フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

閲覧注意!PFCS一周年記念全キャラ集合世紀末メタ会話IF大会

※メタ会話の塊
※ネタバレあり
※キャラ説明なし
※キャラ崩壊あり
※ストーリーなし
※IFです。本編および交流には一切関係ありません
※悪のりの塊
※そういうのが苦手な方はブラウザバック


解剖鬼「ん? なんだこれ、キャラ説明なく唐突に話が始まったぞ? 読者がおいてけぼりじゃないか。時間説明は? 場所は? この台詞を書く目的は? はぁ、とうとう読ませる気がなくなったのか」

老人「いや、今日はいいんですよ。企画の一周年記念ですよ? タイトルにも堂々と出てるし、企画に参加していない人、興味のない人は読みませんよ。パァーッといきましょう、パァーと!」

ルビネル「キスビットの方でもメタ発言してたし。あぁ~、私の没になった設定どうなったのかな。あれ、PFUGで過去に死んだ恋人の魂と融合してるせいで性別を時々間違えるとか、和ー巣シンボルの本体であるリムドメイジと戦って他の国のお偉いさんの力を借りて和解するとか。あとあれ、セレアとエアライシス(狼)の話はどうなったの?」

タニカワ教授「ルビネル、そういう間接的に自分の首を絞めるようなことを言わないで。誤字も酷い。あと、台詞が説明的すぎる。もっと映画みたくさりげなく読者に情報を伝えなきゃ......」

セレア「お主、こんなときまで真面目なんじゃな。わらわはもう初期の設定を見て青ざめまくってるぞ。なんじゃ、種族差別を憎み世界侵略を決行するエア様似の女の子! 薄すぎじゃろ! バックストーリーをもっと練ってから公開するんじゃ! 交流用じゃなくてストーリーキャラとして作ったわりにずさんすぎるぞ! っていうかわらわはなんでラスボスポジからはずされておるんじゃ! クロノクリスって絶対後付けじゃろう!? もっと計画性を......」

アルベルト「シャーハッハッハェ! 過去があるだけまだましだろ! 俺なんか一発噛ませってそれ以上役目をもらえなかったんだぜぇ! まあ、二回も改編してもらえたし、大暴れできたからいいけどよぉ! ちなみに独特な笑い声は実際にいってみて語呂がよかったのが『ハ』が三つだったからこうなったんだぜぇ」

キクリ「私なんて初登場時なんなの!? 能力が強力なだけなただのヒステリック女よ! 動機も過去もなにも決まってないってどういうことよ」

ヒリカ「姉様、一応クロノクリスに両親を殺されて、それを伏せられた状態でクロノクリスに勧誘されてノア教に入団したっていう設定が練られてたみたいです。ちなみにひな祭り直前に僕が老人に捕まって、それを餌に姉様が老人に捕まって、ひな祭り当日に活躍できなかった......なんていうシナリオも!?」

クラウド「でも、没だろ」

ジョン「ああ、没だ。よくある話だ。本筋に関係ないから削られるやつ。もっともそういう没ネタすらない俺たちは本当に救いようがないがな」

スペクター「そんな設定あったのか、読者に覚えられていないキャラ二人組。もっとも私はカルマポリスをなんで愛しているのかその理由が語られてないせいで行動理念が宙ぶらりんだ。後の祭りだがな」

ギーガン「あいつと戦えただけでもう俺満足だわ。まじ海賊団に憧れる。あと剣豪」

クラウド「俺たちなんか存在意義が宙ぶらりんだよ」

The.AIR「本家......技......文章......コピペ......(笑)」

ルビネル「私は元々マジメキャラで押していくつもりだったんだけどな......。でも、あのままいってたら確実にジョンとマクラウドの二の舞に」

クラウド「二の舞とか言うなよ」

エアライシス(狼)「完結マダー。トイレの神様マダン○、ア○テマ、アポカリ○ス......。あ、光って歯車カチカチする演出まだやってなかったな」

スミレ「本編で活躍したわりに設定が決まってない。せめて食べ物の好き嫌いくらい......」

ルビネル「大丈夫よ、シュークリーム食べればみんなかわいいもの」

アルベルト「俺もシュークリームを食えばかわいくなれんのかねぇ、舌も長げぇしよぉ! シャーハッハッハェ!」

解剖鬼「そうやってこの記事みたいに閲覧注意増やすの本当にやめてくれ。読者が身構えちゃうだろ。それだけで無気力が削がれるだろ。ちょっと考えればわかるだろう」

ルビネル「何いってるの! スケベは万国共通の売れるコンテンツじゃない!」

老人「それをするなら、未成年のいない企画でお願いしやすぜ。俺だって苦労してるんです。本当だったら人んちに馬の首ひとつや二つ置いていくのがマフィアだってのに。無意味に残酷描写をするとすぐ規制にひっかか......」

セレア「あのなぁ、無意味なエロ、グロって素人作者のやってしまいがちなミスじゃぞ? そういう安直な描写は避けた方がよいのはわかってるじゃろう! 健全なコンテンツを目指すわらわがどれだけ迷惑してるか」

タニカワ教授「君もこの前色っぽいことやってたじゃないか」

セレア「大事なところは見せてないからセーフのじゃ!」

解剖鬼「セレア。お前はお前で壊れる描写を生々しくするのやめろ。下手すると猟奇のジャンルに走ることになるぞ」

ルビネル「そういえばセレア、あなたセルフ触手できるって噂聞いたんだけど本当? 新ジャンル開拓できるんじゃない?」

セレア「おまわりさん! こっちです! 変態がたくさんいます」

クロノクリス「すいません、一周年記念メタ会話大会の会場はこちらですか」

老人「おまわりさんじゃなくて、極悪犯がきましたぜ」

解剖鬼「お前も指名手配中だろ」

クロノクリス「あなたもですよね?」

ルビネル「あなた、だぁれ? 会場間違ってるんじゃないの?」

タニカワ教授「コラ、授業で習っただろ。自分の策と軍事力に溺れて油断して不意を突かれたあげく惨めな最後を遂げるタイプの悪者の筆頭だって」

クロノクリス「最近は演説をする暇すらなく殺されました。せちがらいものです」

老人「その部下は廊下で転んでお陀仏ですぜ?」

解剖鬼「戦闘中におしゃべりする奴なんか実際どこにいるんだ。戦闘の緊張感が台無しだろう」

スペクター「私だ」

セレア「いたのじゃ......」

エアリス1「そういえば」

エアリス2「そうだったな」

セレア「お主らいたのか」

ルビネル「戦闘中の会話はテレパシーにして、一瞬で意思疏通できるようにすれば万事解決よ? その代わり寿命が7日くらいに減ったけど」

クロノクリス「有利なときに煽るのは以前にもやりましたよ。数分後には棺桶の中ですが」

スミレ「まともな人がいない......」

解剖鬼「ルビネルをもとに戻すためにオーバーロードしたっていう裏設定もあったな。結局紹介しなかったが。ちなみに私は心のなかで叫ぶタイプだから生き残れてる」

老人「必要のない設定は明かさない主義ですからね、うちは。まあ、実のところ隠してるんじゃなくて決めるのが面倒なだけなんですが」

ルビネル「そうそう、お陰で知らぬ間に設定ができて、そして脳内で没になる......。そして私は家族構成すら決まってない」

スペクター「あ、没と言えばスミレのあの設定はどうなったんだ?」

クロノクリス「あの設定、とはなんでしょう?」

スミレ「アンドロイドに魔改造される設定」

セレア「はぁ!?」

解剖鬼「ふぁ!?」

カサキヤマ少年「ええ!?」

ジョン「......この子だれ?」

クラウド「お前が言うな」

カルマポリス豆まき大会!(続かない)

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カルマポリス豆まき大会へようこそ。私は死の水先案内人ミィです。これから皆様を豆まきの会場にお連れしますね。

カルマポリスの豆まきは特殊呪詛銃M99と豆型ペイント弾を使ってのサバイバルゲームになります。

昔鬼とアルファ兵器が戦ったとされる歴史が発祥となってます。物騒ですね♪

鬼組とアルファ組に分かれて1時間でkillした人数が多いチームの勝ちとなります。あ、もちろん死ぬって言うのはゲームでの話で実際には服が汚れるですからね。......えへへ。

ペイント弾を一定量浴びると撃たれた方の銃がオートロックされ、使用不能となります。その後、止めを刺したチームに1ポイント加算されます。得点は呪詛探知機を介して自動計数機で自動計算されます。お会場の至るところに呪詛探知機が仕掛けられてるからどこで死んでも安心です! 因みに残りどれくらい浴びたら死ぬのかはお手持ちの腕時計型の機械でご確認ください。

場所はカルマポリス郊外の大平原。試合時間は一時間で十分経過するごとにフィールドが狭まります。フィールドから出たら人生にピリオドを打つことになるので気を付けてくださいね。

フィールドにはM99の他にも武器やマガジンが落ちているのでよく探してみてください。民家はこの日のために簡易的に作られたものなのでガンガン侵入して物品を漁ってくださいね。運が良ければ復活アイテムも落ちてますよ!

