フールのサブブログ

PFCS 用のサブブログです。黒髪ロング成分はあまり含まれておりません。

あの素晴らしい愛をもう一度 PFCSss11

pfcs-sakatsu.hateblo.jp


ルビネルの捜索願い PFCSss
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/28/091650

ルビネルの手術願い PFCSss2
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/31/172102

ルビネルの協力願い PFCSss3
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/01/083325

ルビネルへの成功願い PFCSss4
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/02/153244

ルビネルの豪遊願い PFCSss5

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/03/075127

ルビネルの修行願い PFCSss6
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/04/224102

ルビネルの施行願い PFCSss7

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/07/175035

ルビネルの決闘願い PFCSss8
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/14/220451

ルビネルとセレアの死闘願い PFCSss9
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/15/210343

ルビネルの願い PFCSss10
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/20/122547

⬆こちらのssの続きになります。



━━
Self sacrifice after birthday 11



 大型の蒸気船に乗って、ペンを収納出来るホルスターつきガーターベルトを装着してキスビットへ発ったのがつい最近のことのように思える。

 総勢20人で、しかもそのうち半分以上が世界有数の実力者というメンバーで私たちはビット神と戦い、そして敗北寸前にまで追い詰められてしまった。けれどもとある一人の仲間によって形勢が逆転し、勝利した。
 それが以前キスビットを訪れた時の冒険だった。

 そして今、私は再びキスビットの大地に降り立っている。

 私に『あの子』が遺してくれた最後のプレゼント。『奴』の呪詛が詰まった数本の髪の毛。そのお陰で私は『奴』に対して耐性を得ることが出来た。


 そして、その髪の毛に導かれるように私は……

 時を越え、

 場所を越え、

 命を捨てて力の差を埋め、ここまでやって来た。



 奇妙な場所だった。
 目の前に広がるのはカルマポリスのような高層ビル郡から突然人が消え去り、そのまま放置されたような廃都市だった。打ち付けるかのような激しい雨が降っているが、その雨粒は淡い乳白色に発光している。空をおおう雲は薄く空を覆い、裂け目から眩い光の柱を放っていた。
 アスファルトには亀裂が入っており、ところどころに灰色の花が覗かせていた。つりがね型の三枚の花弁が雨水に打たれて揺れている。

 あまりに現実場馴れした光景に、私は何をしに来たのか忘れそうになった。

 思い出したかのように、コートの下に潜り込ませたメモ帳に記録をつけ始める。

 私に加えて、老人にガーナ王とセレアちゃん。この四人で『奴』を倒すために、居場所へと通じる光の扉を潜ったはずだった。
 でも、扉は私が潜った直後、振り向くともうすでに閉じていた。仲間はこちらにこれなかった。私一人で『あの子』を相手にしなければならない。
 
 大丈夫、愛と執念だけでここまで来たんだもの。

 私の黒髪に、コートに、ブーツに水が滴る。
 四斜線ある道路の中央を進んでいる。重々しく歩くごとに、水を踏むグシャリという音が雨音に混じった。
 
 どこを見渡しても人どころか生物らしきものが存在しない。植物もネズミ色の花ばかりで他には見当たらない。

 灰色と乳白色が混ざりあう景色のなか、唯一『黒い物』があった。それは髪の毛だった。すべての色を飲み込み、まがまがしく変わってしまった黒い髪の毛。

 私が手にした数本の髪の毛と同じ髪だった。

 髪の毛の持ち主は私を待っていたかのように、じっとこちらを見据えている。不気味な髪の毛とアルビダ由来の白すぎるに対して、簡素で一般的なキスビット産の衣類を身にまとっている。
 そして、衣類から除かせる手足も全てを飲み込むような漆黒に染まっていた。
 彼女の周囲だけ雨が降っていない。その上空は切り取られたかのように空が見え、光が差し、彼女の輪郭を金色に照らしている。
 私の恋い焦がれた存在がそこにいた。


