フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

ルビネルの豪遊願い PFCSss5


ルビネルの捜索願い PFCSss

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/28/091650

ルビネルの手術願い PFCSss2

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/31/172102

ルビネルの協力願い PFCSss3

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/01/083325

ルビネルへの成功願い PFCSss4

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/02/153244


⬆のssの続きです

 私はドレスタニアの噴水で、煙管に火を灯す。煙が沸き立つ筒に口を着ける。気管支が煙によってあぶられゴホゴホと蒸せた。知り合いが旨そうに吸っているのを見て真似してみたが、やはり私には合わないらしい。
 こんな奇妙なことをするのも過度のストレスから一瞬でも逃げたいからだった。

 「ゴホッゴホッ……」

 私は建物の影で蒸せつつ、ドレスタニアの広場にある噴水を覗いていた。いつも見ている裏通りの噴水とは違い、コケもボウフラも沸いていない澄んだ噴水だった。
 そこに黒いワンピースに身を包んだ少女と、貴族服に身を包んだ女性が仲睦まじく腰かけている。手に持っているのはリンゴ飴だろうか。

 「ゼェ……ヒュー……おっ収まった……」

 彼女たちの脇に紙袋が置かれている。中からのぞいているのは洋服か?それともかわいいぬいぐるみか?
 二人ともにこにこしながら話続けている。時々ほっぺに触れたり、足をさわりあったりと、何やら危なげな雰囲気を醸し出しているのは私の気のせいだろうか。

 「煙草なんか吸うもんじゃないか……」

 煙管をポケットにしまう。
 彼女らがどこかに移動する。あの通りの先ということはカフェか……。
 いっこうに会話の止まる気配がない。何であそこまで高速に絶え間なく話続けることが出来るのかわからない。憧れはするが。
 「うんうん」と、激しく外交官の言葉にうなずく少女。得意気になって話しているのが、あのエリーゼさんだとは思えない。
 エリーゼ外交官の言葉にはしゃいで、リンゴ飴を落とすルビネルはとても可愛らしい。

 エリーゼ外交官が自然かつ優美な動作でルビネルの手をとった。カフェまで先導していく。エリーゼ外交官の顔がきらきら輝いて見える。これが外交官のシックスセンスか?そして、なぜそこで顔を赤らめるルビネル!

 カフェに入ると、私から二人は見えなくなってしまった。

 キャピキャピ話をし続ける二人を見守るのはとてもつらかった。本来であれば、あれがルビネルの姿なのだ。

 霊安室で遺体と変わらぬ無表情で、淡々と自分の死に場所について語るのがルビネルだとは決して思わない。

 私は白昼のドレスタニアでため息をついた。


 「何でこんなことになった」


 以前、ルビネルは奴と戦ったことがあったらしい。そして、十数人の仲間と共に瀕死まで追い込んだ、とも。私はその話を軽く流していたが、図書館で読んだ資料のなかに、それについての記述があった。

 強大な力をもつ者を倒したとき、その『力』が放出され、近くにいた人にこびりつくことがあるらしい。その人は『力』に暴露され続けることになる。『力』に常にさらされた体はそのうち『力』に対して耐性を持つ。
 ワクチン接種の原理に似ている。体は病気にかかるとその病原体に対しての抵抗力を作る。それを利用し、弱毒化した病原体を注射することで、実際に病気にかからなくても体の中でその病原体に対する免疫ができるのだ。
 『奴の力』がこびりつき、あらかじめ暴露され続けた結果、ルビネルは奴の能力に対する耐性を獲得したのだ。だから、老人の部下たちと共に、奴と戦ったときも、彼女だけは生き残ることが出来た。

 奴の能力は老人でもかなわなかったことから、非常に強力であることが予想される。それに耐性があるというのは、すさまじい武器だ。

 力がこびりついても、耐性ができるにはその量や質、そして個人差が大きく関与する。ルビネルが奴への耐性を得たのは不幸中の不幸なのだ。

 奴を打ち倒すにはルビネル以外、適任がいない。


 「何度考えても同じか」


 カフェからルビネルとエリーゼ外交官が出てきた。相変わらず仲睦まじく話している。

 なぜあんな子がこんな使命を背負わなければいけないのだろうか。変われるのなら変わってやりたいが、それが出来ないのは私が一番よくわかっている。

 私は本日何度目かのため息をついた。自分の無力さを呪う。まあいい、いつもと同じことだ。

 私に出来ることをしよう。

ルビネルへの成功祈願 PFCSss4

ルビネルの捜索願い PFCSss

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/28/091650

ルビネルの手術願い PFCSss2

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/31/172102

ルビネルの協力願い PFCSss3

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/01/083325


⬆こちらのssの続きになります。

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Self sacrifice after birthday 4


 「久しぶりだな」

 図書館の地下五階。本来人が立ち入ることのない埃臭い空間の、更に奥の机にもたれ掛かる私に、図々しく話しかけるガーナ。
 ガーナ『王』が私のロングコートの服のシワをみてガーナは一言呟いた。

 「ほとんど丸腰か……取り上げられたな。私が利用したときよりも深刻に見えるが」

 「あまり話しかけないでもらえるか。鬼畜め」

 ばつが悪そうな小さく低い声で拒絶を示すと、ガーナは微笑しながら向かいに腰をおろした。
 裏社会の人間から見たらドレスタニアを支配しているのは彼だ。一般には元国王と言われているが、実際には裏から国を牛耳っている。

 「まぁそう言うな、単純な世間話だ。君にとっては余計な話かもしれんがね」

 無言で向き合う解剖鬼とガーナ。感情を隠し通すマスクに対し、感情を読み取らせない鋭く紅い目。お互いに察する、牽制の態度。先に沈黙を破ったのは、ガーナであった。

 「死ぬのか、あの子は」

 眉一つ動かすこともなく、悲しい顔も見せず、苦しい声もあげない冷徹非道な『王』の言葉。しかし、死地を巡った解剖鬼だからこそ察する、王の気遣い。
 早い話が、状況を把握し即座に現実をうけとめ、ルビネルの未来が悪い結果になることを既に『覚悟』している態度である。だからこそ、ガーナは解剖鬼に話しかけに来たのだ。

 「……決まった訳じゃない」

 即答は出来なかった。だが、できる限りの事をする、と意志を見せることはできた。癪に障る『王』に向けた抵抗の意志。
 可能性は決めつけるものでは無い。だからこそ、即答できない自分にほんの少しだけ苛立った。実際に経験則から判断すると、失敗する可能性の方が高い。

