フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

あの素晴らしい愛をもう一度 PFCSss11

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ルビネルの捜索願い PFCSss
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/28/091650

ルビネルの手術願い PFCSss2
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/31/172102

ルビネルの協力願い PFCSss3
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/01/083325

ルビネルへの成功願い PFCSss4
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/02/153244

ルビネルの豪遊願い PFCSss5

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/03/075127

ルビネルの修行願い PFCSss6
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/04/224102

ルビネルの施行願い PFCSss7

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/07/175035

ルビネルの決闘願い PFCSss8
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/14/220451

ルビネルとセレアの死闘願い PFCSss9
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/15/210343

ルビネルの願い PFCSss10
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/20/122547

⬆こちらのssの続きになります。



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Self sacrifice after birthday 11



 大型の蒸気船に乗って、ペンを収納出来るホルスターつきガーターベルトを装着してキスビットへ発ったのがつい最近のことのように思える。

 総勢20人で、しかもそのうち半分以上が世界有数の実力者というメンバーで私たちはビット神と戦い、そして敗北寸前にまで追い詰められてしまった。けれどもとある一人の仲間によって形勢が逆転し、勝利した。
 それが以前キスビットを訪れた時の冒険だった。

 そして今、私は再びキスビットの大地に降り立っている。

 私に『あの子』が遺してくれた最後のプレゼント。『奴』の呪詛が詰まった数本の髪の毛。そのお陰で私は『奴』に対して耐性を得ることが出来た。


 そして、その髪の毛に導かれるように私は……

 時を越え、

 場所を越え、

 命を捨てて力の差を埋め、ここまでやって来た。



 奇妙な場所だった。
 目の前に広がるのはカルマポリスのような高層ビル郡から突然人が消え去り、そのまま放置されたような廃都市だった。打ち付けるかのような激しい雨が降っているが、その雨粒は淡い乳白色に発光している。空をおおう雲は薄く空を覆い、裂け目から眩い光の柱を放っていた。
 アスファルトには亀裂が入っており、ところどころに灰色の花が覗かせていた。つりがね型の三枚の花弁が雨水に打たれて揺れている。

 あまりに現実場馴れした光景に、私は何をしに来たのか忘れそうになった。

 思い出したかのように、コートの下に潜り込ませたメモ帳に記録をつけ始める。

 私に加えて、老人にガーナ王とセレアちゃん。この四人で『奴』を倒すために、居場所へと通じる光の扉を潜ったはずだった。
 でも、扉は私が潜った直後、振り向くともうすでに閉じていた。仲間はこちらにこれなかった。私一人で『あの子』を相手にしなければならない。
 
 大丈夫、愛と執念だけでここまで来たんだもの。

 私の黒髪に、コートに、ブーツに水が滴る。
 四斜線ある道路の中央を進んでいる。重々しく歩くごとに、水を踏むグシャリという音が雨音に混じった。
 
 どこを見渡しても人どころか生物らしきものが存在しない。植物もネズミ色の花ばかりで他には見当たらない。

 灰色と乳白色が混ざりあう景色のなか、唯一『黒い物』があった。それは髪の毛だった。すべての色を飲み込み、まがまがしく変わってしまった黒い髪の毛。

 私が手にした数本の髪の毛と同じ髪だった。

 髪の毛の持ち主は私を待っていたかのように、じっとこちらを見据えている。不気味な髪の毛とアルビダ由来の白すぎるに対して、簡素で一般的なキスビット産の衣類を身にまとっている。
 そして、衣類から除かせる手足も全てを飲み込むような漆黒に染まっていた。
 彼女の周囲だけ雨が降っていない。その上空は切り取られたかのように空が見え、光が差し、彼女の輪郭を金色に照らしている。
 私の恋い焦がれた存在がそこにいた。


 「わざわざ来てあげたわよ?」

 「ようこそ、ビットの世界へ。お前は……はて……誰だったか」

 「わすれたの?ルビネルよ」

 聞いたら誰もがいとおしくなるような少女の声でビットが答えた。
 私は久しぶりに聞いた親友の声に涙しそうになるも、なんとかこらえる。それと同時に、『誰だ』と言われて胸に刺さるような悲しさを感じた。


 「そうか……、ルビネルか。虫けらの名前などいちいち覚えてはおれぬ」


 私の記憶が正しければビットはまともな言葉が話せなかったはずだ。恐らく依り代が変わったことによりその思考レベルまで変化したのだろう、と私は推測した。

 あと、敵はどうやら高度なコミュニケーションの魔法を使えるようだ。脳内に奴の声が重複して聞こえる。瞬時に相手に言いたいことが伝えられる魔法らしい。戦闘中でも容易に会話が出来そうだった。これを利用した駆け引きも出来そうだった。
 

 「よぉーやくまともに話せるようになったのね。あなたの目的は何?」


 私はニヤリと嘲笑を浮かべるとビットに向かって言い放った。
 ビット神は無表情のまま口だけを動かして答える。


 「風にのり世界に解き放たれた私の分身たるキスビットの土壌は、世界各地で憎悪を呼び動乱を巻き起こす」


 ビットが空に黒色の染まった手をかざし、何かを掴むような動作をした。すると、空に存在する雲がビット神を中心として渦を巻き始めた。強烈な風圧がビット神から放たれる。
 風によって雨が横殴りになり、私の頬をぶつ。コートが激しくはためいたが、私は不動を貫いた。
 やがて、私のいる場所から数十キロメートルの地点をビットの土壌を含んだ嵐が、波紋のように広がっていく。そしてとうとう、空間の壁を突き破り私のすむ世界へと解き放たれた。


