フールのサブブログ

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夢見る機械 半生物半機械式無差別破壊兵器エアライシス(竜型)ss12

 扉から一歩外に出ると、そこは異世界だった。
 まず床がおかしい。ガラスで作られている。何かをコーティングされているらしく、キラキラと瞬いている。どうやら、高濃度の呪詛に長い時間さらされても大丈夫なようにコーティングを施されているようだ。空を見上げる。黒い空間には、緑色を基調に複雑な光を放つオーロラが見える。奥には工場で見られるような塔がいくつかそびえ立ってる。塔の最上階を探そうと努力するも、果てしなく高いらしく、わはわの場所からはまったく見えなかった。わずかに金属が焼けるような不快な臭いが漂っている。
 この床は各々の塔を繋ぐ連絡橋らしい。数十人はわたれそうな幅だが、手すりのようなものは一切ない。
 

 「セレア、ここはカルマポリスの最終防衛ライン、ここを突破されるとカルマポリスは陥落する。つまり、一番兵力を集中させている場所だ」

 「最後の難関ってやつじゃな」


 ガラス越しに深淵を覗く。下の方に光る点を見つけた。一瞬太陽に見えたが、目を凝らすと溶岩だということがわかる。
 セレアが歩みを進める。すると、グシャ、という嫌な感触がした。床をみると銀色の水溜まりがいくつもある。さらに奥をみるとアンドロイドの義肢と思われるものがいくつも転がっており、銀色の水溜まりに写り混んでいた。ゴォーっという何かが動くおとが時おり聞こえてくる。不気味な静けさのなか、エアリス二機を前にしてわらわが進む。
 カツンという音に続いてコロコロという音が響きわたった。仲間のエアリスがネジかなんかを蹴ったらしい。


 「誰かが先に全部破壊したのか......」


 残骸だけが残る道を慎重に歩んでいく。やがて柱のうち一つにたどり着いた。柱の回りをぐるりと円形のガラスの板で囲っており、来た道を含めて六本の道が延びていた。多分空から見上げると蜂の巣状になっているはずだ。塔には扉はなく、六本の道へ素通りできる作りになっていた。内装は非常に殺風景で金属板で作られた壁がむき出しになっている。
 わらわは地面により多くアンドロイドの残骸が転がっている方向に進んでいった。恐らくワースシンボルを陥れた侵入者が通った可能性が高いからだ。


 「不気味じゃのぉ」


 そう呟いたとき、背後に強い衝撃を受けて前に吹っ飛んだ。攻撃を受けた部分が発熱している。慌てて後ろを向き、体制を建て直す。だが、いるはずの敵がいない。さらに背後からなにか来る予感がして、空中に飛んだ。エアリスたちも攻撃を受けているらしく、冷凍銃で反撃しようとしていたが、敵の正体が掴めずオロオロしていた。
 奥の方でなにかがゴォーッと動く音。


 「セレア、床だ! アンドロイドの残骸が攻撃してきている!」


 タニカワの声を聞いて、エアリスとともに床に転がるアンドロイドの武器を破壊していく。三機六丁ものガトリング砲の発射音が耳に焼き付く。一時的に攻撃は止んだ。が、粉々になったアンドロイドの断片に、銀色の水が寄せ集まる。不気味に手足が跳ね回ったあと、また元通りに修復され攻撃を再開する。
 空を飛べばと考えたわらわは、黒い三角形の飛行ユニット展開、一気に奥へと飛ぼうとする。が、機能は正常なはずなのになぜだか飛べず、落ちる寸前で偶然そばにあったガラスの床に捕まった。
 地上戦しか手はない。わらわは攻撃を防御しつつ、ガラスの床を進む。弾の軌跡が蜘蛛の巣のように写る。360度から放たれる強烈な熱と冷気にさらされ、徐々に体が言うことを聞かなくなっていく。アルファ故に無痛ではあるものの、死の恐怖が頭によぎり、恐ろしくなる。


 「セレア、一旦仲間のエアリスの制御を外せ。エアリスに回す分のエネルギーを本体に回せば、この超重力の影響下でも飛べるようになるはずだ」


 わらわが念じると、ばたりと二機のエアリスが倒れた。同時にわらわに力がみなぎるのを感じた。
 エアリスを相手にしていた残骸が一斉にこちらを向き、攻撃を再開する。わらわはドッジボールのボールをよける要領で攻撃をかわす。戦闘の舞台が二次元から三次元に変わったために弾幕がスカスカになった。行ける! 行けるぞ! ガラスの床をけんけんぱしながら猛烈な勢いで奥に突き進んでいく。たが、


 「セレア! 三秒後、二時の方向に三十メートル!」


 反射的に体が動いていた。少し被弾したが、タニカワの指示した場所に到着……した瞬間に視界の左右に白い壁が現れて、消えた。それが敵からの超遠距離攻撃だと気づいたのは、タニカワが次の指示を叫んだあとだった。「正面雷ご! ご! なな!」着弾予測が視界の端に表示された。頭で理解する前に体を動かす。まわりに雷が5発5発7発の順で落雷した。
 わらわはタニカワの指示を信じ、身を任せる。赤い線が見えたと思ったら、その軌跡から紫色のマグマがわき出た。塔のいくつかをぶち抜く極太の光線も雨あられと飛んできた。高層建築を軽々やきつくしそうな火炎が舞い踊った。だが、そのどれもがわらわを避けるかのように動き、被弾しない。タニカワが把握し、わらわが避け前へ飛ぶ。


