フールのサブブログ

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セレアのテロリスト鎮圧 下

4.運命のとき


 「あ......はい。あの日のことはよく覚えています。地震の多いにでした。町を歩いていると『えっ......』とか『うわっ』『キャッ!』という声が聞こえてきました。声をした方向を見ると電器店に人だかりが出来ていました。私は好奇心で近寄ってみました。どうやら彼らはテレビを見ていたようです。テレビには映画が映っていました。町を破壊するドラゴンと軍隊が戦うというものです。画質もカメラアングルも悪く、何でこんな映画にみんな見とれているのだろう、と思いました。その矢先、ナレーターが衝撃の言葉を発したんです。『只今現場から中継しております』、と。私が映画だと思っていた映像は、その時この町で起きていたことだったんです」


 カルマポリスの西は森林地帯であったが、地盤は固く平坦で開発の余地が十二分にあった。そこでカルマポリス西地区の町長は政府に協力をあおぎニュータウンの建設へと踏み切った。西地区は都市開発に出遅れてしまい過疎化が進んでいた。ニュータウンを建設することで挽回を狙ったのである。
 今回、それがテロリストに付け入る隙を与えてしまった。森と近接している、廃墟が多い、公共事業に予算を削られ警備が手薄、基地から遠い、元から治安が悪くスラム擬きが存在するなど......。この他にも様々な悪条件が重なり、この地がテロの標的に選ばれたのだ
 セレアは当初、独断で現地に残った民間人の避難を手伝っていた。オペレーターのタニカワ教授にバックアップされつつ、機械の長所である正確な動きで人々を誘導する。だが、政府からの指示の前に動いたことで情報の共有が出来なかった。いくら高性能のアンドロイドであっても、戦場の情報が欠けている状態で単独で数百人を保護するのは不可能であるのは明白だ。しかし、彼女は目の前の助けるべき相手に集中するあまりそれに気づかない。
 敵のワイバーンに奇襲された。別々の方向から一斉に襲いかかってきたのだ。その数10以上。セレアは焦った。ワイバーンを処理するのは造作もないことだったが、避難している人を全員生還させるとなると話は別だ。一匹を相手している間に他のワイバーンが民間人を襲ってしまう。そして誰か一人でも食われるようなことがあれば統率が乱れ、甚大な被害を被ることは明白だった。
 守りきれない。
 セレアが諦めかけたその時、銃声が聞こえ、ワイバーンのうち三匹が打ち落とされた。窮地を救ったのはゲンダイ隊長率いる小隊だった。


 「その時、俺は叫んだんだ。『俺たちを頼ってくれ』、って。セレアはなんでもかんでも自分一人で背負い込んじゃうんだ。敵と戦って、人々を保護して、鼓舞したりする。それを全部一人で同時にしようとする。今まで信頼に足る仲間がいなかったんだろうね。助けに入っただけで彼女、泣きそうだった」 (カルマポリス陸軍所属 ゲンダイ)


 彼女が到着してから民間人は誰一人として死ななかった。
 荒れた土地に、傷ついた人々。障害者や病人を含め全員を避難させるというのがどれほど大変であったか。しかし、彼女はそれを成し遂げた。その小さな体で数百人の命を救ったのである。

 「どこの誰が呼び出したかは知らなけど、カルマポリス軍の間で彼女はこう呼ばれている......『戦乙女』とね。余談だけど、あのときタニカワ教授に軍の情報をリークしたのは私だったんだよ。あとでこっぴどく怒られた。まぁ、後悔はしていない。そうでもしなければ勝てない相手だったんだよ」(カルマポリス防衛省所属 ナカタニ)


 それだけにとどまらず、軍の救援要請を受けた彼女は各地にいた仮面召喚師たちを制圧しに、陸軍及び空軍の応援に入った。
 鳴り止まぬガトリングガンの射撃音。なすすべもなく崩れ落ちる小型ドラゴン達。両腕を変形させたガトリングガンの威力はカルマポリス兵の度肝を抜いた。

 「それがどこであっても、戦乙女の下が一番安全なんです。例えドラゴンに囲まれようとも」(救出された会社員)

 「戦乙女はただぶっぱなすだけじゃなくて、頼るところはうちらに頼ってくれるんですよ。その加減が絶妙で。だから嫉妬するようなことはありませんでしたね」(カルマポリス空軍所属 ヤマダ)

 残存勢力で鎮圧可能なレベルまで敵を倒すと、次の戦場へ向かう。彼女はひとときも休まず、召喚師たちと戦い続けた。あるときはカマイタチでワームを切り裂き、あるときは小型ミサイルでワイバーンを打ち落とし、あるときは剣で召喚師に直接切りかかった。
 そしてとうとう首領を残して全滅した。
 セレアは他の小隊よりも一足先にテロリストグループの首領精霊フロレへの元へ飛行した。セレアが目にしたのは驚愕の光景だった。