 「わざわざ来てあげたわよ?」

 「ようこそ、ビットの世界へ。お前は……はて……誰だったか」

 「わすれたの?ルビネルよ」

 聞いたら誰もがいとおしくなるような少女の声でビットが答えた。
 私は久しぶりに聞いた親友の声に涙しそうになるも、なんとかこらえる。それと同時に、『誰だ』と言われて胸に刺さるような悲しさを感じた。


 「そうか……、ルビネルか。虫けらの名前などいちいち覚えてはおれぬ」


 私の記憶が正しければビットはまともな言葉が話せなかったはずだ。恐らく依り代が変わったことによりその思考レベルまで変化したのだろう、と私は推測した。

 あと、敵はどうやら高度なコミュニケーションの魔法を使えるようだ。脳内に奴の声が重複して聞こえる。瞬時に相手に言いたいことが伝えられる魔法らしい。戦闘中でも容易に会話が出来そうだった。これを利用した駆け引きも出来そうだった。
 

 「よぉーやくまともに話せるようになったのね。あなたの目的は何?」


 私はニヤリと嘲笑を浮かべるとビットに向かって言い放った。
 ビット神は無表情のまま口だけを動かして答える。


 「風にのり世界に解き放たれた私の分身たるキスビットの土壌は、世界各地で憎悪を呼び動乱を巻き起こす」


 ビットが空に黒色の染まった手をかざし、何かを掴むような動作をした。すると、空に存在する雲がビット神を中心として渦を巻き始めた。強烈な風圧がビット神から放たれる。
 風によって雨が横殴りになり、私の頬をぶつ。コートが激しくはためいたが、私は不動を貫いた。
 やがて、私のいる場所から数十キロメートルの地点をビットの土壌を含んだ嵐が、波紋のように広がっていく。そしてとうとう、空間の壁を突き破り私のすむ世界へと解き放たれた。


 「私はアウレイスの力により怪我や負の感情を吸収できる。神の力の象徴たる神聖なる土壌から民衆の負の力を吸収し、この世に再び降り立つ」


 ドレスタニアの海上にいた紫電は突然の砂嵐に、船員を船室に待避させた。

 同じくドレスタニアのメリッサは雲行きか怪しくなってきたので、嵐がくるまえにと洗濯物をしまいはじめた。

 ライスランドに砂嵐が来たがカウンチュドには特に関係なかった。

 チュリグにも砂嵐が舞い上がったが、ハサマ王の力により相殺された。

 リーフリィでは精霊たちが砂嵐の対応に追われていた。

 アンティノメルでは謎の砂嵐をいち早く察知し、土壌の成分の分析を急ぎつつ、世界各国に伝令を送っていた。

 メユネッズにも砂嵐が近づき、ダンは不吉な予感を感じ、空を仰ぎ見た。

 そしてキスビットでは事前に計画を知っていたエウス村長が、最悪の事態を予想して会議を開いた。



 憎しみを誘発する砂が世界へとばらまかれていく。今は少量でも降り積もり堆積すれば、それは立派な土壌となる。

 「一つ問題があるとすれば、ビットの土壌が全国の土を食い尽くすまで数日かかってしまうことだが……お前さえいなくなれば何の問題もない」

 「そんなこと、私がさせると思う?」



 二人の拳が交差した。私は正拳を突きつけると、ビットはそれを前腕で被せるようにして衝撃を逃がしつつ掴み反対の腕で顔面を狙う。私はボールペンを利用してあり得ないほど上体を後ろに倒しつつ、蹴りをビットに向けて放つ。ビットは仕方なく私の手を放すと、下段払いで足を弾いた。
 二人動く度に、私たちの黒髪が激しく宙をまい踊る。

 激しい打ち合いの中、一撃一撃ごとに空気が震えて鋭い音が響く。頬や頭上をかすめるギリギリの最低限の動作で攻撃をかわし、自分の体重を乗せ最大限の反撃をする。
 ガーナさんから学んだ格闘技術がここで生きた。ビット神の攻撃における『力の流れ』を読み、僅かな力をそこに加えることで暴発させる。あらぬ方向に拳は、蹴りは飛んでいき最低限の力で攻撃をさばくことができる。呪詛とか超能力ではなく純粋な格闘技術だ。

