フールのサブブログ

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夢見る機械 半生物半機械式無差別破壊兵器エアライシス(竜型)ss12

 扉から一歩外に出ると、そこは異世界だった。
 まず床がおかしい。ガラスで作られている。何かをコーティングされているらしく、キラキラと瞬いている。どうやら、高濃度の呪詛に長い時間さらされても大丈夫なようにコーティングを施されているようだ。空を見上げる。黒い空間には、緑色を基調に複雑な光を放つオーロラが見える。奥には工場で見られるような塔がいくつかそびえ立ってる。塔の最上階を探そうと努力するも、果てしなく高いらしく、わはわの場所からはまったく見えなかった。わずかに金属が焼けるような不快な臭いが漂っている。
 この床は各々の塔を繋ぐ連絡橋らしい。数十人はわたれそうな幅だが、手すりのようなものは一切ない。
 

 「セレア、ここはカルマポリスの最終防衛ライン、ここを突破されるとカルマポリスは陥落する。つまり、一番兵力を集中させている場所だ」

 「最後の難関ってやつじゃな」


 ガラス越しに深淵を覗く。下の方に光る点を見つけた。一瞬太陽に見えたが、目を凝らすと溶岩だということがわかる。
 セレアが歩みを進める。すると、グシャ、という嫌な感触がした。床をみると銀色の水溜まりがいくつもある。さらに奥をみるとアンドロイドの義肢と思われるものがいくつも転がっており、銀色の水溜まりに写り混んでいた。ゴォーっという何かが動くおとが時おり聞こえてくる。不気味な静けさのなか、エアリス二機を前にしてわらわが進む。
 カツンという音に続いてコロコロという音が響きわたった。仲間のエアリスがネジかなんかを蹴ったらしい。


 「誰かが先に全部破壊したのか......」


 残骸だけが残る道を慎重に歩んでいく。やがて柱のうち一つにたどり着いた。柱の回りをぐるりと円形のガラスの板で囲っており、来た道を含めて六本の道が延びていた。多分空から見上げると蜂の巣状になっているはずだ。塔には扉はなく、六本の道へ素通りできる作りになっていた。内装は非常に殺風景で金属板で作られた壁がむき出しになっている。
 わらわは地面により多くアンドロイドの残骸が転がっている方向に進んでいった。恐らくワースシンボルを陥れた侵入者が通った可能性が高いからだ。


 「不気味じゃのぉ」


 そう呟いたとき、背後に強い衝撃を受けて前に吹っ飛んだ。攻撃を受けた部分が発熱している。慌てて後ろを向き、体制を建て直す。だが、いるはずの敵がいない。さらに背後からなにか来る予感がして、空中に飛んだ。エアリスたちも攻撃を受けているらしく、冷凍銃で反撃しようとしていたが、敵の正体が掴めずオロオロしていた。
 奥の方でなにかがゴォーッと動く音。


 「セレア、床だ! アンドロイドの残骸が攻撃してきている!」


 タニカワの声を聞いて、エアリスとともに床に転がるアンドロイドの武器を破壊していく。三機六丁ものガトリング砲の発射音が耳に焼き付く。一時的に攻撃は止んだ。が、粉々になったアンドロイドの断片に、銀色の水が寄せ集まる。不気味に手足が跳ね回ったあと、また元通りに修復され攻撃を再開する。
 空を飛べばと考えたわらわは、黒い三角形の飛行ユニット展開、一気に奥へと飛ぼうとする。が、機能は正常なはずなのになぜだか飛べず、落ちる寸前で偶然そばにあったガラスの床に捕まった。
 地上戦しか手はない。わらわは攻撃を防御しつつ、ガラスの床を進む。弾の軌跡が蜘蛛の巣のように写る。360度から放たれる強烈な熱と冷気にさらされ、徐々に体が言うことを聞かなくなっていく。アルファ故に無痛ではあるものの、死の恐怖が頭によぎり、恐ろしくなる。


 「セレア、一旦仲間のエアリスの制御を外せ。エアリスに回す分のエネルギーを本体に回せば、この超重力の影響下でも飛べるようになるはずだ」


 わらわが念じると、ばたりと二機のエアリスが倒れた。同時にわらわに力がみなぎるのを感じた。
 エアリスを相手にしていた残骸が一斉にこちらを向き、攻撃を再開する。わらわはドッジボールのボールをよける要領で攻撃をかわす。戦闘の舞台が二次元から三次元に変わったために弾幕がスカスカになった。行ける! 行けるぞ! ガラスの床をけんけんぱしながら猛烈な勢いで奥に突き進んでいく。たが、


 「セレア! 三秒後、二時の方向に三十メートル!」


 反射的に体が動いていた。少し被弾したが、タニカワの指示した場所に到着……した瞬間に視界の左右に白い壁が現れて、消えた。それが敵からの超遠距離攻撃だと気づいたのは、タニカワが次の指示を叫んだあとだった。「正面雷ご! ご! なな!」着弾予測が視界の端に表示された。頭で理解する前に体を動かす。まわりに雷が5発5発7発の順で落雷した。
 わらわはタニカワの指示を信じ、身を任せる。赤い線が見えたと思ったら、その軌跡から紫色のマグマがわき出た。塔のいくつかをぶち抜く極太の光線も雨あられと飛んできた。高層建築を軽々やきつくしそうな火炎が舞い踊った。だが、そのどれもがわらわを避けるかのように動き、被弾しない。タニカワが把握し、わらわが避け前へ飛ぶ。


