夢見る機械 未知の世界へ ss11
「セレア、セレア!」
「のじゃ!」
なにがなんだかわからない。明かりがないので、本当にわけがわからない。目を凝らすと、どうやらすすけた部屋に仰向けで横たわっているらしい。地面がざらっとしている。燃えカスが積み重なっているらしく、すこし体を動かすだけで黒い煙がたった。
とりあえず、立ち上がってみた。四肢に異常はない。頭がすこしガンガンするが特に問題なかろう。遥か彼方に光る水晶体が浮いている。
埃を払っていると今にも震えた声でタニカワから連絡がきた。固い表情を装っているが、目に涙を浮かべている。
「セレア、よかった......本当によかった」
「待て待て! 泣くのは卒業式まで勘弁じゃぞ!」
「......すまない。老けてから涙もろくなってね」
不安げなタニカワに満面の笑みを送る。タニカワは安心した様子で、涙を拭き取ると、いつもの冷静な声に戻った。
「セレア、君は量産型エアリスのうち一機の爆発に巻き込まれ、気を失った。爆風はすさまじく君は木っ端微塵に吹き飛ばされたみたいだ。でも、君の体は単純な衝撃にたいしてなら非常に強い。数分ほどで肉体は修復された。爆破されてから大体10分程度経ってる」
「え、それだけか?」
「どういうことだ?」
「わらわは吹き飛ばされてから、長いこと......そうじゃな、夢を見ていた」
「夢? どういうことだ?」
わらわは先程の夢の内容をざっと話した。すると、タニカワは驚いた様子で言った。
「スミレ?! たった今、スミレの親から電話があったぞ。彼女は今朝交通事故にあってついさっきまで仮死状態になっていた。そして今、目覚めて君と同じようなことを言ったそうだ」
「のっ、のじゃあぁ!?」
「君に伝言だ。『あなたならできる』だそうだ」
スミレ。わらわはあの紫色の髪の毛を揺らして、猫耳をピコピコさせながら首を傾ける姿が浮かんだ。彼女が仮死状態だったということですら信じがたいのに、同じく死にかけてたわらわと同じ夢を見るとは。
「偶然とは思えん。タニカワ、『必ず帰ってくる。待ってろ』と伝えてくれ」
「わかった。こちらで作業しているフリをしながら連絡しておく」
ふう、と二人のため息をつく声が被った。こんなときに不謹慎だが、偶然息があったのがなぜだが楽しくなって笑ってしまった。
「大分パートナーらしくなってきたのぉ」
「ああ、私も君と大分にてきたようだ。フフッ、同じ部屋にいるバックアップがみんなして切羽詰まった顔をしている。早いとこ仕事を済ませよう」
「わかった。とりあえず、もう一度シンボルに言ってみるのじゃ」
わらわは暗い通路をシンボルに向かって一直線に飛んだ。道中、何か銀色に煌めくものが転がっていた。警戒しながら近づいてみると、それはわらわが先程倒したエアリスだった。氷づけだったのが幸いしてほぼ無傷で機能停止している。わらわと違い左目に切り傷はない。
「これはハッキングできるか?」
「試してみる。......お、今度は完全にいけたぞ。自爆システムも解錠」
「よし、とりあえず、この先に道がないか探索してもらえるかのぉ」
操ったエアリスは、わらわが言葉を言い終わる前に、勝手に部屋の突き当たりまで歩いていった。半円形の行き止まりだ。その中央にワースシンボルが浮いている。ステンドグラスはすべて吹き飛ばされてしまったらしい。床や天井と同じくすすで真っ黒だ。
エアリスは空中に浮遊する正八面体の結晶に触れる。すると、突き当たりの壁がスライドして開いた。
「政府の地図にはなかった。恐らくこれがライン・N・スペクターが論文で発表していた、ワースシンボルの最下層だろう......もう一機もハッキング完了」
「どうやら皆がワースシンボルと認識していたのは単なる扉の鍵だったようじゃ。札を貼ってもなにも起こらん。進むしかなさそうじゃ」
エアリスと共に次の部屋に侵入する。円形の部屋だ。壁に大理石でできたやたらとおしゃれな柱が等間隔に配置されており、柱と柱の間にまたしてもステンドグラスである。
「おおっ! なんか壁がすごいことになってるのじゃ!? さっき目の前にあったステンドグラスがなんか遥か上にあるぞ!?」
「壁が上がってる!? いや、私たちが降りてるんだ。恐らくこれは巨大なエレベーターだ」
音もなく静かに沈んでいくエレベーター。この先に何があるのか冗談抜きで想像もつかない。
「セレア、呪詛の濃度がすごい勢いで上昇している。恐らく、旅の終点に近づいているんだろう」
「そのようじゃな。最後間で頼むぞ、タニカワ」
「君はいつから呼び捨てにするようになったんだ? 仮にも生徒と教師。距離感は大切に」
「おっ! ついたぞ! 扉が開きそうじゃ......タニカワ、なんか言ったかの」
「なんでもない。いくぞ、セレア」