フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

ひな祭り ー当日ー 黎明 PFCSss13

 「これで終わり……ですか」

 目の前には、ソラたちの絶望を体現するかのような存在が浮いている。全員が力を合わせて、ようやく沈黙させたエアリス。それが全く同じ姿形で三機。
 容赦ないガトリングガンから仲間を守るため、ペストマスクの医者が真っ正面に立ち被弾した。さらに流れ弾を先生が弾き、ようやく敵の攻撃を防げた。
 しかし、ペストマスクは床で仰向けのまま動かない。先生は左手に玉が被弾しており、地面に膝をついている。
 
 エアリスはすでに発射体勢に移っている。次にガトリングガンを掃射されれば敗北確定だ。そうでなくても、ここにいるソラ、クライド、バトー、ショコラ、そして傷ついた先生にこの状況を逆転できるだけの力は残されていない。
 例えこちらが万全であったとしても、すさまじい再生能力と圧倒的な攻撃力を合わせ持つ、エアリス三機を沈黙させるような手はないだろう。
 ソラの頭に様々な幻影がフラッシュバックした。誘拐された時の光景、助けられた時に浴びた日光、ヒーローになった日の様子、ルーカス様、そして……愛する人の顔。
 自分はこれから死ぬんだ……。ソラは死を覚悟して、下を向き、両腕を前で交差した。これから走るであろう激痛に耐えるためだ。
 地面に向いたとき、ペストマスクと目があった。腕に緑色に輝くメスが握られていて、柄をこちらに差し出していた。ソラは反射的にペストマスクが何を望んでいるかを察して、そのメスを受け取った。


 その瞬間、解剖鬼の言葉が脳裏に響いた。一秒にも満たない出来事にも関わらず、ソラは解剖鬼の伝えたことを全て理解した。

 『このメスは私の力、パラレルファクター・アンダーグラウンドの源だ。メスの内に妖怪の魂が宿っている。このメスを失えば、今の私は仮死状態になってしまうが致し方ない』

 『飛び去ったエアリスを逃せば恐らく都市国家カルマポリスに向かってしまうはずだ。カルマポリスはこの国からそう遠くはない上、町のエネルギーをワースシンボルと呼ばれる巨大な水晶に頼っている。ワースシンボルが奴の手に奪われれば、国一つ分のエネルギーがエアリスの手に落ちることになる。さらに運が悪いことに、カルマポリスは妖怪の国だ。PFを量産できる下地が揃っている』

 『あと少し耐えれば、人質がいたために動くことが出来なかった、カルマポリス・ドレスタニア・アンティノメル・リーフリィ・ライスランド・クレスダズラ連合軍が増援に来る』

 『増援が来るまでエアリスを押さえつけて欲しい』

 『無理を承知で頼んでいる。私が始めたのにもかかわらず、自分の尻拭いさえ出来ない。君の見込んだ通り、私はとんだ悪党のようだ。厄介ごとだけ押し付けて、自分は仮死状態ときているクズだ』

 『だがパラレルファクターの力だけは本物だ。主でないソラでは潜在能力を引き出すだけで精一杯だろうが、君は私たちの中で一番若く、可能性がある。自分を信じるんだ』

 『もうすぐ夜が開ける。君が勝つにしろ負けるにしろ、黎明の刻、決着がつく。世界を救え!ソラ!!』


 メスはソラの中に取り込まれるように消えていった。

 ソラは今まさにガトリングガンを放とうとしているエアリスと、仲間の間に立ち、ナイフを構えた!

 ソラは感情がなかった。正確に言えば押さえつけていた。過去に誘拐されたとき、恐怖や苦痛などの圧倒的な負の感情をから自分を守るため感情を、記憶を封印した。ソラが今までずっと敬語で話し、表情を変えずに感情をこめず話すのはこのためであった。
 しかし、解剖鬼のメスに触れることで神経を一時的に書き換え、ソラの記憶と心が甦った!