 「私はアウレイスの力により怪我や負の感情を吸収できる。神の力の象徴たる神聖なる土壌から民衆の負の力を吸収し、この世に再び降り立つ」


 ドレスタニアの海上にいた紫電は突然の砂嵐に、船員を船室に待避させた。

 同じくドレスタニアのメリッサは雲行きか怪しくなってきたので、嵐がくるまえにと洗濯物をしまいはじめた。

 ライスランドに砂嵐が来たがカウンチュドには特に関係なかった。

 チュリグにも砂嵐が舞い上がったが、ハサマ王の力により相殺された。

 リーフリィでは精霊たちが砂嵐の対応に追われていた。

 アンティノメルでは謎の砂嵐をいち早く察知し、土壌の成分の分析を急ぎつつ、世界各国に伝令を送っていた。

 メユネッズにも砂嵐が近づき、ダンは不吉な予感を感じ、空を仰ぎ見た。

 そしてキスビットでは事前に計画を知っていたエウス村長が、最悪の事態を予想して会議を開いた。



 憎しみを誘発する砂が世界へとばらまかれていく。今は少量でも降り積もり堆積すれば、それは立派な土壌となる。

 「一つ問題があるとすれば、ビットの土壌が全国の土を食い尽くすまで数日かかってしまうことだが……お前さえいなくなれば何の問題もない」

 「そんなこと、私がさせると思う?」



 二人の拳が交差した。私は正拳を突きつけると、ビットはそれを前腕で被せるようにして衝撃を逃がしつつ掴み反対の腕で顔面を狙う。私はボールペンを利用してあり得ないほど上体を後ろに倒しつつ、蹴りをビットに向けて放つ。ビットは仕方なく私の手を放すと、下段払いで足を弾いた。
 二人動く度に、私たちの黒髪が激しく宙をまい踊る。

 激しい打ち合いの中、一撃一撃ごとに空気が震えて鋭い音が響く。頬や頭上をかすめるギリギリの最低限の動作で攻撃をかわし、自分の体重を乗せ最大限の反撃をする。
 ガーナさんから学んだ格闘技術がここで生きた。ビット神の攻撃における『力の流れ』を読み、僅かな力をそこに加えることで暴発させる。あらぬ方向に拳は、蹴りは飛んでいき最低限の力で攻撃をさばくことができる。呪詛とか超能力ではなく純粋な格闘技術だ。

 「私と対峙して笑えるとは、なかなかの実力者か、そうでなくては只のうつけか」

 「そのどちらでもないわ」

 拳や足に触れた雨の滴は霧散した。私たちの間には蒸気が立ち上ぼり、その戦いの激しさを物語っている。
 ついに、ビットの一撃が雨水滴る私の懐に届いた。腹から腹膜、腸を通り抜け背中へと衝撃が伝わる。雨水に自分の形の残像を残しながら、私は数十メートルも吹き飛んだ。コンクリートの地面が摩擦により熱をおび、焼き焦げて黒い痕ができた。

 「ウ…………ッ!」

 「考えてもみろ。私は千年間準備したのだ。準備に千年だ。たかが二十年と数日生きたお前が勝てるはずもない」

 「『人の力を甘くみないこと』ね」

 「確かに、お前が来るのがあと少しでも遅ければ予告もなしに世界は私の手に落ちていたが……。お前の言葉を理解した。甘く見ずに全力をもって叩きのめす」

 突然、脳内にまるで現実の等身大コピーのような光景が写真のように描き出される。今の自分の見ているものと同じ場所が描き出されているが、何かが違う。強烈な違和感の正体は、視界の端に写っているルビネル━━つまり私自身と、手を交差するビットだった。

 「『未来は定められた』」

 「……どういうこと?」


 現実のビット神は私を無視して呟くと、脳に描き出された『幻影のルビネル』へ一目散に向かった。手刀を突きだし幻影の首を狙う。本能的に危機を感じた私はボールペンを投げた。ビットの手がボールペンによって逸れて、私の首をカスるだけですんだ。

 その瞬間幻影は消え去り、ビットは思い出したかのように現実の私に向かってきた。

 「何をしているの? 私はこっちよ?」

 「お前に意味がわかることはない。それにしても…_、随分とお前は運がいいようだ」


 二人が磁石に引き付けられるかのように激突する。お互いの頬に拳が激突した。私の視界に地面と空が繰り返し写りこむ。自分が回転しながらぶっ飛ぶというのは想像以上に目が回るな、と私は思った。
 体勢を立て直した二人は空中で再び打ち合う。今度は私がビットの隙をつき、足払いを決め、続けて裏拳を叩き込んだ。

 追撃を試みた時だった。偶然、先程頭のなかに浮かんだ『幻影のルビネルとビット』の位置が重なった。それと同時に私は首元に違和感を感じた。
 だが、私は気にせず、ビットに向かって十数本のボールペンをぶん投げた。戦闘用に改良された程よい重量を持ったボールペンは容赦なくビットの体をぶっ飛ばし、ビルの壁に叩きつけた。壁に雲の巣状にヒビが入る。私は止めと言わんばかりに、空中で助走をつけてからビットの顔面に正拳を食らわす。
 壁を何枚も突き破りながらビットは吹っ飛んだ。

 隙が出来たので、自分の首に手を当てて何が起きたのかを確認する。かすり傷が出来ていた。そして、その意味がわかったときにぞっとした。
 
 ビットが幻影の中の私に手刀をかすらせた位置と同じだったのだ。

 もっと言えば、あれは脳内に描き出された幻影なんかではなかった。あれは恐らく……