フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

幻煙の雛祭り ━前日━ ライスランド編 PFCSss7

 私たちは次にリーフリィの西へ飛んだ。


 目的地はライスランド国、レカー城塞内部の剣撃道場だ。



━━



 「腰をもっとまげろ。そうだ、その姿勢を保つんだ。おいそこボクちゃん!わきが開いているぜ!」

 クォルが鬼の子供の背中を軽く押し、胸をそらせ姿勢をよくさせつつ、妖怪の子供を同時にアドバイスしていた。さすがに兵士を束ねる男、口は達者でも教え方は一流だ。

 私たちはライスランドきっての剣士として名高い『先生』と呼ばれる人物をスカウトしに来ていた。
 年齢32才の男と判明している以外、経歴や本名の類いが全てがなぞに包まれている男で、何となく親近感がわいた。

 「こんにちは。私がこの剣術道場を開いている『先生』です。よろしく。あ……、あとこの道場は禁煙になっているので、煙草はどうか道場から出て吸ってください」
 「ドクターレウカド、ここは私に任せてくれ」
 
 煙菅を取り出したドクターレウカドは、すんごく申し訳無さそうな顔をしながら、道場の門から出ていった。あの顔……写真に撮りたいな。

 「ところで、今回のお誘いなんですが、私はお断りしたい」
 「なぜ?」
 「私は第一線を退いた身。迷惑を被るのがオチかと」

 先生は渋すぎる顔を左右に振った。シュッとした輪郭に太い眉毛、セミロングの黒髪、どうみても昔本で読んだブシとかサムライにしか見えない。
 私はそんな男を説得出来るのかと、不安に思いながら、口を開いた。

 「待て、欲しくないのか?月二回お菓子無料券!子供たちもきっと喜ぶぞ?ステファニーモルガンのお菓子なんてそうそう手にはいる物じゃない」
 「ですが……」
 「そうか、なら……」
 「ん?」
 「『自警団』の団長のクォル様に臨時でこの道場の子供たちに稽古してもらう、というのはどうだろう?絶対に貴重で有意義な体験になるぞ!ほら、今の生徒達の顔を見ろ。スゴく生き生きとしている」

 ……ソラを除いて、だが。
 さりげなく生徒たちに混じっているソラは、殺意に満ちているというか、動きが他の子と比べ物にならない。

 「そんなことが出来るんですか?」

 目を見開いて先生が食いついてきた。よぉし!

 「もちろん。見積もりの七割と諸々の諸経費を私が負担しよう。なぁクォル!」

 「よしよし上手いぞ!次の構えだ!……ん?え?ああ、うん。そうだなっ!ペストマスクの旦那!」
 
 あいつ今、聞いてなかったよな……。まあいいか。

 「それなら私も……」
 
 とうとう先生の方から交渉に乗ってきた。私は心のなかでガッツポーズをとると、だめ押しに言い放った。

 「今ならアンティノメルの方に格闘術の指導もつけてもらえる。たった一回!邪教徒から人質を助けるだけでだ!」
 「行きましょう。今すぐぶった切りましょう!すいません!クォルさん」



 え、ノリ軽くない?半分今の冗談だぞ?



 「少し撃ち合いませんか?」
 「ん?いいぜ!自警団一の俺様の実力とくと見やがれぃ!」
 水色の髪をゆらし、爽やかな笑顔でクォルが答えた。

 先生が静かに立ち上がり、クォルの間合いに入るギリギリの位置で腰の刀に手を置いた。眉間に深い皺をよせ、ただでさえ鋭い眼光をさらにギラギラとみなぎらせた。
 あんまりの変容にクォルも少し驚いているように見える。
 先生の周囲の塵が沸き上がり、何らかのエネルギーの流れを醸し出す。
 
 「さぁ!我が刀の錆となるがいい!!」
 
 まばたきした瞬間、既にクォルの間合いに先生が飛び込んでいた。目を開く時には刀を鞘に仕舞っている。すさまじい速度の居合いだ。
 クォルが防御したと見るや否や、すぐに構えを切り換え、斬撃の嵐を浴びせる。

 「どうした!うぬの力はその程度かっ!」
 「さすがにやるなぁ、オッサン!」

 剣と刀がぶつかり合い、激しい金属音が道場に響き渡る。っていうか撃ち合いに真剣を使うか?普通?

