フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

クロノクリスvs四国連合

 私の持つ左右10の指輪には各々一人ずつ妖怪の魂が込められており、それを用いることで肉体の制限を無視して呪詛を行使することができる。
 主に左手には自動で発動するものを、右手には自分の意思で発動するものを装着している。
 基本戦闘で意識するのは右手の能力である。


 左親指 鬼力<ジ・オーガ>
 自分の筋肉の質を操ることで鬼の筋力と力を得る呪詛。

 左人差し指 大出力<オーバーアウトプット>
 呪詛の出力を引き上げ、同時に複数の呪詛の発動を可能とする。

 左中指 自呪癒<リカバリー>
 常時大気中の物質を呪詛に変換し、呪詛の枯渇を防ぐ。

 左薬指 銃器<ガンマスター>
 銃器を使いこなすことができる呪詛。

 左小指 飛行<アンダースカイ>
 空を飛ぶことができる呪詛。


 右親指 隕石<パニッシュコメット>
 場所を指定し三秒後に隕石を落下させる呪詛。

 右人差し指 引力・斥力<グラビテーション>
 対象を指差し、上下左右に振ることでその方向に吹っ飛ばす呪詛。

 右中指 粒子化<WORTH AIR
 認識した攻撃を、肉体を粒子と化すことで完全に回避する呪詛。

 右薬指 超重力<EARTH GLAVITY>
 自分を中心に半径300メートルに超重力を発生させる呪詛。


 そして私本来の能力である、右小指 魂を操る呪詛。


 これが今ある私の能力だ。各地の隠れ家を回れば他にも強力な武器は存在するのだが、その余裕はない。そして、たしかに強大ではあるのだが、この力をもってしても世界の兵どもを相手にするのは困難だと私は実感していた。私の息子もそれを察して、誰も寄り付かないような森林地帯を切り開き、研究の拠点となる塔を建てた。そのためにずいぶん木材も使ったので森の霊どもから怒りを買っているようだが些細なことだ。
 さて、なぜこれだけの力を持っていても過信してはならないのか。それは今から説明するような規格外と呼ばれる存在が世界にあるからだ。この者たちがいなければ、私は木の枝の上で息を潜め獲物を待つなどということは決してしない。


 「......来ましたか」


 ハサマ王は白い髪の毛をした可愛らしい中性的な子供の姿をしているアルビダだ。見た目こそシャツにパーカーにジーンズとチュリグの庶民的服装だが、チュリグ国を統べる王である。エルドランで子供による最強論争になると必ず呼び名があがってくるほどの大妖怪だ。地震や地盤隆起・沈下、雷、嵐を操り、実際に彼に歯向かった国が<天をも穿つ閃光の一撃 ゲイボルグ>によって何ヵ国か消し飛ばされていた。
 リリィという少女がいる。地面に垂れるほどの長い黒髪持ち、ほんの少し地面から浮いて移動するらしい。頭部の左右から伸びる角が特徴的。もちもちの肌でその道の奴なら確実に飛び付きそうなゴシックな服装をしている。が、その見た目にそぐわぬこの世の汚物を全てかけあわせたような不気味な気配は見るものを圧倒する。呪詛喰らいで、その特性から呪詛を完全に無力化する能力を持つ。
 サラトナグはルウリィド国のなかでも盟勲精霊と呼ばれる特別な精霊だそうだ。植物と対話し、操る。ただ、聞くところによるとその規模が違う。一説では森全体を操るとまで言われている。単なる噂に過ぎなければいいのだが。