 「私と対峙して笑えるとは、なかなかの実力者か、そうでなくては只のうつけか」

 「そのどちらでもないわ」

 拳や足に触れた雨の滴は霧散した。私たちの間には蒸気が立ち上ぼり、その戦いの激しさを物語っている。
 ついに、ビットの一撃が雨水滴る私の懐に届いた。腹から腹膜、腸を通り抜け背中へと衝撃が伝わる。雨水に自分の形の残像を残しながら、私は数十メートルも吹き飛んだ。コンクリートの地面が摩擦により熱をおび、焼き焦げて黒い痕ができた。

 「ウ…………ッ!」

 「考えてもみろ。私は千年間準備したのだ。準備に千年だ。たかが二十年と数日生きたお前が勝てるはずもない」

 「『人の力を甘くみないこと』ね」

 「確かに、お前が来るのがあと少しでも遅ければ予告もなしに世界は私の手に落ちていたが……。お前の言葉を理解した。甘く見ずに全力をもって叩きのめす」

 突然、脳内にまるで現実の等身大コピーのような光景が写真のように描き出される。今の自分の見ているものと同じ場所が描き出されているが、何かが違う。強烈な違和感の正体は、視界の端に写っているルビネル━━つまり私自身と、手を交差するビットだった。

 「『未来は定められた』」

 「……どういうこと?」


 現実のビット神は私を無視して呟くと、脳に描き出された『幻影のルビネル』へ一目散に向かった。手刀を突きだし幻影の首を狙う。本能的に危機を感じた私はボールペンを投げた。ビットの手がボールペンによって逸れて、私の首をカスるだけですんだ。

 その瞬間幻影は消え去り、ビットは思い出したかのように現実の私に向かってきた。

 「何をしているの? 私はこっちよ?」

 「お前に意味がわかることはない。それにしても…_、随分とお前は運がいいようだ」


 二人が磁石に引き付けられるかのように激突する。お互いの頬に拳が激突した。私の視界に地面と空が繰り返し写りこむ。自分が回転しながらぶっ飛ぶというのは想像以上に目が回るな、と私は思った。
 体勢を立て直した二人は空中で再び打ち合う。今度は私がビットの隙をつき、足払いを決め、続けて裏拳を叩き込んだ。

 追撃を試みた時だった。偶然、先程頭のなかに浮かんだ『幻影のルビネルとビット』の位置が重なった。それと同時に私は首元に違和感を感じた。
 だが、私は気にせず、ビットに向かって十数本のボールペンをぶん投げた。戦闘用に改良された程よい重量を持ったボールペンは容赦なくビットの体をぶっ飛ばし、ビルの壁に叩きつけた。壁に雲の巣状にヒビが入る。私は止めと言わんばかりに、空中で助走をつけてからビットの顔面に正拳を食らわす。
 壁を何枚も突き破りながらビットは吹っ飛んだ。

 隙が出来たので、自分の首に手を当てて何が起きたのかを確認する。かすり傷が出来ていた。そして、その意味がわかったときにぞっとした。
 
 ビットが幻影の中の私に手刀をかすらせた位置と同じだったのだ。

 もっと言えば、あれは脳内に描き出された幻影なんかではなかった。あれは恐らく……

鬼の中の鬼 PFCSss

 元ノア教幹部、ギーガン=グランド。彼は鬼の種族の中でも恵まれた体格に産まれた。彼は母国、エルドランの格闘大会で連勝を重ね、それには飽きたらず非合法の格闘大会にも手を出した。
 彼はそこでも勝利を重ねたが、そこで殺人をおかしてしまった。連勝を止めるべくした陰謀であったがそれを知るよしもない

 ギーガンはあえなく国の警察に捕まり、投獄された。しかし、獄中でも修行を怠らなかった。彼の強さはノア教の教王であるクロノクリスの元に行き届き、多額の賄賂によって釈放、ノア教の用心棒として雇われた。
 ギャングまがいの邪教の特効隊長に就任した彼は、暴力を武器にノア教の邪魔物をねじ伏せた。