死んだ人からアイテムを奪うこともできるので、ガンガンぶっ殺しちゃいましょう!

では、死合に参加する方はこちらのバスにのって移動してください。

チケットが入手できず、試合に参加できなかった人の分も全力でやりあってくださいね! 血で血を洗うような激しい戦いを期待しています!

なお、大会中は呪詛や魔法使用や直接の接触行為、指定された道具以外を使っての罠を張るなどの妨害行為等を禁止しています。各エリアに審判が潜伏しているのでワルイコにはすぐお仕置きしちゃいますよ!

では、はじめっ!



ルビネル(ダメ元で応募したら見事に受かるとはねぇ......)

キクリ(参加できなかったヒリカの分も殺さなきゃ)

セレア(ガトリングガン! 何でこんなのが民家に落ちているのじゃぁ!?)

ライン・N・スペクター(ショットガンだがマガジンがない。とりあえず拾っておくか)

解剖鬼(開始五分で撃たれた。やはり中身では限界があるか。残り体力は6割といったところか......って! ペイント刀!? なんだこれは)

スミレ(......狙撃用意)

タニカワ教授(これは......M45サブマシンガン!軽い。折り畳み式で携帯性にも優れる。握りやすいグリップ。よく磨かれた銃身。なるほど、日頃の鬱憤を晴らせということか)

老人(地雷ッ! いいもん見つけましたぜ!)

クロノクリスvs四国連合

 私の持つ左右10の指輪には各々一人ずつ妖怪の魂が込められており、それを用いることで肉体の制限を無視して呪詛を行使することができる。
 主に左手には自動で発動するものを、右手には自分の意思で発動するものを装着している。
 基本戦闘で意識するのは右手の能力である。


 左親指 鬼力<ジ・オーガ>
 自分の筋肉の質を操ることで鬼の筋力と力を得る呪詛。

 左人差し指 大出力<オーバーアウトプット>
 呪詛の出力を引き上げ、同時に複数の呪詛の発動を可能とする。

 左中指 自呪癒<リカバリー>
 常時大気中の物質を呪詛に変換し、呪詛の枯渇を防ぐ。

 左薬指 銃器<ガンマスター>
 銃器を使いこなすことができる呪詛。

 左小指 飛行<アンダースカイ>
 空を飛ぶことができる呪詛。


 右親指 隕石<パニッシュコメット>
 場所を指定し三秒後に隕石を落下させる呪詛。

 右人差し指 引力・斥力<グラビテーション>
 対象を指差し、上下左右に振ることでその方向に吹っ飛ばす呪詛。

 右中指 粒子化<WORTH AIR
 認識した攻撃を、肉体を粒子と化すことで完全に回避する呪詛。

 右薬指 超重力<EARTH GLAVITY>
 自分を中心に半径300メートルに超重力を発生させる呪詛。


 そして私本来の能力である、右小指 魂を操る呪詛。


 これが今ある私の能力だ。各地の隠れ家を回れば他にも強力な武器は存在するのだが、その余裕はない。そして、たしかに強大ではあるのだが、この力をもってしても世界の兵どもを相手にするのは困難だと私は実感していた。私の息子もそれを察して、誰も寄り付かないような森林地帯を切り開き、研究の拠点となる塔を建てた。そのためにずいぶん木材も使ったので森の霊どもから怒りを買っているようだが些細なことだ。
 さて、なぜこれだけの力を持っていても過信してはならないのか。それは今から説明するような規格外と呼ばれる存在が世界にあるからだ。この者たちがいなければ、私は木の枝の上で息を潜め獲物を待つなどということは決してしない。


 「......来ましたか」


 ハサマ王は白い髪の毛をした可愛らしい中性的な子供の姿をしているアルビダだ。見た目こそシャツにパーカーにジーンズとチュリグの庶民的服装だが、チュリグ国を統べる王である。エルドランで子供による最強論争になると必ず呼び名があがってくるほどの大妖怪だ。地震や地盤隆起・沈下、雷、嵐を操り、実際に彼に歯向かった国が<天をも穿つ閃光の一撃 ゲイボルグ>によって何ヵ国か消し飛ばされていた。
 リリィという少女がいる。地面に垂れるほどの長い黒髪持ち、ほんの少し地面から浮いて移動するらしい。頭部の左右から伸びる角が特徴的。もちもちの肌でその道の奴なら確実に飛び付きそうなゴシックな服装をしている。が、その見た目にそぐわぬこの世の汚物を全てかけあわせたような不気味な気配は見るものを圧倒する。呪詛喰らいで、その特性から呪詛を完全に無力化する能力を持つ。
 サラトナグはルウリィド国のなかでも盟勲精霊と呼ばれる特別な精霊だそうだ。植物と対話し、操る。ただ、聞くところによるとその規模が違う。一説では森全体を操るとまで言われている。単なる噂に過ぎなければいいのだが。


 「それにしても......厄介ですね」


 そんな、この世界を左右するような力を持つ圧倒的な存在がスコープに映っていた。解剖鬼がやられた情報を何らかの手段でハサマ王が知ったのだろう。あの王は即決断即実行を平然と行う果断にとんだ性格としても知られている。
 ハサマ王、リリィ、サラトナグ。一人でも相手にしたら苦戦は免れぬというのにご丁寧に三人一緒で、しかもハサマ王が作り出した竜巻で飛行しながら、私の拠点へと高速接近してくる。乗り越えられる試練を神は与えると言っていた人がいたが、神自身には不可能を可能とする試練を押し付けるらしい。
 スコープ中央に描かれた十字の中央にリリィの頭部を合わせる。呪詛が効かない相手はなんとしてでも消さねばならない。
 私は狙撃銃の引き金を引いた。その瞬間、なにもない空間に突如として穴、としか言い様のない何かが発生し弾丸が飲み込まれてしまった。二三発と打ってもすべてそれによって阻まれてしまう。ハサマ王とサラトナグは銃声の方角を確認しつつ、リリィを守るように移動した。
 私は仕方なく作戦を変更、呪詛を発動する。三人は突然墜落し森の中へ消える。たとえ竜化した竜人ですら動けなくなる超重力の呪詛〈EARTH GLAVITY〉である。解剖鬼に使ったものとは違い対象ではなくエリアに作用するタイプの呪詛だ。発動時、私を中心に半径300メートルに展開する。
 さらに、空から光の珠が空から落ちてきた。まばたきをする間に三人が落下した場所に着弾する。大きな爆発音が耳をつき、地響きがここまで伝わってきた。念じてから三秒後に小型隕石を呼び寄せる呪詛〈パニッシュコメット〉。
 動けない相手に隕石を叩きつければ大抵の相手は死ぬ。が、敵の面々は並大抵のことで死ぬようなものではない。