 「それにしても......厄介ですね」


 そんな、この世界を左右するような力を持つ圧倒的な存在がスコープに映っていた。解剖鬼がやられた情報を何らかの手段でハサマ王が知ったのだろう。あの王は即決断即実行を平然と行う果断にとんだ性格としても知られている。
 ハサマ王、リリィ、サラトナグ。一人でも相手にしたら苦戦は免れぬというのにご丁寧に三人一緒で、しかもハサマ王が作り出した竜巻で飛行しながら、私の拠点へと高速接近してくる。乗り越えられる試練を神は与えると言っていた人がいたが、神自身には不可能を可能とする試練を押し付けるらしい。
 スコープ中央に描かれた十字の中央にリリィの頭部を合わせる。呪詛が効かない相手はなんとしてでも消さねばならない。
 私は狙撃銃の引き金を引いた。その瞬間、なにもない空間に突如として穴、としか言い様のない何かが発生し弾丸が飲み込まれてしまった。二三発と打ってもすべてそれによって阻まれてしまう。ハサマ王とサラトナグは銃声の方角を確認しつつ、リリィを守るように移動した。
 私は仕方なく作戦を変更、呪詛を発動する。三人は突然墜落し森の中へ消える。たとえ竜化した竜人ですら動けなくなる超重力の呪詛〈EARTH GLAVITY〉である。解剖鬼に使ったものとは違い対象ではなくエリアに作用するタイプの呪詛だ。発動時、私を中心に半径300メートルに展開する。
 さらに、空から光の珠が空から落ちてきた。まばたきをする間に三人が落下した場所に着弾する。大きな爆発音が耳をつき、地響きがここまで伝わってきた。念じてから三秒後に小型隕石を呼び寄せる呪詛〈パニッシュコメット〉。
 動けない相手に隕石を叩きつければ大抵の相手は死ぬ。が、敵の面々は並大抵のことで死ぬようなものではない。


 「ウロボロス・カルマポリスの軍事技術を蓄えて置いたのは正解だったようですね。苦労して密輸・改造した甲斐がありました......」


 森の中を暴風が吹き荒れた。凄まじい速度で接近してくる何かの気配を感じる。位置がわからないので狙撃ができない。私はスナイパーライフルを背中に背負うと森を移動した。一応、あの二人は攻撃に気づいた。スナイパーライフルの存在は森の上空を安易に飛べないという圧力にはなっているはずだ。空に飛んだ瞬間狙撃されるのは敵も十分承知のはず。
 と、考えていると突然私の周りを竜巻が囲った。ハサマ王による遠距離攻撃! 場所がばれた原因として考えられるのは呪詛の発動が原因だろう。重力の呪詛は私を中心に展開する性質上、発動直後は遠ざかるほど効果が少し弱まっていく。数秒で均一に展開するはずだが、その一瞬の隙に発生源を逆探知されたようだ。
 だが、神にはこんな目眩ましは効きはしない。粒子化<WORTH AIR>は私が認識した攻撃を肉体を粒子と化し全て無力とする。私は竜巻をすり抜け、続いて落ちてきた雷の中を悠々と潜り抜けた。呪詛の発生源の探知を利用した索敵は一度だけだ。この場所から動いてしまえば問題ない。
 私はハサマ王によって引き起こされた突風を浴びながら、森の中を移動していく。何の前触れもなく、飛行能力を失い地面に落下する。なんとか着地したものの、突如として生えた蔦が足に絡まり前のめりに転ぶ。顔面を泥で濡らし、無様な醜態を晒す。
 見上げると、目の前の大木の枝の上から、黒く金糸を施しているマジシャンコートに身を包んだ青年が見下していた。黒髪の狭間から覗く、黒々としたタレ目が私を睨んでいる。精霊、サラトナグだ。森のじめじめした臭いにわずかに甘ったるさが混じる。


 「なぜ、私の居場所がわかった?」

 「ハサマの風にのせてサラトナグが産み出した種を君にくっつけたんだ。鼻の効く動物が臭いをたどるみたいに追跡できるからね」

 「古き考えに縛られる愚かな精霊ごときにここまで私が追い詰められるとは......」


 隣にハサマ王が並ぶ。そのハサマ王に付き添うように姿を現した少女はリリィだ。
 私は何とか起き上がり、袖の中からハンドガンを取りだしリリィに向けた。あいつを殺れば逆転できる。その目論見はまたしても発生した、謎の黒い裂け目によって防がれた。三発の銃弾は闇へと消える。
 その黒い空間が消えると同時に、不可思議な人物が現れた。右ほほから左こめかみをおおうような奇っ怪な仮面をつけた道化師がケタケタと笑っている。眼が白黒逆転しており、とても不気味だ。その上極端な猫背で身長が二メートル以上ある。そんな奴は世界中を探しても一人しかいない。コルトと呼ばれる妖怪だ。
 私は瞬時に思い至る。黒い空間がこいつの口であったことに。笑うときに見えた口の中の空間が先程の穴と同じものだったのだ。そう、彼の能力は何でも食うこと。有機物も無機物も、そして魂さえも食らう、まさしく化け物。


