ルビネルの修行願い PFCSss6
ルビネルの捜索願い PFCSss
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/28/091650
ルビネルの手術願い PFCSss2
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/31/172102
ルビネルの協力願い PFCSss3
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/01/083325
ルビネルへの成功願い PFCSss4
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/02/153244
ルビネルの豪遊願い PFCSss5
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⬆このssの続きです。
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ガーナ王がドレスタニアの一流の占い師に聞いたところ、ルビネルの探す『人』は今日から丁度一ヶ月後に、とある場所に行くことで出会えるらしい。占い師曰く、『三本の腕のうち、最初の一本があった場所』と言ったそうだが、私にはなんのことかさっぱりだった。
だが、ルビネルは一度その場所に言ったことがあるらしくピタリと場所を言い当てた。
占い師の言葉で決戦の日を特定した私たちはその日までの計画をたてた。
主に稽古についての計画だ。
ドレスタニア城の一室でガーナ王とルビネルが向かい合っていた。私はそれを腕を組み壁に寄りかかりつつ眺めている。
ルビネルはサポーターをつけた右拳を大きく振りかぶると、ガーナ王に向かって殴りかかる。それに対してガーナは足を一歩引き上体を左にひねり、脇を閉め、肘を軽く曲げつつ拳を付きだす。
ルビネルの力のこもった拳はガーナ王の腕に受け流され、あっさりとかわされてしまった。前のめりになったルビネルの足を、ガーナが足さきを使って軽く引き寄せると、ルビネルはいとも簡単にすっころんでしまった。
「拳は必ず最短距離でつき出さなければならない。振りかぶるなど愚の骨頂だ」
ガーナは右拳を腰まで引くと、しゅっとジャブを極めた。脇を締め、途中まで力を抜きつつ前に拳をつきだし、最後に腕の筋肉を緊張させ極める。そして極めたと意識した時にはすでに力を抜いて次の動作に繋げられるように構える。最低限の力で最高最速の拳撃を繰り出したのだ。あまりの合理さに恐怖を覚える。
「さすがです。ガーナの旦那」
隣で見ていた老人がニヤリと笑った。
私たち三人は決戦を前にしたルビネルに武術指導をしていた。鬼の遺伝子を移植すれば格闘戦も可能になる。ルビネルは既存の戦術であるボールペンを操る呪詛に加え、格闘も出来るようになる。だが、紛いなりにも格闘術を身に付けておかなければそれも宝の持ち腐れだ。そこで、私たちはルビネルにあれこれ手解きしているのだった。
「解剖鬼、お手本に相手をしてくれるか?」
私は下がるルビネルと入れ替わる形で静かにガーナ王と向き合った。
「かかってこい」
「怪我をしても知らんぞ?」
私は訓練用の木製の短刀を取り出すと構えた。ガーナ対して慎重に距離を詰めていく。ガーナ王は時々踏み込んで牽制をかけ挑発をしてくるが、決して私の射程に入ってこようとしない。
私は見切りをつけ一気に踏み込んで短刀を振った。矢継ぎ早に斬撃を繰り出していくも、突如としてガーナが繰り出した小石によって優劣が決まった。
攻撃に集中して防御がおろそかになった私は、無理に小石をさばいたため懐ががら空きになった。決してガーナの動きは早くなかったものの無駄がなくあっさりと私の腹に一撃を食らわせた。
ルビネルがガーナに向けて拍手を送った。
「体の使い方次第で凡人でも化け物に勝てるのだ。さあ、次だ。ルビネル」
私はうめきながら「あんたが化け物だろうが」とぼそりと呟いた。
老人に聞こえたらしく意地悪な笑みをこちらに向けてくる。悪童か、お前は。
ガーナの真似をして必死に拳のからうちをするルビネル。あれほど動ければ将来は有望だろう。いいや、有望だったというべきか。
ルビネルは汗を頬に滴らせながらガーナ王と打ち合う。りりしく健康的で美しい横顔が私の気持ちをさらに暗くした。