 「そうか」

 私のわずかに震える握りこんだ拳を見て、ガーナはにこりと微笑んだ。ふと、手元の資料に目を落とす。サバトの記録…歴史…考察…。自身が戦うわけでもない相手の弱点や欠陥を探ろうと、自然に読んでいたものがそれらであった。
 心のどこかで、ルビネルが負ける前提で調べていたことに気づく。

 「現実を受け止めるということは、希望を産み出す手段である。やるべき事をやるしかないぞ」

 ガーナは机に紙束を置いた。

 「これは……?」

 「私の父親が母に施してきた、遺伝子操作の実験記録だ。図書館の記録ではなく、私物だ。より分かりやすい言い方をすれば…我が弟の設計図だよ」

 一切感情を見せなかったガーナが、明らかに忌々しい物を見る顔つきで答えた。

 「燃やすつもりだったが、何かの役に立ちそうなら君に預ける」

 そう告げると、ガーナは出口へ戻っていった。

 「『設計図』か、これがガーナ王の解釈なのか?」

 私は資料を手に取りパラパラとめくる。わずかな枚数目を通しただけで、ガーナの表情の理由を察した。なるほど、これを研究した奴は、少なくとも私よりは外道らしい。
 私はあくまで人を成仏させたあと、解剖して医学データを得るのが仕事だ。このような狂気に満ちた人体実験は行っていない。

 「なるほど、興味深い」

 だから、手術の参考になるデータが手元ににほとんど存在しないのだ。理論上は手術可能とはいっても、前例のない手術は高確率で失敗する。例えば数十年前、とある病院で理論上可能とされ、実行に移された臓器移植。だが、拒絶反応に関して、当時は存在すら知られておらず、患者は数日でお亡くなりになった。
 ガーナ王が渡してくれたものは、それを補完する、貴重な研究データだ。特に薬剤による詳細な影響や、副作用に関しての細かい記述は非常にありがたい。

 ガーナ王にしては随分と気のきいたプレゼントだ。ペストマスクの位置を調整すると、ルビネルにきびすを返し、図書館を後にした。

ルビネルの協力願い PFCSss3

ルビネルの捜索願い PFCSss

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/28/091650

ルビネルの手術願い PFCSss2

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/31/172102

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Self sacrifice after birthday 3

 六人用の広い机の上に乱雑に広げられた本の山。ひとりでに動き、器用に本のページをめくりつつ、必要な箇所を市販のノートに書き写す17本のボールペン。そして、そのボールペンたちに向かって指揮者のように指示を出す少女。
 本の内容は公に出来ない禁術や、人道を外れた研究成果。知ってはならない世界の裏側についてなど。カルマ帝国を壊滅させた、ドラゴンの召喚ですら、ここにある文献で再現可能である。
 少女は本を棚から取り出しては机の上に広げ、ボールペンを操る力によって、高速でまとめノートを作っていた。

 私はそんな少女を本棚の狭間から見ていた。本来であればこの図書館は立ち入り禁止であるが、老人とルビネルが『とある人物』を説得してくれたお陰で、私も入ることが出来た。
 私はそれに感謝しつつ、ルビネルの手術の成功率を少しでも高めるために、手当たり次第、生体や呪詛についての禁書を開いては閉じていた。
 ……と、噂をすれば彼が来た。


 「勉強熱心なものだな、ルビネル。何か聞きたいことはあるか?」


 セミロングの髪の毛が額の包帯に触れている。整った顔に鋭すぎる眼光を宿し、ルビネルを見据える。
 ルビネルは黒い長髪を揺らし、振り向いた。男を見た瞬間、ルビネルの険しかった表情が本の少し緩む。


 「ガーナ様、ありがとうございます。まさに今聞きに行こうとしていた所です」


 ルビネルが一礼すると、ボールペンも一斉に静止し、ガーナの向きに傾いた。
 ガーナはドレスタニアの元国王であり、ここドレスタニア図書館の鍵を管理している。
 ガーナは私に目を向けたが、私が気にするな、というジェスチャーをすると、再びルビネルと向き合った。

 「私には三つほど質問があります。一つめは、どこにいるかもわからない人を探す方法についてです」

 ルビネルは千里眼の呪詛についてのメモ書きを指差した。それを見たガーナは、静かに頷くと語りはじめた。

 「人捜しの能力…。これは概念的方法であれば、大した力を使わずとも可能だ。明確な位置を探ることはこの世界においては不可能だろうが、信仰による占いや手がかりを辿る力に長けたものならばヒントとして得る事は容易い。我が国にも占いを行える者がいる。訪ねるといいだろう」

 ルビネルは軽く会釈すると次の質問を投げ掛ける。

 「では、次の質問を。ディランやサバトに乗っ取られた……と思われる人物を救う方法はあるのですか?」

 「乗っ取られた人物、これはその者により異なる。場合によっては引き剥がせるだろうが、引き剥がすどころか既に死を迎えている場合もあるだろうな。お捜しの者の生態がわからなくてはその可否もわからぬ」

 ガーナの言葉を聞き、決意したように最後の質問をいい放った。

 「では、そういった異次元の力を持つ者共と渡り合うだけの力を手に入れる方法はあるのですか?」

 「渡り合う力、か。それがあるならば問題は起きない。我が弟の持つ剣であれば時空ごと封印することができるが、例え瞬きすら行えぬ空間に閉じ込めても、時間的封印は、その分、彼らに力を得る刻が与えられるだけである」

 サバトやディラン、といった相手とはそもそも渡り合う術がない、という残酷な事実だった。

 「あり得ない進化をするほどの力をもつサバトのような相手には、永続的封印が最も愚かな行動であることは明白だ。故に、甦ることを前提に繰り返し殺すことを我が国では選択している」

 ルビネルは唇を噛み、唸った。

 「私がわかるのはディランかなにかに乗っ取られている、という事実だけ……。対処法もわからない。封印しようにも仮に敵がサバトだった場合逆効果、となると殺すしか方法はないのですね……」

 「若い頃の私ならば迷うことなく手にかけるが、そういう時代でもない。『必ず喰らいつくす呪詛』と公言した不死者から未だ生き延びている例もある」

 腹を少し見せる。想像を絶する痛みを伴うであろう、おぞましい傷が刻まれていた。全体を見ずともその壮絶さは充分ルビネルに伝わった。
 同時にガーナが言う、人の可能性というものの片鱗も感じたのだった。敵がどんなに強大で恐ろしいものであろうが、それを乗り越えるだけの力を人は秘めている。それをガーナは身をもって示していた。

 「この世界の者を甘く見ているということだ。
君だけの問題ではない。私もサバト相手ならば剣を抜こう」

 ルビネルはこの図書館に初めてきたとき以来、はじめて笑顔を見せた。

 「心強いお言葉、ありがとうございます。ぜひ、お助け願います」

 私はそんな彼女に一抹の不安を抱えつつ、次の禁書を取り出した。




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長田さんにガーナ様を貸して頂きました!さすがカリスマ、風格が違うッ!