 「レロンレロンレロンレロンレロンバァ~!!」


 道化師は逆立ちを始め、その状態で長い舌をグルグルさせている。癪にさわる笑いかただが無視する。ここで冷静さを失えば終わりだ。


 「連れてきた甲斐があったね」


 ハサマ王の声が聞こえる中なんとか立ち上がった私だが、突如全身がしびれ地面に伏した。体の中で暴走した電流が暴れまわり悶絶する。全身の筋肉が誤作動を引き起こし、地面を跳ね回った。私は死ぬ思いで白髪のアルビダを睨み付けた。ぐっ......ハサマ王め。せめて殺してくれれば霊となり乗り移れるものを。


 「リリィやったの!」


 背後に目をやると、ゴシック風味の少女が満面の笑みを浮かべている。
 呪詛喰らいであるリリィの視界のなかでは、私の呪詛は無効となる。そこで、ハサマ王とサラトナグは彼女の視界に入るように動いたのだ。これでは<EARTH GLAVITY>による範囲攻撃も全く効果がない。さらには私自身が彼女の視界に入ってしまったために、指輪がすべて無力化されてしまった。つまり、今の私は神たる力を失った単なる人に過ぎない。


 「人が愚かであることは......」

 「五月蝿い」


 2発目の雷が私を貫き言葉を遮った。痙攣する手足をどうすることもできない。


 「えらいね。このまま食べちゃっていいよ。もう復活しなくなるからさ」


 その横で物騒なことを呟く白髪の王。コルトがそのとなりで長い舌を振り回しながらニクニクニクニク......と意味不明なことを呟いていた。
 今も私はリリィによって呪詛を吸われ続けている。もはや私の力は風前の灯火だ。なんとか呪詛で抵抗しているものの、呪詛がつきれば彼女は私の生命力をも食いつくすだろう。
 私の敗北の原因は呪詛を無力化する存在を相手にすることを想定していなかったことだ。全国を探しても呪詛を消し去るなどということができる妖怪はいなかった。......彼女を除けば。


 「最後が可憐なお嬢さんのお腹の中だなんて、身の程知らずには勿体ないよねぇ」


 端麗な身なりの青年が私を指差すと、地面から這いずってきた植物の蔓が私の体を飲み込んでいく。最初に四肢を拘束し、次に目と口をふさがれ、全てが植物に飲み込まれていく。想像以上に応用の利く力だ。この極限の状況下で冷静に分析できる程度には成長したらしいが、私はどうやらまだまだ甘かったらしい。
 全身の激痛に血の色をした脂汗が吹き出した。皮膚に深々と蔦が食い込み、さらなる苦痛を呼んだ。痛みに悶えようともからだの自由はすでになく、私はただなされるがまま悲鳴をあげる。そんな私の後ろで道化師が奇怪な笑い声をあげている。


 「クケクケケ。オマエ俺オマエオレ前オレ......クケクケケェ!!クケクケクケクケクケ!!」

 「あんまり動かないでよ......間違って絞め殺したらいけないんだからさ......。それにしても、何をしたら森にここまで嫌われるんだろうねぇ......」


 黒髪の少年がため息を吐きながら言った。そこに一切の感情は感じられない。


 「んんーーー!!? ん゙ん゙ン゙ンッッッ!」

 「棺桶の心配はしなくていいよ。ハサマが雷で跡形もなく消し去ってあげるから!」


 全てが闇に閉ざされる寸前、辺りは突如として閃光に包まれた。リリィの悲鳴が聞こえた。


 「眩しいのぉ!?」


 解剖鬼からくすねて、胸に仕込んでおいた閃光弾を起動させた。その瞬間、リリィの視界を奪ったことで一時的に私の呪詛が復活した。植物の蔓を解剖鬼にも使った引力・斥力の呪詛で弾き飛ばす。