 「すいません、となりいいですか?」
 「ソラ、どうした?」
 「あの先生、明らかに殺気を放っていると思いませんか」
 「あの優しい先生だぞ。気のせいだ」
 「刀が赤く光ってません?」
 「光の屈折でそう見えているだけだろう」

 二人とも頑張れー、先生負けるなー、と子供達の無邪気な応援が聞こえる。そのなかで

 「ふんぬッ!ぬりゃぁ!塵と消え去れい!!我が刀は豪雷のごとし。触れたものは四散する!」

 と、殺伐とした言葉を先生が叫んでいる。クォルはクォルで、先生の太刀筋に平然とついてこれる辺り、色々とおかしい気もする。
 ソラは全く感情のこもっていない口調で続ける。

 「……口調も変わってません?」
 「気合いをいれたから地方の訛りが出たんじゃないか?」
 「撃ち合いにしては激しすぎません?」
 「バトーが言っていたが、クォルの撃ち合いは殺し合いにしか見えないらしいぞ?」
 「ですが……」

 私は何か言いたげなソラを制止した。
 
 「ライスランドでは『考えるな、感じろ』だ。目の前で起きている事象を素直に受け止めるんだ」
 「そうしないと、どうなるんですか?」
 「向こうで煙草を吸うのも忘れて、目の前の状況を理解しようとしているドクターレウカドと、あそこで口を半開きにして悶々と悩んでいるクライドみたいになる」
 
 それでもソラは納得がいかなそうだった。

 「よし、いいものを見せてあげよう。ここにアルコール綿がある。一応ソラもさわってみろ」
 「……確かにただのアルコール綿です」
 
 私はこれを丸めて、近くにあった瓦割り用の瓦に向かって投げた。すると、アルコール綿は瓦を貫通した後、何事もなかったかのように地面に転がった。

 「わかりました。考えるのをやめます」
 「そうだ。それでいい」

幻煙の雛祭り ━前日━ リーフリィ編 PFCSss6

 様々な雑貨が売られている店にソラとレウカドは入っていた。回りを見渡すだけで、杖やマント、指輪などなど、実に様々な物が売られている。

 そんな中、レウカドはバトーという男と軽い自己紹介をした後に物色していた。

 「なるほど、このマントだと雨が防げるのか。便利だな」
 「こっちはデザインがいい。ブランド品で女性にも人気だ」

 レウカドはどちらかと言えば婦人が着そうな高級感溢れるブラウンのマントを受け取った。

 「これのは魔法はかかっていないのか?」
 「ああ。どちらかと言えば生地の方に力をいれているメーカーだからな。軽くて使いやすい上に長持ちする。値段は張るが……」
 「そうか。因みにこれは?」

 レウカドは細く繊細な指でショーケースの中にあるルビーの装飾の施されたネックレスを指し示した。

 「これは『魔法具』のネックレスだ。『要』はこの宝石だろう」
 「『魔法具』か。実際に見るのは初めてだ。俺みたいな魔法が使えないやつでも使えるのか?」
 「いや、魔法使いが身に付けると魔力が高まるってものだからな。魔法が使えないひとにはそんなに恩恵はないんだ。因みにシンボルを介しての魔法と微妙に扱いが違うから気をつけたほうがいいぞ」
 「そうか、となるとデザイン重視でいった方が良さそうだな。どれがあいつに似合うか……」
 


━━━


 ソラはショーケースの中のものには目もくれず、クライドに話しかけていた。

 「……なるほど。で、俺たちに声をかけたと」
 「はい。ノア輪廻世界創造教はエルドラン国を支配するほどの強大な組織です。それを強襲するとなるとあなた方『自警団』の力が必要です」

 クライドは赤い瞳をキラリと光らせた。

 「アンティノメルと自警団の連合部隊か。手紙で読んでいたとはいえ、実際に聞くと驚きだね」
 「ええ。さらにドレスタニア、ライスランドにも救援要請を出しています」
 
 さすがにこれには驚きを隠せないようだった。

 「なっ……、本当にそこまでの兵力が必要なのかい?本来であればアンティノメルだけでも制圧自体は簡単にできるはずだよ」
 
 ソラは静かに首を上下に動かした。

 「敵はパラレルファクターという能力者らしいのです。そのなかで人質を安全に救出するためには、敵に私たちが侵入したことがばれる前に、人質を見つけ出し、脱出しなければなりません。それには少数精鋭の部隊が必要です」
 「単騎でも優秀な自警団を味方につけたいと」

