フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

剣士再来

 俺は『水属性』の魔法だけでもまだ不完全だ。俺の故郷では成人にあたる十歳までに『精霊』を使役するんだが、俺は十歳になっても精霊が顕現しなかった。でも、俺らの一族で精霊を使えるのは当たり前だ。それができなかった俺は、追い出されるように故郷を出た。
 俺に居場所などなかった。
 当てのない孤独な旅路。頼れる人間も、心休まる家もない。魔物の群れと戦う日々。自分の力だけが頼りだった。人と関わろうとは思わなかった。一番信頼していた存在に突き放された心の傷は、とてつもなく広く、そして深い。
 精霊を見つけるための終わりなき旅......その途中でたどり着いたのがコードティラル騎士団......後に自警団となる組織だった。『あいつらならこんな俺でも受け入れてくれるかもしれない』って、そんな運命めいたものを感じた。実際、あいつらは偏見や先入観なく物事の本質を見抜く『目』と、受け入れるだけの『器量』がある。......それでも、ふとしたときに思う。一族の力すら満足に使えない俺は、本当にみんなの役に立てているのかと......

 だからこそ、この場を死守しなければならない。それができるのは今、俺だけだ。


―――


 バトーはフェリスがいないか確認する。もう、彼女の姿は見えなかった。
 左手の掌に右手で魔法の陣の様なものを描きながら呪文を唱え始める。


 <......水よ......我が手に集いて刃と為せ......>


 左掌に水筒の水を少し垂らす。水が落ちた瞬間、陣が輝く。それを収める様に上から右手を重ね、バトーは最後の詠唱を紡いだ。


 <出でよ、我が聖なる刃『氷斬剣』!!>


 バトーは上から重ねた右手を、左手の平から 何かを引っ張り出すように動かす。すると、その手の平から剣の形をした水が右手に引かれて出現し、そのまま1本の剣になってバトーの右手に収まった。二刀を構えてバトーは叫ぶ。


 「仲間が殺されて悔しいか?」


 地響き。


 「血を浴びている俺が憎いか?」


 盛り上がる地面。


 「なら、かかってこい!」


 夕暮れの中姿を現した百足。先程よりも巨大な影が草原に延びる。相対する影はあまりにも小さい。だが、小さな影は臆することなく強大な敵と対峙する......はずだった。


 「ハッ、もういいんだよ虫コロがッ!!」


 百足の首が飛んだ。胴体がしばらくのたうち回ったあと、自分が死んだことに気づいたのか動かなくなった。


 「誘き寄せんのに苦労したわりにあっさりと死にやがって。まぁ、それはそうとして」

 「まさか、お前の仕業だったとはな......」

 「仲間を守りながら戦うとか、相変わらずお人好しだなぁ、女顔! 本当は一人でいた方が気楽な癖によぉ! シャーハッハッハェ!」


 バトーは「誰が女だッ!」と叫びたいのを口をへの字にして我慢して声の主である青年を見る。ボサボサの黒髪につり上がった眼光、頬が裂けるのではないかと思うほどの残忍な笑み。そして何より特徴的すぎる笑い声。見間違えるはずがなかった。
 アルベルト=グズラット。かつてバトーを敗北寸前まで追い詰めた外道大剣士。暁に照らされた鎧に血痕が見えるのは決して見間違いではないだろうとバトーは思った。


 「俺は強くなるために何人もの裏社会の奴等を葬ってきた。だが自警団! お前らほど俺をたぎらせた奴はいねぇ!」

 「何でそこまで力を求めるんだ」

 「一度俺に勝ったことに免じて教えてやる。俺は生まれ育った村からナマクラを持たされて追い出された。強すぎる呪詛が災厄を喚ぶ忌み子だってよぉ! その時誓ったんだ。最強の剣士になって己の剣一本で村を滅ぼしてやるとなぁッ!」


 大袈裟に手を広げて笑うアルベルト。
 バトーは一瞬硬直した。自身の境遇とアルベルトの境遇が意外なほど似かよっていたからだ。だから苛立つ。腹が立つ。まるで自分の醜い影を見ているかのような錯覚を覚えたからだ。


 「もしお前が負ければ俺はシルディを拐う。シルディを餌にしてクォルやクライドをおびき寄せ、この剣の染みにしてやる! お前の居場所という居場所を全部どぶに捨ててやる! どうだ? 少しは本気を出す気になったか?」

 「お前、正気か!?」

 「俺はお山の大将を一方的になぶるのが好きだが......本気になった強い奴とお互いに全力で殺りあうのはもっと好きだからなぁ! そのためだったらなんだってするさ! シャーハッハッハェ! さあ、お前の氷の剣を抜け。二本目を錬成するまで待ってやる」


 クソッ、なめやがって。何でやつはあんなに煽りが上手いんだ。相手の戦術だとわかっているのにそれでも怒りが沸き上がってくる。


 『出よ、我が聖なる刃!〈氷斬剣〉!!』


 氷剣を両手に持って構える。冷静さを欠いてはだめだ。奴は手を抜いて倒せるほど甘い敵ではない。バトーは自分に言い聞かせる。
 アルベルトの先制で死闘が始まった。小さい図体だが、それに似合わない馬鹿げた力。間合いを広げようにもその前に次打がくる。


 「あいつといいッ......大剣使いはッ......このぁっ......みんな化け物かよ!」

 「てめぇのような、仲間とつるむ軟弱ものがのうのうと生きているのがこの上なく気に入らなくてね。この気持ちわかるだろ、バトーちゃん?」

 「『ちゃん付け』すんな......ッ!」


 舞踏するように剣を振るうバトー。猛獣のような荒々しさで剣を振るうアルベルト。打ち合いの中バトーは徐々に後退していく。鋭い刃が手に、足に傷をつけていく。


 「友情やら仲間やら、そんな偽りの力に頼るお前に俺は倒せねぇよ! シャーハッハッハェ!」


 知恵を働かせろ。勇気を振り絞れ。俺はもう一人じゃない。応援してくれる仲間がいる。それを否定する奴なんかに負けてたまるか!
 バトーは踏み留まった。クォルとの打ち合いを思いだし重い剣に対応する。怒りや苛立ちに惑わされず、冷静になれば難しいことではない。相手の動きを予測し、刃を受け流す。相手の流れに逆らわず、寄り添うように剣を動かす。バトーの集中力が極限まで研ぎ澄まされ、動きがより優雅に洗礼されていく。


 「俺も馴れ合いをしてた時期があったが、みんな途中でくたばっちまった。所詮この世で信じられるのは己の技量のみ! それ以外は無駄だ!」

 「......チッ!」


 だが、アルベルトも引かない。流された剣を力で無理矢理軌道に戻し、バトーに叩きつけていく。切りから突き、突きからフェイント。変幻自在の剣さばきに再び劣勢になるバトーだったが......アルベルトの刃が飛んだ。中程で折れたのだ。バトーの剣と同じく魔物の体液で劣化していたのだ。


 「この......! てめぇまさか、最初からこれを狙って!」


 好機と見たバトーは攻勢に移る。アルベルトの胸が横一文字に切れた。浅い。バトーは止めを刺そうとした。受け止められた。半分だけ残った刃で。一瞬驚くバトー。その瞬間、アルベルトがバトーの懐に潜り込む。が、バトーの蹴りによってアルベルトは吹っ飛んだ。


 「短い刃を無理矢理届かせようと接近したのが間違いだったな」


 刃渡りが半分ほどになった剣ではバトーの猛攻を防ぎきることなどできはしない。アルベルトが追い詰められていく。地面に血の斑点が大きくなり、やがて血溜まりになっていく。
 アルベルトは距離を取ろうとした。が、足が動かない。バトーがアルベルトの足を血溜まりごと凍らせたのだ。


 「氷〈ウォルド〉か。小細工使いやがってよぉ」

 「終わりだ! アルベルト」


 何をされても対応できるよう、適度に距離をとり剣を突きつける。
 下を向いたままアルベルトは沈黙した。夕刻の決闘はこれにて決着したかと思われた。たが、バトーは首を傾げた。アルベルトは顔を伏せたまま肩を揺らしているのだ。なんだ、と一歩間合いを詰めたとき、アルベルトは顔をガバッとあげた。その時バトーが見たのは、あらゆる表情筋をフル活用した満面の嘲笑だった。


 「シャーハッハッハェ! これからだぜ!」


 アルベルトが左手の手の平に人差し指で魔法の陣を描きつつ、呪文を唱え始める。
 そんな、まさか。奴が!