 「私はクロノクリス。唯一にして至高の存在。私がここで退くわけにはいかない。私はこの世界を束ね、導く使命がある。万物は我の下に在ると知れ!」


 スローモーションで世界が動く。
 まず<パニッシュコメット>と<EARTH GLAVITY>を発動する。直視は腕を使い避けたものの、目が眩んだハサマ王とサラトナグ。目を閉じて前に倒れこむリリィ。そして、平然としているコルト。私は黒髪の少女の頭に銃口を向けた。が、リリィのポケットから伸びた蔓が銃弾を防いでしまう。もう一度引き金を引こうとした瞬間、ハサマ王が突風でリリィを吹き飛ばしてしまった。
 私は仲間を守るために無防備になったハサマ王に向かって引き金を引く。銃弾は突如としてハサマ王のポケットから生えた蔓によって防がれた。リリィのものと同じ......恐らくはサラトナグから渡された種子による自動防御。蔦はハサマ王を守るために全身を覆ってしまった。厄介な。
 そして、<パニッシュコメット>はあろうことかコルトの口に収納されてしまった。
 まだだ、まだ私には他の能力が......


 「......これは一体どういうこと......ですか......」


 ボトリ、とハンドガンが苔の生えた地面に落ちた。
 ハサマ王を包んでいた蔦が黒い墨を残して焼失していた。そして、私の胸の辺りがまるまる焼失してしまっている。蔦で防御するように見せかけ、ハサマ王の攻撃の挙動を隠していたのだ。私の認識よりも早く攻撃が命中したため、粒子化<WORTH AIR>も発動しなかった。この攻撃は<天をも穿つ閃光の一撃 ゲイボルグ>か......


 「......この世界を導くことができず......無念です」


 私は全てを悟り瞳を閉じた。植物が私の体を包み蝕んでいく。これから絶え間なく逃れようのない苦痛が私を襲うのだろう。だが、私は霊と化し肉体を捨て他者を乗っとることができる。私の魂を操る能力は抜き取り操るだけではない。自分の魂ですら支配下に置くことができるのだ。
 私は全身がバキバキに骨折した肉体を抜け出し、ハサマ王の生気溢れる肉体へと潜り込む! この肉体から解放される瞬間の解放感がたまらない。


 「重力の呪詛で消耗した今のあなたであれば、精神まではいかずとも肉体を支配するのは容易。これこそが私の狙いです」

 「なっ!?」


 サラトナグが事態を察して攻撃体制に移った。だが、私はハサマ王の風を操る力で、私の遺体から10の指輪を引き寄せた。サラトナグの蔓はハサマ王の肉体をすり抜け宙を切る。さらに背後から追撃してきたコルトを地面を隆起させることで遥か上空に飛ばした。


 「私を誰だと思っている! ただの妖怪ではない! ハサマだ!」


 超重力により地面を這いつくばるサラトナグに対して必殺の一撃を構える。
 私に操られたハサマ王は両手の手のひらを合わし、ゆっくりと開いていく。なにもなかったはずの空間に、恐ろしい量の雷を収束したエネルギーの塊が現れた。


 「この森ごと枯れ果てるがいい!」


 まさに呪詛を解き放とうとしたそのとき、視界の端からなにかがよぎった。


 「ダメなのーっ!!!」


 瞬間、私の魂の力が急激に失われる。これでは霊体を維持できない! 私が......消える!?


 「まさかッ! リリィ! 戻ってきて......」


 私に肉体を乗っ取らせたのも確実にリリィの呪詛喰らいを発動させるための布石......! そして奴は呪詛喰らい故に超重力を含めた呪詛が一切効かない!


 「慌てた演技上手だったでしょ。リリィを遠くに飛ばしたように見えた? そんなミス、ハサマがするわけないじゃん。最後に一つ言っておくよ」


 幼子に向ける笑みでハサマ王はいい放った。


 「君を殺したのは<天をも穿つ閃光の一撃>じゃないよ。ただの雷。君ごときに名前のある技をハサマが使うと思う?」

 「ギヤ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙アアアア! ヌァァガガガガガ!!」


 自分の声とは思えぬ叫びを何度もあげているうち、私の意識は深い闇へと葬り去られた。