 クライドはしばらく顎に人差し指を当てて思案した。

 「俺たち二人であれば喜んで協力するよ。クォルもまあ、来てくれると思う。ただ、自警団そのものから大量の兵を出すのは難しいかもしれない。協力したいのはやまやま何だけど、国内の治安維持とかで手一杯なんだ」

 「ご協力、感謝します。協力してもらう上で、至らぬ点もあるかとは思いますがご了承を」
 
 うやうやしくソラは頭を下げた。それにたいしてクライドは最初から持っていた疑問をぶつけた。

 「ところで、君は何歳のかな?」
 「17才です」
 「君ほど良くできた子はそうそういない。……クォルなんて26才であれだからな」
 
 無表情の顔に一瞬陰りが見えたのをクライドは見逃さなかった。

 突然店に何者かの大声が響いた。

 
 「クライドちゃん、バトーちゃんいるかい?戻ったぜ?」
 「ソラ、ドクターレウカド、出掛ける準備だ!」

 

サブブログ開設!

皆さんこんにちは。フールです。

こちらのブログでは主に企画ものの記事を出していこうと思います。

只今連載中の『幻煙のひな祭り ━前日━』もこちらの方で投稿していくので、どうかお間違えのないよう、よろしくお願いします!

これで、なにも気にせず企画に没頭できるぞぉ♪

幻煙の雛祭り ━前日━ リーフリィ編 PFCSss5

 「で、あんた次はどこに行くんだ?この流れだと普通『ライスランド』か『リーフリィ』、『チュリグ』たが」
 
 ドクターレウカドは地図を指差し、アンティノメルから東に指を動かした。

 「今回は『リーフリィ』に行こう。三人の猛者がいる。『ライスランド』はその次だ。チュリグは行ってもいいが……私は何も出来ない。住民から逃げるので精一杯だ」

 ソラが少し戸惑って『乗り物』を見ていた。

 「ところで……本当にこれに乗っていくんですか?」
 「ん、どうかしたか?」
 「……いえ、なんでもないです。行きましょう」

 何を疑問に思ったのだろう。


━━


 訓練場にて私は水色髪の青年と向き合っていた。周囲にはこの国の兵士たちと思われる人がいたが、みんな青年の動きに釘付けになっていた。

 「はぁ……はぁ……」

 ペストマスクのなかで私の吐息が反響する。
 相手の獲物は刃渡りは長く、刃の幅共に広い、いわゆる大剣。それに対して私は両手のアーミーナイフで健気に受け流していた。
 私のナイフの数倍の大きさの剣をふるっているというのに、私のナイフをさばくスピードと大差ない。その結果、大剣の威力に私が一方的に押されていた。
 相手、クォルという青年は余裕の笑みを見せている。私は一歩、また一歩と壁際に追い詰められていく。
 そしてついに、私のナイフが衝撃に耐えられず、私の右手から叩き落とされた。
 次のクォルの一振りで左手に握られたアーミーナイフもまもなくグニャリと変形してしまい、防御する手段がなくなった。
 クォルは余裕といった表情でペストマスクの先端に剣を突き立てた。

 「おっさん、かなり努力したみたいだな。体の動きが鈍い変わりに的確に剣を受けるから結構強かったぜ?」

 訓練場の回りにいた兵士たちが叫んだ。
 
 「うぉぉ!さすがクォル様!」
 「カッケー!」
 「ペストマスクのジジイ気にすんな」
 
 クォルは回りのむさ苦しい兵士に対して激しく手を振り

 「ヒューヒュー!誉めて誉めて!」
 
 と大声を出していた。状況だけ見たら滑稽だが、相手が実際に誉められるのに必要な才能を持ち、努力を重ねているのがわかっていたため、全く笑えなかった。
 凡人がいくら努力したところで、努力した天才には敵わない。それが私の悲しい経験談だ。
 
 「おいおい、大丈夫か?肩で息をしているぞ?っていうかおっさん、ずいぶんと重いコートを羽織ってるんだな」
 「生き残るためだ。仕方なく纏っている。本当は邪魔で仕方ない」
 「なら脱いじまえばいいのに。俺様も戦地へ出向くときは動きやすいように結構軽装だぜ?」
 「突発的に動くのが苦手でな。どうしても戦闘中に隙ができてしまう。それをフォローするための装備だ」