ルビネルの手術願い PFCSss2

ルビネルの捜索願い PFCSss

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/28/091650

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⬆こちらのssを最後までお読み頂くと、より楽しめます。


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Self sacrifice after birthday 2


 私は心地よいベッドの上で目覚めた。下着を含め、全ての物が剥ぎ取られていた。種も仕掛けもないパンツとガウン、それが今の私の持ち物の全てだ。ただ、二メートルの身長を持つ自分の体は無事だった。


 「旦那の体、不気味で仕方がなかったですぜ?」

 「観賞用ではないからな」

 私は自分の体を見て自重げに笑う

 「さて、強化手術に必要な物を教えてくださいませんかね?右腎臓の変わりに入っていた閃光爆音菅も丁寧に抜かせて頂やしたぜ?」


 私は右腰のあたりをさすってから、舌打ちをする。


 「わかったもう抵抗はしない。ただ、手術に必要な物品は私の研究室にある。取りに行きたい」

 「じゃあ、ここにある最低限の衣類だけ着てくだせぇ」


 私は布製の服だけ身に付けて、数十人の見張り役と共にエルドラン国のとある墓地へと向かった。私の地下研究所のうち一つは納骨堂に直結しており、墓から入る。

 私は老人の監視している中、墓を暴き、薬品保管庫へと続く、隠し階段を降りた。薬品棚から必要最低限の薬品を入手する。

 私がその後つれられたのは老人が管轄するエリアにある病院だった。一般市民にまぎれ、当然のように受け付けを通り抜けると、霊安室に連れられた。
 そこに幽霊が如くルビネルがたたずんでいた。白いワンピースはこの場所にお似合いだが……。


 「用意はできたの?ドクター」

 「ああ」


 こうなっては、老人に逆らっても無駄なので正直に説明をする。


 「鬼に存在する強化遺伝子を直接移植する。ただ、適正が合うかどうかは移植してみなければわからない。成功率は六割といったところだろう」


 ルビネルは一切の表情を捨て去ったような無表情でぼそりと言った


 「それで、成功すれば私は強くなれるの?」

 「ああ。鬼遺伝子はどれだけの量の遺伝情報を持つかによって、その発現の度合いが変わってくる。もっともたる例が紫電海賊団の忌刃だ。恐ろしい怪力と力の持ち主だろう?あれは鬼遺伝子が強く発現したために、肉体が鬼から見ても異質とも言うべきほど強化された結果だ」


 私は霊安室に横たわるご遺体をちらりと見ると、大きくため息をついた。


 「ただし、肉体強化してから一週間のピークの後、肉体が力に耐えられず自己融解する。つまりお前の言う『敵』と戦い初めてから、一週間以内に私の下へ戻り、再手術をしなければ死ぬ」


 老人は私の肩に手を置くと冷徹にいい放った。


 「じゃあ、旦那の気持ちが変わらないうちに、こちらにサインを」


 私は思わず首を左右に振った。


 「お前に情けはないのか、老人!」

 「そりゃ、……嫌ですよ。胸が痛む。止めたい気持ちもある。将来有望な奴を死ににいかせるなんざ、正気の沙汰じゃねぇ。でも、無理なんですよ。俺たちはお嬢にかけるしかないんです」


 老人は茶色い帽子を深くかぶり直した


 「私の戦う相手は少なくとも生物兵器と同等かそれ以上の存在なの」


 ルビネルは無表情の中に一点の陰りを見せた。どうやら『相手』に対して個人的な因縁があるらしい。


 「ルビネルは奴に呼び掛けて唯一反応を見せた存在なんです。そのとき、ルビネルのペンがほんのちょっぴりだが、奴に怪我をおわせた」


 私は今日何度目かのため息をついた。


 「それだけで、それだけで……ルビネルにかけるのか?」

 「遭遇したとされる俺の部下は全滅していやす。強さに関係なくですぜ?不意打ちされた訳でもない。真っ正面から好条件でうちの精鋭がそいつに挑み、完膚なきまでにやられた」


 苦虫を噛んだような表情をした。よほど悲惨なやられ方をしたらしい。


 「うちらにはもはやどうすることもできやせん。ここまで来ると天災と同レベル、出会ったら最後です。そんな理不尽を許してはおけねぇ」


 ルビネルはせがむように私にすり寄ってきた。


 「お願い。私は止めなければならないの。あれ以上酷いことをさせたくない」


 私はルビネルの両肩を持つと怒鳴った。


 「なぜ、命を投げ捨てようとする!成功率は六割だと言ったはずだ。成功しても死ぬ可能性の方が高いということは充分わかっただろう。何より、完璧に手術が成功したとしても、老人の手におえないような奴に勝てるとは思えん!」

 「無謀だと言うことはわかってる。でも、私はいかなくちゃいけない。これからあの人によって、もっと沢山の人が殺されてしまう」

 「なぜだ!なぜそんなに『あの人』に拘る!」

 「それは……」

 ルビネルは大きく息を吸い込むと、目一杯の声量で私に思いをぶちまけた。
 この場所で、この状況で、ルビネルが愛する人への切実な思いを告白してきた時の衝撃は想像を絶するものだった。
 私は脳天を殴られたかのような強いショックを受けた。石化の魔術を受けたかのように全身が硬直してしまった。
 その言葉に対する返答を私は持っていなかった。

 死んだ恋人の体を手術し、身に纏うという狂気とも言える手術を行った私には、彼女に口出しする権利はもうなかったのだ。
 愛しの人をこの世に再び再現するために、百ではおさまらない人数を殺し、成仏させてきたのは紛れもない私自身だ。
 愛する人のためなら何でも出来る、ということを自分で証明してしまっている。今の彼女を誰にも止めることはできない。


 私はそれでも、数時間にわたって粘ったが、折れることになった。ただ、手術自体を行うのは少し後にするということに決まった。その間、私は老人に命を握られたまま過ごすこととなった。

ルビネルの捜索願い PFCSss

1.Self sacrifice after birthday



 ルビネルが約束の時間になってもこない。因みにデートではない。診療時刻だ。
 腕を組ながら寡黙に待つが、いっこうに来る気配がない。彼女は一度だって私との待ち合わせに遅れたことはなかった。
 ペストマスクが私の眠気に合わせてコクンッ、コクンッと揺れる。これ以上は待つだけ無駄か。
 私は不気味に思い、彼女の学校に行き、とある人物を待ち伏せした。