 ソラの心に鼓舞されるかのようにバトーが立ち上がった。

 「……救い出さなければならない人がいる。エスヒナと約束したんだ。絶対に……彼女を……セレアを助けると!」

 クライドもそれに続く。

 「俺たちには帰りを待ってくれる人がいる。こんなところで倒れたら、ラシェやラミリア達になんて言い訳すればいい!俺を信じてくれる人がいるんだ。俺は絶対にあきらめない!」

 先生が再び闘志を燃やす!

 「私は絶対にお前に打ち勝ち、勝利の白米を、(あとお菓子も)子供たちと一緒に頬張るのだ!こんなところで立ち止まっている暇はない!」

 エアリスがドレスを翻しながらいい放つ。


 『何をどうしようが、この絶望的な戦力差は変わらぬ』
 『貴様らの冒険はここで終わりだ』

 『菓子にうつつを抜かした過去のお前ら自身を恨むがよい』

 ソラは嘲笑を響かせるエアリスを無視してクライドに話しかけた。

 「クライド、剣を借りるよ」

 「その様子……何か手があるんだな!」


 ソラは静かに頷くと、クライドから剣を受け取った。


 「解剖鬼さんから、とって置きのプレゼントを貰ったんだ。俺は……いや『僕は』……僕のままで戦う」

 「ソラ……その口調……」

 「……僕のこの口調、見せたことなかったね」

 ソラはエアリスに向き直ると剣とナイフを構えた。解剖鬼のメスによってソラの潜在能力が引き出されていく。
 それが頂点に達したとき、ソラは剣を振るった。

 剣は何もないはずの空間を切り裂き、穴を作り出した。その中にソラが入ると、エアリスのうち一機が真っ二つに引き裂かれ、その間からソラが飛び出した。
 さらにもう一機のエアリスの胴をぶったぎる。

 「入ると別の場所に瞬間移動する穴を作ったのか!なんという奥義!奇跡でも起きたか!」

 先生が思わず叫んだ。

 3機中2機のエアリスが胴をぶったぎられ、攻撃を中断した。
 残る一機は掃射に成功したが、先生が刀を使い、何とか玉を弾いた。片腕ケガしているわりに全く剣の腕が落ちていない。

 「君に何が起きているのかはわからない。でも、何はともあれ……やってやれ!ソラ!」

 クライドに氷斬剣を新たに作り出し、渡したバトー。その声援にソラが答える。

 「うん!ただ、長くは持ちそうにないんだ。攻撃の度に力が抜けていくのを感じる。一人で戦うと多分、一瞬でいつもの状態に戻ると思う」

 ショコラが嬉々とした表情でフォローする。

 「私たちがサポートするので、出きるだけ長く持たせてください。皆で戦うんです!」

 ソラは光のともった目で声援に答えた。


 「貴方達の安全も考えないとね!」


 そう言うと目に止まらない速さでナイフで仲間の空間を切り裂き、万が一ガトリングガンが撃たれても関係ない方向へと繋がるワープホールを作り出した。

 「僕らは戦うんだ……仲間のために、皆のために!」

 ソラは剣には炎を、ナイフには冷気をまとわせた。この力によりエアリスの機能を停止させるようとする。

 エアリスの内二機は復元を終えるとマシンガンを乱射した。

 さらにもう一機は手を刃のついたドリルに変形させ突っ込んできた。

 「僕には効かない!」

 ソラは目の前の空間を切り裂きマシンガンの玉を防ぎつつ、ドリル持ちのエアリスの頭部を空間ごと切り裂き、異空間に消し飛ばした。

 「ソラ!ナイスだ!シャゥ!!!」

 頭部を破壊されたエアリスの体を、先生が一刀両断した。エアリスはたちまち気体と化し、蒸発する。

 「僕は戦うんだ!逃げない!どんな逆境だろうと仲間と支えあって乗り越えてやる!」

 さらに、マシンガン持ちのうち一機に接近すると、炎の剣と冷気のナイフでエアリスを目に止まらぬ速さで一気に切りつけた。

 切りつけられたエアリスは再生不良に陥った。フラフラと地面に落下するエアリスをショコラがとらえた。

 「これで止めです!」

 ショコラの奇襲により二機目のエアリスは頭部を凍結され、胴体は蒸発した。

 残る一機のエアリスも両手を剣に変えてソラを強襲する!