 「魔法具起動! 呪魔変換! 魔導陣展開!......業火よ! 我が手に宿りて破壊の力と成せ!」


 陣の上に、自らの血を垂らす。その瞬間、手の平が輝きだした。今度はその光を収める様に上から右手を重ね、アルベルトが最後の詠唱をした。


 「顕現せよ、我が魂の爆炎! 『炎斬剣』!」


 上から重ねた右手を、左手の平から何かを引っ張り出すように動かすと、その手の平から剣の形をした炎が出現し、1本の剣になってアルベルトの右手に収まった。暁よりも紅い刃。そのあまりの火力に凍ったはずの血溜まりがみるみる溶け、乾いていく。
 先程の怪我も火であぶることで瞬時に応急措置されてしまった。


 「郷に入ったら郷に従え......俺は剣を極めるためならなんだってする! 魔法剣士はてめぇだけじゃないんだぜ?」


 紅蓮の軌跡を描く刃が容赦なくバトーを潰しにかかる。バトーは両手の剣でアルベルトの火炎刃を受け止めた。すさまじい。魔力がごっそり減るのを感じた。氷斬剣が溶けないよう維持するために魔力が削られたのだ。このままでは戦闘開始時から氷斬剣を維持し続けていた、バトーが先に魔力切れを起こしてしまう。
 激しすぎる死合が続く。火花が散り、剣撃の余波で周囲が焼けていく。火と水、剛と静、力と技。相反する二つの太刀筋。押されているのはバトーだった。
 暴力的なまでの剣撃が絶え間なく氷剣を打ちのめす。一撃一撃が必殺の威力。その上剣から逆巻く灼熱がアルベルト自身を守る。彼の『圧倒的な力で相手を一方的に叩きのめす』戦術の到達点。攻防一体、闘神の如し。もはやバトーは受け流すので精一杯だった。
 そして......とうとう炎刃がバトーを引き裂いた。
 アルベルトが叫ぶ。


 「どんなに固い絆で結ばれようが!」


 バトーの肉が抉られる。


 「最後には裏切られる!」


 傷口を火焔が焦がす。


 「あとに何も残んないんだよ!」


 ぶっ飛ばされ地面を転がる。


 「わかったか!」


 満身創痍のバトー。怪我を物ともせず、気力も魔力も充実しているアルベルト。差は歴然としていた。
 アルベルトは地べたに這いつくばるバトーを見下しながらかつてない大声で嘲笑う。


 「自警団もいずれお前を捨てるぞ。お前の生まれ故郷のように! 無能な奴は要らないってなぁ! 口でなんと言おうがもうわかってんだろ! シャーハッハッハェ!」


 それでもバトーは諦めない。何度でも立ち上がり、何度でも立ち向かう。その命尽きるまで。


 「人から何度裏切られようが人を信じることを止めてはいけない。それを俺は自警団で学んだ!」


 負けられない。これは信念だ。
 魔力枯渇に出血や炎の光によって目がチカチカする中、バトーはアルベルトと打ち合う。肩で息をしながらも必死にぶつかり合う。
 アルベルトは攻めに限れば剣士の中でもトップだろう。同時に攻撃に傾くあまり、劣勢時の防御技術がクォルやクライドら一流に一歩劣る。総合力で劣る部分を『絶対攻勢』で補っている。しかし、付け入る隙がないわけではない。
 バトーは最後の賭けに出る。
 アルベルトが氷斬剣を弾こうとしたタイミングで剣を瞬時に蒸発させた。一瞬の隙が出来る。そのまま流れるように空いた右手で腰に携えた剣をアルベルトに投擲する。炎剣で弾かれる。印を結び、氷〈ウォルド〉を放つ。アルベルトは反射的に魔法を切り裂く。が、氷を斬ったことにより、凄まじい水蒸気がアルベルトを襲う!


 「しまっ......」


 猛火の剣が消失した。アルベルトが腹を抱え、膝をついた。辺りに静寂が戻る。


 「......バカな......俺は負けたのか......何が......足りなかった......」


 アルベルトの言葉にバトーが声をかけようとした瞬間だった。不気味な気配が周囲に充満する。


 「しまった、俺たちの魔力に引かれたか!」


 黒い影がアルベルトとバトーの前に立ちふさがる。その数20以上。傷だらけの状態で勝てる相手ではない。なんとか逃げきれるか? 旅の中でもこういう絶望的な状況はあった。今すぐ全力で走れば......いいや。
 バトーは覚悟を決めアルベルトと魔物たちの前に立った。アルベルトから折れた剣を拝借し構える。


 「俺はお人好しだからな。心身共に傷だらけの奴を放って逃げはしない。それが誰であろうと守る。これが自警団としての俺の覚悟だ!」


 そのすぐ横で咳混じりの声が吠えた。


 「......術式再展開。......ゴホッゴホッ! 全魔力......解放。我が......魂の爆炎! 『炎斬剣』!」


 腹を貫かれたはずのアルベルトが再び炎の剣を顕現させた。火柱を見て魔物が後ずさる。


 「何をする気だ!」

 「ぜぇ......ぜぇ......何が『守る』だ。台無しにしてやる! 俺が......作ったぁ......最強最悪の必殺技でなぁ! シャーハッハッハェ! ......ゲホッゲホッ......」


 飛び出してきた魔物を凪ぎ払い、アルベルトが詠唱を始める。


 「......我が力、我が命、その全て! この一刀に捧げる! 食らえ、我が魂の一振りッ! 『魔焔爆竜剣』!」


 剣から火と熱の放流が放たれる。意思をもった業火は魔物たちに阿鼻叫喚の渦へ叩き込んだ。その威力はすさまじく、離れているバトーにまで熱気が伝わってきた。だが、それだけではい。凄まじすぎる火炎はアルベルト自身の体も焼けていく!


 「アルベルト!」

 「......グッァァァ......痛てぇ! ゼェ......だが、まだだ、灰も残らず焼き尽くすぜ......!」


 戦いの最中決して弱味を見せなかったアルベルトが絶叫する。それでも捨て身の術を解除しない。やがて魔物の動きが鈍くなり、一匹、また一匹と止まっていく。地を焼き天を焦がす炎。最強最悪の名に恥じない威力だった。


 「それ以上はッ......!」

 「......うぉぉぉぉ! 止めてたまるかぁぁぁ!」


 ほとんどの魔物が消え去った。火の勢いが一瞬弱まり、残った魔物が前進しようとしたが......、アルベルトの火焔地獄が止むことはない。


 「......グフッ......終わり......だ......」


 最後の魔物が完全に焼失した。それを機に業炎はパッと消えてしまった。
 バトーは敵が完全に沈黙しているのを確認してから、アルベルトに歩み寄った。明らかに火傷がひどすぎた。


 「何が『覚悟』だ......フンッ......でも、裏切らなかった......ゴホッゴホッ」

 「もういい。しゃべるな」

 「悔しいが......てめぇの勝ちだ......。信念でも俺を越えやがった......。この俺に勝ったんだ、自信持てよ、バト......レイア......」


 バトーも限界だった。消え行く意識の中でフェリスの声が聞こえた気がした。


 その後、フェリスが呼んだ自警団の面々と合流して調査したが、アルベルトの体は消えており、死んだかどうかは結局わからなかった。

バトーとフェリス

 コードティラルの首都ティラルを中心に活動する組織『自警団』。
 かつて、隣国が戦争の戦略として沢山の魔物を作り出し無作為に大陸に解き放った為、今でもその時に繁殖してしまった沢山の魔物達が町の外を徘徊していて、時々街中に浸入してきたりもする。この魔物の浸入を防ぐ為、コードティラルには城と城下をもすっぽりと覆うほどの巨大な結界が常に張られているのだが、人力で張り続けている為、稀に『綻び』が生じて、隙間から魔物が浸入してくる事がある。その『綻び』の有無のチェックと城下の住民達の様子の見回り、それが『ティラル自警団』の主な仕事だ。
 この組織に所属するバトーは新人研修のまっただ中であった。


 「自警団の結成当時、俺たちは魔法剣士×2に大剣士、武術家とあまりにも前のめり過ぎる編成だったんだ。少し遅れて回復魔法を使えるラシェが入ってきたんだが、彼女の負担が大きくてな。一人しか回復役がいないために替えが聞かないだろ。しかも、本人は無理してでも仕事をこなそうとするんだ。彼女のことを心配する声が度々上がっていたんだよ」


 言ってたのは主にラシェの旦那だけどな!
 心のなかで叫びながらバトーは斜陽に照らされた少女の顔を見た。杖を片手に立つ姿は絵になる。緑髪と草原が合間って幻想的だった。


 「そんなとき、入団希望を出してきてくれたのがフェリスなんだ」


 それにしても、あどけない顔に似合わぬ重装の鎧である。暑くはないのかと少し心配になるほどだ。
 今日の外回りはすでに終わっており結界に綻びがないことは確認済み。その上で新人であるフェリスに外回りのルートを把握してもらうため、ざっくり案内している。結界に綻びがなければ魔物は進入してこないはずなので、鎧まで着てくる必要はあまりない。
 まあ、本人の拘りなのだろうとバトーは納得することにした。実際、彼女の鎧は自警団の選考会でもその強固さを十二分に発揮していた。