 私が待ち伏せしていた人物はあっさりと姿を表した。単なる教師と生徒という関係を越えて、ルビネルと恋愛関係にあると噂されている。

 ペストマスクをコツコツと叩き、私が会釈する。タニカワ教授は「あなたがルビネルのドクターですか?」と聞いてきた。ルビネルが時間に間に合わなかった時の連絡先として、本人から聞かされていたのだ。

 タニカワ教授にルビネルの所在を聞いてみる。
 知的な顔をした教授は眉間にシワを寄せた。彼が言うにはルビネルは二十歳の誕生日を迎えた頃から行方不明、とのことだった。国の捜索も入っているが発見されていない。
 一応、長期間出掛ける旨が書かれている手紙が彼女の家から発見されたらしいが、肝心の行き先がかかれていなかったそうだ。
 ……厄介なことになった。捜索に協力すると伝えると、そういえばとタニカワ教授は呟いた。

 「タミューサ村に社会科見学に行かせてからルビネルの様子がおかしかった。感情を見せなくなったんです。何かよほどショックなことがあったらしい」

 「ショックなことか……」

 私はコホンと咳払いをすると、タニカワ教授に聞いた。

 「あなたは?あなたには何かありませんでしたか」

 タニカワ教授は、「いや……何も」とだけ答えた。

 手紙と聞いて、ふと思い出した。ルビネルはインクの入ったペン━━確か一ミリリットル以上だったか━━をサイコキネシスが如く自在に操れる能力を持っていた。
 その手紙も能力を使って書かれたのだろうか。それとも直筆で丁寧に買いたものなのか。どうでもいい疑問が私の頭をよぎった。


 私はひとまず隠れ家に帰り、翌日に商売仲間に会いに行った。
 「老人」と呼ばれている、焦げ茶色のスーツに身を包んだ精霊は、闇社会の中でも相当の強者だと聞く。裏の世界を知り尽くしている彼は、ニヤリと笑うと意外なことにこう答えた。

 「金さえ払えば教えてあげますぜ?旦那」

 私はなけなしの金を老人に手渡した。
 彼女は私の体の秘密を呪詛に関する知識で推理していた。その情報が漏れると大変不味い。もっともそれ以上に私が彼女のことを気に入っている、というのもあるが。

 老人は焦げ茶色のスーツを整え、帽子を深く被ると「ついてきな」と、指図してきた。

 外に留まっていた、黒い高級車に案内される。やたらと座り心地のいいイスにデカイ体をどうにか押し込めると、隣の席で「かわいいですぜ、旦那」と老人が笑った。

 運転席の黒スーツの男がアクセルを踏むと、車は発進する。

 数十分後、車からおりると、極端に高級そうな建物が目の前にそびえ立っていた。ガラスの扉の中は金色とそれに近い色で装飾された、さながら王宮のようだった。外から見ただけでも、恐ろしく高そうな花瓶だとか、あからさまに綺麗すぎる絵とかが置かれている。
 明らかに私の黒いコートと茶色いペストマスクに不釣り合いだ。

 「さあ、行きましょう」

 竜人でも優々と通れるくらいばかでかいガラス張りの自動ドアを潜り抜け、ガードマンに加え、やたらと着飾ったお姉さんの間を通る。どうやら建物のエントランスらしい。

 受付らしきところを顔パスで通り、老人は突き当たりのエレベーターに入った。

 「この建物は……?」

 私が呟くと老人は渋い笑顔を私に向けた。

 「そう、高級キャバクラですぜ」
 「なぜこんな建物に案内した?」

 老人は答えずに最上階のボタンを押した。

 「…お代は?」
 「俺がオーナーですから」

 美しすぎる夜景と、キャバクラとは思えぬくらい高級感溢れるテーブル。明らかに年収数百ドレスタニアドルを越している男達が、美女をはべらせていた。
 老人はサービスと称して各テーブルに高級ワインをおごると、私をつれて一番奥の扉へと向かった。

 VIPルームが連なる廊下に出た。ただでさえ私の全財産をはたいても出られなそうにないこの店のなかの、さらに特等席である。人生でこんなところに入れる日が来るとは……
 それにしてもなぜこんなところに老人は案内したんだ?

 「さあ、つきましたぜ。指名はもうしてありやす」

 扉を恐る恐る開けると、白いガウンをまとった少女が窓の外を向いていた。顔はこちらからではよく見えない。ガウンに滴る黒髪は絹に負けぬほど美しく輝いていた。
 二人用とは思えない部屋に私は一本足を踏み入れる。絨毯の踏み心地が半端ではない快適さだ。

 「いらっしゃい?お客様」

 表情があどけない。ここに存在する意味がわからない。ガラスのテーブルにおかれたワインに対して、彼女は明らかに不釣り合いだった。

 「ルビネル!なぜこんなところにいる?!」

 疑問は恐ろしいほど浮かんできたが、何から質問すればいいのかわからない。妖艶に微笑む少女になんと声をかければいいのやら。

 「フッ……フッ……フッ!」

 椅子に座る少女、ガラスのテーブル、数メートル離れて私と老人。それがこの部屋の全てだった。
 さりげなく老人が退路を塞いでいるのが気になる。

 「お金が欲しかったのよ。短期間に、大量に、ね」

 「どうしてそんなに金を欲した?」

 「私には救わなければならない人がいるの。手遅れになる前に。そのためには武器が必要でね……」

 私は声を荒くして言った。

 「ばかな。そんなに友達が大変な状況であれば国や冒険者に頼めば……」

 「国の兵士じゃ役に立たない。無駄死によ。それに私の個人的な問題でもあるわ。どうしても私が決着をつけなくちゃならないの。だからドクター、貴方にも力を貸してほしい。私をあなたの能力を使って、強くしてほしいの」

 「断る」

 そういった瞬間、老人がライフル銃を取り出した。

 「旦那、それじゃあ困るんです。ね、患者さんの要望に出来るかぎり沿うのも医者の仕事でしょう?」

 こいつら!グルか!