 「効かないよ!僕は今…全てを出し切る!」

 エアリスの剣を、胴体を、頭部を、熱気の剣と冷気のナイフで切り裂く!
 そして、墜落したエアリスにバトーとクライドが止めをさした。

 「矢面に立って、皆を助ける。困っている人がたとえこの地のはてにいようとも全力で助けにいく!そこに国も種族もない。それがアンティノメルの……ヒーローだッッッ!!!」

 オオオオ!というすごい早さでなにかが飛行する音が、破れた絵画の穴から聞こえてきた。

 ソラはその隙に、ナイフとメスを持ちかえ、先生の傷口から銃弾を摘出し、服を破り包帯の代わりにして治療する。
 さらにエアリスが開けた絵画の穴の中に入り、奥へと突き進んでいく。絵画の中は緩い傾斜になっており、幅十メートルはある巨大な通路となっていた。左右の壁に蛍光灯が埋め込まれており、無機質な光で部屋を照らしている。

 奥からジェット噴射の音と共に、もう一機のエアリスが出現した。


 『エアリス5 交戦する。貴様らはどうあがいても勝てん』

 「まさか、あやつは量産機か!」

 「でも、僕たちは既に君たちを停止させる術を持っているよ!さあ、止まれっ!」

 出てくれば出てくるほどソラの腕は上がっていく。ソラはクライドに炎を宿らせた剣を返すと、ナイフでエアリスの頭部を的確に凍らせた。

 クライドは残る魔力を全て使い、剣の炎を強めるとエアリスの頭部に突き刺す。さらにショコラが追撃をして、流れるようにエアリスを破壊した。

 ソラ、クライド、バトー、ショコラ、先生はさらに奥へと突き進んでいく。下り坂が終わると、通路の左右の壁がガラス張りになった。その中にはまるでファッション展のマネキンのように、直立したまま動かない、エアリスが並んでいる。

 「エアリスが同時に起動できるのは恐らく三機まで。でも、在庫は……相当な量がありそうだね」

 クライドが苦悶の声をあげると、ソラが言った。

 「でも、何機来ようが僕たちは負けない!」

 ソラはメスを手に持つと、空間を切り裂きワープホールを作った。数百メートル先に繋がっている時空の穴だ。
 ソラたちがワープホールを潜り抜けた先には、巨大な空間が広がっていた。薄暗い空間に黒いビルのような建物がいくつも立ち並んでおり、その窓一つ一つの内側に緑色の液が満たされており、異形の生物が浮いている。
 異世界にでも来たかのような錯覚に陥る空間を進んでいると、真横の建物の窓がいきなり割れて、中からエアリスが飛び出してきた。


 『エアリス6 交戦する。言っていられるのも今のうちだ』
 『エアリス7 交戦する。やがて、決して勝てないことに気づくだろう』


 ソラは解剖鬼のメスを大きく振りかぶると、新たに飛来した二機のエアリスに向かっていった。
 ナイフでエアリス6を凍らせ、頭部を解剖鬼のメスで突き刺す。アンダーグラウンドが発動し、脳神経を書き換え修復機能を無力化する。
 さらにソラのメスを避ける際に隙のできたエアリス7に、ショコラが剣を突き立て、クライドが熱し、バトーが止めを刺す。

