セレアとカラオケ
セレアとカラオケ
○マンション街・通学路
制服姿のセレア・エアリス(1)。隣のタニカワ教授(58)と歩きながら話す。
セレア「テスト期間の半休はやはりいいのぉ。得した気分になる。さてなにして遊ぶか......」
タニカワ「おいおい、明日のテストの勉強はしなくていいのか?」
セレア「ばっちりじゃ。なんと言ってもお主の担当科目じゃからのぉ。もちろん、アンドロイドの機能は使わんからな!」
タニカワ「フフ、ありがとう。明日からまた真面目に勉強するんだぞ?」
タニカワ教授の笑顔を見て、顔をそらすセレア。耳が赤い。
タニカワ「そういえば、来週テストの打ち上げをするそうじゃないか。クラスの子が楽しみそうに語ってたよ」
セレア「あっ......ああ。わらわも参加するが、それがどうかしたのか?」
タニカワ「カラオケをするんだろう?」
セレア「のじゃぁ!? 初耳じゃぞ! ちょっと待て、それは本当か!」
タニカワ「ああ。学級委員が話してたからまず間違いない」
セレア「歌える曲が......ない......。このままでは振られた時になにもできんぞ! いや、最悪合唱曲で乗りきるか?」
タニカワ「そこでだ、今日一緒に練習ついでカラオケにいかないか?」
セレア「いいのか!?」
○カラオケボックス
曲番号が乗っている本をパラパラめくるタニカワ教授。その様子を興味深そうに覗きこむセレア。
タニカワ「セレアはどんなジャンルの曲が好きなんだ?」
セレア「ポップかのぉ」
タニカワ「よし......。これだな。『メトロナポリタン』。はい、歌詞カードと楽譜。目でスキャンしてアンドロイドとしての機能を使えば、すぐに歌えるようになるはずだ」
セレア「サンキュー」
タニカワ「じゃあ、曲を流すよ」
セレア『メッ! トロッ! ポリタン! ナポリタンッ! Hey!』
歌い終わったセレア。画面に写った点数をタニカワ教授が読み上げる。
タニカワ「88点か。上手! 上手!」
セレア「本当か! 次はサビもわかったし、抑揚もつけるのじゃ。もう一度、いれてもらえるかのぉ?」
タニカワ「いいぞ。ほい!」
セレア『夜の町~♪ ナポリタン~♪ どっちもからんで、離れられない~♪』
再び点数を読み上げるタニカワ教授
タニカワ「二度歌っただけで90点......さすがセレアだ」
セレア「点数の目安は?」
タニカワ「私がはじめて歌うのは大体80点代前半。練習した曲は86~88点くらい。十八番が89~90点位かな」
セレア「本当か! じゃあわらわはいきなりお主の十八番級の点数を叩き出したと」
タニカワ「ああ。実際一回目は音程が合っているだけだったけど、二回目は抑揚やビブラートなんかも取り入れてて、正直普通に上手だぞセレア」
セレア「そういえば、お主も歌えるんじゃよな。交代交代で歌わんか?」
タニカワ「いいぞ。じゃあ、次は私の番だな」
セレア「どんな曲を選ぶのかのぉ」
タニカワ「よし、では......『てめぇら全員豚小屋にぶちこんでやろうか!』」
セレア「のじゃじゃぁ!?」
タニカワ「『社内にはびこる闇! 闇! 闇ぃぃ! セクハラ! パワハラ! マタハラ! 全部まとめて血祭りにぃ! シャア″ァ″ァ″ァァァァウト!!!』」
セレア「デスメタル!? 嘘じゃろ!? 冗談じゃろ!? どこからその声出してるのじゃ!? あと、その振り付けはなんじゃ!? 普通の服装だから余計にシュールすぎるぞ!」
困惑するセレア。一方タニカワ教授、スッキリした顔でセレアにマイクを渡す。
タニカワ「ふー、84点か。やはりセレアには及ばなかったか」
セレア「点数以外の何もかもで負けた気がするのじゃ......」
タニカワ「こんな風に多少音程がずれても全力で歌った方が気持ちいぞ」
セレア「ところでタニカワはカラオケに行ったりするのか」
タニカワ「ああ。一人がほとんどだけどね。宴会とかだと空気を読んで選曲をしなきゃいけないからめんどくさいんだ。まあ、結局歌うんだけどね」
セレア「デスメタを?」
タニカワ「ああ。なんでかはわからないけど、友達の中で一種のお決まりみたいになってる」
セレア「ん? あれ素で歌ってるのか?」
タニカワ「ああ。素だけど、それがどうかしたのかい? 激しい曲は普通に歌えばああならないか?」
セレア「いや、それはない。ところで......」
タニカワ「質問でもあるのかい?」
セレア「どうしたら、ああいう風に歌えるんじゃ?」
タニカワ「そうだな......あ、そういえばセレア」
セレア「ああ」
タニカワ「戦闘服が液体金属でできてるだろう。あれを応用して衣装を変えたりとかできないかな? あと、衣装にエネルギー式の照明をつけたり」
セレア「ああ。できないこともないじゃろうな。じゃが、少々派手すぎじゃないのかのぉ」
タニカワ「テスト終わりの打ち上げなんだろう? ちょっとくらいはっちゃけてもいいんじゃないかな。それに、アンドロイドとしての長所を最大限生かすいい機会だと思う。どうせならアイドルの振り付けなんかも参考にして本格的に......」
セレア「タニカワ?」
タニカワ「......あれだ、アルファ技師に依頼して照明ユニットやお洒落ユニットもそのうちつくってもらおう。デザインは宇宙人でアンドロイドでドレスで近未来的な感じで......きっと似合うはずだ。あと、どうせなら......」
セレア「ターニーカーワー!」
タニカワ「......曲も作曲してもらうか? 作詞は私がして......そうだ、たしかこのカラオケマシンを提供している系列にそういうサービスがあったような......」
セレア「タァー! 二ィー! カァー! ワァー!」
タニカワ「はっ! どうしたんだセレア」
セレア「ずいぶんと楽しそうじゃのぉ~。そういう趣味だったのか......」
タニカワ「まて、なにか誤解してないか」
セレア「ふふふ......そうかぁ、わらわの妄想するのがそんなに楽しいかぁ~」
タニカワ「......」
目をそらすタニカワ教授にセレア、ぐっと顔を寄せる。
セレア「あと、まだ一週間あるぞ」
タニカワ「今日はまず歌を完璧にしよう。振り付けがあるものに関しては私がビデオを借りてくる。今週でテストが終わるから、セレアはちゃんと勉強しててくれ。私はその間にダンスのビデオを探したり、技術部に駆け寄ったり、もろもろの器具の使い方を習得するのに当てる。卒業生にデザイナーがいるから衣装のデザインをお願いしよう。」
セレア「わかった。わらわも歌が上手に歌えるように、勉強の傍らカセットテープで復習してくのじゃ」
ナレーション(N)『後にセレアのクラスメートは打ち上げ会のことを語り継ぐことになる。完璧な音程と、電波な歌詞、キレッキレの振り付け、どこからともなく出現したまばゆい照明、目まぐるしく変化する衣装。まるでアイドルのライブを見ているような気分であったと』