 「今回ばかりはでしゃばるぞ! セレア」

 「おぬしに任せる!」


 花火がそのまま兵器になったようなレーザーの群れがわらわに向かってきた。わらわは全速力で動きつつ、振り向く。大半のレーザーが空中で爆発する。わらわは煙を吹いているガトリングガンを手に変形、塔の出っ張りに捕まり鉄棒の妙技、大車輪を披露。その動きについていけなかったレーザーが塔のあちこちで爆発。その様子を確認後、目の前から来る青二本赤二本白四本の光線を、全身の力を完全に抜いて避ける。塔の爆発音が聞こえるなか、身体を液状から人の体に復元する。
 さらに奥へと進むと、おぼろげに敵の姿が見えた。小さい腕に太い足、巨大な翼。蛇のような頭。口から漏れる呪詛の吐息。


 「こいつ! ドラゴンか」


 ドラゴンが火炎を吹いた。反射的に身をよじってかわす。ガトリングガンを発射するも鱗に弾かれてしまっている。口の中にも数発当たったが、全く気にしていない。


 「カルマポリスのデータベースにあったぞ。200年前にカルマポリスにて召喚され、国そのものを破壊したとされる生物兵器だ。敵軍を倒そうと十数代前の国王が召喚したが制御できずに反逆されたらしい」

 「そんなバケモンが、なんでこんなところにいる!?」


 この手の大型兵器にありがちな持久力がない、トロい、といった弱点はこいつにはなかった。AI兵器故に攻撃に移る際に変な癖があり攻撃予測ができるが、そのうち学習され克服されるだろう。
 敵の攻撃範囲予想が視界に表示され、あわてて安全地帯まで避けた。その直後、白い光線がわらわの横を通りすぎた。どうやらドラゴンの口から発射されたものらしい。時間差でドラゴンの両翼が瞬き、その真ん中からも赤黒いレーザーのようなものが放たれる。攻撃に巻き込まれたあわれな塔は火を吹いて爆発する。当たってもいないのに皮膚がピリピリと焦げていた。続いて右腕に違和感を感じた。左手を剣に変形させ右腕をすぐさま切り落とす。落ちていく右腕は白い霜を被っている。その右腕は数秒と経たないうちに業火に襲われ蒸発。「AIに学習された......。もうこれしか手段がない」。タニカワが言い終わる前にわらわはタニカワの思考を察し、行動していた。
 ドラゴンの動きがスローに見える。唇がめくれ、鋭い歯が見えた。歯と歯の間に隙間ができる。思うよりも先に体が動いていたらしい。気がつくとドラゴンの喉奥に左手を差し込んでいた。そのままドリルに変形。無我夢中で掘り進むと光が見えた。バッと視界が開けたと思ったら、鱗の上を転がっていて、受け身をとる間もなく床に墜落。
 地面が揺れて、続いて後ろから爆風が、最後に爆発音が響いた。


 「残骸から推測するとドラゴン型の呪詛兵器だ。だが同じ兵器でも防衛用のエアリスとは違う。恐らく......無差別破壊兵器」

 「結局こいつもワースシンボルの化身か」


 体にこびりついたドラゴンの血をぬぐった。血とは言っても色は緑色であり、筋肉はどう見ても人工的なものだった。
 落ち着いて回りを見てみた。無数にあった塔の半数はヒビや穴が空いている。ガラスの橋は対呪詛のコーティングが剥げ、所々崩壊している。あちこちで火柱と煙が立ち上っており、見知らぬ人にアンドロイド同士の戦争があったと説明してもたぶん、信じるだろう。


 「攻撃予測はどうやったのじゃ?」

 「ハッキングしたエアリスからカルマポリス防衛システムに侵入した。データが兵器でひとまとめにされていてね。偶然こいつのデータを発見できた。最初は間一髪だったよ」


 ふう、とタニカワは額の汗を拭いため息をついた。こめかみを指で揉みながら話を続ける。


 「このドラゴンは、カルマポリスで最強の生物兵器として知られていた。召喚すれば全てを無に帰すと。ただ、その由来に関しては全く知られてない。召喚方法だけが今も政府に受け継がれている」


 タニカワが目薬をさして目をしばしばさせた。すると、いつもの教壇にたったときの口調に戻った。


 「そもそも、カルマポリスは200年前このドラゴンによって一度国そのものを吹っ飛ばされた経緯がある。歴史書もなにもかも一度そこで失われているんだ。今ある町並みは200年のうちに再建されたもので、今用いられてる呪詛技術もそのとき残っていたものだけだ。だから、今のカルマポリス民はワースシンボルの技術に関してほとんど知らない。それどころか、最近までエアリスの存在すら知られてなかった......っていうかセレア、テスト範囲だぞ」

 「すまん、寝てた」

 「堂々と言うことじゃない。......この様子だと帰ったら歴史の補習だな」

 「わらわは歴史を勉強するよりも作る方が向いてるのじゃ!」

 「君が歴史を作ると、補習の暗記内容も増えるぞ?」

 「のじゃ!?」

 「......まあ、とりあえず少し休みなさい。このままずっと戦い続けていたら、いくら体が機械とはいえ限界を越えてしまう。無理はよくないぞ。とりあえず、右腕を床にある銀色の水溜まりで修復しよう。恐らく使えるはずだ」

 「わかった」