 私はゆっくりと立ち上がり、コートに付着した埃を払った。一瞬、気道に穴を明け、直接空気を送り込んで息切れを回復させようと思ったが、場所が場所なので止めた。

 「ところで、あの件についてなんだが、どうだろうか。ノア輪廻世界創造教の本堂に捕らわれた人質の解放」
 「ああ、お役に立てるんだったら喜んで参加するぜ。アンティノメルも作戦に参加するんだろ?それに、かなり強いやつらとも会えるって聞いたし」

 そういうとクォルはブンブンと愛剣を振った。彼にとって剣は体の一部に等しいらしい。
 それにしても剣術バカとはよく言ったものだ。まあ、気持ちはわからないでもないが。
 私は常に胸ポケットにしまわれているメスのことを思いだし、苦笑いした。

 

 さて、他の二人の説得は上手く行っているだろうか。訓練場とクォル、魔法具店でバトーとクライドがいるという情報を聞いた。私がクォル、ソラとドクターレウカドがバトーとクライドの説得をすることになり、別れたのだが、やはり三人で動いた方が得策だったか?ルーカスやシュンも連れてきた方が……いいや、それだと私が殺されるか。

 

 

━━

 

幻煙の雛祭り ━前日━ アンティノメル編 PFCSss3-4

 私はドレスタニアから『とある乗り物』に乗って高速でアンティノメルへと飛んだ。

 国北西に位置する廃校舎。闇取引にはうってつけの場所でありヒーロー(犯罪を取り締まる組織)も目をつけている。
 その二階の教室に私は踏み込んだ。もちろん黒いコートにトレードマークであるペストマスクを着けている。
 教室の椅子や机は取り払われており、殺風景きわまりない。床のフローリングがほとんど剥がれており、そこら中に散乱している。
 壊れた教室の窓から漏れるわずかな朝日がマスクにあたり、少し暖かい。

 「来たか」
 
 ペストマスクの中から淀んだ声が響く。
 その声に導かれるように三人の人影が姿を現した。もちろんこの学校の同窓生などではない。
 
 「あなたが『解剖鬼』ですか?」
 
 三人のうち一人、赤のベストを着た人間が口を開いた。ロボットのように冷たい口調だ。情報によれば17才とのことだが、信じられないほど大人びている。
 そして驚くべきことに、私の巨体に対して全く恐怖を感じている様子がない。

 「そうだ。私がお前たちをここへ呼んだ。手紙の方は読んでくれたかな?」

 「ああ。エルドランのノアうんたら教にさらわれた人質を助けるんだって?」

 藍色のタンクトップを着た青年が答えた。種族は妖怪の中でもサターニアといったところか。赤い青年に比べて年相応といった感じだ。
 私が手をピクリと動かすと、一瞬動揺したのが見てとれた。

 「それは本気で言っているのかい?」

 落ち着いたベージュのコートに身を包む鬼の男が問いかけてきた。明らかにこの中では年上だ。昨日立ち読みした本によるとアンティノメルのヒーローの創始者にして最高責任者らしい。
 まさかそんなお高い身分の方が来るとは思っていなかった。

 「そうだ。私は本気だ。それ相応の人材も用意している」
 「殺人鬼の言うことなんて信じられるか!」

 サターニアの青年が叫んだ。何かひどい勘違いをされている気がする。

 「解剖と称して殺人を楽しんでいるんだろ!」
 「誤解だ。人を憶測だけで判断するのはやめることをおすすめする」

 私はギロリと妖怪の青年をにらんだ。一瞬相手の顔が歪んだ。

 「でも、殺しているのは事実だよね?」
 「ああ、そうだ。だが、それとこれとは……」
 「オレたちがドレスタニアを始めとした各国に指名手配されているような奴を易々と逃がすと思うか?」
 
 お国のトップと生きのいい青年の二人が臨戦態勢に入る。それに対してさっきから沈黙している赤いベストの少年はじっとこちらを見据えてピクリとも動かない。ここまで来ると不気味だ。