 「ウロボロス・カルマポリスの軍事技術を蓄えて置いたのは正解だったようですね。苦労して密輸・改造した甲斐がありました......」


 森の中を暴風が吹き荒れた。凄まじい速度で接近してくる何かの気配を感じる。位置がわからないので狙撃ができない。私はスナイパーライフルを背中に背負うと森を移動した。一応、あの二人は攻撃に気づいた。スナイパーライフルの存在は森の上空を安易に飛べないという圧力にはなっているはずだ。空に飛んだ瞬間狙撃されるのは敵も十分承知のはず。
 と、考えていると突然私の周りを竜巻が囲った。ハサマ王による遠距離攻撃! 場所がばれた原因として考えられるのは呪詛の発動が原因だろう。重力の呪詛は私を中心に展開する性質上、発動直後は遠ざかるほど効果が少し弱まっていく。数秒で均一に展開するはずだが、その一瞬の隙に発生源を逆探知されたようだ。
 だが、神にはこんな目眩ましは効きはしない。粒子化<WORTH AIR>は私が認識した攻撃を肉体を粒子と化し全て無力とする。私は竜巻をすり抜け、続いて落ちてきた雷の中を悠々と潜り抜けた。呪詛の発生源の探知を利用した索敵は一度だけだ。この場所から動いてしまえば問題ない。
 私はハサマ王によって引き起こされた突風を浴びながら、森の中を移動していく。何の前触れもなく、飛行能力を失い地面に落下する。なんとか着地したものの、突如として生えた蔦が足に絡まり前のめりに転ぶ。顔面を泥で濡らし、無様な醜態を晒す。
 見上げると、目の前の大木の枝の上から、黒く金糸を施しているマジシャンコートに身を包んだ青年が見下していた。黒髪の狭間から覗く、黒々としたタレ目が私を睨んでいる。精霊、サラトナグだ。森のじめじめした臭いにわずかに甘ったるさが混じる。


 「なぜ、私の居場所がわかった?」

 「ハサマの風にのせてサラトナグが産み出した種を君にくっつけたんだ。鼻の効く動物が臭いをたどるみたいに追跡できるからね」

 「古き考えに縛られる愚かな精霊ごときにここまで私が追い詰められるとは......」


 隣にハサマ王が並ぶ。そのハサマ王に付き添うように姿を現した少女はリリィだ。
 私は何とか起き上がり、袖の中からハンドガンを取りだしリリィに向けた。あいつを殺れば逆転できる。その目論見はまたしても発生した、謎の黒い裂け目によって防がれた。三発の銃弾は闇へと消える。
 その黒い空間が消えると同時に、不可思議な人物が現れた。右ほほから左こめかみをおおうような奇っ怪な仮面をつけた道化師がケタケタと笑っている。眼が白黒逆転しており、とても不気味だ。その上極端な猫背で身長が二メートル以上ある。そんな奴は世界中を探しても一人しかいない。コルトと呼ばれる妖怪だ。
 私は瞬時に思い至る。黒い空間がこいつの口であったことに。笑うときに見えた口の中の空間が先程の穴と同じものだったのだ。そう、彼の能力は何でも食うこと。有機物も無機物も、そして魂さえも食らう、まさしく化け物。


 「レロンレロンレロンレロンレロンバァ~!!」


 道化師は逆立ちを始め、その状態で長い舌をグルグルさせている。癪にさわる笑いかただが無視する。ここで冷静さを失えば終わりだ。


 「連れてきた甲斐があったね」


 ハサマ王の声が聞こえる中なんとか立ち上がった私だが、突如全身がしびれ地面に伏した。体の中で暴走した電流が暴れまわり悶絶する。全身の筋肉が誤作動を引き起こし、地面を跳ね回った。私は死ぬ思いで白髪のアルビダを睨み付けた。ぐっ......ハサマ王め。せめて殺してくれれば霊となり乗り移れるものを。


 「リリィやったの!」


 背後に目をやると、ゴシック風味の少女が満面の笑みを浮かべている。
 呪詛喰らいであるリリィの視界のなかでは、私の呪詛は無効となる。そこで、ハサマ王とサラトナグは彼女の視界に入るように動いたのだ。これでは<EARTH GLAVITY>による範囲攻撃も全く効果がない。さらには私自身が彼女の視界に入ってしまったために、指輪がすべて無力化されてしまった。つまり、今の私は神たる力を失った単なる人に過ぎない。


 「人が愚かであることは......」

 「五月蝿い」


 2発目の雷が私を貫き言葉を遮った。痙攣する手足をどうすることもできない。


 「えらいね。このまま食べちゃっていいよ。もう復活しなくなるからさ」


 その横で物騒なことを呟く白髪の王。コルトがそのとなりで長い舌を振り回しながらニクニクニクニク......と意味不明なことを呟いていた。
 今も私はリリィによって呪詛を吸われ続けている。もはや私の力は風前の灯火だ。なんとか呪詛で抵抗しているものの、呪詛がつきれば彼女は私の生命力をも食いつくすだろう。
 私の敗北の原因は呪詛を無力化する存在を相手にすることを想定していなかったことだ。全国を探しても呪詛を消し去るなどということができる妖怪はいなかった。......彼女を除けば。


 「最後が可憐なお嬢さんのお腹の中だなんて、身の程知らずには勿体ないよねぇ」


 端麗な身なりの青年が私を指差すと、地面から這いずってきた植物の蔓が私の体を飲み込んでいく。最初に四肢を拘束し、次に目と口をふさがれ、全てが植物に飲み込まれていく。想像以上に応用の利く力だ。この極限の状況下で冷静に分析できる程度には成長したらしいが、私はどうやらまだまだ甘かったらしい。
 全身の激痛に血の色をした脂汗が吹き出した。皮膚に深々と蔦が食い込み、さらなる苦痛を呼んだ。痛みに悶えようともからだの自由はすでになく、私はただなされるがまま悲鳴をあげる。そんな私の後ろで道化師が奇怪な笑い声をあげている。


 「クケクケケ。オマエ俺オマエオレ前オレ......クケクケケェ!!クケクケクケクケクケ!!」

 「あんまり動かないでよ......間違って絞め殺したらいけないんだからさ......。それにしても、何をしたら森にここまで嫌われるんだろうねぇ......」


 黒髪の少年がため息を吐きながら言った。そこに一切の感情は感じられない。


 「んんーーー!!? ん゙ん゙ン゙ンッッッ!」

 「棺桶の心配はしなくていいよ。ハサマが雷で跡形もなく消し去ってあげるから!」


 全てが闇に閉ざされる寸前、辺りは突如として閃光に包まれた。リリィの悲鳴が聞こえた。


 「眩しいのぉ!?」


 解剖鬼からくすねて、胸に仕込んでおいた閃光弾を起動させた。その瞬間、リリィの視界を奪ったことで一時的に私の呪詛が復活した。植物の蔓を解剖鬼にも使った引力・斥力の呪詛で弾き飛ばす。


 「私はクロノクリス。唯一にして至高の存在。私がここで退くわけにはいかない。私はこの世界を束ね、導く使命がある。万物は我の下に在ると知れ!」


 スローモーションで世界が動く。
 まず<パニッシュコメット>と<EARTH GLAVITY>を発動する。直視は腕を使い避けたものの、目が眩んだハサマ王とサラトナグ。目を閉じて前に倒れこむリリィ。そして、平然としているコルト。私は黒髪の少女の頭に銃口を向けた。が、リリィのポケットから伸びた蔓が銃弾を防いでしまう。もう一度引き金を引こうとした瞬間、ハサマ王が突風でリリィを吹き飛ばしてしまった。
 私は仲間を守るために無防備になったハサマ王に向かって引き金を引く。銃弾は突如としてハサマ王のポケットから生えた蔓によって防がれた。リリィのものと同じ......恐らくはサラトナグから渡された種子による自動防御。蔦はハサマ王を守るために全身を覆ってしまった。厄介な。
 そして、<パニッシュコメット>はあろうことかコルトの口に収納されてしまった。
 まだだ、まだ私には他の能力が......


 「......これは一体どういうこと......ですか......」


 ボトリ、とハンドガンが苔の生えた地面に落ちた。
 ハサマ王を包んでいた蔦が黒い墨を残して焼失していた。そして、私の胸の辺りがまるまる焼失してしまっている。蔦で防御するように見せかけ、ハサマ王の攻撃の挙動を隠していたのだ。私の認識よりも早く攻撃が命中したため、粒子化<WORTH AIR>も発動しなかった。この攻撃は<天をも穿つ閃光の一撃 ゲイボルグ>か......