 「今回ばかりはでしゃばるぞ! セレア」

 「おぬしに任せる!」


 花火がそのまま兵器になったようなレーザーの群れがわらわに向かってきた。わらわは全速力で動きつつ、振り向く。大半のレーザーが空中で爆発する。わらわは煙を吹いているガトリングガンを手に変形、塔の出っ張りに捕まり鉄棒の妙技、大車輪を披露。その動きについていけなかったレーザーが塔のあちこちで爆発。その様子を確認後、目の前から来る青二本赤二本白四本の光線を、全身の力を完全に抜いて避ける。塔の爆発音が聞こえるなか、身体を液状から人の体に復元する。
 さらに奥へと進むと、おぼろげに敵の姿が見えた。小さい腕に太い足、巨大な翼。蛇のような頭。口から漏れる呪詛の吐息。


 「こいつ! ドラゴンか」


 ドラゴンが火炎を吹いた。反射的に身をよじってかわす。ガトリングガンを発射するも鱗に弾かれてしまっている。口の中にも数発当たったが、全く気にしていない。


 「カルマポリスのデータベースにあったぞ。200年前にカルマポリスにて召喚され、国そのものを破壊したとされる生物兵器だ。敵軍を倒そうと十数代前の国王が召喚したが制御できずに反逆されたらしい」

 「そんなバケモンが、なんでこんなところにいる!?」


 この手の大型兵器にありがちな持久力がない、トロい、といった弱点はこいつにはなかった。AI兵器故に攻撃に移る際に変な癖があり攻撃予測ができるが、そのうち学習され克服されるだろう。
 敵の攻撃範囲予想が視界に表示され、あわてて安全地帯まで避けた。その直後、白い光線がわらわの横を通りすぎた。どうやらドラゴンの口から発射されたものらしい。時間差でドラゴンの両翼が瞬き、その真ん中からも赤黒いレーザーのようなものが放たれる。攻撃に巻き込まれたあわれな塔は火を吹いて爆発する。当たってもいないのに皮膚がピリピリと焦げていた。続いて右腕に違和感を感じた。左手を剣に変形させ右腕をすぐさま切り落とす。落ちていく右腕は白い霜を被っている。その右腕は数秒と経たないうちに業火に襲われ蒸発。「AIに学習された......。もうこれしか手段がない」。タニカワが言い終わる前にわらわはタニカワの思考を察し、行動していた。
 ドラゴンの動きがスローに見える。唇がめくれ、鋭い歯が見えた。歯と歯の間に隙間ができる。思うよりも先に体が動いていたらしい。気がつくとドラゴンの喉奥に左手を差し込んでいた。そのままドリルに変形。無我夢中で掘り進むと光が見えた。バッと視界が開けたと思ったら、鱗の上を転がっていて、受け身をとる間もなく床に墜落。
 地面が揺れて、続いて後ろから爆風が、最後に爆発音が響いた。


 「残骸から推測するとドラゴン型の呪詛兵器だ。だが同じ兵器でも防衛用のエアリスとは違う。恐らく......無差別破壊兵器」

 「結局こいつもワースシンボルの化身か」


 体にこびりついたドラゴンの血をぬぐった。血とは言っても色は緑色であり、筋肉はどう見ても人工的なものだった。
 落ち着いて回りを見てみた。無数にあった塔の半数はヒビや穴が空いている。ガラスの橋は対呪詛のコーティングが剥げ、所々崩壊している。あちこちで火柱と煙が立ち上っており、見知らぬ人にアンドロイド同士の戦争があったと説明してもたぶん、信じるだろう。


 「攻撃予測はどうやったのじゃ?」

 「ハッキングしたエアリスからカルマポリス防衛システムに侵入した。データが兵器でひとまとめにされていてね。偶然こいつのデータを発見できた。最初は間一髪だったよ」


 ふう、とタニカワは額の汗を拭いため息をついた。こめかみを指で揉みながら話を続ける。


 「このドラゴンは、カルマポリスで最強の生物兵器として知られていた。召喚すれば全てを無に帰すと。ただ、その由来に関しては全く知られてない。召喚方法だけが今も政府に受け継がれている」


 タニカワが目薬をさして目をしばしばさせた。すると、いつもの教壇にたったときの口調に戻った。


 「そもそも、カルマポリスは200年前このドラゴンによって一度国そのものを吹っ飛ばされた経緯がある。歴史書もなにもかも一度そこで失われているんだ。今ある町並みは200年のうちに再建されたもので、今用いられてる呪詛技術もそのとき残っていたものだけだ。だから、今のカルマポリス民はワースシンボルの技術に関してほとんど知らない。それどころか、最近までエアリスの存在すら知られてなかった......っていうかセレア、テスト範囲だぞ」

 「すまん、寝てた」

 「堂々と言うことじゃない。......この様子だと帰ったら歴史の補習だな」

 「わらわは歴史を勉強するよりも作る方が向いてるのじゃ!」

 「君が歴史を作ると、補習の暗記内容も増えるぞ?」

 「のじゃ!?」

 「......まあ、とりあえず少し休みなさい。このままずっと戦い続けていたら、いくら体が機械とはいえ限界を越えてしまう。無理はよくないぞ。とりあえず、右腕を床にある銀色の水溜まりで修復しよう。恐らく使えるはずだ」