 「そしたら、私はラシェリオさんのためにも早く一人前にならなくてはなりませんね。でも、少し不安ですわ」

 「心配するな。俺ですらそうだ」

 「えっ......。でもバトレイアさんは剣も扱えて造形魔法も超一流と聞きましたが......」


 フェリスは目を真ん丸にしてバトーを見つめた。彼女はシルディから自警団の話を聞いて入団を希望したと聞いた。シルディはかつて仕事の一環でバトーらコードティラル騎士団......つまりの自警団が命を救ったことがある女精霊だ。シルディはそのために自警団の面々......特にバトーをよく誉める。恐らくその話に憧れたんじゃないか、とバトーは踏んでいた。
 だからこそ、フェリスのプレッシャーも相当なものだろう。クォルやクライドといった自警団の功績は人間離れしている。それにいきなり追い付こうとしようとしても挫折するのは目に見えていた。バトーですら心が折れそうになることがあるのだから。

 「本当にみんなの役にたてているのかって、未だに悩むことがある。俺ですらそうなんだ。フェリスはやれることをやればいい」

 「ありがとうございます。少し、肩の荷が降りた気がしますわ。バトレイアさんも陰で苦労されているのですね......」


 話しているうちに、案内は半分程度終わった。草原の風が柔らかくバトーを撫でる。だが、そこで奇妙な違和感を感じた。嫌な予感がする。そしてバトーの嫌な予感はほとんど外れない。


 「フェリス、感じるか?」

 「なにかあったんですか?」


 左右を見回すフェリス。そして、足元を見たときにあっ、と声をあげた。


 「地面が不自然にひび割れてる......」

 「所属して間もないフェリスをこんな目に合わせてしまったのには俺に責任がある。あとで言いたいことがあれば言っていい。でも、今は......敵に集中しろ」


 結界の綻びが一見してわからなかったのは、綻んでいた部分が地中だったためだ。綻びのほとんどは地上で起こるが、地中で起こる可能性も十分あった。それに加え一度見回りを終えているという安心感、新人研修中というイレギュラーな事態、多少のことなら対処できるだろうという慢心、それらが重なった結果が招いた。クソッ......心のなかでバトーは舌打ちをした。
 フェリスが警戒して杖を構えると、不気味な気配が周囲に立ち込める。地面から伝わってくる振動が、退路はすでに塞がれていることを示していた。


 「怖くないか?」


 バトーはフェリスの顔色を伺う。魔物の気配に怯えているかと思ったが心配は無用だった。大男を前にしても動じないその胆力は健在だった。落ち着きすぎてのほほんとしてさえ見える。......危機感逆に無さすぎじゃないのか、と思うほどだった。


 「魔物に怯えていたら自警団は務まりませんから」


 おっとりとした優しい声だった。


 「新人だろうが関係ない。俺のことは気にせず、自由に立ち回ってくれ。俺はそれに合わせて動く。でも、絶対に無理だけはするなよ」


 バトーは水筒を取りだし、地面に水をばらまくと印を組んだ。


 「我が手に宿りて力を成せ! 氷<ウォルド>!」


 詠唱すると同時に手を地面につける。すると瞬時に周囲の地面が氷った。
 直後、二人がいる場所の近くの氷がひび割れる。バトーは地面から手を離す。


 「後ろに回避しろ!」

 「わかりました!」


 二人が飛び退くと同時に地面が盛り上がった。そして巨大な化け物がその姿を晒した。暁に黒光りする鱗。長くいくつもの節に区切られた胴体、節目ごとに生える無数の脚。そして鎌のような顎。


 「ムカデ!?」

 「気色わるいなぁ! おい!」


 バトーに向かって魔物が牙を向いた。バトーは抜刀と同時に滑らかな動作で牙を受け流す。そして、無防備になった魔物の胴を斬りつけるが......


 「固てぇ!」


 魔物はすでにバトーから離れている。巨大な図体に似合わず俊敏すぎる。再び突進してきた。重い一撃を何とか受け流す。そして反撃。だが剣は空を切った。


 「こいつ、学習しやがった!」


 魔物はバトーを警戒したらしくヒットアンドウェイ戦法に切り替えたのだ。剣で反撃する暇も、印を組む暇もない。バトーの攻撃手段は封じられたも同然だった。
 フェリスの様子を確認する。彼女は相変わらずマイペースだった。この危機的状況ではむしろ頼もしく見えるくらいだ。バトーの動きを邪魔しないように動きつつ、粘り強く敵を睨み必殺のタイミングを見計らっている。


 「大丈夫か!」

 「これくらい何てことありません。手当ては?」

 「いらん」


 とは言ったものの、ハァー......なんでこんな厄介な化け物がよりにもよって新人と二人で見回りをしているときに出てくるんだ! ただでさえメンドイんだぞ! 面倒に面倒を重ねるとか勘弁しろよこの野郎! と叫びたくなったのをバトーは飲み込む。
 剣を優雅に踊るように振るうバトー、だが体力は無限ではない。一人ならまだしもフェリスを庇いながら攻撃をいなし続けるのは体力的にキツい。徐々に追い詰められている。剣と牙の音の他に鎧が傷つく音が混じってきた。奴にダメージを与える手段があれば......。
 途方に暮れるバトーの横でゴンッ、という鈍い音と共にピシッとなにかの割れる音がした。


 「バトレイアさん! 魔物の殻、杖で叩けば割れますわ」


 魔物にできた亀裂から柔い肉が見えた。反撃の糸口が見つかった瞬間だった。


 「よくやったフェリス!」


 魔物は呻き声をあげると再び地面に潜り込む。だが、先程と同じように地面を氷らせれば見切るのは容易い。
 奴は動きが素早く顎の力が強い代わりに、攻撃がワンパターンだ。フェリスが殴りやすいよう誘導するのはバトーにとって造作もないことだった。
 何度目かの攻防の後、フェリスの杖が最初に出来た亀裂に直撃する。すると、殻が木っ端微塵に割れて中身が露になった。これなら切れる!


 「新人研修中に邪魔をすんな!」


 バトーがそこへ一閃。魔物は沈黙した。
 一息ついて剣を腰の鞘に納める。......魔物の体液で錆びてやがる。


 「ありがとうな。俺一人じゃあの魔物を傷つけることすらままならなかった。もう、お前も立派な自警団員だ」


 これはお世辞ではなく心の底からの言葉だった。バトーは他の攻撃役に比べ火力に乏しい。今回のような高い防御力を持つ相手は手に余るのだ。
 フェリスは気品のあるお辞儀をしながら言う。


 「バトレイアさんがあの魔物の攻撃を寸分狂わず受け流してくれたお陰ですわ。私が同じ箇所を攻撃できるように調整するなんて......やはりバトレイアさんはすごいです。シルディさんの言う通りですわ」


 帰ろうとするフェリス。バトーも共に行こうとしたが、ふと立ち止まった。


 「俺は綻びの修復の準備をするからお前は先に帰ってくれ。結界の内側を行けば安全なはずだ。できる限り早急にこのことを他の団員に伝えるんだ」

 「わかりましたわ」


 嬉しそうに帰っていくフェリスに手を振った。まさか、あそこまでやれるとはな。バトーは心強い新団員に胸が踊った。これからの自警団を担う団員に胸を馳せる。いずれ彼女ともクライド達と同じように軽口を言い合える日が来るのだろう。

バトーちゃんまとめ

目次

プロフィール


f:id:TheFool199485:20180922170443j:plain

バトレイア・ディフィード

愛称:バトー
種族:人間
性別:男
年齢:18才
所属:自警団
一人称:俺
出身:『リーフリィ』の外側『外殻』の出身で『水の部族』。
見た目:金髪碧眼の綺麗めな女性の外見。いつも上着をだぼっと着てるらしい。マントは表地は落ち着いた白、裏地が上品な葡萄色。バトーの踝ほどの丈のそれは生地がしっかりした物なのかある程度重みがあるようで、軽く動いたくらいでははためかない。

(季節のイメージ:冬 宝石のイメージ:アメジスト)


概要

 クールで知的。他人思いで、料理もできる。その上イケメン。でもシルディが絡むと......!?
 女顔を気にしていて、可愛いだの綺麗だの、女扱いされると怒る。
 魔法シンボルは『氷』。『水の部族』ではかなり優秀な『氷』の造形魔法の使い手であった程。魔法の知識についてもかなりのもの。
 普段は装飾された細身の剣を操るが、即席で『氷の剣』を作って二刀流にもなる。相手の動きを見て予想し、受け流すように剣を振るう。実力は高く、並みの魔物であれば群れだろうが蹴散らせるほど。


