フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

夢見る機械 友情 ss10

 川辺に腰かけて、深呼吸した。川はきれいで水底まで見える。藻がゆらゆらしている他、銀色の小魚が泳いでいるが名前はわからない。水の流れる音は限りなく静かで、ひとつ難点をあげるとすればホームレスの生活音だろうか。


 「まさか、こんなところでスミレに会うとはのぉ。お主本物か?」

 「この前の授業でセレアがタニカワ教授の教科書を借りて、顔を赤くして戻ってきたことを知っている程度には本物」

 「はっっっずかしい例え持ってきたのぉ! まあ、こういう毒がある言動からしてそなたじゃな」


 スミレはとなりで、緩慢な動作でカニを指差して口をぽっかり開けた。姿勢がいいだけに余計シュールだ。わらわはこのカニの名前をしらない。が、タニカワがいたらきっと解説してくれるに違いない。


 「お主はどうやってここに来たのじゃ?」


 わらわの問いに、教室で無駄話するときと同じノリでスミレが答えた。


 「いつのまにか」

 「そうか。ここはいいのぉ。カルマポリスと違ってみんなのびのび生きている。時そのものがゆっくりと流れているようじゃ。公園に行けば子供が遊んでいるし、山に行けば動物もいる。下手に開拓してないお陰で自然のままの場所も多い。死んだように下を向いているスーツ姿の男どももいない。それにみな親切じゃ」

 「そう」

 「正直、このまますんでもよいかと思っとる」


 静かにスミレがうなずいた。そして突如、川の中程を向いて猫耳をピンと伸ばした。魚の跳ねる音がしたらしい。川の光が反射してキラキラ光る眼の先に、かなり大きめの魚が泳いでいた。塩焼きにしたらおいしそう。スミレの他にタニカワでも誘って今度寿司屋にいくか。


 「......ついていっても?」

 「もちろんじゃ!」

 「ありがとう」


 わらわは、わしゅわしゅとスミレの頭を撫でた。スミレがくすぐったそうに身悶えしたあと、ゆっくりと体を預けて来た。
 しばらくそのままそうしていたが、なにかを思い出したかのようにボソボソとスミレが呟いた。


 「ついていく上で、あなたにひとつ質問がある」

 「なんじゃ?」

 「過去。正体。隠し事」

 「そうかぁ、そう来たかのぉ~。まあ、どのみち明かす気でいたからいいじゃろう」


 わらわは手短にあった石を投げた。三回ほど跳ねて底に沈んだ。
 「明かす気でいた」、自分で言っておいてひどく腑に落ちない。何か思い出せそうな気がする。タニカワ教授とその件で面談したような。そもそもどうしてその話題が出たのか? そうだ、ガーナ元国王に意地を張ったからだ。じゃあ、元国王がカルマポリスに来た理由は......。


 「カルマポリスにはエアリスという兵器があってのぉ。とにかくめっちゃ強い。しかし、弱点があっての。エアリスの原動力は呪詛なんじゃが、とにかく燃費が悪いんじゃ。ワースシンボルのエネルギーをもってしても今の段階では同時に三機しか動かせぬ」


 近々戦った三機のエアリスが頭に思い浮かんだ。なぜわらわは教会なぞであやつらと戦っている。そうじゃ、ワースシンボルに異常があって、それをタニカワ教授と一緒に......。


 「それをどうにかして別の場所で動かそうと頑張った宗教団体があった。やつらはワースシンボルの代わりに、とんでもないものを原動力としてわらわを起動した。それはこの世にさ迷える幼子の魂じゃ。魂のエネルギー=呪詛じゃから、呪詛で動くエアリスにはもってこいじゃ。ひとつの部屋に何万というさまよえる魂を召喚し、閉じ込め、そのエネルギーでエアリスを動かした。が、魂たちは反逆してそのうち新品の一機を乗っ取った。それがわらわじゃ」

 「そう」

 「あれ、あんまり驚かんのな」

 「あなたはあなた」


 変わらず身を委ねてくれる友にわらわは深く感謝した。そして、スミレの感触からすべてを思い出した。


 「お主がそういう反応をしてくれて安心した。やはり、わらわは帰って皆にこの事実を言わねばならん。もう隠したくないんじゃ。これからも後ろめたい気持ちをずっと背負って生きていくなぞごめんじゃ。わらわは帰る。お主はどうする?」

 「それでも、ついていく」


 そのためにはワースシンボルの最深部に行き、お札を貼り、問題を解決せねばならない。それを通し、わらわは人を殺すために生まれた兵器ではなく、カルマポリスのことを思いやる一住民であることを示す! ようやく思い出せた。すべきこと、なすべきことを! そして何より、あの心配性の教師をこれ以上待たせてられん。


 「ま、帰りかたがわからない以上はどうにもならんけどな」

 「アッッッ!!!」

 「のじゃじゃ!? どうしたのじゃ!?」


 ばっとわらわの体からスミレが飛び退いた。よくみると表情筋をピクピクさせている。スミレは普段どんなことがあって顔に『は』感情を見せない。一大事だ。


 「体......透けてる」


 意味不明なことを呟かれ困惑した。何をいっているんだと顔を傾けたとき、視界の下であろうことかスミレの下半身が消えかかっていた。まるで幽霊だ。


 「はぁ?! ハァァァ! おおおおおおおお主も消えそうじゃぞ」

 「あ......」

 「まっ......」


 お互いに言葉を言い終える間もなく、突如ブレーカーが落ちたかのように視界が真っ暗になった。