フールのサブブログ

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セレア・エアリスの茶番

 見上げても頂点が見えないほどの巨塔が等間隔に立ち並んでいる。蜘蛛の巣のように架けられたガラスの連絡橋。手すりはないが、その道幅は車が数台通れそうなほど大きい。暗い空には緑のオーロラが漂っている。ここはカルマポリスのワースシンボル最新部。
 そこで向かい合う二機。
 片方は純白のウェディングドレスに身を包んだ少女だった。天を思わせるような髪、あどけない顔に似合わぬ左目の切り傷。そして右腕の剣、左腕のガトリングガン。背中にはステルス戦闘機を彷彿とさせる飛行ユニットが装着されている。
 もう片方はオオカミのような姿だった。頭の上から三本の角が生えており、背には飛ぶのには小さすぎる翼。そして体側面には歯車がついている。
 「セレア・エアリス。手に持つ菓子を置いていけ」
 「なぜ、わらわの邪魔をするのじゃ!」
 「知れたこと。我が望みはただひとつ。闘いの中に生き、闘いの中で死ぬこと」
 「奪うために戦うのではなく、戦うために奪おうとするのか」
 セレアに対して、狼に似た頭をゆっくりと下げた。
 「我にとって闘うことが、お前にとっての愛や友情。闘争こそが我が快感。脳裏に住み着く亡霊どももお前を倒せと慟哭している」
 戦うしかない。ガトリングガンをルナリスに向け、睨む。相手は対国兵器。だが、勝てない相手ではない。どんなに凄まじい機械であろうが弱点は必ず存在する。
 「わかった。ならばわらわは全力で答えよう。お主の、想いに!」
 にやり、と笑みを浮かべたエアライシスが光輝いた。呪詛を伴う閃光にセレアは思わず目をしかめた。
 「我が力は進化する! 《オーバーロード》! 見よ、そして恐怖せよ! これこそが我が真の姿」
 光が弱まり現れたのは竜だった。六つの目、上下の顎から伸びた角。こめかみから歯車のような機関。蛇のような口からは呪詛が漏れる。大樹よりも強靭な四肢に、動かすだけで強風が吹き荒れる両翼。
 犬歯が身長ほどもあるその圧倒的な強大さにセレアたじろぐ。
 「ルナリス・ドラゴンじゃとぉ!? まてまて、それはいくらなんでも無理じゃ! 狼なら、狼ならギりいけるけど! 竜の中にお主の魂はいくらなんでも......おい、嬉しそうな顔でバリア張りながら町ひとつブッ飛ばすエネルギーをチャージするな!」
 セレアがわたわたしている間に両翼と口に赤黒いエネルギーの球が集束する。
 「さらばだ。歴戦の友よ! 《超呪導三連砲》!」
 十メートルを越える光線が炸裂。赤黒い光線は町の呪詛エネルギーを供給するワースシンボルを貫き、町ごと吹き飛んだ。途方もない爆発で産まれた雲に、文字が浮かぶ。Happy B......

 「のっ、のじゃ! 爆発オチなんていやなのじゃぁぁぁぁ!」
 ばさっと布団から飛び起きたセレア。もちろんパジャマ姿だし、手にガトリングガンがついている訳がない。
 「のじゃ......。なんたる古典的なオチ。わらわの夢とはいえもっとマシな展開にならなかったのじゃ? あー、ペットの夢をふと見て枕を濡らす人の気持ちがわかったきがするのぉ。それにしても、あやつは何を奪おうとしてたのじゃ? 菓子類だった気がするが」
 セレアは目を擦りながらカレンダーを見て愕然とした。
 「バレンタイン!? あ、チョコ作り忘れたのじゃ......」
 ぶんぶんと首を振るセレア。
 「......いいや! 仕込みは終わっている、あとは仕上げだけじゃ。いまはまだ早朝、今から頑張ればまだ間に合う。くっ、まさかあやつに助けられるとは」
 結局チョコは間に合ったが、午後の授業で爆睡したセレアであった。