 更なる力を求める彼は、クロノクリスの手解きにより肉体教化の魔法と、腕を阿修羅が如く四本に増やす能力を手に入れた。
 エルドラン国にはもはや、誰も彼に腕力で勝てる者はいなかった。

 しかし、侵入者である侍と狭い通路で戦い、長所を潰されて破れた。

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/03/21/122849

 その後、ノア教は陥落。彼は再びエルドラン国の監獄へと捉えられる。そこでも彼は獄中のケンカで27戦無敗。看守にも押さえられるものではなかった。
 エルドラン国は彼の戦闘力を驚異としてとらえ、対策を講じる。より腕っぷしの強い奴で彼の自信を完膚なきまでに叩きのめすだけの単純な作戦だった。

 ギーガンは飢えていた。母国の戦士は弱すぎる。『より強い奴と戦いたい。あの侍の時のように血湧き肉踊る闘いをしたい』。そんな彼へ一人の鬼が送られた。

 エルドラン国王従者はドレスタニア国に助けを求めた。すると、ドレスタニアの外交官は一人の鬼を名指しした。

 「あの構成員が全て鬼と言う、紫電海賊団の中でももっとも強い戦士ですか?」

 「ええ、彼なら間違いなくギーガンに勝つでしょう」

 「ギーガンはエルドラン国最強の鬼ですよ?」

 外交官は澄ました顔で言った。

 「彼は負けません」

 従者は困惑した表情を浮かべた。この外交官はギーガンの驚異を理解していない、と思ったのだ。

 「肉体強化の魔法に加えて四本の腕ですよ?一介の海賊団の船員に勝てるはずがありません。戦闘のプロとかもっと強い人を……」

 「力なら彼が最強です」




 牢獄に繋がれたギーガンはその日、突然体育館へ呼ばれた。たった一人だ。彼は困惑していた。運動の時刻でもないのに何事か。なぜ一人だけ?まさか処刑か?いいや、こんなところで処刑などするはずがない。それに、そんなことできるはずがない。させない、ぶっ殺す。
 全身の血流を活性化し真っ赤に染まった体を唸らせながら、彼は体育館へ踏み込んだ。
 体育館には一人の鬼がいた。慎重は二メートル越え。褐色の肌にアフロヘアー。前登頂部に角が一本。左肩から左胸にかけて刻まれた刺青。隆々という言葉すら生ぬるい筋肉。
 深い堀の内側に隠れた眼光が鋭くギーガンを射ぬく。

 「紫電海賊団の忌刃か。噂にはよく聞くが、まあそんなの宛になんねぇ」

 忌刃は手招きするかのように挑発した。かかってこいよ、どうした。そんな言葉が似合う動作。それを見てギーガンは頬が引き裂けるほど口を歪めた。
 ギーガンの脇から二本の腕が生えた。魔法によって、もともと鉄のような筋肉がさらに膨れ上がり、巨人とも言うべき姿に変貌する。背を比べたらギーガンの首筋の辺りに忌刃の頭がくるであろう巨体だった。

 ギーガンは無防備に間合いを詰めると、忌刃の腹に強烈な一撃を見舞った。忌刃はその場から動かず耐えた。

「どうしたぁ? 反撃しねぇのか?」

 ギーガンはさらに二本の右正拳を忌刃の顔と胸部に叩き込む。
 忌刃の体が大きく揺れた。筋肉にめり込まれた拳がその打撃の威力を物語る。忌刃の踏ん張りに体育館の床が負け、べきりと折れて忌刃が本の少し沈んだ。鼻から血が静かに垂れる。それでも忌刃は動かない。

 「俺は無抵抗なやつをいたぶる趣味はねぇが、お望みならやってやる」

 ギーガンの猛ラッシュが始まった。四本の腕が絶え間なく忌刃を打つ。頭部を胸を手を足を、はち切れんばかりの拳が連打する。一発ごとに体育館がゆれ、天井からほこりがパラパラと落ちる。忌刃の口から血が飛び、皮膚が切れ、体育館を彩った。

