フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

ルビネルの施術願い

ルビネルの捜索願い PFCSss

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/28/091650

ルビネルの手術願い PFCSss2

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/31/172102

ルビネルの協力願い PFCSss3

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/01/083325

ルビネルへの成功願い PFCSss4

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/02/153244

ルビネルの豪遊願い PFCSss5

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/03/075127

ルビネルの修行願い PFCSss6
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/04/224102

こちらのssの続きになります。





 「逃げ出すなら今だぞ?私は止めん。むしろ手助けする」
 「いいえ。私の思いは誰からなんと言われようが変わらないわ」

 解剖台に横たわる艶かしい肉体。鹿の足のように細く美しい足、引き締まった腹、豊満な胸、そして台の上に散らばる黒髪。

 それを見下ろしているのは、全身を濃い青色のビニール性手術着に身を包んだ私だ。ペストマスクも使い捨て用のものに着替えている。

 私の能力は『メスを使って切る、留める、縫合(回復)する』というものだ。つまり解剖をメス一本で行うことが出来る。メスで触れさえすれば恐ろしいほど精密に操作出来ため、化け物じみた手術も可能になる。

 今回の手術は全身に鬼遺伝子を移植すること。ただ、直接移植するには全身の細胞一つ一つにメスで直接触れなければならず非現実的だ。そこで私は鬼遺伝子ウィルスを開発した。全身の細胞に感染し、鬼遺伝子を埋め込んだあと、勝手に自己崩壊するウイルスだ。

 このウィルスをメスに仕込み、全臓器に埋め込むことで、最低限の時間と労力で、全身に鬼遺伝子を行き渡らせる。
 が、彼女の肉体を切り刻むという事実はかわらない。

 「さあ、ドクター早くはじめて。こうして寝てるだけでも、ちょっぴり怖いんだから」

 「だったら止めればいいじゃないか」


 もっともそんな選択は彼女に残されていない。彼女がもし、手術を耐え、『あの人』を止めれば、たくさんの人が犠牲から免れるはずだ。私的な恋人への思いと激情が、社会的な理由を得たことにより、さらに強固になった。もはや誰も彼女を止められはしない。


 「わかった。……その前によく体を見せてくれ。君の生の肉体を見ることが出来るのはこれが、最後だから」

 「いいわよ。好きなだけ見て頂戴」


 見れば見るほどもったいない肢体だった。穢れのない純粋無垢に見える、白い肌。それも、今日で最後だ。鬼遺伝子の副作用は外見にも反映されてしまう。

 本当になぜこの体を切り開かなければならないのか。

 どれだけの時間がたったかわからなかったが、とうとう私はみるべきものを全て見終えてしまった。


 「ありがとう。私は君のその美しい体を一生忘れない。そして、さようならルビネル」

 「ええ、失敗したらまた来世で会いましょう」


 私は注射器を取り出すと、ルビネルの腕の中央にあるか細い静脈に麻酔薬を注入した。彼女は目をつぶり、静かに寝息をたてはじめた。

 私は解剖用のメスを手に持つと、ゆっくりとルビネルの白い肌に突き刺した。

 ひとたび術式が始まれば、私の心は嫌がおうにも冷静になる。私はまるで決められた作業をこなすロボットのように、ルビネルの体を切り刻んでいった。


 この瞬間、人とは何なのであろうかといつも思う。体を切り開き、臓器の一つ一つをまじまじと見つめると、これが人の生命を維持しているとは到底思えない。
 卵豆腐を少し薄くしたものにシワをつけ、一ミリに満たない黒く細いホースを張り巡らした物体が、人の記憶や行動、俗に言われる心とやらですら管理しているらしいが、とてもそうは思わない。

 肉屋のモモ肉をもう少し濃くした握りこぶし大の物体にちょっぴりの黄色い脂肪と、植物の蔓のように血管が巻きついたものが、生命を司る心臓という臓器なのだと言われると酷くげんなりした気分になる。