 「シュン、命令を」
 
 「ああ。あいつを殺れ。ソラ!!」

 妖怪の子が言い終わる前に、真っ先に、恐ろしく正確に私の首もとにナイフが突き立てられた。すんでのところで手首を掴み、持ちこたえたものの、突然の奇襲には正直驚いた。
 私はソラと呼ばれた青年の手をなんとか払いのけ、距離をとろうとした。しかし、前足を後ろにずらそうとした瞬間、謎の力によって足をすくわれてしまい、体勢を崩した。
 私がそれを妖怪の呪詛のせいかと気づいた瞬間、腹のあたりに鈍い衝撃が走り、教室を転がった。蹴りを入れられて教室の端までぶっ飛んだらしい。
 立ち上がろうとしたが、どっしりと響く腹の痛みがそれを邪魔した。立ち上がることも出来ず、膝をついてしゃがんだ状態で腹を抱えるくらいしかやることがない。
 ソラの足とナイフの握られた手が視界に入った。そのナイフがゆっくりと上に引き上げられていく。私は首筋にナイフを突き立てられることを覚悟した。
 運命の時を待っていると、後から麗しい声聞こえてきた。

 「ソラ、止めろ。俺の『命令』だ。あんたらが思っているほど、こいつは悪い奴じゃない」

 フゥーッと煙草を吹かす音が教室を包み込んだ。

 

……

 

 「れっレウカド!?」

 

 シュンが大袈裟に驚いた(今になってようやく妖怪の子の顔と名前が一致した)。

 ドクターレウカドはゆっくりとソラの側に寄ると、ナイフが握られた腕を掴み、私から離した。

 っと、一瞬シュンが凄い形相でドクターレウカドを睨み付けたような気がしたが、私の気のせいだろうか。

 

 「あんたはあんたで……えげつないな。首筋に緩衝材を仕込んだ上に閃光発音菅と煙幕を仕掛けるとは。手に持っているのは煙玉だろう?」

 

 ベージュ服の鬼の顔がひきつるのが見えた。

 

 「もし、ソラくんがこれに触れていたら……」

 

 私はゆらりと立ち上がると、壁にもたれかかった。よく見るとソラはいい体格をしている。細い体と十分な筋肉を両立していて隙がない。

 それにしても無表情だ。まったく感情が感じられない。

 

 「さて、これでも私が信用できないかな?特にソラ、君はドクターレウカドに一度診てもらっているんだろう?」

 「えっ、ソラ本当なのか!」

 「はい。俺は診察してもらいました。この人は……信用出来る人です」

 

 やはりドクターレウカドを連れてきたのは正解だったな。

 ところで、ソラがシュンを見る時だけ、表情が柔らかくなっている気がするのは気のせいだろうか。

 さりげなくシュンがソラに歩み寄る。偶然お互いの手が触れて、二人してビクリとした。

 私はそれをみなかったことにして、蛇が地を這うようにゆっくりと、言葉を投げ掛けた。

 

 「そういうわけだ。協力してもらえないか?私たちは人質を救出する。君たちは人質がいなくなったことで無防備になったノア輪廻世界創造教の本堂を、混乱に乗じて制圧すればいい。どのみち近いうちに攻め混むつもりだったんだろう?私を利用するだけ利用して、みきりをつけて裏切ればいい」

 

 私は話終えると二人の反応を見た。無意識のうちに二人は手を握っている。さっきからチラチラとお互いに目を合わせては離し……、こいつらちゃんと私の話を聞いているのか?

 アンティノメルのトップは大きなため息をついてから答えた。

 

 「ああ。わかったよ。……ソラくん」

 「はい。なんでしょう?」

 「しばらくの間、そこのペストマスクの男を監視してくれ」

 「ソラ一人だけ別行動!?ダメだ。危険すぎる!何でソラなんだ!」

 「危険だからこそだ。他のヒーローでは務まらない」

 「なら、オレも一緒に……」

 「シュン、だめです。それこそ危険すぎます」

 

 私は会話よりもシュンの反応に目が行っていた。何かとても違和感を感じる。引き留める様子が尋常ではない。どうしてもシュンとソラは一緒にいたいらしい。

 確かに友達が一人、先行して戦地に乗り込むのは気の進まないことだろうが、目に涙を浮かべてまで止めることか?