 「私の肉体を強化手術してほしい。今のままじゃ、……勝てない」

 部屋のなかに黒い服の男がなだれ込んだ。

 将来私が老人に払う金のことを考慮すると、とてもじゃないかぎり老人は私を裏切らないはずだ。つまり、老人がルビネルを助けると、私の生涯払う金以上の損失を防げるか、または利益を被るのだ。

 「二十歳に成り立ての健全な少女の肉体を人体改造しろと?ふざけるな!私のメスはそんなことに使うものではない」

 「すいやせん、これも商売なんで」

 にかっとはにかむ老人の後ろで、数十人のガードマンが銃を向けてきた。

 ひとまず逃げないとまずい。
 フラッシュバンを起動させようとしたとき気づいた。黒い服の男は全員遮光グラスと高級耳栓をつけていることに。老人もいつの間にかそれをつけている。

 「逃げようとしても無駄ですぜ、旦那」

 仕方なく煙幕を起動させ、ワイヤーを天井に突き刺した。体を勢いよく引き上げると、その間下を大量のゴム弾が通り抜ける。さらに壁を突き破って隣の部屋からも銃弾が飛んできた。

 天井に逃げていなかったら即、気絶だった。ミノムシのように身を縮めてぶら下がったまま耐える。

 天井に手足が触れないように気を付けなければ。どうせ老人のことだ。地雷が仕掛けられている。
 私は下半身を振り子のように揺らして、どうにか跳ぶと、銃撃で穴の空いた壁を突き破り隣の部屋に突入した
 ……まさか、隣の部屋がワイヤートラップで埋め尽くされており、全身がんじがらめにされた揚げ句、切り裂かれるとは思ってなかったが。

 ワイヤーに絡まり宙ずりになった私に、老人の部下が大量の麻酔ゴム弾を打ち込んでいく。そのたびにだらしなく私の体が揺れた。

 どうやら私やルビネルがいた部屋の壁の裏側に、トラップが仕掛けられていたらしい。私がぶち破った壁とは反対側の壁に老人の手下がいることを察するに、最初から私の動きは全てお見通しだったようだ。化け物め。

 だんだんと意識が遠ざかり、体の力が抜けて行く。

 ルビネルはというと、窓から外に出たらしく、夜空に浮かんでいた。ボールペンを靴に取り付けることで、宙に浮けるらしい。攻撃の当たらない場所で高みの見物を決め込んでいる。

 状況すら理解出来ぬまま、私の意識は闇へ葬り去られて行く。

 最後の力を振り絞り、ルビネルの顔を見た。虚ろな目で私を見ている。とても学生の瞳とは思えない。

 彼女に何があったと言うのか。恐ろしいほどの荒廃が彼女を襲った、それだけは事実のような気がした。

 視界の端に二人が見えた。


 「さすがね。オールドマン」

 「俺をみくびっちゃ困りますぜ?」


 少女の服を整えながら、老人は笑った。


 「あとは手はず通りお願い出来るかしら」

 「ええ。お嬢が奴をどうにかしなけりゃ、俺たちのお先は真っ暗です。そして、それを出来るのは残念ながらお嬢しかいねぇ」

ずっと昔の話 PFCSss

 この世界には妖怪という種族がいる。特徴的な外見と引き換えに、呪詛と呼ばれるいわば超能力のような力を行使できる存在だ。
 そして、その妖怪たちが造り上げた国がカルマ帝国である。

 遥か昔、カルマ帝国は大陸を支配するほどの大国であった。
 それは古の魔法使いリムドメイジから享受されたによるものだった。妖怪の死者の魂を別の魂に移すことで、本来妖怪が持つ呪詛に加えて、移植された魂が持つ呪詛まで行使できる技術、ネクロファクター。膨大な力を得られる秘術によって、カルマ帝国は瞬く間に大陸を統一した。
 ネクロファクターによってもたらされる圧倒的な力によって繁栄したカルマ帝国。しかし、世界では数々の国が戦争を起こし、取り込まれ消え去っていた。その中でも、カルマ国王はハサマ王とプロレキスオルタといった強大な存在に恐怖していた。彼らは単独で村を瞬時に破壊し、国を滅ぼす。ハサマ王は迎撃に専念しているがいつ攻勢に出てくるかはわからない。
 後の世でプロレキスもハサマ王も、侵略行為はまず行わないと判明しているが、このときのカルマ国王はそれを知るよしもなかったのだ。
 
 カルマ国王はやられる前にやらなければならない、と考えを固めた。国を、友を、家族を守るためには、侵略行為もやむなしと考えるようになったのだ。カルマの民もそれに賛同した。

 しかしリムドメイジはそれに大いに反対した。ネクロファクターは人々を繁栄させる技術であって人殺しの道具ではない、このままでは大いなる災いがエルドラン国を襲う、と。

 だが、卑怯にもカルマ帝国王はリムドメイジの娘を人質に無理矢理協力させた。

 カルマ帝国王は、今滅びるよりも後の世に災いが訪れた方がまだいい、と答え武力強化進めた。何度リムドメイジに警告されようが、武力改革を止めなかった。
 その過程で、呪詛を込めて打ち出し敵を撃滅する呪詛砲や、拠点防衛には無類の強さを誇る量産型エアリスといった、恐るべき兵器が産み出されていった。
 中でも、ネクロファクターを改良し開発された、生きている妖怪の魂を直接武器や他の妖怪に移す技術、PF(パラレルファクター)はカルマ帝国に圧倒的な武力をもたらした。

 それを危険視した近隣の国は偵察のために小隊を派遣。しかし、それをカルマポリス王は侵略行為と疑った。完膚なきまでに偵察部隊を叩きのめし、無きものにした。

 この出来事がきっかけとなりカルマ国王は一国を一瞬で滅ぼせるような強大な力を欲した。世界侵略計画〈リムドメイン〉を発令。
 カルマ国王はリムドメイジをPF部隊とエアリスで奇襲し、追いつめ、拘束した。そして、考えうる限り最高の兵器を欲した。

 近付く生物を皆殺しにし、どんな魔法も無力と化し、どんな呪詛も跳ね返し、全てを無に帰す究極の兵器。

 それを数百人の捕虜を犠牲に、ついに完成させたのであった。


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 カルマポリスを覆う緑色の霧を引き裂くかのように、光の柱が何本か天から降り注いだ。分厚い雲に亀裂が入り、裂け目が出来る。
 四階建ての城の屋上でその様子を拝見していた。優秀な部下たちがカルマ帝国王を取り囲む。その横で黒いローブに身を包んだ質素な服装の魔法使いは、召喚の魔法を唱え始めた。


 「お前たち、何があっても絶対にしゃべるな。召喚に失敗したら大損害だ」

 「はっ!」


 摩天楼に強大な魔方陣が描かれる。白色に光かがやくそれは、数キロ先小さく見えているタワーをあっさりとその輪の中に抱え込んだ。


 「さあ、呼び出したぞ?お前は何を望むのだ?」

 「『カルマポリスに仇なす敵を全滅し、この町に平和をもたらす』。リムドメイジ、それが私の願いだ。」

 「本当にそれでいいのだな?カルマ帝国王。あやつは『はじめの一度』しか命令を受け入れぬ」

 「ああ」


 本来夜であるはずの天の裂け目から、金色の世界が見え隠れする。その狭間から、容易に建物を踏み潰せるような、は虫類型の足が現れた。さらに長大な長さをもつ尾。そして、鱗に覆われた胴体が、威厳を感じさせる蛇型の頭部が姿を表した。薄黒い鱗に金色の光が反射し、きらびやかに輝いている。
 ここから数百メートル離れた位置に召喚されたのにも関わらず、はっきりとその姿を識別できる。