 「わかった」

夢見る機械 未知の世界へ ss11

 「セレア、セレア!」

 「のじゃ!」


 なにがなんだかわからない。明かりがないので、本当にわけがわからない。目を凝らすと、どうやらすすけた部屋に仰向けで横たわっているらしい。地面がざらっとしている。燃えカスが積み重なっているらしく、すこし体を動かすだけで黒い煙がたった。
 とりあえず、立ち上がってみた。四肢に異常はない。頭がすこしガンガンするが特に問題なかろう。遥か彼方に光る水晶体が浮いている。
 埃を払っていると今にも震えた声でタニカワから連絡がきた。固い表情を装っているが、目に涙を浮かべている。


 「セレア、よかった......本当によかった」

 「待て待て! 泣くのは卒業式まで勘弁じゃぞ!」

 「......すまない。老けてから涙もろくなってね」


 不安げなタニカワに満面の笑みを送る。タニカワは安心した様子で、涙を拭き取ると、いつもの冷静な声に戻った。


 「セレア、君は量産型エアリスのうち一機の爆発に巻き込まれ、気を失った。爆風はすさまじく君は木っ端微塵に吹き飛ばされたみたいだ。でも、君の体は単純な衝撃にたいしてなら非常に強い。数分ほどで肉体は修復された。爆破されてから大体10分程度経ってる」

 「え、それだけか?」

 「どういうことだ?」

 「わらわは吹き飛ばされてから、長いこと......そうじゃな、夢を見ていた」

 「夢? どういうことだ?」


 わらわは先程の夢の内容をざっと話した。すると、タニカワは驚いた様子で言った。


 「スミレ?! たった今、スミレの親から電話があったぞ。彼女は今朝交通事故にあってついさっきまで仮死状態になっていた。そして今、目覚めて君と同じようなことを言ったそうだ」

 「のっ、のじゃあぁ!?」

 「君に伝言だ。『あなたならできる』だそうだ」


 スミレ。わらわはあの紫色の髪の毛を揺らして、猫耳をピコピコさせながら首を傾ける姿が浮かんだ。彼女が仮死状態だったということですら信じがたいのに、同じく死にかけてたわらわと同じ夢を見るとは。


 「偶然とは思えん。タニカワ、『必ず帰ってくる。待ってろ』と伝えてくれ」

 「わかった。こちらで作業しているフリをしながら連絡しておく」


 ふう、と二人のため息をつく声が被った。こんなときに不謹慎だが、偶然息があったのがなぜだが楽しくなって笑ってしまった。


 「大分パートナーらしくなってきたのぉ」

 「ああ、私も君と大分にてきたようだ。フフッ、同じ部屋にいるバックアップがみんなして切羽詰まった顔をしている。早いとこ仕事を済ませよう」

 「わかった。とりあえず、もう一度シンボルに言ってみるのじゃ」


 わらわは暗い通路をシンボルに向かって一直線に飛んだ。道中、何か銀色に煌めくものが転がっていた。警戒しながら近づいてみると、それはわらわが先程倒したエアリスだった。氷づけだったのが幸いしてほぼ無傷で機能停止している。わらわと違い左目に切り傷はない。


 「これはハッキングできるか?」

 「試してみる。......お、今度は完全にいけたぞ。自爆システムも解錠」

 「よし、とりあえず、この先に道がないか探索してもらえるかのぉ」


 操ったエアリスは、わらわが言葉を言い終わる前に、勝手に部屋の突き当たりまで歩いていった。半円形の行き止まりだ。その中央にワースシンボルが浮いている。ステンドグラスはすべて吹き飛ばされてしまったらしい。床や天井と同じくすすで真っ黒だ。
 エアリスは空中に浮遊する正八面体の結晶に触れる。すると、突き当たりの壁がスライドして開いた。


 「政府の地図にはなかった。恐らくこれがライン・N・スペクターが論文で発表していた、ワースシンボルの最下層だろう......もう一機もハッキング完了」

 「どうやら皆がワースシンボルと認識していたのは単なる扉の鍵だったようじゃ。札を貼ってもなにも起こらん。進むしかなさそうじゃ」


 エアリスと共に次の部屋に侵入する。円形の部屋だ。壁に大理石でできたやたらとおしゃれな柱が等間隔に配置されており、柱と柱の間にまたしてもステンドグラスである。


 「おおっ! なんか壁がすごいことになってるのじゃ!? さっき目の前にあったステンドグラスがなんか遥か上にあるぞ!?」

 「壁が上がってる!? いや、私たちが降りてるんだ。恐らくこれは巨大なエレベーターだ」


 音もなく静かに沈んでいくエレベーター。この先に何があるのか冗談抜きで想像もつかない。


 「セレア、呪詛の濃度がすごい勢いで上昇している。恐らく、旅の終点に近づいているんだろう」

 「そのようじゃな。最後間で頼むぞ、タニカワ」

 「君はいつから呼び捨てにするようになったんだ? 仮にも生徒と教師。距離感は大切に」

 「おっ! ついたぞ! 扉が開きそうじゃ......タニカワ、なんか言ったかの」

 「なんでもない。いくぞ、セレア」

夢見る機械 友情 ss10

 川辺に腰かけて、深呼吸した。川はきれいで水底まで見える。藻がゆらゆらしている他、銀色の小魚が泳いでいるが名前はわからない。水の流れる音は限りなく静かで、ひとつ難点をあげるとすればホームレスの生活音だろうか。


