フールのサブブログ

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霧の街カルマポリス PFCSss

信仰都市国家:カルマポリス


 その昔強大な力を持つ魔法使いがいました。魔法使いは彼の持つ魔法で人々を支配しようとしました。しかし、勇敢な若者たちが魔法使いに挑み、力を会わせ、魔法使いの魂を封印しました。
 魔法使いの力と肉体、そして魂はワースシンボルと呼ばれる巨大な水晶となり、信仰する人々に富と力を与えました。
 そしてワースシンボルは『自らを崇めるものは、死んだ後に魂がワースシンボルによって浄化され、再びこの世に転生する』と、言いました。
 ワースシンボルに惹かれた人々はその加護を最大限に受けるために村を作りました。

 そして村はいつしか町となり、最後には国になりました。

━━カルマポリス初代国王の伝記より━━

 

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【『何か』が出現しました。大変危険ですので民間人は建物から出ないでください。もし、『何か』に遭遇した際はすぐに逃げてください】


 警報を知らせるアラームがカルマポリス全体に鳴り響いている。私は布団の中でじっと外の音に耳を済ませていた。街が恐ろしいほど静だから、高層ビルのど真ん中の階でも外の声が聞こえてくる。


 「おい!いたぞ!『何か』がいたぞ!」
 爆発音。
 「奴は触れたものを爆破させる呪詛を使ってきます!地面を触れても爆発するようなので、無闇に近づくのは危険です。遠距離からの攻撃が有効でしょう。私が行きます」
 「いいねぇ。遠距離から放てる『呪詛』なんて。俺もそういう『呪詛』を持ってうまれたかったなぁ」
 猛吹雪が吹く音。その後、再び爆発音。
 「爆風で氷柱を吹き飛ばしやがった!んっ!なんだ、この熱を帯びた大気は!?」
 「どうやら私の作り出した吹雪で雪だまを作り、それを投げてきたようです。空中で分解された雪の欠片は一つ一つが爆弾と化しました。読みきれなかった私の敗北です。あなたは効果範囲外にいるので早く待避してください」
 私は布団から少しだけ這い出て、窓に向けてボールペンを一本、投げた。ボールペンは独りでに窓の鍵を開けて外に出ていった。怖いけど、人が死ぬ音を聞くのはもっと怖い。
 「馬鹿な!お前ほどの奴が一瞬で」
 「一瞬の判断ミスです。申し訳ありません……。爆発後しばらくのインターバルがあるようです。その隙に怪力の『呪詛』で奴を仕留めて……」
 ガッ、という『何か』のうめき声と倒れる音が響いた。
 「爆発……しない?」
 「助かった……一体だれが?」


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 この街は妙だ。まず最初に昼とか夜とか関係なしに、緑色の怪しい霧が漂っている。しかも、都市全体をドームで覆うかのように。みんなはこの緑の霧が魔法使い様の加護だと言うけれど、私からしたら呪いか何かにしか見えない。実際に外から来た人もそういっていた。
 私は高層ビルの窓から外の景色を拝んだ。太陽の下たのに、建物の輪郭が緑色に縁取りされている。窓から漏れる光も緑黄色に着色されていた。
 この街のエネルギーの源である『ワースシンボル』(既存のエネルギーに例えるなら電線を繋げなくてもいい電気のようなもの。この霧を作り出している元凶)は狭い地域にしか効果を発揮できない。だから『ワースシンボル』の働く敷地に出来る限り建物を作ろうとした結果、高層建築が立ち並ぶ無機質な街並みになった、と教授がいっていた。

 街の中央には時計塔があるけれど、これは今の時間を指し示していない。針が666を指し示すとき街に出てくる『何か』の出現までの猶予を表している。だから長針と短針と秒針が別々の法則で動いていて、普通の時計としては全く役に立たない。

 私は窓を閉め、部屋に戻った。橙色の優しい照明にピンク色のベッドの上のぬいぐるみ達が照らされていた。
 「やっぱりみんなもカラフルなほうがいいよね」
 私はふわふわのベッドに腰かけて、その中でもお気に入りの、お姫さま人形をなでなでする。ほらほら、かわいいかわいい。

 「……あれ?やばっ、遅刻!時計塔の時間見てた!」

 私は慌てて靴を履くと、窓の縁を蹴って空へと飛び出した。そのまま夜の町をゆっくりと滑空して数分ほどで学校にたどり着いた。


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  10人くらいが一度に通っても大丈夫そうな広い廊下を私たちは歩いていた。一枚一枚が人の体ほどの大きさがある窓から、緑色の光が溢れている。
 そんななか、私はいい感じに老けてきた教授と話をしていた。ほっそりとしているのに、大胸筋がしっかりとついているのが服の上からもわかる。
 声が色っぽいと女子生徒に高評のタニカワ教授の声が廊下に響く。
 「妖怪(供魂者)が生きたまま肉体を消されるか、その魂を自らの意思で差し出すと、その魂が別の他者(受魂者)の魂とリンクする。受魂者は肉体の制限を無視して供魂者の呪詛を行使できる。ただし、魂のリンクは精神に大きな負担を与える。そしてこれらの能力を使える人を『パラレルファクター』と呼ぶ……がこれまでの研究でわかったことだ。それでだ、ルビネル」
 ルビネルと呼ばれたときに一瞬のドキッとしたけれど、タニカワ教授にそれは見せなかった。
 「はい、タニカワ教授。先日もお話ししたように、これはシンボルと共通しています。シンボルに人の魂が帰り転生する。これはつまりシンボルが受魂者で、死んだ人が供魂者になるのでは?」
 「シンボルと魂は一旦リンクし、解除されてこの世に転生する。つまり、ルビネルの言葉に従えばシンボルとは何者かの魂……つまり創世記にある魔法使いの魂そのものであると」
 「もし、創世記の通り魔法使いが人にたいして敵だったとしたら……」
 「魂の力までは封印されていない可能性がある。それはつまり魔法使いの力は限定的とはいえ健在ということになる。今も我々が魔法使いの手のひらで転がされている可能性は大いにあるな」
 タニカワ教授は苦虫を噛んだような嫌な顔をした。が、すぐにいつもの精悍とした表情に戻った。


 「それにしても、本当に君のペンを操る呪詛、便利だな」
 「へっ?」
 タニカワ教授は私の目の前に浮いているものを興味深いといった顔で見つめていた。
 ボールペンがメモ帳の左右のページの端をペン先のクリップで挟んで留めてたまま浮遊している。そして、もう一本のボールペンがひとりでに今の会話の要約を超高速で書き留めていた。
 「ああ、これですか。まあ、便利ですけど器用貧乏っていうか」
 「今日も靴底にボールペンを仕込んで跳んできただろ。空を見上げたとき見えたぞ。校則違反だ」
 困った子だ、という顔でタニカワ教授は私の頭を軽く撫でた。くすぐったい。

 

 そのとき警報が鳴り響いた。
 【『何か』の出現予想時刻三十分前です。カルマポリス内にいる人は至急建物内に入り、そこから出ないでください。処理班が対処します】

 

 「警報か。一週間ぶりだな。教室にいこう。廊下にいるよりはマシなはずだ」
 「でも、この学校は殆ど襲われませんよね。外に処理班がずっといるし」
 「そうやって油断して、後悔したことが私には何度もある。早く避難しよう」