 「......この世界を導くことができず......無念です」


 私は全てを悟り瞳を閉じた。植物が私の体を包み蝕んでいく。これから絶え間なく逃れようのない苦痛が私を襲うのだろう。だが、私は霊と化し肉体を捨て他者を乗っとることができる。私の魂を操る能力は抜き取り操るだけではない。自分の魂ですら支配下に置くことができるのだ。
 私は全身がバキバキに骨折した肉体を抜け出し、ハサマ王の生気溢れる肉体へと潜り込む! この肉体から解放される瞬間の解放感がたまらない。


 「重力の呪詛で消耗した今のあなたであれば、精神まではいかずとも肉体を支配するのは容易。これこそが私の狙いです」

 「なっ!?」


 サラトナグが事態を察して攻撃体制に移った。だが、私はハサマ王の風を操る力で、私の遺体から10の指輪を引き寄せた。サラトナグの蔓はハサマ王の肉体をすり抜け宙を切る。さらに背後から追撃してきたコルトを地面を隆起させることで遥か上空に飛ばした。


 「私を誰だと思っている! ただの妖怪ではない! ハサマだ!」


 超重力により地面を這いつくばるサラトナグに対して必殺の一撃を構える。
 私に操られたハサマ王は両手の手のひらを合わし、ゆっくりと開いていく。なにもなかったはずの空間に、恐ろしい量の雷を収束したエネルギーの塊が現れた。


 「この森ごと枯れ果てるがいい!」


 まさに呪詛を解き放とうとしたそのとき、視界の端からなにかがよぎった。


 「ダメなのーっ!!!」


 瞬間、私の魂の力が急激に失われる。これでは霊体を維持できない! 私が......消える!?


 「まさかッ! リリィ! 戻ってきて......」


 私に肉体を乗っ取らせたのも確実にリリィの呪詛喰らいを発動させるための布石......! そして奴は呪詛喰らい故に超重力を含めた呪詛が一切効かない!


 「慌てた演技上手だったでしょ。リリィを遠くに飛ばしたように見えた? そんなミス、ハサマがするわけないじゃん。最後に一つ言っておくよ」


 幼子に向ける笑みでハサマ王はいい放った。


 「君を殺したのは<天をも穿つ閃光の一撃>じゃないよ。ただの雷。君ごときに名前のある技をハサマが使うと思う?」

 「ギヤ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙アアアア! ヌァァガガガガガ!!」


 自分の声とは思えぬ叫びを何度もあげているうち、私の意識は深い闇へと葬り去られた。

トラウマ少女と冴えない教師

 ザーッという雨音が部屋に響いている。窓はガタガタと震え、夕暮れ時だというのに外は真っ暗だ。ラジオの女性アナウンサーの声が大雨注意報を知らせていた。
 そんなときインターホンが鳴った。私はラジオの電源を切り、卓袱台に読みかけの本を置くと、扉に近づきそっと覗き穴から外の様子を伺う。その一秒後には扉を開き異様な雰囲気の客人を招き入れた。


 「休日のこんな時間にすまんな......タニカワ」

 「セレア! その格好はどうしたんだ。早く中に入りなさい。体を暖めないと」


 繊細な淡い空色の髪の毛は濡れて背中にへばりつき、白くきめ細かい肌にはまんべんなく水滴が浮かんでいた。白いワンピースが透けて、下着の輪郭が顕になっている。
 そして何より、いつもならひまわりのような笑顔を見せてくれる彼女の愛らしい顔が、今までにないほど暗く陰鬱な雰囲気を放っていた。ふっくらとしたほっぺ、小さな鼻と口。そのどれもが強張り、無表情と化している。
 私はセレアをリビングに案内する。その際に部屋のカーテンを閉めて回った。


 「とりあえず、服を一旦脱いでタオルで体を拭いて。それから服も絞ってからタオルで水分をとるんだ。ドライヤーもあるから乾かすのに使って!」


 私は雨の臭いを感じながら、テキパキとセレアに指示を出した。しかし、セレアは動こうとしない。大きな瞳はどこか虚ろで綺麗な桃色の唇は半開きのまま突っ立っている。ガタガタと震えて今にも倒れそうだった。


 「......そなたにやってほしいのじゃ、タニカワ」


 いつもの無邪気な声は鳴りを潜めていた。
 私は拒否の言葉を考えた。白髪混じりの教師が生徒に手を出すなど言語道断だからだ。しかし、教師としての本能が今のセレアが危ういことを知らせているのもまた事実だった。
 雨によって服が皮膚に張り付き、セレアのたおやかな肢体がはっきりと浮かび上がっている。
 子供でも大人でもない神聖さを感じさせる蠱惑的な肉体。踏み入れたら二度と戻れぬような危うさ。悪魔的魅力。絶望と羞恥と感傷による恐怖で語ることすらできぬもろもろの兆候。セレアから発せられるそれらは私の大脳の奥底を刺激し夢想させ、空想させ、妄想させ、そのあまりにも苛烈な欲望を実行させんと強烈に誘惑してくるのだ。
 最低な気分だ。


 「タニカワ......頼む......」


 私はできる限り真剣な表情を作ってタオルを手に取った。乾いたタオルがセレアの空色の髪の毛に触れる。一瞬彼女は体を強ばらせた。私は彼女の反応をあえて無視し、ドライヤーを駆使して髪の毛を乾かす。微かに震えているのを髪の毛を通して感じる。
 白い首筋をタオル越しに手で抱いた。セレアの顔が本の少し赤みがかってきたような気がする。その調子だと自分を鼓舞し、彼女の背中に回り込み、布を当てた。寒さに身震いしたのか、背中の違和感にビックリしたのかはわからないが、またしてもセレアは体を緊張させた。左手でドライヤーを当てつつ、背骨の芸術的な湾曲に沿ってタオルを上下させる。子猫を思わせる首もとへ動かしたとき、少しだけ指が背中に触れた。
 セレアの乱れた呼吸音が雨の音に混じり部屋に反響する。タオルが腰の下に達したとき、セレアの瞳に妙な光が見えた気がした。


 「タニカワ、服の中からも頼む。寒くて敵わん」


 私は嫌々セレアのワンピースの継ぎ目から手を入れた。奥に差し入れたとき、腕にセレアの背中が密着する。背骨や肋骨の起伏まではっきりと感じられる。腕が上下する度にピチャッという音が聴こえる。
 背後から女子生徒の体を触るという背徳的で異様な行為をやらされ、気分がドン底にまで沈んでいく。


 「んっ......前も頼むのじゃ。多少の無礼は許す。そのかわりできる限り丁寧にな」


 そう言う彼女の声が少し上ずっていた。吐息も熱い。いつのまにか内股になり、恍惚とした表情へと変わっていく。私は震える手を抑える。先程背中に触れたときの感触がまだ残っていた。柔らかく、滑らかで、いつまでも触れていたくなるようなセレアの皮膚。肉感。
 感じるのは恐怖。それと、いまだにそういった欲を捨てきれていない自分に対する憎しみにも似た腹立たしさ。生徒と向き合うためには邪念を振り払わなければならない。


 「まるで時価数千万の割れ物に触れるかのような気負いようじゃな。わらわを割っても罪にはならんぞ?」

 「私が君を割ってしまったら、職も、誇りも、信頼も、信念も、すべてを失ってしまう」

 「そんなにわらわに触れるのが嫌か」

 「そうは言ってない」

 「なら、やれ」


 滅多に見せないセレアの命令口調。こういうときのセレアは絶対に退かないことを私は知っている。
 私は勇気を奮い立たせ、セレアの背中から手を回した。胸の膨らみを避けてヘソの辺りを丹念に拭く。それでも、セレアの吐息は荒くなっていく。華奢な肉体が何かを求めるかのようにわずかにねじれる。時おり電流が走ったかのように震え、猫のような鳴き声が漏れた。
 セレアが私に寄りかかろうとしてきたとき、私は反射的にセレアから飛び退いた。


 「なぁ、そなたはわらわのことをどう思っているのじゃ?」

 「大切な生徒だ」


 振り向いたセレアの顔は今まで見せたことのないものだった。興奮していながらも全てを見通すかのような聡明な瞳を向けている。はだけた服を直そうともせず、私にひたり、ひたりと迫ってくる。私は不気味なものを感じて後ずさった。