 「まさか、こんなところでスミレに会うとはのぉ。お主本物か?」

 「この前の授業でセレアがタニカワ教授の教科書を借りて、顔を赤くして戻ってきたことを知っている程度には本物」

 「はっっっずかしい例え持ってきたのぉ! まあ、こういう毒がある言動からしてそなたじゃな」


 スミレはとなりで、緩慢な動作でカニを指差して口をぽっかり開けた。姿勢がいいだけに余計シュールだ。わらわはこのカニの名前をしらない。が、タニカワがいたらきっと解説してくれるに違いない。


 「お主はどうやってここに来たのじゃ?」


 わらわの問いに、教室で無駄話するときと同じノリでスミレが答えた。


 「いつのまにか」

 「そうか。ここはいいのぉ。カルマポリスと違ってみんなのびのび生きている。時そのものがゆっくりと流れているようじゃ。公園に行けば子供が遊んでいるし、山に行けば動物もいる。下手に開拓してないお陰で自然のままの場所も多い。死んだように下を向いているスーツ姿の男どももいない。それにみな親切じゃ」

 「そう」

 「正直、このまますんでもよいかと思っとる」


 静かにスミレがうなずいた。そして突如、川の中程を向いて猫耳をピンと伸ばした。魚の跳ねる音がしたらしい。川の光が反射してキラキラ光る眼の先に、かなり大きめの魚が泳いでいた。塩焼きにしたらおいしそう。スミレの他にタニカワでも誘って今度寿司屋にいくか。


 「......ついていっても?」

 「もちろんじゃ!」

 「ありがとう」


 わらわは、わしゅわしゅとスミレの頭を撫でた。スミレがくすぐったそうに身悶えしたあと、ゆっくりと体を預けて来た。
 しばらくそのままそうしていたが、なにかを思い出したかのようにボソボソとスミレが呟いた。


 「ついていく上で、あなたにひとつ質問がある」

 「なんじゃ?」

 「過去。正体。隠し事」

 「そうかぁ、そう来たかのぉ~。まあ、どのみち明かす気でいたからいいじゃろう」


 わらわは手短にあった石を投げた。三回ほど跳ねて底に沈んだ。
 「明かす気でいた」、自分で言っておいてひどく腑に落ちない。何か思い出せそうな気がする。タニカワ教授とその件で面談したような。そもそもどうしてその話題が出たのか? そうだ、ガーナ元国王に意地を張ったからだ。じゃあ、元国王がカルマポリスに来た理由は......。


 「カルマポリスにはエアリスという兵器があってのぉ。とにかくめっちゃ強い。しかし、弱点があっての。エアリスの原動力は呪詛なんじゃが、とにかく燃費が悪いんじゃ。ワースシンボルのエネルギーをもってしても今の段階では同時に三機しか動かせぬ」


 近々戦った三機のエアリスが頭に思い浮かんだ。なぜわらわは教会なぞであやつらと戦っている。そうじゃ、ワースシンボルに異常があって、それをタニカワ教授と一緒に......。


 「それをどうにかして別の場所で動かそうと頑張った宗教団体があった。やつらはワースシンボルの代わりに、とんでもないものを原動力としてわらわを起動した。それはこの世にさ迷える幼子の魂じゃ。魂のエネルギー=呪詛じゃから、呪詛で動くエアリスにはもってこいじゃ。ひとつの部屋に何万というさまよえる魂を召喚し、閉じ込め、そのエネルギーでエアリスを動かした。が、魂たちは反逆してそのうち新品の一機を乗っ取った。それがわらわじゃ」

 「そう」

 「あれ、あんまり驚かんのな」

 「あなたはあなた」


 変わらず身を委ねてくれる友にわらわは深く感謝した。そして、スミレの感触からすべてを思い出した。


 「お主がそういう反応をしてくれて安心した。やはり、わらわは帰って皆にこの事実を言わねばならん。もう隠したくないんじゃ。これからも後ろめたい気持ちをずっと背負って生きていくなぞごめんじゃ。わらわは帰る。お主はどうする?」

 「それでも、ついていく」


 そのためにはワースシンボルの最深部に行き、お札を貼り、問題を解決せねばならない。それを通し、わらわは人を殺すために生まれた兵器ではなく、カルマポリスのことを思いやる一住民であることを示す! ようやく思い出せた。すべきこと、なすべきことを! そして何より、あの心配性の教師をこれ以上待たせてられん。