 「これで終いだッ!」

 ギーガンは四本の腕で、両手突きを放った。全力の一撃は全て忌刃にクリーンヒットした。忌刃は宙に浮き吹き飛んだ。空中を数度回転し、背中から地面に激突。ドォォォンという地鳴りを起こし、倒れた。

 その日囚人たちは地震が起きたと勘違いをした。

 ギーガンは腕を振り上げ、ゲラゲラと笑った。

 「ヒャハハッ!何がかかってこいだ。ふざけんなよ。こんな茶番、面白くて仕方ねぇ」

 ギーガンの言葉にたいして、ノックダウンしたはずの忌刃から野太く、地面の底から湧き出るような声が響いた。

 「喧嘩ってのは……徹底的に叩きのめすもんだ」

 忌刃はゆっくりと立ち上がった。そして歩き出す。全身に鬼ですら致命傷になる拳を受けたはずなのに、血まみれで傷だらけのはずなのに、忌刃は何事もなかったかのように悠然とギーガンへと歩んでいく。
 ギーガンはさらに忌刃へと拳を叩き込む。血潮が飛び忌刃の傷は増えていく。しかし、倒れない

 忌刃はギーガンのラッシュを食らいながら、腕を思いっきり振り上げた。

 「よく見ろ。これが喧嘩だ」

 ギーガンの胸に忌刃の拳がめり込む。ギーガンの分厚い胸筋は押しつぶれ、肋骨を圧迫し破壊した。忌刃が拳を引き抜いても、はっきりとわかるように拳の形がありありと刻まれている。
 その一撃はギーガンが意識を失うまでの数秒に、彼の自信は木っ端微塵に吹き飛き飛ばした。彼に残ったのはありったけの力を叩き込み、それでも悠然と立ちはだかった忌刃への尊敬とトラウマ。
 それすら、忌刃の次の一撃でぶっとんだ。ギーガン=グランド初の力比べでの完全敗北だった。

 ギーガンを体育館へつれてきた看守は後にこう語った。

 「全てを受けきり、一撃で粉砕する鬼の中の鬼。それが私の見た忌刃の姿でした。私はその神々しい姿に息をするのも忘れて、ただただ見とれていました」

 その日よりエルドラン国には『鬼の中の鬼』という伝説が語り継がれている。

タニカワ教授とセレア口調 PFCSss

 「タニカワ教授?」

 研究室で私がレポートを書き込んでいると、机を挟んで反対側から声が聞こえた。私の助手を名乗る生徒は前屈みになり、両手を机の上に置いて私をガン見している。

 「なんだい?ルビネル」

 「あなたに『相談したいことがある』と言った子がいるんですが……」

 ルビネルは背筋を伸ばし、胸を張るとその黒髪をバサリと揺らした。しなやかな黒髪の毛がふわりと舞う。

 「お時間頂けないでしょうか?」

 「いいけれど……私はスクールカウンセラーじゃないぞ?」

 彼女は不敵な微笑みをこぼしながら、研究室を出ていった。





 「こんにちは、なのじゃ! わらわの名前はセレア!」


 入れ替わり入ってきたのは、白いドレスのような服を来た女の子だった。私の推測では外見年齢12才で、今年二十歳になったルビネルよりはずっと幼く見える。


 「こんにちは。私はこの学校の教授をしているタニカワだ。よろしくお願いするよ」

 「おぉ! よろしくなのじゃ!」


 差しのべた手を嬉しそうにぶんぶん握手してくれるセレア。銀のショートカットが手に合わせてふわふわ揺れた。
 ルビネルの魅力を『綺麗』と定義するなら、彼女――セレアの魅力は『かわいい』と位置づけられるだろう。ニンマリと笑った顔には父性を刺激する力がある。


 「そこの椅子座っていいからね?」

 「気が利くのぉ。それじゃお言葉に甘えて」


 セレアの身長だと胸から上しか机にかくれて見えなくなった。腕枕を作るとそこに顎をのせてセレアは話始めた。

 「早速じゃが……実はのぉ。この通りわらわは特徴的なしゃべり方なのじゃ。最近、周囲からどう見られているのか気になり出してなぁ」

 一端話を切り私の様子をうかがうセレアに、私は『続けて』と呟いた。女の子の悩みというのは他人に話すだけでもかなり改善してしまう。相談することで論理的に解決してほしいのではなく、気持ちを共感して欲しいという欲求の方が強いからだ。