 「それは、教師としてのお主の模範解答じゃろう? わらわが聞いているのは一個人としてのそなたの心中じゃ」


 「......私にもわからない。私は教師という色眼鏡でしか世の中を見ることができない」


 見たことのない表情だった。快感を謳歌しているようにも、悲痛で今にもつぶれてしまいそうにも見える。ここまで来てようやく私は理解した。
 あえて雨をかぶり、私の同情させ、庇護欲を刺激し、私が否応なしに彼女に触れなければならない状況を作ったのだ。セレアは私が極端に性的な要素を嫌うことを知っている。それでいてあえて嫌われるリスクを背負いながらも迫ったのだ。その目的は恐らく......私の冷静さを失わせ本心を引き出すため。
 誰の入れ知恵かは大体想像がついていた。いつも、私の論文を手伝ってくれる黒髪の学生だ。それ以外考えられない。彼女は一度、私に告白した。私はその時断ったのだが、その時のことをいまだに根に持っていることは感じていた。それがこんな形で実を結ぶとは......。
 私が追い詰められている。
 目の前にセレアは立っている。私の背後は壁。もう、逃げられない。


 「......わらわはな、お主のことしかもはや考えておらぬ。お主と少しでも一緒にいるためにこれまで努力してきたし、これからもそうするつもりじゃ。わらわがこの国を救うべく立ち上がったのはカルマポリスに居たかったからではない。お主と離れたくなかったからじゃ。お主はわらわが唯一安心できる居場所だからな」

 「そんな......私と一緒に過ごしたいがために、命を張ったというのか!?」

 「そうじゃ。友への恩だとか、同じ学校に通いたいだとか、行きたい場所があるだとか、それらは全て大義名分......お主を説得するためのオマケに過ぎなかったのじゃ。この国で唯一わらわの正体を知りながらも、人として接してくれたのがお主じゃ。真摯に寄り添い、わらわの悩みを聞いて、一緒に解決法を練ってくれたり、慰めてくれたり......お主を失う位なら、わらわは政府を相手取る覚悟すらある」


 セレアは哀しげに微笑んだ。その瞳に光は宿っていない。
 私はなにも言わなかった。いや、言えなかった。セレアの気持ちが重すぎて、何を言えばいいのかわからなくなってしまった。カルマポリスを相手取るとしたら、当然同盟国をも相手にすることになる。それをセレアが知らないはずがないのだ。
 私のために世界を相手に戦争を起こすと行ってのけたのだ。そして、セレアは私に隠し事をすることはあっても嘘はつかない。


 「人としての自我が強くなる度にそなたを求める心が強くなった。今の関係もとても幸せじゃが、残念ながらわらわは満足できぬ。もっとわらわの体を見てほしい。触れてほしい。抱き締めてほしい。愛でてほしい。そなたの体も臭いも気配も心も存在そのものも全部わらわのものにしたい。そしてわらわの全てをもって受け入れ、感じ続けたい。日に日に高ぶる感情にもはやわらわは耐えられなくなっていった」


 彼女の声に嗚咽が混じってきた。綺麗に拭いたはずの頬を、水滴が流れていく。雨水よりも純粋で美しく、綺麗な水滴が......。しかし、その愛らしい口から発せられるのは狂気の言葉だ。


 「わらわの正常な思考は失われていき、脳はバグとエラーで埋め尽くされていった。そしてつい先日、他の女子生徒をお主が褒めているのを見て、そやつを強く憎んでしまったのじゃ。一緒に勉強してなんの恨みもなく、タニカワとそこまで密着しているような仲ではないことはわかっておる......わかっておるにも関わらず、じゃ。感情はエスカレートしていき、やがて学校中のタニカワと関わった女子生徒を恨んだ。わらわが死ぬほど恋焦がれているのに、なぜあやつらの方がタニカワと話しているのか。褒められるのか。これまで感じたことのなかったドロドロとした感情がわらわを支配し蝕んでいった。そなたの目を奪う者はみんな敵にしか見えなくなった。わらわはこんなにも愛しているのになぜタニカワはわらわを見てくれない! 教職である以上仕方のないこととはわかっていても、心がそう叫ぶのじゃ! そなたをわらわだけのものにしたい。もう、限界なんじゃよ。四六時中こんな感情が渦巻いている。気が......狂いそうじゃ」


 セレアはそのまま座り込んでわんわんと泣きはじめた。どんなに絶望的な状況に立たされようとも、死の一歩手前になろうとも、決して涙を見せなかった彼女が涙している。私はただひたすら驚愕するしかない。


 「わらわよりも魅力的な生徒なぞいくらでもいる。そしてお主もまた魅力的。いつお主がなびくかわからん。想像するだけでも恐ろしい......怖い......わらわは、わらわはもう孤独になりたくない。わらわの理解者はお主だけなのじゃ。わらわにはお主しかおらんのじゃ......」


 セレアは私の足に抱きつき、私を見上げた。もはや、よだれも鼻水も涙も隠さない。獣のような泣き声を発しながら必死に私にすがる。


 「約束する。タニカワが生きている間、わらわは全力でお主を支える。いつしかお主が灰になろうと、わらわはお主を愛し続ける。何十年でも、なん百年でも、何千年でも! だから頼む!......わらわを......見捨てないで......」


 セレアは元々孤独な子供たちの魂が集まり意思を持ったものだ。だから、生まれついての甘えんぼで、わがままで、それでいてこの世への憎しみに満ちている。極めつけに兵器として産み出されたために、冷酷で非情で残虐なことも平気でできてしまう。
 もし私が選択を誤れば、セレアは抑圧されたものを世界へ向けてぶちまける可能性がある。そうなってしまったら最後、彼女の感情と記憶を消すしかない。彼女は全力で拒絶するだろう。押さえつけるために多くの血が流れるに違いない。そして何より、セレアの私への想いを小手先の手段で消し去ることはできない。


 「どうすれば......」


 いや、セレアがそんなことをするはずがない。彼女は命の大切さを学んでいる。人を殺そうとするはずがない。だとしたらあの言葉一つ一つが私を揺さぶるためのものなのか? それとも動揺して口走っただけなのか? わからない。
 私の頭の中で様々な考えが浮かんでは消える。何が正解で何が間違いなのか......。


 「今まではどうしていた......」


 告白を断った生徒の顔が脳裏に浮かんだ。セレアをよしとすれば、彼女に対する裏切りになる。
 セクハラを摘発した時のことも思い出した。あんな奴と同類にはなりたくない。
 生徒が教師と別れて自殺したという新聞の記事がフラッシュバックした。あの事件は教師に自制心があれば防げていた。あんな悲劇はごめんだ。


 「私は......」


 最後にとある小さな学校が思い浮かんだ。その学校にとある一人の男性教師がいた。彼は男子生徒から嫉妬されるほど女子生徒に人気な教師であったが、本人はそれに気づいていなかった。
 そしてとうとう、ある女子生徒に告白された。教師はその女子生徒を思いやり傷つけたくないと思うあまり、告白を受け入れてしまった。さらにそのあと、別の生徒からも泣きながら告白された。当時若かった教師はそちらにもいいえと言えなかった。教師は二人に黙ったまま二股を続けていった。バレないでくれと、叶いもしないことを願いながら。
 教師はダメだと思いつつも二人と密すぎる関係を築いていた。そしてある日、教師に嫉妬したとある生徒がそれに気づき、カセットテープに盗聴したのだ。さらにその生徒はテープを複製し全生徒に回した。教師が二股していて、その相手が生徒だったという事実が更なる信用の失墜に繋がった。
 終いには二股に気づいた一方の女子生徒がもう一方の生徒を刺し殺そうとする事件まで起きた。殺そうとした女子生徒は少年院に送られ、もう片方の生徒もその時のショックで引きこもりになった。
 事件を国にたいして揉み消した校長の対応の悪さもあり、生徒たちやその親たちは教師に失望し、転校していった。大規模な学校ならまだしも数十人しか生徒のいない学校でその事件は致命的すぎた。結局その学校は廃校となった。後に三人とも更生したものの、廃校となった学校は戻ってこなかった。
 それ以来、私は女子生徒に触れるのがトラウマになった。......盗聴された教師とは、私だったからだ。



 「うっ......うう......。わらわが......悪かった......自分のことだけを考えて......ヒック......そなたの心について何も知らず......知ろうとせず......心の傷をえぐって......ひどいことを......」