 「ま、帰りかたがわからない以上はどうにもならんけどな」

 「アッッッ!!!」

 「のじゃじゃ!? どうしたのじゃ!?」


 ばっとわらわの体からスミレが飛び退いた。よくみると表情筋をピクピクさせている。スミレは普段どんなことがあって顔に『は』感情を見せない。一大事だ。


 「体......透けてる」


 意味不明なことを呟かれ困惑した。何をいっているんだと顔を傾けたとき、視界の下であろうことかスミレの下半身が消えかかっていた。まるで幽霊だ。


 「はぁ?! ハァァァ! おおおおおおおお主も消えそうじゃぞ」

 「あ......」

 「まっ......」


 お互いに言葉を言い終える間もなく、突如ブレーカーが落ちたかのように視界が真っ暗になった。

夢見る機械 斜陽 ss9

 放浪生活二日目。朝起きたら夕日だった。どうやら青い空と言うものはこの世界に存在しないらしい。店の店員や道行く人にカルマポリスに戻る方法を聞くが、いっこうに手がかりはつかめない。
 それならばと空を飛び探索を行った。住宅地が続き、やがて田園の緑色に視界が染まり、それでもずぅっと飛んでいくと海に出た。どうやら、この世界に大陸と呼べるものは先程いた島だけらしく、その先は地平線の果てまで何もなかった。ただただ、夕日に照らされ黒ずんだ海だけである。
 さらに空を飛び続けると、ようやく島が見えてきた。島を空から様子を偵察するととうもおかしい。田園風景、村、町……どこかで見たような気がする。着陸して確認すると、そこは先程までいた島と全く同じだった。つまり、島の右端からずぅっと飛んでいくと島の左端に出てくる。ループしているのだ。
 何度目かのため息をついてから、偶然見つけた川辺に腰かけた。家を失った者共の集落がそこかしこにあるが気にする気力はない。


 「今日も収穫なし。……はぁ、孤独じゃ。タニカワでも誰でもいい。知っている人の声を聞きたい」


 放浪生活三日目。
 見る場所見る場所知らない場所。帰る場所はなく居場所もない。宛もなく、ただただ道行く人にこの空間の出口を聞く。
 今日もまた別の町に立ち寄る。塩の香りと生魚の生臭い臭いがする。風は湿気と砂と塩を帯びており、あまり心地よくない。店がほとんど海鮮丼か寿司だった。その他には屋台が少々。寿司寿司どんぶり......和国で聞いたことがあるが実際に見たのははじめてだった。奥に進むにつれてどんどんその傾向は強くなり最終的には漁場に出た。少し大きめの建物があったので入ってみると、そこら中に白い箱がおいてあり、氷と一緒に魚が納められていた。その前で景気のいいおじさんが商売文句をうたい魚を売りさばいている。銀色の魚が旬だとかで高値がついていた。少なくともわらわはこんな値段で魚は買わんな、と思った。......思ったら、頭をギラギラさせたおじいちゃんが落札してた。ようわからん。
 その後、一通り町を回って聞き込みをするも成果なし。
 人に奇異の目で見られるのも飽きてきた。


 「この生活はいつまで続くんじゃ……。じゃが、少なくともこの町にいる限り差別は受けないし、国からの圧力もない。この町に住むのも悪くないきがするのぉ」


 昨日見つけた川辺で時間を潰してから寝る。



 放浪生活四日目。
 進展なし。しばらく聞き込みを続け、休憩がてら川辺でぼーっとタニカワのことを考えていたら一日経ってた。



 そして......放浪五日目。
 大分放浪生活にもなれてきた。だんだんわらわのことが町で噂になってきたようだ。わらわが聞く前から「ごめんね、私もしらないの」とすれ違った人が返すようになってきた。効率はあがったがそれでどうにかなるものでもない。
 いつもの川の縁でホームレスと一緒にぼーっと空を眺める。空は相変わらず夕焼け色だ。
 空を見つめていると自分がちっぽけに思えてくる。そして、だんだんともとの世界に戻ろうという気力が失われる。ここにいる人たちは少なくともカルマポリスにすんでいる人たちに比べてのんびりしていた。近所の人たちと助け合い、ほのぼの生きている。そんな印象を受けた。引きこもりが増加しつつあるカルマポリスとは偉い差である。わらわは一人でぶつぶつと喋り始めた。もう、人の目は気にならなくなっていた。


 「ここにすんでしまおうか。精神的ショックのために、ありもしないカルマポリスという町を故郷と思い込んでしまい、路頭に迷ったあわれな女の子......こう考えるとこの世界が異常なのではなく、わらわが異常に思えてくるな......」


 深いため息をついて前を向いた。対岸になにかが見える。人影のようだ。よく目を凝らしてみる。

 「猫耳かぁ。珍しいのぉ。無表情で川底を覗くとはよほどの変人か暇人じゃのぉ。はて、あの顔どこかで......はぁ!?」


 思うよりも先に体が動いていたらしい。気づいたら川の上空を跳んでいた。そして、猫耳の目の前でビタリと着地。両手をあげてアピール。


 「......十点満点」


 呟いてゆっくりと顔をあげたのは、間違いなくわらわの知っているスミレだった。


 「久しぶり」

 「ひさし......うぇぇぇん!」


 言い切る前に嗚咽と、涙に遮られてしまう。安心して足の力が抜けて、地面に座り込んだ......つもりだった。座ったはずの地面の感触がなかった。そのまま視界が空を捉えたと思えば急に歪み、背中に冷たい感触が。その感触がさらに全身に浸透していく。慌ててわらわは水面に手を伸ばした。
 暖かく、柔らかい手が、わらわの手を包み込んだ。


 「セレア......ドジで死ぬ......完」

 「勝手に殺すな!」


 二人で再開を喜んだ。


 「よくわらわがここに来るとわかったのぉ!」


 わらわの質問にたいしてスミレはものすごい早口で答えた。


 「道行く人にカルマポリスという架空の町の所在を聞くとされており、ジャンプだけで数百メートル空を飛ぶ、頭の壊れたかわいそうな美少女が、川辺でよく座っているという噂を聞いた」