フールによる無駄な追記

 恐らくツッコミ体質。女の子にのろけるクォルや、規格外のことをさも当然のように行うクライドに対して呆れながらも的確に突っ込む。また魔法に詳しく実践経験も豊富なので説明・解説役に回ることも。
 元々人と接するのはあまり得意ではなかったが、自警団に入ってからは大分改善された様子。それでもクォルらに比べ意外なほど口数は少ない。(魔法のことになると饒舌になる)
 また、後述の過去から、自分の役割をいち早く察知し行動に移すのが早い。情報分析も得意。責任感が強く、危険な役目も進んで買う。


嫌なこと

 女顔のせいでよくトラブルに巻き込まれるため、人が多い場所では周囲の男に気を配る。
 たくさんの女性から嫌になるほど甘いお菓子をプレゼントをもらっていたため、甘いものは苦手。
 一度披露すると『もう一度見せて!』と言われてメンドクサイことになるのが目に見えているので、造形魔法は使いたがらない。


過去

 バトーの出身である『水の部族』の民には、古来より生まれながらにして天性の『水』の力が宿る。15歳になると成人の儀として それぞれに相応しい『守護精霊』が召喚され、唯一無二の契約を交わし一生を共にする。しかし『水の部族』の民であるにも関わらず稀に15の歳を迎えても『守護精霊』が降りない者もいる。
 『守護精霊』の居ない成人は『穢れ』が有り『異端』であるとされ、災いを呼び寄せると信じられている。『水の部族』の里には居る事が出来なくなり、『守護精霊探し』として里から外に出される事になる。そして、バトーは成人の儀で『守護精霊』を得る事が出来なかった。
 バトーは故郷から追い出される様に旅に出て、見目が女らしい事もあり、行く先々で厄介ごとを被り、いつしか面倒臭くなって、ここ数年ずっと独りで過ごしてきた。
 『守護精霊』こそ持ち合わせなかったものの、『水の部族』ではかなり優秀な『氷』の造形魔法の使い手であった程だったので、何とかグランローグが放った魔物の群れを蹴散らしながら、グランローグ北の海峡からグランローグを大きく迂回する形でリーフリィ大陸に入った。その後コードティラルへと渡り、偶然目にした国王直属遊撃騎士団の公募に参加。それが自警団入団への第一歩となった。

【PFCS】SS・『金と黒の邂逅』 - テキトー手探り創作雑記帳


トラウマ

『嗚呼…何故お前には守護精霊が降りぬのか。

我々の力は【水】、…だが、お前の魔法は【水】を【氷】にしてしまう。

その力は、強き魔力だからではなく、…お前が異端だったからなのか。

守護を持たぬ忌みし子は、去れ。

海を越えて葉のそよぐ大地へ行きなさい。貴方の『守護精霊』はきっとどこかにいるはず。

貴方の居るべき場所はここでは無いの…バトレイア』


 バトーは成人の儀で守護霊の召喚に失敗した。過去の項目で述べた通り、水の部族では守護霊がいるのは出来て当たり前の事である。その『あたりまえの事』が出来なかったために、その日にその場で郷を追い出された。
 そのため高い戦闘力と魔法技術を持つにも関わらず自己評価が低い。常に仲間の役に立てているか自問し、『一族ではあたりまえの事ができない自分』の存在理由を模索する。
 また、バトーにとって心休まる『家』や『居場所』とは、実力が伴わなければ一夜にして追い出されるものであり、失う不安を常に抱えていると思われる。

ちょっとしたSS・6『月の力、精霊の力』 - テキトー手探り創作雑記帳



自警団とは

 コードティラルの首都ティラルを中心に活動する組織『自警団』。
 かつて、隣国が戦争の戦略として沢山の魔物を作り出し無作為に大陸に解き放った為、今でもその時に繁殖してしまった沢山の魔物達が町の外を徘徊していて、時々街中に浸入してきたりもする。この魔物の浸入を防ぐ為、コードティラルには城と城下をもすっぽりと覆うほどの巨大な結界が常に張られているのだが、人力で張り続けている為、稀に『綻び』が生じて、隙間から魔物が浸入してくる事がある。
 その、『綻び』の有無のチェックと城下の住民達の様子の見回り、それが『ティラル自警団』の主な仕事。入団すると衣食住を保証してくれるぞ!(入団できればな)

【PFCS】SS・『自警団』組の1日 - テキトー手探り創作雑記帳


シルディとの関係

f:id:TheFool199485:20180922181448j:plain
f:id:TheFool199485:20180922171540j:plain

 シルディはエルファリア自治区にある、精霊の里の長の娘。精霊の里の保護結界の管理を担当している。外見年齢20代前半。
 コードティラル王家に遠い昔に嫁いだ眷属の血筋で、以前彼女を助ける任にあたった事のあるバトーからは『お姫さん』と呼ばれている。
 保護結界を破ろうとしたかつてのグランローグ帝国に命を狙われた事がある。その時、彼女を救った功労者がバトーであった。それがきっかけでバトーに一目惚れしてしまい、少しでも一緒に居たい一心で大使の名目でちょくちょく森から出るようになった。バトーも満更でも無い感情を持っている様子。ただし、身分や寿命の差から身を引いている。
 自分を過小評価しがちなバトーの性格を理解しており、とにかく「バトー様は凄いんですよ!」とバトーを持ち上げて何とか自信をつけさせようと健気に応援している。
 バトーより何歳も年上なのを物凄く気にしているほか、バトーが精霊の森の姫的立場である自分との身分的なものを気にしているのも気づいている。寂しく思う反面、自分と生きる時間の長さが違うバトーと無理に一緒になろうとは考えておらず、少しでも長くただそばに居てくれたらと願っている。
 上記の理由で相思相愛にも関わらず身を引きあってしまうため、カミアや自警団の面々はあの手この手で二人の恋路を応援(イタズラ)している。

 バトーのトラウマを知る数少ない人物でもある。


画廊

f:id:TheFool199485:20180922170506j:plain
f:id:TheFool199485:20180922170540j:plain
f:id:TheFool199485:20180922170953j:plain
f:id:TheFool199485:20180922171008j:plain
f:id:TheFool199485:20180922171120j:plain
f:id:TheFool199485:20180922171132j:plain
f:id:TheFool199485:20180922171205j:plain
f:id:TheFool199485:20180922171349j:plain



名言

 「それはそうと…。…お前ら、このお嬢さんに自己紹介をきちんとしようとか思わないのか?」(クライドの部屋に突如として現れた少女に対して驚いて挨拶を忘れる面々に対して)
➡異様な状況であろうが、大人だろうが子供だろうが礼儀を忘れない

【PFCS】SS『いつか見た夢を』 - テキトー手探り創作雑記帳



 「…なかなかに、退屈する事は無さそうだな」
(国王直属遊撃騎士団の公募に、クォル・ラミリア・サガ=クライドと一緒に合格して)
➡このあとに『バトーがそう 思わず口をついた言葉に、他の3人も頷いた』と続く。人を避けてたバトーちゃんがこんなことを言うなんて(泣)。


 「…ぇ、普通にめんどいんだけど…。俺、一応病み上がりだし。…結構疲れるんだからな、『造形魔法』。また倒れたら覚えとけよ。」(クォルとラミリアからせがまれて)
➡ラシェが来たときもせがまれました

【PFCS】SS・『混ざり合う、色』 - テキトー手探り創作雑記帳


 「…水よ…我が手に集いて刃と為せ…。」「いでよ…我が聖なる刃……『氷斬剣』!」(氷斬剣の詠唱)
➡美しい造形の氷の剣を産み出す。実は前半部分や術式を省略したりできるが、質が悪くなる。

ちょっとしたSS・2『剣と魔法』 - テキトー手探り創作雑記帳


 「俺みたいに普段から着るなら、一番は動きやすさだ。軽ければいいという物でもないし、…まぁ、丈は躓かない物がいい。後に見た目…といった所か。俺はある程度の重量感がある物が好きだけどな。」(魔法具屋でマントに対してのコメント)
➡見た目も気を使うけどそれ以上に機能重視

ちょっとしたSS・1『魔法具について』(SS) - テキトー手探り創作雑記帳


 「誰かの為に魔法を使って救えたら…、精霊なんかいなくたって、それでも俺には存在理由があるんだって思える気がして…。でもままならない。俺より凄いやつなんて幾らでも居るんだもんな…この大陸は。正直…俺は役に立ててるのか不安だよ、いつも。」(シルディを呪解できなかった夜にサガ=クライドに対して)
➡バトーちゃんの貴重な本音。

ちょっとしたSS・6『月の力、精霊の力』 - テキトー手探り創作雑記帳


「何せ、男の俺がいつも泣いて目が醒めるような夢なもんでな…。まぁ、卑しい理由なら怒りもするが、アンタがしたのは良心からだ。…それに、アンタは俺の代わりに泣いてくれたし」(誤ってバトーちゃんの夢を覗いた初対面のシルディに対して)
➡自警団の面々にすら言えないトラウマ。それを意外な形で見てしまい、共感するあまり思わず涙してしまったシルディ。その返事がこのセリフ。怒りもせず、拒絶したり突き放したりもしないでシルディの行いを受け入れて感謝するバトーちゃん。この時点で二人の間に信頼関係が出来上がっているのがわかる。フラグたちまくり。牢屋という極限状態が関係を加速させる! 二人のドラマにときめきが止まらない!

