ひな祭り ー当日ー 敵は全部PF PFCSss6
バトー、ソラ、クライドの三人は確かに敵の幹部らしき人を倒した。だが、渡り廊下の前後を敵に囲まれるという最悪の状況にたたされた。
鬼を倒したあと、目の前からの敵の増援が来た。さらに後方からクライドの仕掛けた氷の床を突破した敵が追い付いたのである。
「彼の役目はあくまで音を出すこと。仲間に敵がどこにいるのかを知らせるためのものです」
ソラの目の前にいる修道服の人だかりが縦に真っ二つに別れた。現れたのはハゲのオッサ……恐らく、教王クロノクリスである。
白い修道服の中で一人だけ赤いローブをはおり、手には先程の鬼とは比べ物にならないほど高級感溢れる杖が握られている。
ソラたちは無言で、いつ敵に襲いかかられてもいいように構える。
「ギーガン、下がって風呂に入りなさい。貴方は十分役目を果たしました」
「……はい。クロノクリス様」
先程の先生の『米』を浴びてしまった鬼はしずしすと退散した。
「侵入者、というのは珍しくないですが、まさかあなた方のような強者が三人も同時に現れるとはね。アンティノメルの最高峰であるソラ、リーフリィの自警団の長と同等かそれ以上と言われているクライド、そしてライスランド屈指の剣豪である先生!」
クロノクリスはすごいですね、と拍手した。軽蔑と侮蔑の合わさった嫌な音が渡り廊下に響き渡る。
ソラはこの状況をどうにか打開出来ないかと周囲を観察している。
「ジョン、ギーガン、ジェームズ、アルベルト。ノア新世界創造教の中でも戦闘力を武器にのしあがった四人が全滅するとは。あと残る幹部の中で戦闘が出来るのは私と巫女くらいですかね……もっとも、私が一番強いと自負しておりますが」
ハッハッハとクロノクリスは大声で笑った。もう勝ったつもりでいるらしい。
「その力をてにいれるために一体いくらの妖怪を犠牲にしたんだ!」
「おや、聞いていたのですか。妖怪から魂を抽出して、呪詛の力を移植する技術について。妖怪の死によって完成される力のことを」
教王を名乗る男はギラリとクライドを睨む。
「数百の妖怪の犠牲で世界を変える力が手にはいるんです。世界をより良き方向に満ち引くためには必要な犠牲です。……少なくとも、あなたが救えなかった人々よりはずっと少ないですよ?」
「なっ……」
「仲間の尻拭いもまともに出来ないガキに言われたくはありませんねぇ。ハッハッハ!」
剣を握ったクライドの腕が細かく震えていた。
次にクロノクリスは先生を指差して、欠伸をする。
「あなたの残虐さに比べたら私なんかかわいい方ですよ?どんなにチャンバラ道場を開いて子供たちを教えようがねぇ?変わらないんです。人斬りと呼ばれたあなたの過去はねぇ。そうでしょう?貴方が殺した人はもう二度と帰ってこない。全くもって無意味な話だ。」
「言わせておけば!」
先生がクロノクリスに斬りかかろうとするのをソラは制止した。
「落ち着いてください。勝てる相手にも勝てなくなります」
「ソラくん。いい加減トラウマと向き合い、その無表情をやめませんか?暗い部屋に閉じ込められて、ただひたすら命令される、あのときのトラウマとね!」
ソラの脳裏に『あのときの記憶』がフラッシュバックする。最悪の記憶を無理矢理引きずり出された。
「うああああぁ!!」
ソラは悲鳴にも似た叫び声をあげた。
「無様な格好ですね。そのままではいつか恋人に振られますよ?もっとも向き合ったところでつぶれるのが落ちですけどね。……ハハハッ。その顔、いいですねぇ!もっと私に見せてください。そそられます!」
目の前に敵がいて、一緒に戦う戦友がいて、そんななか五体満足なのにも関わらず、叫び出す自分。こんな姿をシュンに見られたら、考えるだけで体が震え、立てなくなる。
「うあ……あぁぁ!」
「ソラさん!落ち着いてください!あなたの恋人はそんな薄っぺらな人じゃないでしょう!」