 「......聞かなきゃよかったのじゃ」

夢見る機械 境界を越えて ss8


 なぜわらわがこんな場所を歩いているのかわからない。どこかの町の商店街らしい。ふと、空を見上げると夕日を直接見てしまい、目が眩んだ。
 左右に古めかしい店が並んでいる。街道は主婦と思われる人たちで賑わっている。手前には野菜が並べてある八百屋があり、その奥に緑の袋がたくさんおいてある茶屋があり、その次は団子屋。カルマポリスに見られる高層建築は一切いなかった。頭がおかしくなりそうだ。
 落ち着けるために深呼吸をしてみる。カレー、トンカツ、お茶......食堂がそばにあるらしい。ひどく疲れた、一休みするか。そう思ったときわらわは一文も持っていないことに気づいた。ポケットを漁ってもなにも出てきやしない。つまり、今のわらわは知らない土地でたった一人迷子になっている。途方にくれるわらわを小バカにするかのようなカラスが鳴き声が聞こえた。
 延々と続くかに見えた商店街を抜けた。境目は曖昧だったが、どうやら住宅地に突入したらしい。通行人が減り、道が閑散とした。家は石垣で囲ってあり、木造家屋が目立つ。一昔前の和国がこんな感じだったと社会かの授業で習った気がする。
 偶然すれ違った強面の男の子がわらわを見つめていた。なんじゃろうと、自分の体を確認してみる。
 ローファに白のワンピース。銀色の髪の毛のロングヘアー。先端がちょっとカールしているのは癖っ毛で、タニカワに確認しても違和感はなかったと言われた。腕を変形させ、鏡をつくり覗いてみてもやはり異常はない。
 っと、ここまで来て思い出した。そうだ、タニカワに連絡すればいいんだ。あやつならこんな異常事態でも冷静な口調でわらわに指示を出してくれるに違いない。そうとわかればすぐ行動だ。


 「タニカワに連絡! おい、通じているのなら返事をしろ! うたた寝は許さんぞ......出ないか......」


 だろうとは思ってた。先程の少年が見てはいけないものを見てしまったかのように顔をそらした。まあ、一人で道端で叫んだら変人扱いされるのは道理というものだ。そうだ、と少年に声をかけた。


 「すまん、そこの少年」

 「ヒッ! はっはいなんでしょう!?」

 「お、いい声してるのぉ。とりあえず、今はいつじゃ」


 彼は驚いて縮こまりながら日付を呟いた。日付は間違いなく今日だった。声楽部でも入っているのだろうか。やたらと澄んだ声だった。顔面とのギャップが激しすぎる。


 「ではここはどこじゃ」

 「業町三丁目だけど」


 藍色の短パンに水色のシャツの少年は、この女の子はなんでこんな訳のわからないことを聞いてくるのかな、といった様子だ。


 「ゴウマチサンチョウメ? そうか、本格的に困ったのぉ。カルマポリスという町を探しているんじゃが」

 「ごめん。残念だけどその町は知らないな。っていうことは君、迷子?」

 「ああ。そうか、それで声をかけるのを渋ってたわけじゃな? 迷子って確信を持てずに。ところでお主、名前は?」

 「カサキヤマ」


 わらわの推測がただしかったのか、少年は顔を赤くして目をそらした。そのせいで名前がよく聞き取れなかった。


 「えっとすまん、ササキヤマ? カアキヤマ?」

 「カサキヤマデス」


 少年の声が裏返った。裏返っても美声だった。外見ににつかわず繊細な声と......


 「......ちょっと待て、お主。どこかで見たような......?!」

 「どうしたのお姉ちゃん?」

 「お主、たぶん音楽好きか?」

 「うん。大好きだけど?」

 「続けた方がいいぞ。わらわ、一人のファンとして応援するから」


 ぱぁ、っとカサキヤマ少年の顔が明るくなった。


 「おねえちゃん、もしかしてコンサート見て......僕のファンになったの?!」

 「そうそう! 思い出した! サインくれんかのぉ」

 「いいよ! 書いたげる!」

 「んじゃあ、この色紙に頼む」


 わらわはポケットからサイン色紙を取り出すフリをして、体の一部を板状に変形させ切り離した。それをカサキヤマ少年に渡す。
 少年が言ったのは恐らくチャイルドコンサートのことだろう。実際にセレアが見たのはテレビ放送されていたコンサートで、プロたちが続々と登場するようなすさまじい、コンサートである。そして、そこに立っていたのはカサキヤマ少年ではない。繊細な歌詞と歌声で人々を魅了するアーティストだ。