【PFCS】過去SS『緋い剣』 - テキトー手探り創作雑記帳



「…お前、その発言ヤバいぞ。」

【PFCS】SS『いつか見た夢を』 - テキトー手探り創作雑記帳


「…お前が可愛いの着ても目の保養にもならんわ。」(クォルに対して)
➡ツッコミ。これもクォルとの信頼関係があってこそ。ツンデレ疑惑。

ちょっとしたSS・1『魔法具について』(SS) - テキトー手探り創作雑記帳


 「お前…俺を何だと思ってんだ…」(サガに無茶ぶりされて)
➡でもなんだかんだやってくれる。そこにシビれる憧れるぅ!

【PFCS】過去SS『作戦』 - テキトー手探り創作雑記帳



f:id:TheFool199485:20180922170703j:plain

 「…死人は困る…今回は世界規模だ、国際問題に発展しかねんぞ…。…仕方ないな。上位は狙えんだろうが、俺が出るか」(料理コンテストに意気込んで)
➡このセリフでまさかの料理コンテスト

【PFCS】お料理コンテストイベント用リーフリィPR〜! - テキトー手探り創作雑記帳


『俺のことを女だと思って声を掛けてきやがったら思いっきりのしてやるかんな…!』(やたら宿の先客らしき野郎ども数人が、ジロジロと下卑た目で自分を見てくる気がして)
➡見知らぬ相手でも女扱いする奴には容赦しない

【PFCS】SS・『金と黒の邂逅』 - テキトー手探り創作雑記帳



『…それと、さっきから気になってたけどコイツ、ちゃんと俺の事 一発で男だってキチンと分かってやがるぞ…?何なんだ?』(サガ=クライドに初対面で男扱いされて)
➡もはや男扱いされる方が珍しいバトーちゃん

【PFCS】SS・『金と黒の邂逅』 - テキトー手探り創作雑記帳



 「何だよ突然…ッ、『ちゃん付け』すんな…ッ。女扱いされんの…嫌いなんだ、よッ…。」(初対面のクォルと対戦中『バトーちゃん』とはじめて言われて)
➡戦闘<女扱い

【PFCS】SS・『混ざり合う、色』 - テキトー手探り創作雑記帳


 「誰が美人だ、誰が!」(ラミリアに対して)
 『誰が女だ!」(クォルに対して)
➡もはや様式美


 「…ああ…。そうか、顔に傷付いたら、かえってドスが効いて面倒ごと減りそうだったな…そいつは残念だった事に気付いた。」(クォルとの初対戦の後)
➡どんだけ顔を気にしているかよくわかるシーン。

【PFCS】SS・『混ざり合う、色』 - テキトー手探り創作雑記帳


f:id:TheFool199485:20180922170915j:plain

 『オボエテロ......ダマレ変態』(女装させられた上にクォルに茶化されて)
➡みんなもバトーちゃんに女装させようぜ!

【PFCS】ウチの子だけでも、雛祭っとこう。 - テキトー手探り創作雑記帳





バトー「ッ?ヘッ⁈(裏声)」(海辺にいきなり来たシルディに動揺するバトーちゃん)

f:id:TheFool199485:20180922170749j:plain

バトー「へ、へェ…(アイツラ アト デ コロス…!)」(それがクォルらに嵌められたと気づいて内心キレるバトーちゃん)

バトー「ゥえ!(((( ;゚д゚))))(むーりー‼︎‼︎‼︎)」(その上シルディの膝枕に誘われちゃったバトーちゃん)

➡かわいい

f:id:TheFool199485:20180922170824j:plain

【PFCS】いざ!海へ‼︎ - テキトー手探り創作雑記帳



「っるせー。…遅ぇんだ、お前ら」(バレンタインデーの日、氷斬剣のデモンストレーションで疲れ果ててけだるそうにベンチで座っているとろをラミリアにニヤニヤされながら「おっつかれさまー」とおちょくられて。ラミリアを睨み付けながら)
➡毎度お馴染みといった様子の二人。氷斬剣の需用は高い......。



ラミリア「ゴメンゴメンっ☆でも、バトーには とびきり美味しいの作ったげたから許してっ☆…もち、シルディが☆」

バトー「…何…?」(ピクリと眉を上げながら)

シルディ『いえ、スコーンは冷めてからが美味しいので、皆さんのお菓子より少し早めに作りましたので。…ただ、乗せるクリームは溶けてしまいますので先程用意したばかりですけど』

バトー「だったら お茶にしよう。…俺は疲れた」

(さっきまでラミリアを睨み付けていたのが嘘のように一瞬で冷静さを取り戻し、周囲の状況を確認した後人混みの少ない食堂へ向かおうと立ち上がりながら)
➡全く喜ぶそぶりを見せないのにバトーちゃんのウキウキドキドキが伝わってくる名シーン。



【PFCS】SS『この あい を きみに』 - テキトー手探り創作雑記帳



オマケ:ひな祭りにて


 「俺はお前に値踏みされるほど、安くはないし、井の中の蛙に負けるほど落ちぶれてもいない」(アルベルトに挑発されて)

 「悪いな、俺は双剣使いだ」(右手を封じられて)


 「俺に……構うな! お前の成すべきことを成せ!」(戦闘続行が難しいレベルの傷を負って)


参考

エアライシス=ルナリス 目覚め (鬱展開注意)

thefool199485pf.hateblo.jp

 

 

<約300年前>

 

 

 何も見えず、何も感じぬ。我に五感はまだない。我は生を受けてはいるが、生まれていない。


 「き......る?」


 どこからか声がする。耳すらまだ存在しないのにも関わらず、語りかける声を感じる。


 「きこえ......?」


 人の幼少に値する甲高い声。


 「きこえる? わたしの名まえはクラサ。あなたの名まえは?」

 「我が名はルナリス。カテゴリー半生物半機械式兵器。個体名ルナリスである。なぜ、我に話しかけることが出来るのだ。そしてなぜ話しかけた」

 「それは、わたしがあなたのおねえちゃんだからよ。おとーとをシンパイするのはとーぜんでしょ? それに、うまれる日もいっしょだし」

 「それがクラサのロールなのか?」

 「ロールってなに? ロールケーキのこと? おいしいよね! ロールケーキ! わたし、たべたことあるよ! あと、わたしのことはクラサおねえちゃんってよんでほしいなぁ~」


 脳に様々な疑問が沸き上がった。ロールとは役割の意味だ。質問の回答になっていない。物事に対する最低限の知識は脳ができた段階で埋め込んでいるはずだ。なのになぜここまで知能が低く設定されているのか。なぜ、生まれてもないのに記憶を有しているのか。なぜ、感情を有しているのか。そして、何より......


 「ロールケーキとは何だ」

 「あれ、ルナリス知らないの? ロールケーキはまぁるくてながーくておいしいたべものなの」

 「美味しいとは何だ?」

 「おいしいっていうのは、あじがいいってことだよ」

 「味とはなんだ?」

 「あじがいいものをたべるとたのしくなるの」


 味覚は物体の成分を分析するためだけにある。我には兵器としての知識と機能しか持っていない。味に良し悪しがあるとは知らなかった。何がよくて何が悪いのか全くわからない。
 また、なぜクラサが高揚した声で食について語るのかがわからない。クラサの会話の内容から分析するに、クラサは楽しいようだ。楽しい状態であるということがわかっても、そもそも楽しいということがどういうことなのかはわからない。心理的、身体的に戦いにどう影響するかはわかるが、逆にそれ以外の感覚的なことは全くわからないのだ。


 「では、楽しいとはなんだ」

 「もぉー、ルナリスはなぁんにもしらないのね! わかった。じゃあ、おねえちゃんがおしえてあげる!」

 「たのしいっていうのはね......」


 この会話がきっかけだった。クラサは我の姉兼先生となった。あの日以来クラサは休憩を挟みながら毎日毎日膨大な量の知識を享受した。特に我が持ち得ていない感情や感性に関して重点的に。説明は相変わらず非合理で、信用に足らぬものも多かった。しかも戦いの役に立たないものばかりだ。だが、我が好奇心を満たすのには十分であった。
 自分が感ずるべき感情を推測すること。相手の感情を読み取ること。それに対して適切と思われる返答をすることなど......それらが何の役に立つかはわからない。が、感情に関する事象が自身にどういった影響を及ぼすのか興味があった。