 「……ドラゴン。建物と比較するとビルの三階分……。体長にして十メートルほどか。」


 「カルマ国王よ。お前の望み通りの生物兵器だ。左手に持つ宝玉から放たれる呪詛はありとあらゆる生体を溶かす。鱗は妖怪の呪詛を反射し、鬼の拳をでも砕けぬ。皮膚は精霊の魔法とアルファ能力を無力と化し、筋肉は妖怪の呪詛を吸収する」


 ドラゴンは飛んでいる敵国の竜騎兵(ここからでは黒い点にしか見えない)を睨んだ。すると、どこからか現れた無数の紅の玉が竜騎兵に収束、大爆発を起こした。敵の竜は鱗を剥がれ墜落し、騎乗者は消し炭となった。

 それに反応して、突如として鳥獣の群れが町の上空に召喚された。この国に潜り込んでいた召喚師が慌てて召喚したらしい。恐らく、ドラゴンの実力がどの程度か把握しようとしているのだろうが、そんな小細工は効かない。

 町のエネルギーのほとんどをあのドラゴンの召喚に費やしているのである。あのドラゴンと戦うということは、眼前に広がるこの都市、丸々一つを敵に回した、といっても過言ではないのだ。

 赤き放流がドラゴンの口内に溢れる。首をうねらせたかと思うと、ゆっくりと口を開きエネルギーの塊を放出した。
 彗星がごとく直進する光に、敵によって召喚された数十羽にも及ぶ鳥獣の群れが巻き込まれる。鳥獣の輪郭が一瞬にしてミイラのように細くなり、そのまま消え去った。少なくとも数キロは放れた敵を正確に打ち落としたのだった。
 やがて光の線が筋を残して消え去った。


 「おお!敵を一瞬で!」


 だが、敵を全て消し去ったのにもかかわらず、ドラゴンは攻撃を止めない。
 カルマ帝国の高層ビル群を見下ろすと、口のそばに光が瞬いた。開口した後、首をしたに曲げ、それをぐぅんと上に持ち上げる。
 ドラゴンから直線上に位置する地面から紫色のマグマとでも言うべき何がが噴出する。頑丈に舗装してあるはずの道路を割き、導線に存在する建築物が、内から外側むけて、まるで爆弾でも爆発したかのように吹き飛んだ。その中から紫色の柱がちらりと姿を見せ、地面に消えていく。


 「おい!これはどういうことだ?誤射か?!」


 さらにドラゴンの背中から光の束が放たれた。数十の光は一本一本意思があるかのように建物に誘導され、町の至るところで同時に爆発が起きる。
 人々の悲鳴と慟哭が一斉に沸き上がり、警報が町中に響き渡った。


 「まて、これは明らかに意図的だ。なぜ奴は町を攻撃する」


 金色の空に建築物が燃え上がる赤色が生え、美しいコントラストを描き出している。
 その一方でけたたましい騒音が町中から沸き上がっていた。交通機関はすでに軒並み麻痺してしまっているようで、車の列が延々と道路を埋め尽くしている。
 崩れ落ちる建築物が、頑丈に作られているはずの車を瞬時にスクラップにしていく。


 「簡単なことだ。平和を脅かす者、つまり侵略行為に賛同する者の欲望をへし折るためだ。恐怖、欺瞞、欲望に身を委ね私の忠告も聞かずカルマを重ねた結果がこれだ」

 「は?」


 対空呪詛砲も、迎撃を試みるが、鱗を貫くことかなわず、まるで豆鉄砲のようだった。いつもなら劇的な戦果をもたらす、三機編成の無人型エアリスも出撃しているはずだが……。


 「まだわからないのか?侵略に対する報復措置で手痛い反撃を受けるよりは、侵略をせずに専守防衛を貫く方が圧倒的に損壊は少ない。そこで、この町の人々の戦意を奪うため破壊活動に移った。国そのものが消えるよりは町数個消し飛ばす方がマシだと考えたのだろう」

 「ばかな、戦闘に参加していない一般市民まで……」


 ドラゴンの口から、この場所からでもわかるような太い光の線が放たれた。光は建物の中央に当たれば風穴があき、横になぎ払えば、高層ビルが崩れ去るまもなく両断された。建物の位置から判断すると、射程距離は最長で十キロほどだった。ありえない。
 崩れ去ろうとする自我を保つ私の隣で、魔法使いは淡々と説明を続ける。
 私はとある一つのことが猛烈に気になり始めた。


 「私の妻子は?無事なのか?」

 「守るべき者がいなければ、喜びを分かち合う仲間がいなければ侵略意識など生まれはしない」


 私の不安をよそに、光線が町を一線した。一秒にも満たない時間差のあと、五十階建ての新築ビルほどの高さの火柱が、光線の通った道なりに吹き上がった。


 「やつの最初の一撃は明確な目的があった。お前に戦意喪失してもらう。国王であるお前が考えを変えてくれれば、スムーズにことか運びやすいからな。余計に人を殺さなくて済む」

 「だから……」

 「言っているだろう?奴の町に対する最初の攻撃は、お前の妻子を狙って攻撃したのだ」


 私の麻痺してしまった心に、底知れぬ怒りが去来した。壮絶な光景にあらゆる感情を捨て去った私の心は、まるで白紙の紙に単色の絵の具をぶちまけるかのように、芯まで怒りに染まった。


 「この外道がっ!」


 魔法使いの首を絞めて持ち上げる。蒼白な頬が炎に照らされ、不気味に輝いた。魔法使いは相変わらず無表情で、話続ける。


 「お前は、そしてこの国の民は、他国に対してこのようなことを実際に行おうとしていたんだぞ?」


 目の前の高層建築が、ドラゴンの業炎の吐息に巻き込まれた。窓ガラスが全て割れ、熱によって建物全体にヒビが入る。その後、火炎に直接あぶられていた壁面が、赤く溶解していき、ドロリとただれた。
 数百メートル離れているはずなのに、それでも熱波と暴風で吹き飛ばされそうになる。