 「ほわぉぉぉ! サインじゃあああ! こんなところでカサキヤマのサインをもらえるとは!?」


 意味もなく空中で三回転してから、カサキヤマに微笑んだ。


 「おねえちゃん喜んでくれてありがとう! サインなんてしたのはじめてだから緊張した」

 「ああ。たぶんこれからもっとたくさん書くことになるじゃろうな! そうなってもわらわのこと覚えていてくれると嬉しいのぉ」

 「あ、もう家に帰らなきゃ! おねえちゃん、ありがとう!」

 「おう! これからも応援しておるぞぉ!」


 わらわはカサキヤマが見えなくなるまで手を振り続けた。
 ふう、と一息ついて、わらわは複雑な思いでそのサインを見る。はじめてにしては異様なほど洗礼されているサインだ。
 カサキヤマは記憶が正しければ一年前に亡くなったアーティストだったはずだ。それがなぜ、こんなところで子供の姿になって存在していたのか。異常すぎてあっさりと対応してサインまでもらってしまったが、これは相当不味いことになっている気がする。わらわの推測が正しければ、わらわは恐らく......。
 いやいや、と首を振った。そんなはずはない。
 っていうか、そもそもわらわはなぜこんなところにいる。わらわはここに来る直前なにをしていた? 思い出せない。数週間の記憶が飛んでいる。とりあえず、思い出したのはタニカワ教授と連絡をとっていたことだけだ。
 その日は結局なにも手がかりを得ることなく終わった。アルファであるわらわは食事をせずともとりあえず寝れば(メンテナンスとも言う)永遠に活動できる。高度1000メートル位で待機すれば誰にも迷惑はかかるまい。ここまで来ると殆どチリが飛んでこないので、空気が綺麗なのだ。これ以上の高度も行くことが出来るが、酸素と言う推進力がなくなり、すんごく疲れるため止めておく。


 「夜空に星はなし。わらわの行く末を示しているのか? いや何を弱気になっているきっとタニカワ教授も頑張っておるのだ。明日こそは……」

夢見る機械 液体金属式妖怪型多目的防衛兵器 ss7

 量産型エアリス。太古にカルマポリスの内戦に運用された、液体金属式妖怪型多目的防衛兵器である。液体金属のために頭部・左右碗部・左右脚部・背部のうち三ヶ所の簡易的な変形機能に加えて、液体金属で作られている自己修復装置が搭載されており、物理的な破壊はほぼ不可能。その上、銀の泉と呼ばれる制御機構さえ工場に作ってしまえば、低コストで量産可能という悪夢の兵器だった。
 弱点は一機起動するだけでカルマポリスの消費エネルギーの約十分の一に相当するエネルギーを消費し続けること。ワースシンボルが呪詛に犯されている今、三機以上を起動する余裕はない。
 また、物質の状態変化を利用して肉体を制御しているため、過冷却や過熱に弱い。


 「右に避けろ!」


 セレアはタニカワ教授の言葉を聞いて反射的に避けた。セレアの右耳にけたたましい破裂音が聞こえた。遅れて体の右半分だけ異様に冷たくなった。
 視界が回復したセレアの目に飛び込んだのは四本の剣。
 反射的にセレアは飛行ユニットをふかし距離を取ろうとする。目の前のエアリス二機に気をとられていると、今度は前から飛んできた白いなにかが脇腹を掠めた。瞬時に脇腹が凍結して肝を冷やす。
 冷凍弾による妨害のため、引き離せないどころか徐々に距離を詰められている。
 セレアは突如、全関節を180度回転させてすれ違い様に一閃する。一機目の上半身と下半身が分離。銃声と共にウェディングドレスが細切れになった。これで再生までの数十秒は持つはずだ、とセレアは判断する。
 続けて体操選手のようなバック転と、盾に変形させた両腕で、氷の柱を掻い潜っていく。
 戦闘経験の差でなんとか持ちこたえているものの、あと数十秒後には破壊されるのが目に見えていた。


 「タニカワ教授、なにか良案はあるか?」

 「動きを止めて君がエアリスに触れれば、ハッキングができるはずなんだが......」


 氷の柱を壁蹴りして、常にエアリスに対して影になるように動く。それでも、セレアの手足は徐々に氷付けになり機能を失っていく。
 だが、諦めるわけにはいかない。ここで終わってしまったらみんなやタニカワ教授と会えない。そんなのは御免だ。
 セレアは苦し紛れにガトリングガンを構える。
 すると、願いが通じたかのように勝手に弾を発射した。氷の柱とステンドグラスの間で弾が跳ね返り、反対側にいたエアリスの脳天をぶち抜いた。目が再生する前に接近して、剣で切り裂いた。


 「タニカワ、アシストさんきゅう!」

 「どういたしまして。油断するなよ」


 地面に転がっていた再生中のエアリスをガトリングガンで黙らせてから、次の三機目のエアリス討伐に向かう。ここまでくれば圧倒的に戦闘経験が豊富であるセレアの独壇場だった。AIを熟知しているセレアは敵の斬撃・銃撃・打撃をすべて先読みして封殺。
 最後にセレアは敵の隙を見てタックルした。そのまま飛行ユニットの出力を最大にして、床に叩きつける。エアリスの肉体を構成する金属が削れ、崩れ、追撃のカマイタチの呪詛によって細切れになった。
 最後にセレアはボロボロにちぎれた雑巾のようになったエアリスの頭部に手を当て、ハッキングを開始する。


 「10……9……8……」

 「タニカワ! まだか!」


 視界の奥の方で、エアリスが胴体まで再生している。


 「あと6秒!」

 「他の二機が再生するぞ!?」


 左右の腕が可動した。


 「あと3……2……」


 頭が出来上がり、瞳がギラリと光る。


 「タニカワァ!」

 「1!!」


 気づいたときにはセレアの目の前でエアリスが銃口を向けていた。脇のしたに、二機目のエアリスの腕が滑り込み羽交い締めにされる。
 もうダメかと思ったとき、いきなり眼前のエアリスが凍った。続いて後ろにいたエアリスの腕が急に緩んだ。するりと脇から腕が離れ、後ろで大きなものが砕ける音がした。


