ひな祭り ー当日ー さらば先生 PFCSss4
「バカな!ここまで敵に侵入を許すとは。ジョンとジェームズは何をやってやがる。クソッ、早朝に叩き起こされたこっちの身にもなれってんだよ」
「ジョン?ジェームス?聞いたことありませんね。そんな名前は」
東塔の渡り廊下。道の中央に立ってようやく剣を振れるようになるくらいの狭い通路だ。クライド、ソラ、先生は腰を低くして身構える。
「少し強そうな相手だね」と、クライド。
「命令を」と、ソラ。
そして二人を制止する先生。
「クライドさん、ソラさん、下がっていてください。ここは私が引き受けます」
敵は修道服の内からはち切れんばかりの筋肉を除かせている。その上、フードを突き破って角が生え出ていた。
「まさか、あのふたりがやられるとは思えんが、念のため……全力を出す!」
敵は並みの樹木よりも太い足で地面を踏みしめると、笛を拭いた。ピンキョロロロ、という変な音が廊下に響く。
すると、敵の体表が異様に盛り上がり、腕が二本に分裂した。全身の血流が増したのか、修道服から覗かせる肌が真っ赤である。
「パラレルファクターダブルハンド!!」
「ダサッ」と誰かが言った気がするがクライドは無視した。
「あなた、修羅か何かですか?」
「いいや、魔法使いだ!その証拠に俺の武器はワンドだぜ?」
背中から四本の杖を取り出した。もはやギャグか何かの領域である。
相手はニタリと渋い笑顔を浮かべてから謎の呪文を唱え始めた。
「我が四本の杖よ、我に力を与えたま……」
「必殺『お米返し!』」
しびれを切らした先生が四本の杖のうち、二本をぶったぎった。まばたき一回にも満たない、一瞬の居合いである。
「お前!変身中くらい待てよ!!」
「うぬに付き合っていられるほどこちらには時間がない。さっさとかかってくるがいい」
かかってこいという言葉と裏腹に、先生は青い胴着から音が出るほど激しいラッシュを仕掛けた。ソラとクライドがその様子に驚きつつも、「ああ、こういう人なんだ」と半分諦めたやような顔を先生に向ける。
敵の腕力はすさまじく、一撃殴るだけで、頑丈なはずの壁に拳形の跡が残る。ワンドに至っては地面に叩きつけるとクレーターが出るほどだ。
しかし、狭い廊下が災いして、それだけ強力な攻撃を仕掛けているはずなのに、先生に対して決定打が打てない。
「ぬおお!壁が邪魔だ!このっ!このッこのッこのぉッ!補助魔法『アイアンハンド』!」
どんどん渡り廊下が破壊されていく。物音を聞き付けて様子を見に来た敵の増援も、あまりのあばれっぷりに手が出せずにいる。
「うぬの攻撃はあまりにも粗雑。その程度の腕で、拙者をとらえられると思うな!」
修羅か何かのような敵の攻撃を縦横無尽に避けつつ、少しずつ切り傷を増やしていく。
「ふんっ!そうやってチマチマ切りつけるのがお前の攻撃か?どんなに技術があろうが、力の前には無力なんだよぉぉ!補助呪文『ギガ・フォース』!!」
敵は両手のワンドを思いっきり地面に叩きつけた。板チョコのように地面が割れ、鋭い断片が先生に降りかかる。
「でぇい!ぬりゃああ!」
しかし、先生に届く前に全て切り裂き無力化してしまった。鮮やかに揺れる髪の毛を背景にドヤ顔をきめる。
だが、ワンドを捨てた敵の追撃が先生を襲った!
「ぐぉふぅぅうっ!」
なんとか空中に受け身をとり、直撃は避けたものの、腹部に強烈な打撃を受けてしまった。なんとかぶっ飛んで来た先生をクライドがキャッチ、そして勢いよく背中を押してリリースする。
敵は大振りの攻撃をしたために、体勢を建て直すのに一瞬の隙が出来た。パンプアップした筋肉の重みが仇となったのだ。
クライドの風の魔法による補助を受けた先生は、すさまじい速度で敵との間合いを詰める!
「一閃『白 米 斬』!!」
相手の新たに生えた方の二本の腕が吹っ飛ぶんだ!それと同時に急速に敵の体が縮んで行く。まるで空気の抜けた風船のように。
「うぉぉぉぉ!?まさかお前のさっきまでの攻撃は俺の射程距離だとかを測るためのものか!それとも隙を誘発させるためのものだったのか!?」
「両方、だ。必殺の一撃は無闇やたらに繰り出すものではない。『必』ず、『殺』すつもりで放つものだ。お前にはそれが足りない。出直して来るがよい」
パラレルファクターの力を封じられた今、奴は先生の敵ではない。途中危なかったものの、先生の快勝だ。
「ところで、クライド、ソラ……」
「ん?」
「お米が逆流する!」
「やめ、よせ!バカな真似はやめっ……!おいそこの腕四本だった鬼!よけろ!」
「クライドさん、手遅れです……」