「ソラ大丈夫か!落ち着いて深呼吸するんだ。君の好きな人の顔を思い出して」
トラウマの闇の中に一筋の光が差し込んだ。そうだ、シュンはトラウマに負けそうになったときも、いつでもそばにいてくれた。そうだ、思い出すんだ、シュンの顔を。
ソラは何とか正気を取り戻すことが出来た。
それでも戦力差は絶望的だった。前後から十数人の能力持ちを相手に自分達三人で勝てるか、と聞かれてたら流石に首を縦には振れない。その上ソラは精神がズタボロだ。
「クロノクリス!!」
クライドと先生の怒りの声で、なんとか雑念を振り切り、ソラは立ち上がった。
「皆さん、殺意がみなぎってますね。ではお望み通りとっておきの舞台、礼拝堂に案内しましょう。そこで、決着をつけましょうか」
数百人は入れる礼拝堂。その祭壇の背後には、高さ十数メートルにもなる巨大な壁画が描かれている。
壁画に描かれた人物の胸像は、酷く異様なものだった。その人物はげっそりとした顔つきで眼球がなく、眼窩から血が滴っている。髪の毛に見えるものはよくみると血液であり、見るものを不快にする。
これこそがノア新世界創造教で数千人が信仰する、創造神『ノア』である。
ソラ立ちは抵抗することも許されず、後方から信者にじりじりと追いたてられ、ここに閉じ込められたのだった。
クロノクリスは祭壇の前で演説を続ける。
「これより、愚かにも教内に侵入してきた愚か者を排除します。さあ、我らが主の前でその力を存分にお見せなさい!」
うぉぉぉ!という信者の声が礼拝堂を支配する。クロノクリスは世界最高峰がどの程度の力なのか、自分達の戦力はどの程度なのかを把握するため、拘束せず力でねじ伏せるらしい。
まだ、ソラの心の傷は癒えていないが、戦うしかなかった。
「先生!クライドさん!来ます!」
一斉に信者たちは攻撃してきた。
ソラの周囲が円状に光輝いた。攻撃を察知してステップバックすると、ほんの1秒前までいた場所に光の柱が立ちのぼった。
「『PFヘブンズ・レイ!』」
着地後、態勢を整える前に、目の前の信者の手から雷撃が放たれる。
「『PFヘルズ・ボルト!』雷撃波を食らえ!」
雷そのものはナイフで弾いたものの、衝撃によって後ろにぶっ飛ぶ。
受け身をとりつつ偶然そこにいた、クライドと背中合わせで構えをとる。
「敵は本当に全員がパラレルファクターみたいです」
「動きは洗練されていないけど、強力な力を持つ敵をこれだけの人数を同時に相手にするのは、俺たち三人でも……」
クライドは炎の魔法を目の前の信者に放った。しかし、白い修道服に届く前に透明な壁によって阻まれる。
「そんな生半可な攻撃、『PF ディフェンシブ・ウォール』には効かん!」
「反撃だ。『PF クイック・ランス』!」
「俺っちも行こう。『PF ソード・オブ・グリード』」
クライドは剣使いと槍使いに二人に襲われた。そのクライドを横から殴りかかる信者がいたので、後頭部に回し蹴りを決める。
「ソラ、ナイスフォロー!」
一方先生は先生で、敵の攻撃をかわしつつ的確に反撃していた。それでも、この人数は厳しいようで、体の至るところに傷がついている。
「ぬりゃ、りゃりゃりゃりゃりゃ!デイヤ!」
先生が一人信者を倒したかに見えたが、ソラは違和感を感じて『ヘブンズ・レイ』を避けつつ援護に向かった。
「いくら切っても無駄だ。私の『PF アクア・ラプソディー』は私の体を水と化し、攻撃をかわす!」
と、敵がいった瞬間に雷の魔法がそいつを貫く!
「あ゙あ゙あ゙あ゙バチバチバチバチ……」
「クライド、見直したぞ!うぬには天性の才があるようだ。とはいえ、このままでは持たぬぞ!」
一見強力な敵にも弱点がある。だが、それを加味しても数が多すぎる。
「多勢に無勢ですね……」
ポツリとソラは呟くとナイフを強く握りしめ、悠然と敵にたち向かっていった。