 セレアは私から離れ、顔に両手を当ててすすり泣いていた。パニックに陥り、考えていたことをすべて口に出してしまったらしかった。


 「今まで隠していて申し訳なかった。嫌な思い出だけど、話せて吹っ切れた。ありがとう、セレア。こんな話は君にしかできない」


 セレアは首を横に振る。彼女の顔が証明に照らされてキラキラと輝いた。湿り気を帯びている分、彼女はいつもよりも情緒的で美しかった。


 「タニカワ、正直に話してくれてこちらこそありがとう。もう充分じゃ......。お主の一番苦痛な思い出を話してくれた。そなたに心から信頼されている......それだけでわらわは幸せ者じゃ」


 セレアはゆっくりと服を整え、タオルを畳む。 私は呆然とリビングの壁際突っ立って、床を見つめることしかできなかった。その間一度も私と目を合わせなかった。気まずい時間が流れる。お互い一言も発せず、豪雨の音だけが部屋に反響していた。
 セレアが玄関のドアノブに手をかけたとき、ようやく私は動くことができた。衝動に身を任せて玄関へと駆ける。振り向くセレア。目を見開き、口をぽっかりとあけていた。そこに私は覆い被さる。抱き締めてから頭を何度も撫でる。何度も、何度も撫で続ける。


 「セレア、学校を卒業してからまたここに来なさい。その時は一人の人として君と向かい合うつもりだ」

 「ありがとう......ありがとうなのじゃ......」


 私の胸で泣きわめくセレアを、私はいつまでも抱き締めていた。

クロノクリスの復活

 目の裏に光が指した。とても長い間眠っていた気がする。左右の人差し指に指輪がはめられているのを感じる。妖怪の魂を抽出しその呪詛を宿したパラレルファクターと呼ばれる武器である。魂を抽出した妖怪は死ぬのでその遺体の処理が面倒だったのを思い出す。呪詛は人それぞれであり、要人が強力な呪詛を持っていたりすると拐ったあとのごまかしが大変だった。
 私はゆっくりと眼を開いた。目の前には地面に這いつくばる男の姿がある。私は無視して正面を向いた。暗く長い部屋の両脇に、黄緑色の液体が満たされた巨大なビーカーのようなものが延々と立ち並んでいる。そして、その中にはコードに繋げられている妖怪が浮かんでいた。


 「父上......これは一体どういうことですか! 胸が苦しい......体温が失われていく」

 「なるほど、あなたが成し遂げましたか。状況を見るに、相当追い詰められていたようですね。歓喜なさい。あなたは私の作る世界の礎となるのです」


 足元からバタリ、という音が響いた。私は転がるモノを足で払い除けた。邪魔だ。
 部屋の奥から異様な出で立ちの人物が歩いてくる。ペストマスクに黒いコート、長い黒髪。忘れるはずがない。私を死に導いた闇医師だ。


 「実の息子を犠牲に復活するとは......相変わらずクズ野郎のようだな、クロノクリス」

 「彼はおろかにも私を利用しのしあがる計画を進めていました。息子にあるまじき重罪です。......もっとも私に手を下したあなたよりはマシですがね」


 私は魂を操る呪詛を使えた。そのために以前解剖鬼に殺される直前、肉体を捨てて霊体となって戦い続けた。だが、それが災いして棺に魂を封印されてしまった。恐らくコレは私の棺をカルマポリス政府から奪還し、妖怪を数十人誘拐し、その肉体と魂から抽出したエネルギーで棺をこじ開け、自らの命を差し出して私の肉体を再生させたのだろう。私の息子なのだ。これぐらいはしてもらはなくては困る。


 「ふむ、見たところ私の手下はどうやら全滅したようですね。さすがです。あなたの能力を評して私の目的をお教えしましょう」

 「聞きたくもない」

 「私は、自らの魂を操る力を利用し人々の思想を統一し完全なる世界を創造することです。今、世界は様々な問題に悩まされています。差別、戦争、環境問題など......人々の心はバラバラな方向を向き世界は混沌としています。さらには、歪んだ世界が邪悪な存在作り出し、蔓延させ、平穏を乱しているのです。ですがご安心を。私の魂を操る呪詛をカルマポリス国の技術を用いて全国に拡散し、皆の魂を一つにまとめるのです。そうすれば人々はみなひとつの方向を向き、それに従わぬ悪霊は滅せられ、世界は正しき方向に生まれ変わる」


 私は拳を握りしめながら聴くペストマスクにこう、付け加えた。
 誰よりも強力な呪詛を持って生まれた。運命の歯車に翻弄されるのではなく、歯車を動かせる人として。なぜ私が選ばれたのか私にもわからない。だが、力を得た以上相応の望みを持つのは当然のことだ。それを叶えるために邁進する私を止める権利は誰にもない。
 私以外の一般人は、私と同じ土俵に立つことすら出来ないからだ。


 「その無用な殺意を抱くことを止め、私の傘下に下れば、新たなる世界にて子孫にまで及ぶ悠久の繁栄を約束しましょう」

 「貴様はふざけているのか?」

 「今の私にはそれができるのです」

 「そういう意味で言ったんじゃない!」

 「それは残念です。ですが今、あなたが何もせずこの場から立ち去り二度と私の前に姿を表さないと誓うのであれば、私は深い慈悲をもってあなたの非礼を赦しましょう」


 暗い部屋に場違いな拍手が鳴り響く。私は穏やかな笑顔で解剖鬼を見つめる。解剖鬼は嫌悪を隠すこともせず、言葉を発した。


 「人の命を弄ぶお前に似た同情の余地が全くない連続誘拐犯を倒してくれたことは嬉しいが......いや、貴様に対しては冗談でも称賛に値する言葉は使いたくない。お前は誰からも見捨てられ孤独に死ぬのがお似合いだ。今、この場で!」


 部屋が閃光に包まれたのと私が呪詛を発動したのは同時だった。


 「どうしました? 目の前がぱっと光ったと思ったら貴方が地べたを這いつくばっていた。これはいったいどういうことなのでしょう? わけがわかりません」

 「グッ......。重力の呪詛かっ! どうやら新しい力のひとつや二つ手にしたらしいな」

 「さて、服を整えなければ。こんな服装では恥ずかしい。天上に立つ以上、服装にも気を配らなければ」


 私は地面まで垂れる白いシャツのような独特な服を着ていた。シルクのような肌触りで大変よろしいのだが、これは普段着だ。私は地面に這いつくばり、すさまじい殺気を放っているそいつの目の前を通りすぎ、そばにあったクローゼットから白いガウンとストール、さらにマントを次々、羽織っていく。全て魔法具である。そして、両手の指にそれぞれ指輪を4個づつ装着する。これで左右10個のPFが使える。魂を操る力を持つ私だけに与えられた特権だ。


 「さて、これからあなたをどうしましょうか。どのような仕打ちになろうと私からの慈悲を貴方に拒む権利はありませんがね」


 私が彼を右人指し指で指し、軽く振り上げると、解剖鬼はすさまじい速度で天井に叩きつけられた。さらに指を上下左右に何度も動かす。その度に解剖鬼は嗚咽を交えながら、壁と天井を縦横無尽に跳ね回った。ただで死ぬ男ではないので執拗なまでに痛め付ける。壁と床がクレーターで埋め尽くされるころ、解剖鬼はなにも言わなくなった。
 そして最後に思いっきり壁に叩きつけると、やつは壁をぶち破り外に吹っ飛んでいった。


 「グハァァァッ!?」

 「ふむ、甦ったばかりな上はじめて使う力......加減が難しいですね」


 装備を整える。あれだけ念を押して叩きつけておいたのだ。例え生き残っていたとしても数日間は動けないはず。それに、この施設の周囲は森。そう簡単に捜索はできない。だが奴は医師。それも犯罪者でありながらチュリグ国を生き抜いたサバイバルの天才。不足の事態は十分あり得る。早急に止めを刺さなければ。
 一歩踏み出そうとしたとき、なにかが靴に触れた。


 「! これは......」


 キラリと輝く解剖用メス。恐らく私に吹っ飛ばされたときどさくさに紛れて投げたもの。あと数センチ私が前に出ていたら恐らく負けていた。メスが靴を貫き、足に触れ、猛毒が私を蹂躙する姿が脳裏に浮かんだ。圧倒的にこちらが有利だったとはいえ、極力接近を避けたことが幸いだった。なるほど、この戦いでなぜ以前の私が彼に敗れたのかわかった気がする。
 能力や手下の数や能力に慢心して冷静さを失っては勝てる相手にも勝てない。そして、私を追い詰めた彼の演技、判断力、そして事前準備。