 大人びた鬼の男もなんだか凄く申し訳ない顔をしている。

 ソラはひたすら無表情だったが、それでも三人のなかで唯一大人の鬼を睨み付けているようだった。

 

 私は三人の口論を聞きつつ、声を極限まで小さくしてドクターレウカドに話しかけた。

 

 〔おい、ドクターレウカド?〕

 〔なんだ?〕

 〔あの二人……〕

 〔……だろうな。そっとしておけ〕

 

 全く別のことを考えている私たちとは対照的に、向こうでは熱い会話がなされていた。

 

 「クソッ!わかったよ。ソラ、絶対に死ぬんじゃないぞ!本当にっ!お前がいなくなったらオレはもう……」

 「大丈夫。これも平和を守るためです。それに、シュンにそういってもらえるだけで俺は……本望です」

 

 私は冷静に状況を分析しているフリをしながらソラたちにいい放った。

 

 「話し合いは済んだか?」

 

 ドクターレウカドも艶やかな白髪を揺らしつつ……お、髪の毛先がよく見たら紫色だ。

 

 「大丈夫だ。何度も言うがこいつは信用できる。俺が保証しよう。もっとも俺もどちらかと言えば闇の住民に近い。信じてもらえないかも知れないが、これは事実だ」

 「わかりました。レウカド先生。あなたを信じます」

 

 真っ直ぐソラはドクターレウカドを見つめた。二人の間にどんな診療があったのかはわからないが、少し憧れてしまう。

 私の場合、ありがとうと言ってくれた患者を殺し、ばらし……。患者とって救いだとわかっていても、辛いものがある。

 

 「ドクターレウカド」

 「ん?なんだ?」

 「お前はいい医者だ。そして、いい患者に恵まれたな」

 

 ドクターレウカドは煙管に煙草を足すと、微笑を浮かべながら、上に向けて煙を吹いた。

 

 「あと、これは大変申し上げにくいのだが……」

 

 私はシュンに向けて言った。

 

 「まだ何かあるのか?ここまで来て契約変更とかないだろうな!」

 

 妖怪の青年の鬼のような形相に、たじろいているの隠しつつ、私は言った。

 

 「あの……、そこのベージュのコート着ている人の……アンティノメルのトップの……ヒーロー創始者の人の……名前って、なんだ?」

 

 その場の空気が一気に凍りついたのを感じた。

幻煙の雛祭り ━前日━ レウカド編 PFCSss1.2

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⬆のひな祭り企画のssです。今回は交流目的で作品を作るため、他のPFCS作品の名称やキャラの名前も積極的に出していくつもりです(嫌だったらごめんなさい)。

Twitterで許可(?)をとったので、早速今回からゲストが登場します!


━━


 何に使うかわからない薬品が、狭い部屋の壁一面に置かれている棚に敷き詰められていた。私が知る限りでも生化学検査薬、ホルモン治療用の薬、単なる風邪薬、幻覚作用を引き起こす麻薬など様々だ。
 床の絨毯はひどくすすけており、積もった塵によって元の色がわからなくなっていた。
 私は狭い椅子に大きな体を無理矢理押し込み、業務台を挟んで向こう側にいる人物を見つめていた。
 彼は舐めたくなるような白く美しい肌に、並の宝石よりもよっぽど美しい紫の瞳を持ち、黒い外套を羽織っていた。

 「ドクターレウカド、商売の方はどうだ?」
 「最近妙な客が多い。特にドレスタニアの道化師衣裳の男には気を付けた方がいい。いろんな意味でな」

 部屋に充満する煙は彼の手に握る煙管から発せられていた。
 私のペストマスクのなかにも微かに煙草の香りが漂っている。一瞬、私の長髪に匂いがつかないか心配になった。

 「あんたの方は。自殺願望を持つ人を解剖するのがあんたの仕事だったか?」
 「その通りだ」

 私は黒いコートの胸ポケットから、解剖用のメスをちらつかせる。

 「前にも聞いたかもしれないが……それでどうやって稼いでいるんだ?自殺志願がいくら多くても一日にこなせる人数は決まってくるだろう?」

 銀色の髪の毛を揺らしながドクターレウカドは問いかけてきた。

 「この解剖を利用して、公には出来ないような医療実験も出来るんだ。データを売り飛ばせばそれなりに金になる。それに死亡理由の偽装や整形も……殆ど医療器具の費用で消えるが」

