フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

ルビネルの捜索願い PFCSss

1.Self sacrifice after birthday



 ルビネルが約束の時間になってもこない。因みにデートではない。診療時刻だ。
 腕を組ながら寡黙に待つが、いっこうに来る気配がない。彼女は一度だって私との待ち合わせに遅れたことはなかった。
 ペストマスクが私の眠気に合わせてコクンッ、コクンッと揺れる。これ以上は待つだけ無駄か。
 私は不気味に思い、彼女の学校に行き、とある人物を待ち伏せした。

 私が待ち伏せしていた人物はあっさりと姿を表した。単なる教師と生徒という関係を越えて、ルビネルと恋愛関係にあると噂されている。

 ペストマスクをコツコツと叩き、私が会釈する。タニカワ教授は「あなたがルビネルのドクターですか?」と聞いてきた。ルビネルが時間に間に合わなかった時の連絡先として、本人から聞かされていたのだ。

 タニカワ教授にルビネルの所在を聞いてみる。
 知的な顔をした教授は眉間にシワを寄せた。彼が言うにはルビネルは二十歳の誕生日を迎えた頃から行方不明、とのことだった。国の捜索も入っているが発見されていない。
 一応、長期間出掛ける旨が書かれている手紙が彼女の家から発見されたらしいが、肝心の行き先がかかれていなかったそうだ。
 ……厄介なことになった。捜索に協力すると伝えると、そういえばとタニカワ教授は呟いた。

 「タミューサ村に社会科見学に行かせてからルビネルの様子がおかしかった。感情を見せなくなったんです。何かよほどショックなことがあったらしい」

 「ショックなことか……」

 私はコホンと咳払いをすると、タニカワ教授に聞いた。

 「あなたは?あなたには何かありませんでしたか」

 タニカワ教授は、「いや……何も」とだけ答えた。

 手紙と聞いて、ふと思い出した。ルビネルはインクの入ったペン━━確か一ミリリットル以上だったか━━をサイコキネシスが如く自在に操れる能力を持っていた。
 その手紙も能力を使って書かれたのだろうか。それとも直筆で丁寧に買いたものなのか。どうでもいい疑問が私の頭をよぎった。


 私はひとまず隠れ家に帰り、翌日に商売仲間に会いに行った。
 「老人」と呼ばれている、焦げ茶色のスーツに身を包んだ精霊は、闇社会の中でも相当の強者だと聞く。裏の世界を知り尽くしている彼は、ニヤリと笑うと意外なことにこう答えた。

 「金さえ払えば教えてあげますぜ?旦那」

 私はなけなしの金を老人に手渡した。
 彼女は私の体の秘密を呪詛に関する知識で推理していた。その情報が漏れると大変不味い。もっともそれ以上に私が彼女のことを気に入っている、というのもあるが。

 老人は焦げ茶色のスーツを整え、帽子を深く被ると「ついてきな」と、指図してきた。

 外に留まっていた、黒い高級車に案内される。やたらと座り心地のいいイスにデカイ体をどうにか押し込めると、隣の席で「かわいいですぜ、旦那」と老人が笑った。

 運転席の黒スーツの男がアクセルを踏むと、車は発進する。

 数十分後、車からおりると、極端に高級そうな建物が目の前にそびえ立っていた。ガラスの扉の中は金色とそれに近い色で装飾された、さながら王宮のようだった。外から見ただけでも、恐ろしく高そうな花瓶だとか、あからさまに綺麗すぎる絵とかが置かれている。
 明らかに私の黒いコートと茶色いペストマスクに不釣り合いだ。

 「さあ、行きましょう」

 竜人でも優々と通れるくらいばかでかいガラス張りの自動ドアを潜り抜け、ガードマンに加え、やたらと着飾ったお姉さんの間を通る。どうやら建物のエントランスらしい。

 受付らしきところを顔パスで通り、老人は突き当たりのエレベーターに入った。

 「この建物は……?」

 私が呟くと老人は渋い笑顔を私に向けた。

 「そう、高級キャバクラですぜ」
 「なぜこんな建物に案内した?」

 老人は答えずに最上階のボタンを押した。

 「…お代は?」
 「俺がオーナーですから」

 美しすぎる夜景と、キャバクラとは思えぬくらい高級感溢れるテーブル。明らかに年収数百ドレスタニアドルを越している男達が、美女をはべらせていた。
 老人はサービスと称して各テーブルに高級ワインをおごると、私をつれて一番奥の扉へと向かった。

 VIPルームが連なる廊下に出た。ただでさえ私の全財産をはたいても出られなそうにないこの店のなかの、さらに特等席である。人生でこんなところに入れる日が来るとは……
 それにしてもなぜこんなところに老人は案内したんだ?

