フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

タニカワ教授とセレア口調 PFCSss

 「タニカワ教授?」

 研究室で私がレポートを書き込んでいると、机を挟んで反対側から声が聞こえた。私の助手を名乗る生徒は前屈みになり、両手を机の上に置いて私をガン見している。

 「なんだい?ルビネル」

 「あなたに『相談したいことがある』と言った子がいるんですが……」

 ルビネルは背筋を伸ばし、胸を張るとその黒髪をバサリと揺らした。しなやかな黒髪の毛がふわりと舞う。

 「お時間頂けないでしょうか?」

 「いいけれど……私はスクールカウンセラーじゃないぞ?」

 彼女は不敵な微笑みをこぼしながら、研究室を出ていった。





 「こんにちは、なのじゃ! わらわの名前はセレア!」


 入れ替わり入ってきたのは、白いドレスのような服を来た女の子だった。私の推測では外見年齢12才で、今年二十歳になったルビネルよりはずっと幼く見える。


 「こんにちは。私はこの学校の教授をしているタニカワだ。よろしくお願いするよ」

 「おぉ! よろしくなのじゃ!」


 差しのべた手を嬉しそうにぶんぶん握手してくれるセレア。銀のショートカットが手に合わせてふわふわ揺れた。
 ルビネルの魅力を『綺麗』と定義するなら、彼女――セレアの魅力は『かわいい』と位置づけられるだろう。ニンマリと笑った顔には父性を刺激する力がある。


 「そこの椅子座っていいからね?」

 「気が利くのぉ。それじゃお言葉に甘えて」


 セレアの身長だと胸から上しか机にかくれて見えなくなった。腕枕を作るとそこに顎をのせてセレアは話始めた。

 「早速じゃが……実はのぉ。この通りわらわは特徴的なしゃべり方なのじゃ。最近、周囲からどう見られているのか気になり出してなぁ」

 一端話を切り私の様子をうかがうセレアに、私は『続けて』と呟いた。女の子の悩みというのは他人に話すだけでもかなり改善してしまう。相談することで論理的に解決してほしいのではなく、気持ちを共感して欲しいという欲求の方が強いからだ。

 「そしたら気になり出したらなぁ。わらわの話し声を聞いた大人が笑っているような気がしてな。この前も子供に指を指されたし。きっと相当変な風に見えるんじゃろうな……いや、実際変なんじゃろう。今朝もなんか言われたような気がしたし、偶然にしてはあまりにもそういうことが多すぎる。最近悩みで夜も眠れなくなってきた。改善しようと思ってもこの通り、産まれてこのかたずっとこの口調だったから直すに直せん。かといって、周りの視線は気になるし。うーん、どうしたものかのぉ……」


 ダムから水が溢れるかのようにセレアの口から言葉が出てきた。どうやら悩みを相談できる相手がいなかったらしい。私は無意識のうちに悲しげな表情をしながら耳を傾けていた。
 私は話終えたセレアを見据えて言った。


 「君は私に具体的なアドバイスを求めているのかい?それとも、慰めて欲しいのかい?」

 「アドバイスを頼む」


 セレアはきっぱりと言い切った。そのわりには顔を腕にうずもれてだらりとしている。こうしている間にも彼女なりに答えを導き出そうと奮闘しているようだった。
 私はそんな彼女にできる限り優しく声をかけた。

 「セレアさんは周囲の人を気にしすぎだと思う。例えば……もし、君が散歩しているとき全く知らない異国語を話している人がいたらどうする?」

 「ちらりと見るな」

 「その後は?」

 「後?」

 「セレアさんはその異国語を話す人に話しかける?ついていく?笑う?」

 「無視するな。気にも止めんかもしれん」

 「そうだ。君の口調にも同じことが言える。周りの人は君が思っているほど君の語尾を気にしていない。一瞬違和感を感じてちょっと見て、何事もなかったかのようにもとの作業に戻る。それだけだ」


 なにかを思い付いたようにセレアは机をバンと叩き、前のめりになった。びっくりした。

 「なるほど! お主の言う通りじゃな。人はいちいち赤の他人の話し言葉なんか気にしておらん。気が楽になった気がするのじゃ」

 私はつい授業のノリで補足をした。悪い癖だ。

 「船が行き来するようになって、必然的に人は方言や異国語に触れ合う機会が多くなった。閉鎖的な集落での話ならともかく、転校や転入が多いこの都市では普通のことだ。特別な存在でも、嫌がらせの対象でもない。話すときに相手に言葉の意味がちゃんと伝われば何の問題もないんだ。何か質問は?」

 「大丈夫。今夜はぐっすり眠れそうじゃ」


 さっきまでとはうってかわってハツラツとしているようだった。彼女は笑顔がよく似合う。
 私は彼女の頭をゆっくりと撫でた。一瞬ビクリとしたけれど、照れ臭そうに頭をつきだしてきた。滑らかな髪の毛の触感が私の指を通じて伝わってくる。何度でも撫でたくなる髪の毛だ。
 数分経ったあと、私がハッとして彼女の頭から手を引くとセレアはいたずらっぽく微笑んだ。

 「もっと撫でてくれんか?」