 ドクターレウカドは煙管に口をつけた。管口がほのかに赤く火照る。
 一呼吸おいて、レウカドの口から、自分の素肌と同じように白い白煙を吐き出した。白煙は自ら意思を持つかのように私の体を包み込む。

 「……医療人には厳しい世の中だ。さて、今日は何を治してほしいんだ?」
 「最近不眠に悩まされていてな。ストレスで自分何かに追い詰められる悪夢ばかり見るんだ。メユネッヅで治療したいところだが、私は永久追放を受けてるいる」

 ドクターレウカドは奇妙に口を歪めた。一瞬なんだと思ったが、単なる笑顔らしい。

 「ああ、あるぞ。まあ、『かかる』か『かからない』かはあんた次第だが……」
 「構わない。『ドクターレウカドに治療してもらった』、この事実だけで十分だ。その事実だけでも安心する」

 黒衣の医者は私の後ろに消えた。一呼吸置いたあと、レウカドの繊細な指が私の首筋を包んだ。そのまま耳元になまめかしい声が発せられる。

 「……なら、ゆっくりと鼻から煙を吸うんだ。首を少しあげて気道を広くしろ。そうだ、その調子だ」

 ドクターレウカドの心地よい言葉がペストマスクに響く。

 「なるべく自分の陽になることを考えるんだ。家族とか恋人とか、好きな食べ物のことでもいい」

 私は今は亡き恋人のことを思い出していた。あいつにも首筋を撫でてもらったことがあった気がする。

 「全身の力を抜け……。まず手が重くなっきた……次に足も重くなってきた……。その調子だ、完全に力を抜くんだ……」

 安心感からか、瞳に瞼が重くのし掛かってきた。心地よい部屋の空気と硝煙とが混じりあい、私は深い夢の中へと堕ちていった。


……

 

 

 視界がまだぼやけている。眼前に作業台があり、何者かが薬を煎じているところだった。彼の着る黒いコートが私に安らぎを与えてくれる。
 黒はあらゆる恐怖から私を守ってくれる。

 「起きたか。気分はどうだ?」
 「生き返るような気分だ。フッ……フッ……」

 視界がはっきりしてきた。作業台の綺麗な手見つつ、華奢な腕をたどっていくと、やがてドクターレウカドの得意気な顔が視界に入った。

 「ところで、明日は何の日か知っているか?」
 「ひな祭り、か?」
 「そうだ。ひな祭りだ」
 「ああ。それがどうした?」

 私は眠い目を擦ろうとしたが、ペストマスクに阻まれた。
 その様子を見て、一瞬ドクターレウカドがニヤけた気がする。

 「カルマポリスから西に125キロの地点にあるエルドランという国を知っているか?前もって送った手紙を読んでいるなら知っていると思うが……」
 「『豊穣の国エルドラン』。表では観光に力をいれ種族平等をモットーとしている農業国。だが実際には人間至上主義で闇取引の穴場となっている腐りきった国、だったか?」

 私はコートのポケットからメモ帳を取り出した。ページを開いてからしおりの代わりに挟んだpH試験紙を引き抜いた。

 「ああ。その通りだ。今その国でちょっとした新興宗教が流行っている。ノア輪廻世界創造教。裏でアンティノメルのギャング精霊が関わっている他、人身売買・麻薬取引・武器の密輸などの隠れ蓑になっている。そこに大手製菓子店ステファニーモルガンのオーナーが誘拐された。その救出報酬が現金と……」

 前のめりになり、ドクターレウカドの瞳を直視して私は言った。

 「……ひな祭りに必要な菓子一式に加え、一月二回の製菓子無料件だ」
 「数十万する菓子が一月二回無料になる、か」

 ドクターレウカドのよく潤った唇から白煙が吐き出された。全く興味なさげだった。

 「ひな祭りに必要な菓子に関しては安否が確認できしだい至急で送ってくれるそうだ。一部の富裕層が嗜むような高級菓子でひな祭りを堪能できる。だから……」
 「そのメーカーの社長を救出しに行くと」
 「ただ、事前に手紙で送ったように、貴方自身は救出にいかなくていい。ただ、人質救出のための人員を集めるのに協力が必要不可欠なんだ。別に失敗してもいい。今回の救出作戦にドクターレウカドが関わったということも全てもみ消す。その上で、働いてくれた暁にはその菓子無料券とひな祭りセットを渡そう」