5.首領フロレとの戦い


 ワースシンボルから発せられ、町を包んでいるエネルギー。それを借りることで特殊な力を発揮できる。空を飛ぶ、ワープする、ただの水をワインに変える......など、様々な能力を発揮できる。しかし、その才能が開化するのは住民の中でも一部である。軍隊の中ですら戦闘向きの能力を持つのは全体の1割と言った所だ。その中でも強力な能力を持ち、兵士としての資質にも恵まれた者はごくごくまれだ。そんな人口の0.1パーセントに満たない狭き門を潜り抜けた精鋭中の精鋭が、カルマポリスの呪詛部隊に配属される。
 その呪詛部隊がセレアの目の前で壊滅の憂き目にあっていた。全く手も足も出ないままに蹂躙されていた。


 フロレが呼び出したのはラ・ゼロイド・マグスと呼ばれる化け物であった。体長10メートル以上、蛾の体が人に置き換わったかのような醜悪な見た目をしていた。さらに周囲に複数の幼体......イモムシを従えていた。イモムシと言っても並みの民かであれば潰してしまえる位大きい上、酸を吐く。


 「実はあたしも本物を見るまでは戦乙女の伝説を信じていなかった。彼女の戦績は華々しすぎる。でも、食い殺される寸前に助けられた時に実感した。彼女は本物なんだってね」(カルマポリス特殊部隊所属 ハナビ)


 特殊部隊の隊員たちはイモムシに囲まれ、今にも殺されそうだった。セレアが向かおうとすると隊員たちが叫んだ。『マグスの幼体を殺すと死に際に強力な呪いを放つ。私たちは囮だ。無視をしろ』。だが、セレアは彼らを救うことを選んだ。何故なら彼女は兵器ではなく人だからだ。イモムシを撃つ度にセレアの顔が苦悶に歪んだ。助けるためのコストは決して安くはなかった。
 呪いにより身体能力が低下し空を飛べなくなってしまった。さらにマグスの羽からキラキラとした燐粉が放たれる。燐粉は強酸を含んでおり、セレアの液体金属を溶かしていく。貫かれようが潰されようが効かない液体金属も、腐食には勝てない。
 セレアは呪詛を周囲に発散し擬似的なバリアを張り酸だけは防いだ。地響きと共に蛾を模した巨人の拳が襲いかかる。消化液を吐くイモムシが逃げ道を塞ごうとしてくる。セレアは素早さを行かしてなんとか逃げ回ろうとした。

 「何事かと思いましたねぇ。一瞬で空が暗くなり、反射的に見上げました。すると、見上げているはずなのにビルが見えたんですよぉ。一瞬何が起きているのかわかりませんでしたぁ。でも次の瞬間、相手にしている者の強大さを悟りました。マグスは......ビルを根本からへし折り、そのまま投擲したんです!」(カルマポリス特殊部隊所属 ミタライ)

 セレアが倒れるのは時間の問題だった。酸を防ぐために膨大な呪詛を放出している上、呪いにかかった体を無理矢理動かしているからだ。エネルギーの消費量が生産量を上回っている。絶体絶命だった。
 そして、ついにイモムシに囲まれ逃げ場を失ってしまった。マグスはセレアを狙うフリをして建築物を破壊。逃げ道を減らした上で計画的に幼体を配置することでセレアを追い詰めたのだ。止めを刺さんとマグスがセレアに迫ってくる。

 その時だった。

 数えきれないほどの爆発が起きた。セレアが今まで助けてきた兵士達がこちらに追い付き、一斉に射撃したのだ。十頭以上のワイバーンの火炎弾。数十人の陸軍兵による呪詛銃の連射。戦車砲。戦争を彷彿とさせる壮絶な弾幕がラ・ゼロイド・マグスを包んだ。煙に包まれ炎上するマグス。
 当時のことをナカタニは振り替える。

 「マグスはそれでも死ななかった。マグスは爆炎を身に纏ったまま、セレアに拳を叩きつけた。小さな体が宙を舞った。マグスには強靭な再生能力が備わっていたんだ。誰もが絶望したよ。どうやったらこいつに勝てるんだってね。でも、セレアはそれでも諦めなかった。最後の力でマグスの脳天に剣を突き立てた。そんな彼女を見て私は言ったんだ。『英雄は実在する。今、目の前に』、と」(カルマポリス防衛省所属 ナカタニ)

 セレアの攻撃でマグスが怯んだ隙に、軍がフロレを確保した。召喚師であるフロレの魔力供給が途絶えたことで、ラ・ゼロイド・マグスは機能を停止した。
 軍が身を呈して街を救ったこの出来事は、カルマポリス新政府の躍進に大きく貢献したのであった。