 「だからといって、それが私たちの国を破壊していいという通りにはならない」

 「何を勘違いしているのだ?私はお前の言葉一言一句違わずに、ドラゴンに命じただけだ。平和を守れとな。たとはその言葉の通りドラゴンが実践しているだけだ。もし、この国が侵略国家などではなければ、ぼやを引き起こす程度で終わっていただろう。たが、どうしようもなく歪み腐りきった人民にたいしては制裁処置をとらざるを得ないと判断したようだ」

 「そんな、バカな」


 悲鳴と怒号が聞こえてくる。町には炎が舞い躍る。文明は文化は炎のなかに崩れ去っていく。エルドラン国が何代にもわたって築き上げた美しき町が、ただの廃墟の山と変わっていった。
 地平線が見えるまで町が破壊されるころ、ドラゴンは活動を停止した。どうやらこの国にはもう、戦意を奮い立たせるような勇敢なものは残されていないようだ。
 保守的で穏和な市民だけが生き残り、他は全て消え去った。


 「被害は首都とその近辺だけだった。運がよかったな。もっとも国家の重鎮が軒並み消し飛んだはずだ。この国はもう終わりだ」
 

 だが、誰も戦意を見せないなか、私は再び戦う心を吹き返した。

 「皆のもの!今すぐ私から離れろ!」
 
 慌てて飛び退いた私の家臣たち。これが恐らく彼らに対する最後の命令だ。
 ドラゴンが私の強い戦意を感じ、こちらを向き、口を開いた。私は攻撃を避けようと動いた魔法使いを、タックルからの羽交い締めで押さえつけた。
 その直後、全身の激痛と共に目の前が白と黄色に染まった。あまりの痛みに、全身の筋肉が硬直し、魔法使いをさらに強靭に捕らえる。

 「ぬぉぉぉ!ばかな、自分に攻撃させて私を道連れにするなど!」

「お前はドラゴンを呼び出したことで相当疲弊している。今のお前ならこれには耐えられまい!これは国民を守る、どんなに汚い手を使おうが決して諦めない。地を這いつくばり、泥をすすろうともこの国だけは守りぬいてやる!!」

 皮膚がめくれ全身の穴という穴から炎が体内に流れ込む。気道を肺を、食道を胃を腸を炎があぶる。全身のタンパク質が変成し、脂肪が溶けだし、黒ずみ、カルマポリス王の意識は消え去っていた。

 「国王樣あぁつ!」

 家臣の悲鳴が火炎に混じる。沈黙を命じられた家臣もこの壮絶な光景には叫ばずにいられなかった。
 リムドメイジはドラゴンの攻撃からなんとか抜け出そうとするも、カルマ帝国王の家臣に呪詛を浴びせられ足止めされた。

 「天啓を仇で返すか!終らない憎しみの連鎖をまだ続けるつもりか!よかろう、今回は引き下がってやる。だが、覚えていろ!過ちを認めぬ限り決してこの国の呪い、カルマを解くことは叶わぬ」

 炎が閃光に変化していく。あまりの高温に炎がプラズマの線と化し、魔法使いの呪詛による防御を突き破った。
 ドラゴンの主である魔法使いの肉体は消え去り、彼の呪詛から生まれた竜は全身から緑色の霧を放ちながら収縮、結晶化していく。
 やがて高さ数メートルの水晶となると、町の地中深くまで沈んでいった。水晶はその間も、そのあとも、その数百年後も、延々と緑の霧を放出し続ける。

 ドラゴンの制裁によりカルマ帝国中央地区は完全に焦土と化した。かつての高層ビル群は跡形もなく消え去り、かわりに巨大なクレーターが出来上がっていた。

 カルマ帝国はこの日より崩れ去り、繰り返し領土の縮小が起き、大陸西部にある小国の一つとなってしまった。

 一方でカルマ帝国の首都跡地から、高さ三メートルほどの巨大な水晶が発見された。
 膨大な呪詛を滞りなく放出し続けるその水晶を、神と讃え、信仰する妖怪が現れた。妖怪たちはより身近に信仰するために水晶の回りに町を造りあげた。
 水晶はカルマ帝国首都の跡地にできた町、カルマポリスの象徴となり、ワースシンボルと呼ばれるようになった。

 そして、ワースシンボルは、カルマポリスの平和と繁栄、そして技術の糧となるのだが、それはまた別の話である。

登りつめた男 PFCSss

 最初の頃はボディーガードしていやした。その他に普通の正規のアルバイトで生計をたてる、それは極貧な生活でしたよ。しかも、期日までに手柄をたてなきゃすぐに消される。いゃぁー、あの頃は大変だった。
 因みにその頃のあだ名が「ジジイ」。若い奴らが立ち上げた組織のなかで、俺だけ年齢が50を越していやした。そこからついたあだ名です。

 ただ、敵側のギャングを罠で暗殺した辺りから流れが変わりましてね。エルドラン正規軍の手口を偽装したんです。そしたら、ギャングの奴ら見事にエルドラン軍を逆恨みしていましたよ。たしか、最初にボスから誉められた時です。
 着実に成績を伸ばしていった俺は、やがてカジノ経営を任されるようになりやした。その傍らで宝くじを運営して小銭稼ぎ。

 さらに稼いだお金で事業を拡大。売春業と賭博業のオーナーをさせて頂やした。傍らで警察、弁護士、政治家に、はした金をばらまきあらかじめ懐柔しやした。敵に回すと結構やっかいなんですぜ。
 この時点で、一流ホテルの一室にすみ酒池肉林の生活を送るような毎日を巣子していやした。年収にして3500万円。

 そんななか、当時のボスが暗殺されかけまして、怖じ気づいたのか引退しちまったんです。
 後継人に俺が選ばれやした。当時、エルドランでは『ミズ』と『ホノヲ』と呼ばれる二大組織がドンパチしていたもんで、結構ヤバイ状態だったんです。ボスは営業向きで、暗殺にもたける俺に座を譲られやした。
 この頃には『ジジイ』では忍びないっつんで、『ワイズマン』と呼ばれるようになりやした。

 俺はある程度知名度が上がると、若手のギャングやヤクザらと密かに同盟を結びました。さらに会合を開き、共益主義を主張。当時は血縁主義や暴力主義だったギャングに一石を投じやした。

 まあ、まさか廊下であのおかたに話しかけられるとは思いませんでしたが。

 「ノア輪廻世界創造教はあなたの意見に賛同します。無駄な抗争ほど無意味なものはありません。これからもビジネスパートナーとしてよろしくお願いします」
 「ありがとうございやす。教王さま」

 それまではギャングは力とか暴力で人を従えていたんです。無能だろうがなんだろうが血筋が親玉の後を引き継ぐ、そりゃ非合理の塊のような集団でした。
 日々ギャング同士の殺りあいで金も体力も疲弊していく。そんなのは無駄です。これからはギャング同士結託して、全体の利益を追求すべきでしょう?