 五人はさらに突き進んでいく。

 突然、クライドの黒髪が激しく揺れ、暴風が一行を襲った。カマイタチだ。
 ソラとその後ろにいた先生、なんとか耐えることができた。ショコラに至ってはあり得ない動きでカマイタチをかわした。しかし、バトーが風の刃に容赦なく切り裂かれた。吹き飛ばされて、建物の壁に激突する。


 「バトーさん!」


 ソラが近づこうとしたとき、


 「俺に……構うな!お前の成すべきことを成せぇ!」


 とすさまじい剣幕でバトーが叫んだ。


 「……でも……」

 「行けッ!ソラ!」


 迷うソラの手をクライドが引いた。クライドはバトーの意思を尊重したのだった。


 『エアリス8 交戦する。いい加減、諦めたらどうだ?』
 『エアリス9 交戦する。何機倒されようか蚊ほどにも
効かぬ。どこまで行こうと貴様らの望む場所にはたどり着けぬ』
 『エアリス10 交戦する。貴様らに与えられるのは絶望だけだ』



 「だったら早いところカルマポリスに行ったらどうなんだい?この奥にエアリス……いやクロノクリスにとって絶対に俺たちに渡すことのできない大切なものがあるんだよね?だから俺たちを野放しに出来ない。余裕ぶっていても内心は慌てているんだろう?」


 ソラはエアリス8に熱を帯びたナイフを突き刺し沸騰させ、ショコラに向かって投げた。ショコラが的確に頭部を凍らせ、クライドが胴体を切り裂き、先生が頭部を『白米断』して破壊する。

 さらに気合いをいれるとエアリス9に解剖鬼のメスとナイフで、すさまじい斬激を放ち、再生不能になるまでエアリスを切りつけた。

 だが、このときにソラの体に変化が訪れた。


 「ハァ……グッ……なんでしょう……急に力が……」


 急速に解剖鬼のメスの力が衰えてきたのだ。

 『エアリス11交戦する。パラレルファクターの力はそう容易く扱えるものではない』
 『エアリス12交戦する。時間切れだ。消えるがいい!』

 一瞬の隙をつき、クライドにエアリス10が接近した。クライドは燃ゆる炎の剣で切りつけようとするが……


 「こんなときに……クッ……まっ……魔力切れ……かよ」

 クライドの剣が弧を描きながら宙を舞った。

 脇腹を貫かれ、クライドはその場に膝をつき、ゆっくりと倒れる。クライドを中心に赤い円が広がっていく。
 真っ先にショコラがクライドに近づき、傷口を凍らせようとする。

 だが、二人のエアリスのガトリングガンによって阻まれてしまった。
 ソラはなんとか避けたものの、先生が被弾してしまった。


 「ぐふぅ……ちっ……おむすびさえあれば……」


 倒れていく先生を見ながらソラはショコラに叫んだ!


 「行ってください!この場は僕たちがしのぎます!」


 ナイフでショコラの横を切り裂いた。空間の裂け目が作られ、ショコラの体が勝手に引き寄せられる。


 「そんな、無茶苦茶ですよ!今すぐやめて……」

 「ショコラさん、皆を……世界を頼みましたよ……俺は……もう……無理です」


 弱音を吐き出す。口調、声の抑揚、いつものソラへと戻った。消え去る直前にソラに解剖鬼のメスを託す。

 ショコラはワープホールによって、さらに数百メートル前方まで飛ばされた。
 残ったソラは無表情でエアリスと向き合っている。

 『ほう。ショコラ一人だけ先に行かせたか。まあ、よい。あやつにアレがどうこうできるはずがない』
 『我々は残ろう。エアリス12、ショコラを足止めしておけ』
 『エアリス12 了解した。抜かるなよ10、11』


 一機減ったとはいえ、まともに動けるのはソラだけだった。先生、クライド、バトーはもはやピクリとも動かず、耐え抜いたソラも、感情と潜在能力の解放の代償として全身の筋肉が痙攣していた。


 「でも、それでも俺は……」

 『そうか。ならば死ね』