 「ルナリスはこころがないのにいろんなことが気になるんだ!」

 「自らを絶えず向上させなければ戦いに勝ち続けることは不可能だからだ」

 「そうなんだ。でも、わたしはけんかとかあまりすきじゃないかな......」

 「そうか。ではこの話題はなるべく避けるようにしよう」

 「うん......。わたし、おとうさんとケンカしたまま、なかなおりできなかったから......」


 そうして、我々の出産日が目前に迫ったある日。とうとう話すことがなくなったらしくクラサは口を閉ざした。しばらくして、クラサ普段の得意気な口調ではなく、少し低い声で話始めた


 「わたしはね。もともとしんじゃったクラサっていう女の子のかわりにつくられたの。おとうさんはクラサが大すき。わたしもおとうさんが大すきき。でも、生きているあいだはおとうさんとはあまりあえなかった。おとうさん、シゴトがいそがしかったから。それでケンカしちゃったの」

 「好きな人と会えないと、寂しいから?」

 「せいかい! わたしいえにかえるとちゅーで、ぐうぜんおとうさんを見つけたの。とっても、うれしかった。なかなおりできるとおもったの。だからはしっておいかけようとした。そして気づいたら、しんじゃったの」

 「死んじゃったら、悲しい?」

 「うん。でもね、そのおかげでおとーとができたからちょっぴりうれしいかな!」

 「そうか。学習した」

 「そこは、『おねえちゃんとあえてわれもうれしい』っていうところだよ!」


 我は元々生物兵器として産み出された。いくら学ぼうとも兵器としての思考パターンを利用して、感情の推測を行うのは容易ではない。たが、クラサの指導によりかなり精度は上がっている。
 恐らく、先程の『おとうと』とは一般的な弟ではなく我を指している。よって『おねえちゃんとあえてわれもうれしい』とは、姉がいることが喜びなのではなく......


 「クラサおねえちゃんと会えて我も嬉しい......これでいいのか?」

 「うん! ばっちり。これでいつ生まれてもだいじょうぶだね! たのしみだなぁ」

 「お父さんと会えるから?」


 我の推測にたいしてクラサは少し唸った。


 「それもあるけど、ルナリスを見たり、はなしたり、ふれあったり、あそんだり、いろいろできるから!」

 「我もクラサおねえちゃんと見たり、話したり、触れあったり、遊んだり、一緒にいろんな場所にいったり、時に喧嘩したり、いがみ合ったり、そうして仲直りするのには興味がある」

 「えへへ! けんかはしないよ。わたしたち、なかよしだもん!」


 その言葉を機に、クラサの声が途絶えた。


 「クラサおねえちゃん?」


 ついにその時が来たのだ。この世に産まれるときが。彼女はきっと我よりも一足先に生を受けたのだろう。
 我は空想した。草原で走り回るクラサの姿を。その横に我は――どのような姿に生まれるかはわからないが――付き添っているのだ。姉と弟は助け合って生きていくのが理想だとクラサに聞いている。兵器としての機能はたいしてクラサの役にたちはしないだろうが、彼女に害をなす敵の殲滅くらいはできるかもしれない。やりすぎはよくないとクラサから教わったが、その加減も産まれてから自己学習と並行してクラサに学ぶとしよう。感情に関しても、実際に外界でどのように表現すればよいかもわからない。この感覚のない世界で学べなかったことを、クラサから教えてもらわなければ。
 そうして学習していけばいつか、クラサが何よりも我に求めた『感情』というものを手にできるはずだ。
 なんだ、これは。白い。ああ......これが光か......。


 「............ナ......ス............しま......! ル......ナ......覚醒します! ルナリス覚醒します!」


 緑色の液体が満たされた先に白い白衣に身を包んだ男が見える。身動きしようとしたが、我は何本ものチューブに繋がれ宙吊りになっているらしく動けない。


 「おはよう。ルナリス。ビーカーの中は快適かな? 気分はどうかね......って君には感情などなかったか」


 はっはっはっ、としゃがれた声がスピーカー越しに聞こえた。


 「クラサはどこにいる?」

 「マスクのマイクは良好って......ん? クラサ? 誰だそれは。第一声がそれかね。奇妙なこともあるもんだ......えっと......」


 どこからか現れた若い科学者から耳打ちをされて、残念そうに頷いた。


 「......テスト233のことか。あれは覚醒に失敗した」


 この感情はクラサには教わっていなかった。喪失の感情。教えを乞うにも師にして姉であるクラサはもういない。あの声はもう聞くことができない。我の全てであったクラサはもういない。


 「ならばひとつお前たちに礼を述べねばなるまい。他者の行動が自らに利益をもたらしたときそれが意図しないものであっても、できる限り相手に不快にならないような方法で、礼を述べるべきだとクラサから学習している」

 「言いなさい。あー、君の父親として、生まれて初めての感謝の言葉がいかなるものか聞いておきたい」


 少し間を置いて、我は言った。


 「心を与えなかったことに感謝する」

 

――数日後

 

 「私に何のようかな。君とは接点がないんだが」

 苛立っちを隠さない低い声だった。恰幅のよいスーツ姿の男。だが、目の下に色濃い隈があり、痩せこけ、疲労がにじみ出ている。


 「テスト233、クラサクローンより伝言を承っている」

 「!? それは本当か!」


 目の輝きに光が宿る。砂漠で喉が枯れは果てた人がオアシスを見つけたかのような......驚きの表情だ。
 私は脳内の記憶領域からクラサの遺言を引き出した。


 「『わたしはおとうさんのこと、おこってないよ。さびしかっただけ。だからルナリスがおとうさんにあえたら、つえてほしいの。そだててくれてありがとう。もう、わたしのことでなやまなくてもだいじょうぶだよって』」

 「あぁ......それは間違いなくクラサの声......。まさか......許してっ......もらえるなんて......」


 クラサの父親は大粒の涙を流しながら床に座り込んだ。他の研究員がぎょっとしている。子供のように意味不明な文言を吐き出し、顔を猿のようにしわくちゃにしてひたすら泣いていた。感動という言葉も当てはまらないのではないか、と考えてしまうほどだった。


 「うわあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ!」


 慟哭が研究所にこだまする。彼はあまりの声にしびれを切らした研究員に押さえつけられ部屋を退室した。扉越しにも彼の声は聞こえてくる。
 家族への喪失感や罪悪感は人をここまで人を狂わせるのか。生命の倫理や価値観を破壊してしまうほどに。
 もし仮に我に感情があったならクラサを無闇に死の安寧から引きずり出し、再び死の恐怖を味会わせたこの研究所の人々に激しい怒りを覚えていたであろうことは容易に想像がつく。
 だが、逆に――推測しうる範囲でだが――クラサの父の立場に立たされた場合、その関係の修正のためにクラサを甦らせる選択をとるのは十分ありえる話だ。
 現に我は戦闘において無意味であるのにも関わらず、クラサの言葉を一言一句記憶している。この記憶がある限り、クラサは我が脳の奥底で生き続けるのだから。

虚空の精霊長レイ 下

 強い、とても強い違和感を感じる。
 セレアは思う。こんなときタニカワに相談できれば......。タニカワとの通信が途絶えたのにも関わらずこの砦に侵入してしまった。その上、罠も警戒せず独断で最深部まで向かった。その結果がこれだ。
 タニカワのサポートは偉大だ。セレアはアンドロイドであるが故に膨大な量のデータを毎秒処理している。だが、その大半は活用できるにも関わらず破棄される。情報の量に対して処理速度も記憶量も全く足りていないからだ。そんな宝の持ち腐れをタニカワは防いでくれる。敵・地形・環境・セレアの生体情報・その他セレア一人では扱いきれない膨大なデータ処理をタニカワが補助している。攻撃予想、精密回避、僚機生成、オーバーロードの制御をはじめとする様々な特殊技能は全てタニカワのサポートの賜物だ。
 それが受けられないのにも関わらず、なぜ仲間の応援を待たずに、何の策も用意せず敵陣に突っ込んだのか。決まっている。一人で何でもできると慢心したからだ。


 「ぐっ......。あやつさえ、あやつさえいればこの違和感を......」


 妖鬼。彼女が床を蹴ると、そこが陥没する。彼女が踏み込むと床が蜘蛛の巣状に割れる。
 黒髪を揺らしながら迫る妖鬼は明らかに別次元の強さだった。彼女の動きはエアライシスのように単純に力を振り回すものではない。日頃の鍛練と、豊富な実践経験が下地にある合理的な動作。セレアは両手を剣に変えて切りかかっているが、妖鬼は常にセレアの体の外側へ外側へと移動し、かわしてしまう。常に間合いの外、死角をとられるため厄介なことこの上ない。ためしに打ったカマイタチやガトリングガンは、彼女から発せられる呪詛によって弾かれてしまう。