 「さあ、つきましたぜ。指名はもうしてありやす」

 扉を恐る恐る開けると、白いガウンをまとった少女が窓の外を向いていた。顔はこちらからではよく見えない。ガウンに滴る黒髪は絹に負けぬほど美しく輝いていた。
 二人用とは思えない部屋に私は一本足を踏み入れる。絨毯の踏み心地が半端ではない快適さだ。

 「いらっしゃい?お客様」

 表情があどけない。ここに存在する意味がわからない。ガラスのテーブルにおかれたワインに対して、彼女は明らかに不釣り合いだった。

 「ルビネル!なぜこんなところにいる?!」

 疑問は恐ろしいほど浮かんできたが、何から質問すればいいのかわからない。妖艶に微笑む少女になんと声をかければいいのやら。

 「フッ……フッ……フッ!」

 椅子に座る少女、ガラスのテーブル、数メートル離れて私と老人。それがこの部屋の全てだった。
 さりげなく老人が退路を塞いでいるのが気になる。

 「お金が欲しかったのよ。短期間に、大量に、ね」

 「どうしてそんなに金を欲した?」

 「私には救わなければならない人がいるの。手遅れになる前に。そのためには武器が必要でね……」

 私は声を荒くして言った。

 「ばかな。そんなに友達が大変な状況であれば国や冒険者に頼めば……」

 「国の兵士じゃ役に立たない。無駄死によ。それに私の個人的な問題でもあるわ。どうしても私が決着をつけなくちゃならないの。だからドクター、貴方にも力を貸してほしい。私をあなたの能力を使って、強くしてほしいの」

 「断る」

 そういった瞬間、老人がライフル銃を取り出した。

 「旦那、それじゃあ困るんです。ね、患者さんの要望に出来るかぎり沿うのも医者の仕事でしょう?」

 こいつら!グルか!

 「私の肉体を強化手術してほしい。今のままじゃ、……勝てない」

 部屋のなかに黒い服の男がなだれ込んだ。

 将来私が老人に払う金のことを考慮すると、とてもじゃないかぎり老人は私を裏切らないはずだ。つまり、老人がルビネルを助けると、私の生涯払う金以上の損失を防げるか、または利益を被るのだ。

 「二十歳に成り立ての健全な少女の肉体を人体改造しろと?ふざけるな!私のメスはそんなことに使うものではない」

 「すいやせん、これも商売なんで」

 にかっとはにかむ老人の後ろで、数十人のガードマンが銃を向けてきた。

 ひとまず逃げないとまずい。
 フラッシュバンを起動させようとしたとき気づいた。黒い服の男は全員遮光グラスと高級耳栓をつけていることに。老人もいつの間にかそれをつけている。

 「逃げようとしても無駄ですぜ、旦那」

 仕方なく煙幕を起動させ、ワイヤーを天井に突き刺した。体を勢いよく引き上げると、その間下を大量のゴム弾が通り抜ける。さらに壁を突き破って隣の部屋からも銃弾が飛んできた。

 天井に逃げていなかったら即、気絶だった。ミノムシのように身を縮めてぶら下がったまま耐える。

 天井に手足が触れないように気を付けなければ。どうせ老人のことだ。地雷が仕掛けられている。
 私は下半身を振り子のように揺らして、どうにか跳ぶと、銃撃で穴の空いた壁を突き破り隣の部屋に突入した
 ……まさか、隣の部屋がワイヤートラップで埋め尽くされており、全身がんじがらめにされた揚げ句、切り裂かれるとは思ってなかったが。

 ワイヤーに絡まり宙ずりになった私に、老人の部下が大量の麻酔ゴム弾を打ち込んでいく。そのたびにだらしなく私の体が揺れた。

 どうやら私やルビネルがいた部屋の壁の裏側に、トラップが仕掛けられていたらしい。私がぶち破った壁とは反対側の壁に老人の手下がいることを察するに、最初から私の動きは全てお見通しだったようだ。化け物め。

 だんだんと意識が遠ざかり、体の力が抜けて行く。

 ルビネルはというと、窓から外に出たらしく、夜空に浮かんでいた。ボールペンを靴に取り付けることで、宙に浮けるらしい。攻撃の当たらない場所で高みの見物を決め込んでいる。

 状況すら理解出来ぬまま、私の意識は闇へ葬り去られて行く。

 最後の力を振り絞り、ルビネルの顔を見た。虚ろな目で私を見ている。とても学生の瞳とは思えない。

 彼女に何があったと言うのか。恐ろしいほどの荒廃が彼女を襲った、それだけは事実のような気がした。

 視界の端に二人が見えた。


 「さすがね。オールドマン」

 「俺をみくびっちゃ困りますぜ?」


 少女の服を整えながら、老人は笑った。


 「あとは手はず通りお願い出来るかしら」

 「ええ。お嬢が奴をどうにかしなけりゃ、俺たちのお先は真っ暗です。そして、それを出来るのは残念ながらお嬢しかいねぇ」