 黒衣の医者は苦虫でも噛んだかのように顔を歪める。これはこれでありかもしれない、と私は思った。

 「俺は甘いものが苦手なんだが」
 「ビターもある」
 「いや、そういう問題では……。」

 渋るレウカドに対して私は交渉の切り札を出した。

 「バレンタインの時の妹の顔をよく思い出すことだ。そうすれば自ずと答えは見えてくる」
 「何で妹がいることをあんたが知ってる?」
 「直接会った」
 「なに!」

 「『ステファニーモルガンの菓子は食べたことがない』、と言っていたな。あとそれと、『出来れば一度は食べてみたい』とも」
 「なっ!」
 「チラシの切りぬきを見せたら物欲しそぉぉぉにしていぞ」
 「あんた、俺を妹で釣る気か?」
 「騙してなどいない。事実を語ったまでだ。よく考えるんだ。今回たった一日協力しただけで、一生涯高級菓子が手にはいるんだぞ?これ以上とないチャンスじゃないか」
 ……レウトコリカにとって、とボソリと付け加えた。

 

 

鳩野郎のエルギス

エルギス
f:id:TheFool199485:20170220220959j:plain

見た目:セミロングの白い髪と細い目、細い体に似合わぬ内筋。眼鏡が本体という噂がつきまとう。

種族:精霊
職業:土建
年令:まだまだ若い
学力:専科は最高。理系ではない。
出身:ドレスタニア

 「趣味はサンドバックをぶん殴ることです。ん?何か問題でも?(眼鏡を拭きながら)」

 「(眼鏡をクイッとしながら)こう見えても武闘派だ。細マッチョとでも呼ぶがいい!」

 「人の命令に従うのは嫌いなんだ。……あっすいません!今いきますんで、はい!」

 「あの女の子私のことを見ていなかったか?━━ああ!お前を見ていたわけねぇだろ!ぜってぇ私を見てたし。誰が鳩野郎だおらぁ!(笑いながら)」

 「私がイケメンだと?断じて違う!お前らと同じ不細工だ。その証拠に生まれてから一度も告白されたことがない。……慰めるな。皮肉ギャクのつもりで言ったのに辛くなってくる……」

 「やっ、やめろ!そんな『教室の角の机で顔を埋めている残念な同級生』を見るような目で私を見るな!」

 


 もともと人に命令されるのが苦手で、高校生の時は先生に反抗ばかりしていた。が、腕力はからきしだったのでいじめを受けていた。
 あまりに言うことを聞かないエルギスに対し、とある体育教師が怒鳴り散らしたところ、エルギスが逆ギレし、体育教師をブン殴ってしまう。(体育教師は無事だったが、エルギスの拳の骨が砕け散った)
 体育教師はよりにもよって武道部の顧問であったため、『貴重な戦力が手に入った』とエルギスを半ば強制入部させてしまう。
 それからというもの何かに目覚めてしまい、毎日のように部活に通っては自主トレをするようになった。(主にサンドバッグをぶん殴っていた)。
 武道部で無理矢理先輩の指示に従わされる。はじめは猛反発したものの、自分が思った以上に先方の言うことを聞くことで、成長出来ることに気づいた。
 最終的には嫌々ながらも自分より優秀な人には従うようになった。就職してからは鬼に混じって土木建築にいそしむ。

 見た目に反して、学生時代に全く女とは無縁の生活をしていたために女性にたいして免疫がない。しかも、顔はそれなりにいいのに元々の性格がアレなので全くモテない。逆に野郎ウケはいい。そのため、初対面で仕事仲間からは「孔雀の皮を被った鳩」と言われ、最終的には鳩野郎という意味不明な二つ名をつけられた。(本人は気に入っている)

 光を信仰する、手足を透明にする魔法の持ち主。見えない手足で相手に恐怖心を押し付けながら一方的に戦う。武道部で正々堂々の心を学んだエルギスがなぜこの魔法を使うのかというと……実は深い理由はない。単に部活に入る前の腕力のなさを誤魔化すために使っていたのが、そのまま身に付いただけ。


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キャラメイクは第三者の目を気にせず、過剰に行うと厨二病へ移行する恐れがあります。用法用量をよく守り正しくキャラメイクをしましょう。