 「ハッキング完了。危なかった……」

 「すまぬ、一瞬お主を疑ってしもうた」

 「いいんだ。ここまで追い詰められたのは私のサポートが不十分だったからだ。申し訳ない」

 「いや、結果的に助かったんじゃ。気にするな。タニカワ」


 ふと、気を抜いた瞬間だった。突如として、ハッキングしたエアリスがガクンと揺れたのだ。はっとしてセレアは空に飛んだ。が、間に合わなかった。


 「じば......」


 白い閃光は一瞬にしてセレアを飲み込んだ。なおも恐ろしい速度で膨張する。触れたステンドグラスを一瞬にして割り、まばたきする間もなくカーペットを灰にし、大理石を赤く溶かし、天井を崩落させていく。秒速数百メートルで進む爆発は協会の入り口に到達。チョコレートを割るかのように入り口のあった壁を吹き飛ばした。
 アンドロイドの残骸が転がる部屋をひとしきり火の粉まみれにして、ようやく炎の行進が止まった。非常用のスプリンクラーが作動するも焼け石に水状態である。
 コンピューター越しに発せられる、タニカワ教授の悲痛な叫びがセレアに届くことはなかった

夢見る機械 聖堂?教会 ss6

 地面スレスレを飛び、建物の内部に侵入する。
 玄関と思わしき部屋をすっ飛ばすと、やけに長い部屋に出た。部屋には車が二三台通れそうなほどの広い幅の部屋に赤いカーペットが敷かれており、その左右を高さ十メートルはあるステンドグラスが彩っている。ステンドグラスからは呪詛由来である暁色の光が漏れだしていた。


 「きれいじゃのぉ。こんな速度で飛んでいるからまるで万華鏡のようじゃ」

 「聖堂をモチーフにしているのか。それにしても長いな。この部屋、数キロはあるぞ」


 ある程度進んだところでセレアは一旦止まった。人が乗れそうなくらい巨大な蝶が何びきも飛んでいたからだ。七色に光っており不気味である。
 蝶の前で無数の火花が散る。弾が見えないバリアによって防がれたのだ。
 本来蜜を吸うための口がセレアに向いた。一瞬、何か線のようなものがセレアの頭と蝶の口を結ぶ。
 ワンテンポ遅れて、セレアの頭が赤く光り湯気が立ち上った。
 さらに赤いカーペットの上に続々と黒い影が集結する。セレアは蝶の光線を交わしつつ、黒い影をチラ見する。黒く見えたのは防護服であった。手には剣や槍をはじめとする様々な武器が握られている。
 遠くから機械的で無機質な女性の声が聞こえてきた。


 『ワースシンボル防衛システム......レベル1......レベル3......移行......侵入者......排除」


 セレアは蝶の口と導線を合わせないように左右に動いて敵を撹乱。不規則な動きで重装備の兵士たちに突撃した。
 しゃがんで兵士の又をくぐり抜け、銃撃を隣の兵士を盾にして防ぎ、反復横飛びの要領で槍をかわす。彼女の後ろで切断されたアンドロイドの四肢が弧を描く。
 舞うように戦うセレアをステンドグラスが七色に染める。破壊されたアンドロイドの欠片が空中でキラキラと輝き、彼女をさらに彩った。
 そして、数分後ようやく敵の猛攻をくぐり抜けた。


 「わかっていてもアルファ殺しは気が引けるのぉ。人を殺している気分になる」

 「その気持ちを忘れるなよ。忘れなければ、悪夢が覚めれば普通の女の子に戻れる。君は兵器なんかじゃない」

 「ありがとう。タニカワ」

 「ハハハッ。先生を呼び捨てにするんじゃない。......もうすぐ最深部だ。この厄介な課題をさっさと終わらせよう」


 程なくして部屋の突き当たりにたどり着いた。赤いカーペットが途切れその奥が半円形の行き止まりになっていた。床は大理石と思わしきタイルで出来ており、非常に見映えがいい。
 そして、前方180度をステンドグラスに囲まれた空間の中央に巨大な正八面体の結晶が浮かんでいる。ステンドグラスの光を反射して七色に輝くそれは、凄まじい量の呪詛が放出されているらしく、周囲の光が歪み、陽炎ができていた。
 カルマポリスを支える最大のエネルギー原であるワースシンボル。それが今、セレアの目の前で浮いているのだ。
 セレアは後ろを振り返る。敵はもう追ってきてはいなかった。
 なんとも言えない達成感を噛み締めながら、セレアは解呪用の札を取り出す。これをワースシンボルにかざせば全てが終わる。


 「こんな所でなければ」

 「ん?」

 「『セレア、綺麗だぞ』と、誉めるんだけどな……」


 セレアは施設に入って以来初めて表情を緩めた。


 「……やっぱり、君は笑顔の方が似合うな」


 その言葉を聞いたセレアの視界が突如ブラックアウト。その後、セレアにとっては嫌と言うほど聞きなれた声が聞こえてきた。


 『着弾確認。エアリス1 交戦する』
 『エアリス2 追撃に向かう』
 『エアリス3 援護する』


 セレアと同じ声、同じ見た目をした兵器の姿がセレアの目に浮かんだ。最悪の予感が当たってしまったのだ。
 タニカワ教授の息を飲む音が雑音に混じる。


 『敵……戦闘能力……分析完了……推測……旧式エアリス……危険度……最高レベル……ワースシンボル防衛システム……レベル3……レベル5……移行』