フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

夢見る機械 斜陽 ss9

 放浪生活二日目。朝起きたら夕日だった。どうやら青い空と言うものはこの世界に存在しないらしい。店の店員や道行く人にカルマポリスに戻る方法を聞くが、いっこうに手がかりはつかめない。
 それならばと空を飛び探索を行った。住宅地が続き、やがて田園の緑色に視界が染まり、それでもずぅっと飛んでいくと海に出た。どうやら、この世界に大陸と呼べるものは先程いた島だけらしく、その先は地平線の果てまで何もなかった。ただただ、夕日に照らされ黒ずんだ海だけである。
 さらに空を飛び続けると、ようやく島が見えてきた。島を空から様子を偵察するととうもおかしい。田園風景、村、町……どこかで見たような気がする。着陸して確認すると、そこは先程までいた島と全く同じだった。つまり、島の右端からずぅっと飛んでいくと島の左端に出てくる。ループしているのだ。
 何度目かのため息をついてから、偶然見つけた川辺に腰かけた。家を失った者共の集落がそこかしこにあるが気にする気力はない。


 「今日も収穫なし。……はぁ、孤独じゃ。タニカワでも誰でもいい。知っている人の声を聞きたい」


 放浪生活三日目。
 見る場所見る場所知らない場所。帰る場所はなく居場所もない。宛もなく、ただただ道行く人にこの空間の出口を聞く。
 今日もまた別の町に立ち寄る。塩の香りと生魚の生臭い臭いがする。風は湿気と砂と塩を帯びており、あまり心地よくない。店がほとんど海鮮丼か寿司だった。その他には屋台が少々。寿司寿司どんぶり......和国で聞いたことがあるが実際に見たのははじめてだった。奥に進むにつれてどんどんその傾向は強くなり最終的には漁場に出た。少し大きめの建物があったので入ってみると、そこら中に白い箱がおいてあり、氷と一緒に魚が納められていた。その前で景気のいいおじさんが商売文句をうたい魚を売りさばいている。銀色の魚が旬だとかで高値がついていた。少なくともわらわはこんな値段で魚は買わんな、と思った。......思ったら、頭をギラギラさせたおじいちゃんが落札してた。ようわからん。
 その後、一通り町を回って聞き込みをするも成果なし。
 人に奇異の目で見られるのも飽きてきた。


 「この生活はいつまで続くんじゃ……。じゃが、少なくともこの町にいる限り差別は受けないし、国からの圧力もない。この町に住むのも悪くないきがするのぉ」


 昨日見つけた川辺で時間を潰してから寝る。



 放浪生活四日目。
 進展なし。しばらく聞き込みを続け、休憩がてら川辺でぼーっとタニカワのことを考えていたら一日経ってた。



 そして......放浪五日目。
 大分放浪生活にもなれてきた。だんだんわらわのことが町で噂になってきたようだ。わらわが聞く前から「ごめんね、私もしらないの」とすれ違った人が返すようになってきた。効率はあがったがそれでどうにかなるものでもない。
 いつもの川の縁でホームレスと一緒にぼーっと空を眺める。空は相変わらず夕焼け色だ。
 空を見つめていると自分がちっぽけに思えてくる。そして、だんだんともとの世界に戻ろうという気力が失われる。ここにいる人たちは少なくともカルマポリスにすんでいる人たちに比べてのんびりしていた。近所の人たちと助け合い、ほのぼの生きている。そんな印象を受けた。引きこもりが増加しつつあるカルマポリスとは偉い差である。わらわは一人でぶつぶつと喋り始めた。もう、人の目は気にならなくなっていた。


 「ここにすんでしまおうか。精神的ショックのために、ありもしないカルマポリスという町を故郷と思い込んでしまい、路頭に迷ったあわれな女の子......こう考えるとこの世界が異常なのではなく、わらわが異常に思えてくるな......」


 深いため息をついて前を向いた。対岸になにかが見える。人影のようだ。よく目を凝らしてみる。

 「猫耳かぁ。珍しいのぉ。無表情で川底を覗くとはよほどの変人か暇人じゃのぉ。はて、あの顔どこかで......はぁ!?」


 思うよりも先に体が動いていたらしい。気づいたら川の上空を跳んでいた。そして、猫耳の目の前でビタリと着地。両手をあげてアピール。


 「......十点満点」


 呟いてゆっくりと顔をあげたのは、間違いなくわらわの知っているスミレだった。


 「久しぶり」

 「ひさし......うぇぇぇん!」


 言い切る前に嗚咽と、涙に遮られてしまう。安心して足の力が抜けて、地面に座り込んだ......つもりだった。座ったはずの地面の感触がなかった。そのまま視界が空を捉えたと思えば急に歪み、背中に冷たい感触が。その感触がさらに全身に浸透していく。慌ててわらわは水面に手を伸ばした。
 暖かく、柔らかい手が、わらわの手を包み込んだ。


 「セレア......ドジで死ぬ......完」

 「勝手に殺すな!」


 二人で再開を喜んだ。


 「よくわらわがここに来るとわかったのぉ!」


 わらわの質問にたいしてスミレはものすごい早口で答えた。


 「道行く人にカルマポリスという架空の町の所在を聞くとされており、ジャンプだけで数百メートル空を飛ぶ、頭の壊れたかわいそうな美少女が、川辺でよく座っているという噂を聞いた」

 「......聞かなきゃよかったのじゃ」