「そうだ。それでいい」
「はい!ありがとうございますっ!」
ハキハキとした声はとても一ヶ月後に死ににいく者とは思えない。私の知る余命一ヶ月の人は、あのように目を輝かせたりはしなかった。ただただ死の恐怖に怯え、私に亡者のごとく泣きついてくる。
ルビネルは違う。本人が死にたい訳ではない。死に値するような罪もない。誰に憎まれている訳でもない。将来有望で、未来ある若者だ。私はそんな人に対して、死を伴う危険な手術をした上で想像を絶する苦痛をあたえ、死地に送り出すことなど望んではいない。
「随分と暗い顔をしているようじゃの」
腹を抱える私に、ウェディングドレスを着た少女が話しかけてきた。銀髪を揺らめかせ不敵に微笑んでいる。
私はその姿に戦慄し思わず後ずさった。老人がすぐそばでゲラゲラと笑い声をたてた。焦げ茶の帽子がずり落ちそうになるほどだ。
「滑稽ですぜ。旦那ぁ」
私は老人の言葉を無視して彼女に話しかけた。彼女の背丈は私の身長の大体半分ちょっとしかない。確かに滑稽な光景ではある。
「ばっばかな、なぜお前がここに?!」
「こやつに話しかけられてのぉ。強い輩と戦えると聞いて見にきたわけじゃ。ちと、早すぎたがのぉ」
どうやら老人が強化後のルビネルの最終テストとしてつれてきたらしい。セレア・エアリス。液体金属の体をもつアルファ(金属生命体)である。私は以前、他者に乗っ取られたこいつに半殺しにされたのだ。それ以来ウェディングドレスを見ると身構えてしまう。
「なるほど、なかなかいい感覚をしておるのぉ」
「ああ。だがそれだけではない。約一ヶ月後、彼女に強化手術を行う」
私はぶっきらぼうにそう答えた。
「お主がか。意外じゃのお。そこで笑っている奴にでも脅されたか?」
「そうです。俺が脅しやした。そうすりゃ旦那も言い訳できるでしょう?それに、あのお嬢さんの決意は本物だ。俺は惚れたんですよ、あの芯の強さにね?
ルビネルはガーナに対して必死に拳や蹴りを放っている。先程のアドバイスが効いたのか、かなり正拳付きの精度が上がっている。
ガーナがセレアに気づいた。が、特に何事もなかったかのようにルビネルの攻撃をいなした。セレアに関しては恐らく現ドレスタニア国王であるショコラから聞いていたのだろう。
私は老人に対してため息をついた。
「それでも成功率六割の上に、成功しても戦闘後に再手術しなければ寿命が一週間になるような殺人手術をやるのは気が引けるがな。ガーナと言い、お前と言い、彼女の意思と宿命を尊重するのはわかるがちょっとは情けを……」
「敵にしろ味方にしろ情けをかけているようでは『やつ』に勝てんぞ?」
私は目を見開いてエアリスを見つめた。ドレスについた埃をポンポンと払うとエアリスは続けた。
「わらわもあやつの存在に気づいておる。あんまりにも強大な呪詛であったからのぉ。そこでどうしようか考えていたところ、そこのジジイを知ったのじゃ。お互いあやつを止める、という共通の目標のもと、わらわは同盟を結んだ」
「ルビネルが負けたときの保険ですぜ」
私は少しうつむきペストマスクを撫でる。一瞬、脳裏に血まみれになって地面に突っ伏すルビネルの像が浮かんだ。
「ルビネルが負けたときセレアがあいつの相手をすると」
セレアは幼すぎる顔にシワを寄せた。まるで機嫌を損ねた幼子のようだ。だが、その口から放たれる言葉にはしっかりとした重みがある。
「いいや、わらわでは勝てぬ。精々できることはお主らが逃げるまでの時間稼ぎじゃ」
かつて十数人の英雄と対決し、生き残った猛者の容赦ない一言だった。
「おっと時間じゃ。また後日会おうぞ。恩人よ」
そう言ってセレアは行ってしまった。思わず私は首を左右に振った。セレアが勝てない相手とはいったいどんな奴なんだ。邪神か何かだろうか。
「全く……自由気ままなガキですねぇ」
その数十秒後ショコラ王の笑い声が王宮に響き渡ったが私は耳を塞いでやり過ごした。
決戦を一ヶ月後にそなえ、私たち三人でルビネルを徹底的に鍛え上げた。もともとルビネルに格闘に心得があったのもあり、みるみるうちにルビネルは上達していった。
私は彼女のひたむきな姿勢を見て、ますます強化手術に対して反感を抱くようになった。しかし同時にルビネルの必死さにも心を打たれた。彼女は命を捨ててでも恋人を止めたいのだ。
私にはもう、何が正しくて何が間違っているのかわからない。
だれか教えてくれ……。