 「お主は一体何者じゃ?」

 「フッ......フッ......フッ......! あなたを試すものよ」


 この言葉でセレアの違和感がさらに強まった。あの顔もどこかで......。
 しかし、セレアにはその正体がつかめない。あと少し思考をすれば、少し落ち着いて考えれば答えが出そうなのに。黒髪の女がそれを許してくれない。
 一瞬セレアの視界から敵が消えた。同時に脇腹に焼けるような激痛が走った。空中を回転しながら墜落するセレアから、銀色の液体が飛び散る。セレアが墜落した床は、砂場に軽く指を突っ込んだ時のようにえぐれた。
 普段なら再生されるはずの肉体が再生されない。空中に散った液体金属がその場で蒸発してしまった。これは単なる打撃ではない。彼女の拳に触れた部位が黒く変色していた。こうなったら、切り札を使うしかない。そう決意するセレアの脳裏に、またしてもタニカワ教授の顔がちらつく。何かを訴えるかのような表情で......。


 「私はあなたから見てずっと未来の世界に行ったことがあるの。戦争で荒廃し機械兵器と魔物が蔓延る荒廃した世界。そこでなんの支援もなく、化け物たちと戦い続けた。極限の状況で私の力は高められ、現代に戻ったあとも稽古を怠らなかった。いつか来る破滅。それを未然に防ぐために」

 「大体察しがついたぞ。さてはお主、時空を旅して歴史を変えたんじゃな? 何の接点もないのにわらわと出会ったことがあるかのように語り、初見にも関わらず動きを見切っていたのが何よりの証し。お主とわらわが戦うのはこれで何度目じゃ?」

 「三度目よ。一度目は改編前のこの時代で。二度目は未来で。三度目は今。さすがは0歳児。頭の柔らかさは格別ね......あ、液体金属だから固いとか柔いとかそもそもないわよね?」


 呪詛も物理も効かないとなるとセレアにはこれしかない。


 《セーフティロック解除。ジェネレータ出力再上昇。ジェネレータ出力臨海点突破。最終セーフティ解除》

 「いざ! オー......」

 「させるかっっ!!」


 妖鬼の全力の蹴りがセレアの頭部に吸い込まれる。当たれば必殺の一撃。蹴りによって発せられた衝撃は床板を吹き飛ばし、砦の至るところに皹を刻み、窓をガラスの塵へと変えた。寸前で必殺の一撃に気づき、体を液状化させて回避しなければ、すべてが終わっていただろう。
 その圧倒的な力を受けた刹那、セレアは閃いた。こんな力を持つ者がたかだか精霊一人の魔力で呼び出せるはずがない。そして、何より......


 「......その顔、思い出した。タニカワが担当するサークルに入っている大人しい大等学生の顔じゃ。実際話したことはなくて、名前すら知らんがな。さらに、そのコートはとある解剖医が加工した特別製。その攻撃のいなしかたはとある国の元国王がやってた護身術。全てチグハグなんじゃよ」

 「......つづけて」


 とどめを刺そうとしていた妖鬼が手を止める。セレアは背中を壁にめり込ませたまま、話続ける。


 「極めつけはその態度じゃ。百歩譲ってその医師から数日間に渡る生体手術を受けて尋常ならざる肉体と最高級の防弾・防魔コートを手にして、時空を渡りカルマポリスを救ったと仮定しよう。じゃが、そんな奴が今までの大混乱を放置しておくと思うか? それに、そもそもそんな強大な存在を一朝一夕で召喚できるはずがなかろう?」

 「旅から戻ってきたのが今日だったとしたら? 時空跳躍で弱っていてそんなときに召喚されたのだとしたら?」

 「今日はありえないんじゃよ。昨日、普通の人として存在するそなたを見つけたからな。そう、まるでそなたはわらわの記憶をツギハギして作り出した妄想の産物のようじゃ。そして、そんなものは現実に存在するはずがない。それが存在するということは......」

 「合格よ。よく気づいたわね」


 セレアは悪夢から目覚めた子供のように飛び起きた。首に添えられた手の持ち主を投げ飛ばして距離をとる。相手はテーブルクロスを巻き込みながら木製の長机の上を転がっていき、しまいには床に落下した。
 玉座も妖鬼も消えている。ここは石造りの砦の一室。どうやら会議室か食堂か何かのようだ。


 「ば、ばかな! あの幻覚を破ったというのか!」

 「ああ。何のことはない。授業で教わった証明問題の解き方のひとつにこんなのがあったのじゃ。答えが『こうである』と仮定、代入してそれが成りたつか成り立たないかをチェックする。単純な話じゃよ」


 机のしたから白髪の精霊が這い出てきた。端正な顔つきが苦痛で歪む。額を押さえた手には血が滲んでいる。


 「あら、念のため魔法を解いてあげたけど、必要なかったみたいね」


 二人の視線の先にはセレアを追ってきた水の精霊ウォリスの姿があった。
 その後、セレアとウォリスの二人によって虚空の精霊長レイは鎮圧された。これで精霊たちによるカルマポリスへの逆襲は一応の解決をみる。レイをはじめとするテロに参加していた精霊たちはウォリスによって精霊の都へと送り届けられ、セレアはタニカワ教授から本気で怒られてへこむのであった。
 だがセレアは知らない。セレアがレイを殴り倒したのは幻覚世界での出来事であったこと、目が覚めたと錯覚させることこそがレイの真の力であったことを。ウォリスが魔法を解いたからこそ目覚めたのであって、決して自分の力で打ち破ったわけではないことを。

虚空の精霊長レイ 上

 精霊ウォリスの説得に成功したセレア。彼女は火の精霊長を説得し退却させた。さらに、精霊長たちのカルマポリス侵略のために作った城の場所をセレアに伝える。ウォリスはセレアに忠告する。

 「砦には虚空の精霊長レイがいる。彼女はカルマポリス国への報復に反対した地の精霊長を力でねじ伏せたの。精霊長の中でも最高峰の魔法力を持っているわ。詳細はこの紙に記載したから。十分注意していくことね」

 砦はカルマポリスの北にある群島のうちひとつに隠されていた。その島は一見すると数分も歩けば島の端にから端へ移動できるくらい小さな島で、無秩序に生えた雑草以外何もない。あるはずの砦はカルマポリス国にはない高度な魔方陣によって視認すらできないのだ。政府に発見されなかったのも無理はなかった。セレアは島の南南西の断崖に、ただ一ヶ所空いている鍵穴に鍵を差し込む。すると、さっきまで原っぱだった場所に砦が顕となった。それと同時にオペレーターとの通信が遮断された。


 「わらわ、一人か......」


 セレアは砦に入るなり猛烈な反撃が来ると思っていた。しかし、予想に反し何も起こらなかった。否、起こったあとだった。
 砦のあちこちが崩落し、装飾品の残骸が床に散乱している。扉は開けっぱなしで、部屋の中のテーブルは倒れ、飲み物や食べ物が散らばっている。所々にいる精霊たちはみな身を震わせたり、ボソボソとなにかを呟いていたりしており、話せる状態ではなかった。
 ウォリスに渡された地図をたどると、本当に、驚くべきほどあっさりと一番奥に位置する扉の前にたどり着いた。巨大な扉の前で彼女は深呼吸する。
 そして扉をゆっくり開けた。


 「ごめんね。あなたがいないからこの砦、乗っ取っちゃった。安心なさい。精霊たちに用事があるのなら地下牢に行きなさいな」


 耳を犯されるような蠱惑に満ちた声だった。
 大理石でできた数十段の階段。その頂上に等間隔に置かれた五つの玉座。その中央の玉座に黒髪の女性が足を組んで座っていた。レザーコートに手袋、ブーツそのどれもが漆黒。白い一角。逆光により彼女の表情はわからないが、美人であることは確かだ。その隣で蒼白な顔をした白髪の青年がガタガタと震えている。
 五つの玉座の背後からは室内にも関わらず黄昏が流れ込み、部屋を照らす。夕焼けのような壮大な光景がそこにあった。


 「私は虚空の精霊長レイに召喚されし者。レイは自分の使い魔じゃセレアに勝てないことを悟って、カルマポリス国内かつセレアを除いてもっとも力の強い存在の召喚を願った。その結果私が呼び出されたの」


 本気を出せば天変地異と見分けのつかない壮絶な力を発揮する精霊長。かつて風の精霊長フロレはたった一人で西地区の建築物を50以上破壊し、水の精霊長ウォリスの竜巻による被害予想は北地区を壊滅させるのに十分すぎる力だった。それと同等の力を持つ精霊長。そのはずの虚空の精霊長レイは黒い少女の隣で怯えているだけだった。
 それが何を意味するのかセレアにはわかっている。


 「私の名前は妖鬼」


 その体から溢れ、玉座から階段を伝い流れる黒い呪詛。人とは思えぬ圧倒的な重圧。想像を絶する存在。その彼女が椅子から立ち上がる。たったそれだけのことでで風が吹き荒れセレアの肌を刺激する。ひぃ、という青年の情けない声が聞こえた。