 「学ばせてもらいましたよ、解剖鬼さん。これから神となる身としてあなたからの教訓、利用させてもらいます」


 私は先程解剖鬼が開けた穴からゴミを捨てたあと、この施設の構造がどうなっているのか確かめに行った。



ーーー


 「お主、大丈夫か!? ビックリしたのじゃ。まさか壁をぶち抜いて塔から飛び出してくるとは思わなかったぞ」

 「ふぅ、空を飛べる仲間をつれてきていてよかったよ。死ぬかと思った」

 「それで、この分だとあやつは復活したのじゃな......」

 「ああ。思考回路も実力も何もかも普通じゃない。正直人と対峙している気がしなかった。もはや私のような生半可な奴では戦いにすらならない。中途半端な兵力では死体の山が積み上がるだけだ。クロノクリスのことを熟知しているドレスタニア国やカルマポリス国経由で各国の実力者を集めたほうがよさそうだ」

 「わらわでも無理か?」

 「ああ。単騎での突破はまず無理だ。出直そう」

 「お主がそこまで言うのなら……わかった。今は退こう」

カフェ 練習ss

タニカワ「待っててくれたのか、セレア。もう9時近くだぞ?」

セレア「いや、一度家に帰ってからまた来たのじゃ。勉強のために自習室つかってるからいいじゃろう?」


 グーッ!


タニカワ「ん?」

セレア「あっ......すまん......」

タニカワ「フフッ、カフェでもよろうか」

セレア「わらったなぁ!まあ、おごってくれるなら許してやるのじゃ」

タニカワ「悪かったよ、セレア」

セレア「じゃ、行くかの」


 カフェへ


タニカワ「ブレンドコーヒー」

セレア「同じやつをお願いするのじゃ」

タニカワ「結構苦いけど大丈夫?」

セレア「あ、すまん、あとフレッシュ増しま増しシュガーつきで!」

タニカワ「素直でよろしい」

セレア「うぅ......」

タニカワ「照れてる顔もかわいいな、セレアは」

セレア「......ゴホンッ......所でタニカワ、お主眼鏡つけたのか」

タニカワ「ああ、ルビネルのすすめでね」

セレア「......へぇ......」

タニカワ「セレア、露骨すぎるぞ」

セレア「はっ、すまん」

タニカワ「最初の頃に比べて本当に人らしくなったな、セレア」

セレア「ああ、お陰で余計な苦労も増えた」

タニカワ「でも、いいこともあるだろう?」

セレア「まあな......おっ、タニカワ茶菓子も頼んだのか」

タニカワ「ああ、セレアお腹すいてただろう?食べていいよ」

セレア「ありがとうなのじゃ!」


 タニカワ教授がコップの縁を繊細な動作でつまみ、口元へと持っていく。そして、ゆっくりと香りを楽しんでから一口ぶん口に含んで飲み込んだ。湿り気を含んだ唇が照明に照らされ......


タニカワ「......?セレア、私に何かおかしいことでもあったかい?」

セレア「あ、すまん。ぼーっとしてたのじゃ」

タニカワ「そっか。かわいいな、セレアは」

セレア「こども扱いするでない」

タニカワ「ほら、早く食べないとクッキーが冷めちゃうぞ」

セレア「っ! 言われなくてもバリバリゴキュ」

タニカワ「いいたべっぷりだ」

セレア「カフェには似合わんがな。ペロッ」

タニカワ「フフ。でも私は好きだぞ?」

セレア「いちいちお主は......」

タニカワ「ん?」

セレア「いや、何でもないのじゃ」

クォルと聖天使トキエル

 ぼくは誰だ? 誰かがぼくの名前を呼ぶ声がする。この威厳に満ちたこえは......


 「トキエル、トキエル。思い出すのだ。そなたの使命を」


 そうだ。ぼくの名前はトキエル。聖天使トキエル。ぼくの使命は神による理想の世界の創造を助けること。
 ぼくは目を瞑ったまま答えた。

 「神帝カイロス様。聖天使トキエル、今目覚めました」

 「トキエル。そなたに命ずる。この者を粛清するのだ。こやつはこの世界の運命に深く関わり、あらぬ方向へ世界を変えてしまった。こやつを消し去らなければ我らが望む世界は得られん。心してかかれ」

 「はっ。この聖天使トキエル、かならずやことを成し遂げてみせます」

 「期待しているぞ、トキエル」


 ぼくのすんでいた場所は魔物がはびこる危険な国だった。だが、ある日天使が舞い降りて全ての魔物を打ち倒し平和をもたらした。天使の加護によってぼくの妻をはじめとする大切な人の命が護られたのだ。ぼくはその恩に報いるため、天使に志願し神の命で様々な国を回っている......そういう設定のはずだ。
 「設定」? なぜそんな言葉が頭に浮かぶんだ? わからない。
 ぼくは目を開けた。どこかの森に降臨したらしい。恐らくコードティラルの領土内。見覚えがある。なぜ見覚えがあるのか? わからない。
 この国はグランローグと戦争しているはずだ。欲望にとらわれ、フィラル国を滅ぼしたグランローグ国。それを止めるためコードティラル国は立ち上がった。グランローグは魔物の軍勢を呼び出し、戦争は泥沼と化している。いつ、どこから、なにが奇襲してくるかわからない。念のため装備を確認する。神から授かった純白の鎧、そして金色に光る霊剣。四肢や翼に異常はない。今すぐにでも奴と戦える。
 奴は過去の戦争でグランローグ国が解き放った魔物からコードティラルの町を守るため警備しているはず。......なのになぜコードティラルを侵略したはずのグランローグ国の一族であるクライドと手を組んでいるのかは知らない。知ったところでぼくのすることは変わらない。そしてもちろん、この知識をなぜぼくが有しているのかも知らない。


 「空色の髪、よく手入れをされた大剣を背負う青年......お前がクォルか」


 ......? いつぼくは奴の名前を知ったんだ?


 「いかにも俺様はクォルだけど、白色の髪にドラゴンの鱗でできた鎧、大きな白い翼......お前さん誰だ? その顔、女の子だったら歓迎するんだけどなぁ......」

 「ほう、貴様は自分の犯した罪を自覚すらしていないと見える。国を滅ぼした大罪人も神にあだなす貴様も、このぼく、聖天使トキエルが、我が神の命にて罪深き命を断罪する」


 そういいながら、ぼくはすさまじい違和感を覚えた。思考の整理ができていない。記憶も曖昧だ。降臨したての時はいつもそうだったような気がする。
 それにしても、彼はなにか悪いことでもしたのだろうか。いや、神に命じられたのだ。それにあのクライドと行動を共にするやつなのだ。フィラルを滅ぼした欲深き国の民に手を貸している。悪人でないはずがない。
 目の前の青年は頭をかきながら答えた。


 「俺様はそんなに罰当たりな人生を送ったつもりはないんだけどなぁ。ちょっとふざけちゃうときもあるけど、やるときはやってるぜ?」

 「貴様の意思など、どうでもよい。リーフリィでの事変、竜の試練、ノア教の陥落、キスビット国の創生。歴史が大きく変わるとき、貴様は必ず当事者だった。そして、貴様は神が望まぬ歴史を紡ぎだしてしまった。歴史に関わりすぎたんだよ、貴様は。世界を決めるは我が神の意思。それは生命がこの地に産まれ死に行くように絶対なのだ。これ以上この世界の歴史を人ごときに改悪させるわけにはいかない」

 なんで、こんなことをぼくが知っているのだろうか。きっと神がもたらしてくれた知恵だろう。神は全智であり全能なのだ。ぼくの知らないこともすべて知っている。神に身を委ねれば世界は救われる。それはわかりきったことだ。
 わかりきったこと......その根拠は謎だ。だが、これだけは言える。クライドとその一味は全員ぼくの敵だ! グランローグのせいでぼくはこんなことになったのだ! やつらに荷担するやつは全員悪人だ! そうだ、それ以上の理由は必要ない! 消えてしまえ。


