目に飛び込んだのは四本の剣。
 反射的にセレアは飛行ユニットをふかし距離を取ろうとする。目の前のエアリス二機に気をとられていると、今度は前から飛んできた白いなにかが脇腹を掠めた。瞬時に脇腹が凍結して肝を冷やす。
 冷凍弾による妨害のため、引き離せないどころか徐々に距離を詰められている。
 セレアは突如、全関節を180度回転させてすれ違い様に一閃する。一機目の上半身と下半身が分離。銃声と共にウェディングドレスが細切れになった。これで再生までの数十秒は持つはずだ、とセレアは判断する。
 続けて体操選手のようなバック転と、盾に変形させた両腕で、氷の柱を掻い潜っていく。
 戦闘経験の差でなんとか持ちこたえているものの、あと数十秒後には破壊されるのが目に見えていた。


 「タニカワ教授、なにか良案はあるか?」

 「動きを止めて君がエアリスに触れれば、ハッキングができるはずなんだが......」


 氷の柱を壁蹴りして、常にエアリスに対して影になるように動く。それでも、セレアの手足は徐々に氷付けになり機能を失っていく。
 だが、諦めるわけにはいかない。ここで終わってしまったらみんなやタニカワ教授と会えない。そんなのは御免だ。
 セレアは苦し紛れにガトリングガンを構える。
 すると、願いが通じたかのように勝手に弾を発射した。氷の柱とステンドグラスの間で弾が跳ね返り、反対側にいたエアリスの脳天をぶち抜いた。目が再生する前に接近して、剣で切り裂いた。


 「タニカワ、アシストさんきゅう!」

 「どういたしまして。油断するなよ」


 地面に転がっていた再生中のエアリスをガトリングガンで黙らせてから、次の三機目のエアリス討伐に向かう。ここまでくれば圧倒的に戦闘経験が豊富であるセレアの独壇場だった。AIを熟知しているセレアは敵の斬撃・銃撃・打撃をすべて先読みして封殺。
 最後にセレアは敵の隙を見てタックルした。そのまま飛行ユニットの出力を最大にして、床に叩きつける。エアリスの肉体を構成する金属が削れ、崩れ、追撃のカマイタチの呪詛によって細切れになった。
 最後にセレアはボロボロにちぎれた雑巾のようになったエアリスの頭部に手を当て、ハッキングを開始する。


 「10……9……8……」

 「タニカワ! まだか!」


 視界の奥の方で、エアリスが胴体まで再生している。


 「あと6秒!」

 「他の二機が再生するぞ!?」


 左右の腕が可動した。


 「あと3……2……」


 頭が出来上がり、瞳がギラリと光る。


 「タニカワァ!」

 「1!!」


 気づいたときにはセレアの目の前でエアリスが銃口を向けていた。脇のしたに、二機目のエアリスの腕が滑り込み羽交い締めにされる。
 もうダメかと思ったとき、いきなり眼前のエアリスが凍った。続いて後ろにいたエアリスの腕が急に緩んだ。するりと脇から腕が離れ、後ろで大きなものが砕ける音がした。


 「ハッキング完了。危なかった……」

 「すまぬ、一瞬お主を疑ってしもうた」

 「いいんだ。ここまで追い詰められたのは私のサポートが不十分だったからだ。申し訳ない」

 「いや、結果的に助かったんじゃ。気にするな。タニカワ」


 ふと、気を抜いた瞬間だった。突如として、ハッキングしたエアリスがガクンと揺れたのだ。はっとしてセレアは空に飛んだ。が、間に合わなかった。


 「じば......」


 白い閃光は一瞬にしてセレアを飲み込んだ。なおも恐ろしい速度で膨張する。触れたステンドグラスを一瞬にして割り、まばたきする間もなくカーペットを灰にし、大理石を赤く溶かし、天井を崩落させていく。秒速数百メートルで進む爆発は協会の入り口に到達。チョコレートを割るかのように入り口のあった壁を吹き飛ばした。
 アンドロイドの残骸が転がる部屋をひとしきり火の粉まみれにして、ようやく炎の行進が止まった。非常用のスプリンクラーが作動するも焼け石に水状態である。
 コンピューター越しに発せられる、タニカワ教授の悲痛な叫びがセレアに届くことはなかった