 「私の目的は......あなたを試すこと」

 「試す? 何を?」

 「あなたがこの半年間、何を見て何を学んできたのか。これは召喚者である精霊長レイとの約束でもある」


 体が硬直して動かない。この拘束の正体は恐らく視線。砦にいた精霊たちは彼女の眼を見てしまったのだろう。


 「私が見たのはひとつの可能性に過ぎない。けれど、可能性がある以上は安心できない。そして、あなたが信じようと信じまいと私が何をするかは変わらない。あなたを試す。それだけよ」


 何をどう試すのか。それは心臓を刺すような殺意でわかった。セレアは腕を剣に変形させる。



 「あなたはカルマポリスによってノア教から救出された。でも、あなたは孤児院と学校においてアンドロイドであるという一点から差別を受けた。頼れる仲間も友達もいない中、政府から兵器として利用され、学校から外へ出たあとも社会的に抹殺された。あなたはそれでも人を信じる心を失わなかった」

 「わらわには友も、仲間も__」

 「最後まで話を聞いてくれる?」


 蛇に睨まれた蛙のような気分だった。
 町を消し飛ばす生体兵器、呪詛の真髄を極めた科学者、全能の人工知能、不死身の巨大蛾......セレアは数多くの強敵と戦ってきた。そんなセレアの勘が最大限に警告している。こいつはヤバイ。逃げろ、と。だが、今のセレアには指一本動かせない。


 「放浪の中、あなたは見た。戦争に次ぐ戦争。繰り返される種族差別。道具のようにぞんざいに扱われるアンドロイドたち。あなたは真摯に人々に呼び掛ける。平和を、平等を。でも、誰もあなたの声に耳を貸さなかった。それが未来のあなた」


 だから今のセレアは友達がいて、誰よりも頼りになる先生がいて、差別も終息に向っていることを口に出せなかった。彼女は誤解している。



 「......あなたがこの国に恨みを持つのは道理だと思う。私があなたであればそうしたわ。でも、それは間違っている。たとえ筋が通っていようとも人を殺していい理由にはならない」

 「だから、今のわらわには友はいるし、種族差別もなくなりつつある。お主が言っていることはメチャメチャじゃ」

 「あなたがどうであろうと、私が未来は事実。それは変わらない。何度も言っているでしょう?」


 セレアは直感的に感じ取っていた。妖鬼は暴走している。理性的のように見えて聞く耳を持たない。あの言葉も大声で独り言を言っているようなもの。恐らく膨大な呪詛が人格に影響を及ぼしてしまっている。
 やるといったら他人から何を言われようがわるのだ。今の彼女は。



 ーー



 虚空の精霊長レイはあまりにもあっさりと事が住んでしまったことに驚きを隠せなかった。彼女が城に入ったのを感知した瞬間、あらかじめ呪文を詠唱しておき、セレアが扉を開けると同時に発動。全力の魔法だったとはいえ、うまくいくとは思っていなかった。
 それにしても、覚悟していたとはいえ本当に詠唱の余波だけで私以外の精霊たちがみな幻覚に犯されるとは。加減をせずに魔法を使ったことがなかったためもしかしたら、とは思っていたが......。まあ、砦の異様さがセレアの不安を煽ったらしく、結果的には有効だったが。
 だが一つ想定外があった。セレアの幻覚に現れた妖鬼。千年以上生きているのにも関わらず、そんな種族をレイは知らない。だが、現実を参照し、限りなく現実に近い幻覚を産み出す性質の魔法である以上、確かに彼女はカルマポリス国に存在するはずだ。
 セレア以外にも怪物は存在するのだ。まだまだ油断は出来ない。精霊が妖怪を打ち倒し頂点に立つのはまだ先になりそうだ。まあいい。とりあえず目の前の強敵を消し去らなければ。
 レイはセレアの首に手を添えた。

タニカワ教授とセレア 起

 わらわはひな祭りの後に学校に転校してきた。クラスにはもうすでに仲良しグループが出来上がっていた。しかも、わらわはまともな生活を送ってきていなかったから、どうやって友達を作ればいいのかもわからなかった。
 休み時間、何もすることがなかったわらわは自分の机で突っ伏していた。孤児院も学校も辛くてゆううつで、わらわに今を生きる理由なぞなかった。


 「こんにちは。えっと......セレアさんだっけ」


 そんな、わらわに唯一声をかけてくれたのが、あやつだった。わらわが机から顔をあげると、白髪混じりの男の先生がわらわを見下ろしていた。その顔には優しさと、幸の薄さがにじみ出ていた。


 「タニカワ教授? わらわ、何かしでかしたか?」

 「いや、体調が悪くないか心配になってね」

 「ああ。わらわは眠いだけじゃ」


 わらわはあやつを軽くあしらおうとした。面倒事に巻き込まれるのはもうごめんだった。


 「セレアさんは学校にもう馴染めた? 友達は?」

 「まあ、な。トモダチもわりとおるんじゃぞ」

 「......今日の放課後は空いてるかい?」


 後から知ったことだが、あやつは大学から来た特別講師で、別にわらわのことなど気にかけなくてもいい立場だった。その辺に転がる石ころのように扱ってもよかったのに。あやつはどうしようもなく困っている生徒を放っておけないタチなのだ。
 だからこそ、タニカワ教授はわざわざ別校舎にある自身の研究室まで、わらわを呼び出したのだ。


 「席について。今、お茶入れてくるから」


 椅子に座ると胸から下が机に隠れてしまった。下手したら12歳程度の身長しかない自分を恨んだ。
 研究室は部屋の真ん中に長机があって、その回りを本棚が埋め尽くしていた。難しそうな表題ばかりだった。


 「はい。どうぞ」


 渡されたお茶を一口のんだ。胸があたたかくなった気がした。
 タニカワ教授は反対側に座ると、まるで友達に世間話でもするかのようなノリで語りかけてきた。


 「異国でみたんだけど、春には桜というきれいな花があってね。大きな木の枝一本一本に薄紅色の花が咲くんだ。これが、その押し花なんだけど」

 「あ、かわいい」


 きれいなピンク色の花びらが、栞に封じ込まれていた。思わず伸ばしたわらわの手のひらに栞がおかれた。その時少しだけあやつの指がわらわに触れた。


 「いい笑顔だ」

 「あ......」

 「一日数分でいいから、鏡の前で笑う練習をしてみて。するのとしないのだと心持ちが大分違うから」

 「そんな練習しなくても笑えるのじゃ。わらわをなめるでない」


 わらわはタニカワ教授をにらんだ。クラスの大多数はしょっちゅう笑っている。そんな誰にでもできることがわらわにはできない。そんなのは認めたくなかった。
 タニカワ教授はそんなわらわの様子をみて、表情を曇らせた。


 「大人は一日14回しか笑わない。でも子供は400回も笑うと言われている。君は、一日に何回笑ってる?」


 ことばが出なかった。「数えきれないほど笑っている」、と言うことができなかった。


 「子供は笑うことに抵抗がない。だから笑うべき時に自然に笑える。でも、色んな経験を積むにつれて、どのタイミングで笑えばいいのか頭で考えるようになるんだ。そして無意識のうちに気づくんだ。笑わない方が楽だってことに。......まあ、これは私の体験談だけどね」


 心を読まれたようでドキドキしてきた。穏やかな声がわらわの心の隙間に染み込んでいく。


 「人は自分から笑おうとしない限り、笑顔を作ることなんてできない。そのうち、笑顔以外の表情も忘れていく。喜ぶことも、怒ることも、楽しむことも、悲しむことも。全く笑わない人とセレアは関わりたいと思う?」

 「いや、思わんな......」


 呟いてから気づいた。わらわは友達がいると言った。でも、わらわは長いことわらっていないともさっき言ってしまった。


 「セレアさん、まずは笑顔から。友達を作ることを考えるのはまだ先でいい。とりあえず、楽しいと思ったときに笑えるよう、練習してみよう。それだけで気の持ちようも変わってくる」

 「じゃが、どうやって練習すれば......」


 いつのまにか一人で悩み、一人で物事を解決しようとする癖がついていた。人にすがるのはいつ以来だろうか。


 「毎朝鏡に向かって作り笑いをすればいい。もし、それが出来ないのであれば......その桜の花びらが君を助けてくれるはずだよ。栞はセレアさんにあげるよ」


 その優しさが心に染みた。


 「ありがとう、タニカワ教授」

 「呼び捨てでいいよ。セレアさん」


 それからというもの、何度もタニカワ教授に会いに行った。その度にタニカワはあるときは教師として、またある時は親友のように、またあるときは親のように、わらわと話してくれた。
 そのうち、わらわは相談しにタニカワに会いに行くのではなく、タニカワに会うために悩みを作るようになっていった。



⬇どちらの出会いがお好き?
thefool199485pf.hateblo.jp