 俺は抗争には基本的には手を出さず、あくまで中立を貫きやした。

 しかし、当時の二大組織『ミズ』『ホノヲ』が抗争しているなか、どうしても片側につかなきゃならねぇって状況になっちまったんです。
 『ミズ』は妖怪差別が酷くて時代遅れ。『ホノヲ』はボスが威張って暴力ふるって下の奴らを無理矢理支配している古風な組織。どっちにしろ組織がデカイだけで将来性は0でした。
 そこで、俺は悟られることなく両方の組織にちょっかいをかけやした。適当な雑魚を罠にはめていたぶる。それをもう片方の組織のせいだと密告する。そうしていくうちに『ミズ』と『ホノヲ』の抗争はヒートアップして、両組織はどんどん疲弊していきやす。
 とうとう俺は『ホノヲ』に『ミズ』のリーダーの暗殺を命じられやした。
 俺は『ミズ』に与した演技をして、キャバクラに『ミズ』のボスをつれてきやした。きゃわいい女の子と遊んで、『ホノヲ』のボスをどういたぶるか話したあと、俺は用を足しにトイレに行ってきたんです。扉を閉めた瞬間、どたどたと物音がしたかと思うと、女どもの悲鳴が聞こえたかと思うと、急に静かになりやした。

 トイレから出ると、そこには全身をワイヤーで引き裂かれ絶命した『ミズ』のリーダーが。

 うわぉ!

 そして、俺の目算通り調子に乗った『ホノヲ』のリーダー。そいつを他のギャングらに許可をもらいつつ、入念に準備した上で暗殺。

 「みんな、殺っていいよな?」
 『どーぞどーぞ。好きにしろ』

 因みに『ホノヲ』のボスを殺したあと、俺に歯向かう輩を、全滅させろと部下に命令していやしたが、特になにも起こりやせんでした。なんででしょうね?

 俺は二大組織をぶっ潰したことで、ギャング界でも随一の切れ者として名を馳せました。

 俺は『ミズ』『ホノヲ』の縄張りだった場所を、エルドランの各都市のギャングたちのボスを集め、縄張りを公平に取り決め、明確化し統治しやした。

 犯罪組織の対立は以前の二大組織のように自滅を招く、目立たないことが重要であるとボスどもに進言。犯罪シンジケートを構築、さらに運営する上での取り決めを作り、合理化。さらに制裁組織の設立。いやぁ、我ながらよく実行出来たな……。

 「マダム・マーチャル、おたくんでも商売させてくれませんかね?」
 「好きにしな。あんたは精霊らしくない。変化を恐れない。変化と革新が武器だ。あんたなら少しはこの国を面白してくれるんだろう?」
 「さすがは大商人。懐が深いようで」
 
 実質裏社会の頂点にたったというのに、俺は決してギャングやヤクザらのトップではなく、あくまで一組織ということを強調しやした。『ワイズマン(賢人)』なんていう大層な名前はやめて、『オールドマン(老人)』と改名。俺らとお前らは同じギャングスターだ、ってな。
 公の場で支援金を渡してくるやからもいやしたが、俺は受け取りを拒否。上下関係なんて下らんものにすがる縁はないんでね。
 さらに一組織がトップを目指すようなことがないように協定を設立(内容は共益共生主義から逸脱した組織をぶっつぶすというもの)。
 この行いが功を奏しまして、他の犯罪組織からの信用を集めやした。これまでは一番を狙う輩しかいませんでしたからね。
 なんでてっぺんを名乗らないのかって?そんなことよりも金だよ金。ギャングのトップになるよりも商売繁盛の方がよっぽど大切だ。客さんは神様、神様の上に立ってどうやって商売するんですかい?

 そのあとは俺自身は直接犯罪に手を貸さず、各都市のギャングたちをクッションにして間接的に指示を出しやした。ギャングたちは自分の町を好き放題出来るからそれには万々歳。自分達は認められている、という確信も得られるため快く受け入れてくれやした。

 そのお陰で俺は訴えられても、完璧なアリバイを主張できやした。ひねくれた弁護士によって投獄されるも優秀な弁護士を雇い5000万円であっさりと釈放。

 野心家の弁護団につかまって投獄されたときも悠々自適な投獄ライフを送りやした(特別食、ラジオ、新聞あり。労働はしない。平然と面会を利用して組織に指示を出す)。なんせ、看守さまに袖の下を振る舞っていやすからね?

 因みにちょっとした暴動とか起きるかと覚悟しましたが、そのときも特になにもおこりやせんでした。

 挙げ句のはてにはエルドラン軍を犯罪組織のコネを利用して支援。恩赦で釈放。実質エルドランの上層を牛耳っている、ノア教と協力関係にあったんで、取り引きはとてもうまくいきやした。

 釈放後は競馬場や高級レストランに毎晩のように通いつめ、優雅に暮らしてやす。その傍ら公的な不動産業でも功績をあげやした。表では大商人。裏では大密輸商。いい響きだ。
 さらに俺は世界的に有名な組織にも接触していきやした。

 「いろんな国の物品が流れてきますぜ?ダンテのアネキにとっても悪い話じゃないはずです」
 「なるほどねぇ。あたしの港使う代わりに関税をくれるってわけね?」

 俺がエルドランの賭博場に行くと、彼に賄賂をもらっていた兵士や政治家が群がって握手を求めてきやす。権力のありがたみを感じますねぇ。

 今ではアンティノメルのギャング精霊(ダンテのアネキ)と手を組み、エルドラン、キスビット、ドレスタニア、アンティノメル、ルウリィド間の密輸ルートを確立。
 特にエルドランドレスタニア間は、仲介都市であるジネを掌握したことで名実ともに最高峰の密輸商となりやした。絶大な利益です。組織的な年俸は数千億にまで達しやした。
 さらに賄賂で雇った弁護士を利用してロンダリングしつつ投資にも手を出していますぜ。

 そして、ドレスタニアでは、

 「わかりやした。夜の掃除受けおりますぜ」
 「よろしく頼む」

 ガーナ王に夜のドレスタニアの清掃と引き換えに、協力関係(と言うなの相互利用)を結びやした。

 そして、一年前に解剖鬼の旦那と出会い、今にいたりやす。
 自分で言うのも難ですが、俺は数千億の金を牛耳る大密輸商なんです。が、俺は慎重な性格でね。表社会には顔を出していないし、組織内でも『老人』という二つ名で通っていやす。本名は闇のなか。まあ、俺の本名を知ったところでそんなやつ、どこの戸籍にもいやしませんがね。