 「人の世は人が決めていくべきなんじゃないのか。俺様は俺様の好きに生きる。これまでも、そしてこれからも!」


 空色髪の青年は、背中の剣を抜いて構えた。クォルなる者の姿勢は、まるで頭の中心を一本の糸で吊り下げられているかのように、一切ブレがなく完成されていた。一瞬にして敵が手強いことを悟る。


 「貴様に選択しなどはじめからないと知れ! 猿からほんの少し進化しただけの分際で何を言うか。ああ......ぼくは哀しいぞ。人はここまで落ちぶれてしまったのか。神に従順で清らかな心を持っていたあの頃の人の子はどこにいってしまったのだ。まあよい。喜べ、人間。貴様は神の知と力による統制が行き渡った清廉なる世界の礎となるのだから! 貴様のその心! その命! 中級天使トキエルが浄化してくれる!」

 「ん? 聖天使じゃなかったのか」

 「!?......黙れ、猿が! そんなことどうでもよい!」


 ぼくも数々の敵を打ち倒してきた。どんなに強大な化け物にも立ち向かってきたはずだ。まざまざと思い出すことができる。七つの世界をわたり、戦ってきた化け物たち。奴等と比べればちっぽけな人間なんてウジ虫にも等しい存在! 負けるはずがない!
 聖剣でクォルに切りかかった。激しい火花が散る。クォルは身の丈ほどもある剣を軽々と振るっている。剣により発生した風により周囲の木に傷が刻まれていく。力が強いだけじゃない。戦いのリズムを理解し、支配し、ぼくを奴のペースに引き込んでくる。うっ受けきれないッ!
 クォルの強烈な凪ぎ払いによって、ぼくは大きくふっとび木に激突。その衝撃で木が根本からへし折れ倒れた。


 「これが人の力だというのか!?」

 「お前も人だろ!? さっきから言ってることがおかしいぞ。正直、俺様は頭のいい方じゃないけどそれでもわかるぜ。トキエル、お前はその......なんかおかしいぞ!?」

 「うるさい黙れッ! 黙れッ! 黙れッ! クライドの一味が!」

 「?! なんでアイツの名前が出てくるんだ?」

 「そんなこと、どうでもよかろう!」

 「聞く耳もたず、ってところか。まあ、それなら力づくで引き出してやるまでだ」


 クォルの言葉がいちいち心に刺さる。偽名? なんのことだ? ぼくの設定に不備はない。いや、不備ってなんなんだ!? ええい! どうでもいい! フィラルの敵は全員滅びればいい!
 白き閃光がクォルに向かう。が、クォルは剣で光を切り裂いてしまった。切れぬものを無理矢理切るなど、正気じゃない。


 「この魔法も、白く色を変えて光に見せかけた炎によるものだろ? その剣も大層な飾り付けをされてるけど普通の剣だろ? 俺にはお見通しだぜ」


 背中の翼をはためかせ、再びクォルに立ち向かう。ここでぼくが倒れてしまったら、神に、妻に顔向けできない。ぼくには守るべきものがある、そのために戦っているんだ! 神よ! 友よ! 愛するものよ! ぼくに力を与えたまえ!
 体が淡い光に包まれ力が増す。精神を集中させ最高の剣技をクォルにぶつける。クォルが一歩、また一歩と退く。ぼくが人たち振るうごとにクォルの四肢に切り傷が浮かぶ。血の斑点が周囲の草木に彩られていく。
 クォルが自分の血液に足をとられ、一瞬隙を見せた。体の軸がぶれたためにクォルの剣が重さを思い出したのだ。
 ぼくは翼をはためかせ空高く舞い上がり、天空から奇襲を仕掛ける。魔法の連打とぼくの剣がクォルの腹部を襲った。



 「ぬぁぁぁっ! ......なんちゃって」


 魔法は防がれたものの、剣の手応えは確かにあった。けれども、ぼくの聖剣はクォルを避けて地面に突き刺さっている。
 破れた服の内側から銀色に光る鎖の束が垂れていた。


 「剣の柄を使って攻撃を受け流して、鎖かたびらで防御......小癪な」

 「戦士は常に準備を怠らないもんだぜ?」


 防具に加えて神がかりてきなクォルの回避が、ぼくの必殺の一撃を防いだのだ。
 次の瞬間、腹部に強い鈍痛を感じて空を舞った。視界の端にちらりとクォルの足が見える。ぼくは白い翼を散らしながら木陰に着地した。
 死と隣り合わせの緊迫した斬り合いが続く。適切な間合い、適切なタイミング、適切な技、適切な動き......決して浅くない傷がクォルの体に刻まれていく。それに対してこちらはほぼ無傷。なのになぜ......奴は倒れない!
 ぼくが負けるはずはない! ぼくには妻が、守るべきものがいたはずだ......? 「いたはず」? 「いたはず」ってなんだ? 「いる」だろう!? 頭がおかしくなりそうだ。
 息があがり、気発した汗で鎧のなかが蒸せる。肺から十分な空気が送られず、全身の筋肉が悲鳴をあげる。


 「トキエル、お前の戦い方は理論のもとに構築されたとても綺麗な動きだ。よく訓練されてはいるけど、所詮技術の域を出ていない。全部型通りだから全部予想できる。想定内なんだよ。実戦は定石を踏みつづければどうにかなるほど単純なもんじゃない。これから俺様がそれを教えてやるぜ」


 クォルは間合いをとった。ぼくは左手をかざして魔法を発動しようとした。だけど、それはできなかった。全身から力が抜け、地べたに座り込んだ。胸に肩口に深々と剣が刺さっていたからだ。


 「そんな......このサイズの剣を投げるなんて......むちゃくちゃじゃないか」

 「実際の戦闘なんて無茶ばっかりだぜ」


 青年は爽やかな笑顔を見せた。


 「今回は俺の勝ちだな。その傷、治療すればちゃんとなおるから安心しろよ?」

 「ちっ、ちくしょう......ちくしょう......。ぼくはトキエル。聖天使トキエルだ。あのトキエルがこんなところで負けるはずがない。......ああ、神の加護が抜けていく。結局ぼく一人ではなにも守ることはできないのか......」

 「いいや。それだけの力があれば神様なんかに頼らずとも、立派に信念を貫けるはずさ」

 「そんなこと、どうでもいい......。全部思い出した。ぼくは守るべきものを守れなかった......。クォル、お前は......守りきれ......よ......」

 「トキエル、お前の気持ち受け取ったぜ」

 ぼくは顔を落とす。肩からの激痛と、あまりの心労に頭が回らない。
 クォルはぼくの鎧の中からなにかを取り出した。


 「ん? なんだこの分厚い本」


 おかしい、ぼくは鎧の中になにかを仕込んでなんかいない。あるはずがない......あるはずがない......あるはずがない......


 「著者の部分が血で汚れて読めねぇ......。あれ? この本の表紙......」


 そこで、ぼくの意識は途切れた。


ーー


 『白銀の天使ートキエル』それが本の名前だった。目の前で消え去った有翼人の姿に似た天使が表紙に刻まれている。クォルはまさか、と思い本の中身を読んだ。そこには聖天使トキエルと名乗る天使が神の命令のもと七つの世界を回る物語がかかれていた。しかし、そこにクォルの名前は乗っていない。
 最後のページになにか写真のようなものが二枚挟まっていた。一枚目には先程の聖天使トキエルを名乗った鳥人族の人物とその家族が載っていた。そして、もう一枚には墓が写っていた。墓に刻まれていたのは女性の名前。
 そして、裏表紙を見てみるとこの本の持ち主の名前がかかれていた。墓に刻まれていた名前と同じ名前だった。


 「嫁さんが好きだった本の主人公になりきった幽霊か、それとも本にとりついたツクモガミか......。どちらにせよ、この本の発刊された国と日付。だからクライドに恨みがあって出てきた訳だ。これは、あいつらには言わない方がいいかもな......」


 クォルはいつも通り、町の警備に戻った。トキエルのような者を産み出さないために。


 「かつてグランローグ国によって滅ぼされたフィラル国が、改心したグランローグ国とコードティラル国とが協力して復興してるって言ったら、あいつ......どう思ったんだろうな......」


 トキエルの本が刊行された場所、それはグランローグ国によって滅ぼされたフィラル国だった。