 垂れ下った黄色いスポンジのようなぶよぶよした半円形の物体に触れるのが、男の夢らしい。何だか笑えてくる。

 理屈でわかっていても感情が拒否する。これがあの可愛らしい少女の中身だとは思えない。確かに整然と収納され、芸術的とも言える配列で、生命を維持している臓器たちは非常に精巧で美しいとは思うが、それとこれとは違う。

 ただ、これこそがルビネルの肉体であり生命であるという事実に変わりはない。これを絶やしてはいけない。

 ガーナ王に渡された『設計図』の情報を頼りに、私は黙々と作業を進めていった。

 手は震えない。指先の神経の一本一本に命令を出しているような気分だ。恐ろしいほど自分の腕が、指が、自由に動く。

 自分の出来ることを淡々と進めるのだ。あの鬼畜に言われたではないか。普段と同じように冷酷に冷徹に、やるべきことをやる。そうすればきっと……

 大粒の汗が額から垂れるのを感じる。体力には自信があるはずの自分の肉体が明らかに悲鳴をあげていた。さすがに休憩なしでぶっ続けで手術をするのは、いくらなんでも無茶だ。とはいえ鬼遺伝子ウィルスの進行具合を常に確認しなければならないため、休んでいる暇もない。制御に失敗したら水の泡だ。

 ルビネルは言った。『私が止めなければならない』と。彼女はそれだけのために自らの肉体を捨て、化け物と成り果てようとしている。私にそれを止める権利はない。私に出来るのは、彼女の意思を尊重し、彼女の思いに答え、確実に手術を成功させることだけだ。

 ひたすらメスを動かす。この一刀が彼女の未来を切り開くのだ、と自分に言い聞かせる。しかし、実際は彼女の肉体を傷つけ命を削っているに過ぎない。
 精神的にも肉体的にもあまりに辛い所業だった。どうすればこの苦痛から逃れられるのだろう。考えても答えは見つからない。今自分のしていることが正しいと信じて進むしかないのだ。

 ここが正念場だ。私の心が折れないうちに手術よ、終わってしまえ!

 数時間後、私は部屋の端で座り込みながら、心電図の波形を眺めていた。だんだんと弱まっていく電気信号に危機感を覚える。彼女に薬剤を注入しつつ、もしものために準備を急ぐ。だんだんと乱れる彼女の呼吸。流れ出る汗。各種検査を開始する。

 だが、その検査中に心電計がアラートを発した。私は心臓マッサージをしつつ、いくつかの薬剤を彼女の腕に注入した。焦燥感にかられ、発狂しそうになる自分をどうにか理性で押さえつける。

 病巣と思われる場所にメスを突き刺し引き抜いてから数分待つと、彼女は静かな呼吸を取り戻した。
 意識が飛びそうなのを必死にこらえながら彼女の様子を見守る。
 耐えろ……耐えてくれ、今が峠だ。ここを乗り越えればッ!

 そして、さらに数十分後、彼女がもぞりと動いたのを見て、慌てて駆け寄った。



 「おはよう、ルビネル。気分は?」


 私はベッドに横になっている彼女に声をかけた。ゆっくりと彼女は目を開ける。そして、自分の体がどうなったのか、ということを長い時間をかけて受け入れた。

 「……生まれ変わったみたい。とても自分のからだとは思えない。……随分と奇抜な模様ね」

 「呪詛によるの黒色の肌と鬼遺伝子の副作用である青い表皮が混じりあった結果だ。顔と手首足首だけはどうにか元の形を維持した。私のようにコートを着れば問題ないだろう」

 おめでとう、とは言えなかった。彼女の寿命は残り六日と十四時間だ。それに、いくら手術に成功しても、負けてしまっては意味がない。

 「そう……」

 疲れからか、安心からか、再び彼女は眠りについてしまった。顔だけ見れば以前と変わりない。それがせめてもの救いだろう。

 私は手術が終了したことを伝える緊急コールを行い、引き継ぎに来た凄腕のアルビダ医師に必要事項を伝えると、目の前が真っ暗になった。