夢見る機械 作戦開始 ss5
時計塔の隠しエレベーター。生きた動物は乗ることができない、機械専用のものだ。このエレベーターで地下五階を越えた辺りから呪詛濃度が急速に上昇する。ワースシンボルから発せられる呪詛は度を越している。浴びてしまうと紫外線と同じく生物は命を縮めるのだ。
無機質な空間のなか、セレアは最終確認を行っていた。
「全システム異常なし。通信状態良好。まあ、特に問題はなかろう」
「こちらも異常なし。ガーナ元国王の持っていたディスクに入ってた『ハッキングプログラム』も問題なく使えそうだ。......いよいよだな。セレア」
エレベーターの階数表示が10を越した。
「このお札をシンボルに張り付ける。それだけでいいんじゃな」
「いいや。帰ってくるだけでいい。セレア、君が生きてさえいればいい」
「そうか......」
セレアの右手には複雑な魔方陣のようなものが描かれた白いお札が握られている。
「タニカワ教授、もしわらわが作戦を成功させて帰ってきたあかつきには、ごほうびをくれんかの」
「わかった。できるだけ要望に沿えるようにするよ」
「サンキューなのじゃ!」
時計塔の隠しエレベーターを降りると、数百人は入れそうな広場があった。
広場の奥に埋め込まれるようにして黒い建物が建っている。横に長い一階から三階。壁面には逆U字の窓がついている。その建物の上に三本の先の尖った塔が乗っかっていた。左右の塔がまん中の塔の倍近くある。建物の輪郭は黄緑に発光しており、それがこの部屋の光源になっていた。
「この中に入らなきゃいかんのか?」
セレアが呟くとタニカワ教授の顔が視界の右下に表示された。もちろん、タニカワ教授の生首が幽霊のように現れた訳ではなく、本物はカルマポリスの基地にいる。セレアには元々通信機能が搭載されていたらしく、それを利用した技術だった。
「ああ。この奥にワースシンボルがあるはず。何があろうと私が全力でサポートする。大丈夫だ。セレア」
「ありがとう」
セレアは胸に手を置き、ふぅ……とため息をついた。画面越しとはいえタニカワ教授がついている。そう思うと、不思議と勇気がわいてくる。
「目の前に反応多数。セレア、飛行ユニットを展開しろ」
セレアの背中から銀色の液体が滲み出て、ランドセル型の飛行ユニットを形成した。
そうこうしているうちに建物の中から白いウェディングドレスを着た花嫁たちが向かってきた。その数、数十。しかも全くの無表情。セレアは異様な光景に肝を冷やした。
みるみるうちに花嫁がセレアを包囲していく。
「あやつら……もしやアルファ兵器」
「防衛システムが暴走してる。破壊許可は今とった」
花嫁がセレアに向けて一斉に手をかざした。
セレアは反射的に空中に浮かびカマイタチの呪詛を発動。巻き込まれた花嫁は、胸を大きく切り裂かれた。遅れてセレアがいた場所に無数の光弾が炸裂する。
さらに黒い施設の壁から砲台が起動。同様の光弾が発射された。セレアは華麗に旋回を繰り返し、攻撃の網を掻い潜っていく。
セレアが旋回する度、花嫁たちが銃弾の雨にもまれ木の葉のように舞う。大砲も突如としてすべて爆発した。
「怖かったのじゃぁ」
「大砲も高速の斬撃の前には無力か。ま、やればできるんだから自信を持とう、セレア」
セレアの足に数発被弾したものの液体金属が瞬時に傷を修復。完全勝利だ。