 「そしたら気になり出したらなぁ。わらわの話し声を聞いた大人が笑っているような気がしてな。この前も子供に指を指されたし。きっと相当変な風に見えるんじゃろうな……いや、実際変なんじゃろう。今朝もなんか言われたような気がしたし、偶然にしてはあまりにもそういうことが多すぎる。最近悩みで夜も眠れなくなってきた。改善しようと思ってもこの通り、産まれてこのかたずっとこの口調だったから直すに直せん。かといって、周りの視線は気になるし。うーん、どうしたものかのぉ……」


 ダムから水が溢れるかのようにセレアの口から言葉が出てきた。どうやら悩みを相談できる相手がいなかったらしい。私は無意識のうちに悲しげな表情をしながら耳を傾けていた。
 私は話終えたセレアを見据えて言った。


 「君は私に具体的なアドバイスを求めているのかい?それとも、慰めて欲しいのかい?」

 「アドバイスを頼む」


 セレアはきっぱりと言い切った。そのわりには顔を腕にうずもれてだらりとしている。こうしている間にも彼女なりに答えを導き出そうと奮闘しているようだった。
 私はそんな彼女にできる限り優しく声をかけた。

 「セレアさんは周囲の人を気にしすぎだと思う。例えば……もし、君が散歩しているとき全く知らない異国語を話している人がいたらどうする?」

 「ちらりと見るな」

 「その後は?」

 「後?」

 「セレアさんはその異国語を話す人に話しかける?ついていく?笑う?」

 「無視するな。気にも止めんかもしれん」

 「そうだ。君の口調にも同じことが言える。周りの人は君が思っているほど君の語尾を気にしていない。一瞬違和感を感じてちょっと見て、何事もなかったかのようにもとの作業に戻る。それだけだ」


 なにかを思い付いたようにセレアは机をバンと叩き、前のめりになった。びっくりした。

 「なるほど! お主の言う通りじゃな。人はいちいち赤の他人の話し言葉なんか気にしておらん。気が楽になった気がするのじゃ」

 私はつい授業のノリで補足をした。悪い癖だ。

 「船が行き来するようになって、必然的に人は方言や異国語に触れ合う機会が多くなった。閉鎖的な集落での話ならともかく、転校や転入が多いこの都市では普通のことだ。特別な存在でも、嫌がらせの対象でもない。話すときに相手に言葉の意味がちゃんと伝われば何の問題もないんだ。何か質問は?」

 「大丈夫。今夜はぐっすり眠れそうじゃ」


 さっきまでとはうってかわってハツラツとしているようだった。彼女は笑顔がよく似合う。
 私は彼女の頭をゆっくりと撫でた。一瞬ビクリとしたけれど、照れ臭そうに頭をつきだしてきた。滑らかな髪の毛の触感が私の指を通じて伝わってくる。何度でも撫でたくなる髪の毛だ。
 数分経ったあと、私がハッとして彼女の頭から手を引くとセレアはいたずらっぽく微笑んだ。

 「もっと撫でてくれんか?」

バトーvsアルベルト・グズラッド PFCS ss

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/03/19/220046

⬆このssの元ネタ。今の持ちうる技術で戦闘をアレンジしてみました。




『バトーは仲間たちと共に、ギャングまがいの違法取引や密輸を繰り返すノア輪廻世界創造教の本堂に侵入した。彼を待ち受けていたのはパラレルファクターと呼ばれる特殊な力を持つ異能力者たち。そのなかでも有数の実力を持つアルベルト・グズラッドが彼の前に立ちふさがった』





 東塔の渡り廊下。バトーはいきなり敵幹部と対峙した。

 「シャーヒャヒャハェ!お前らカルマポリス軍じゃねぇな。どこの国の軍隊だ?ノア新世界創造教になにしに来た?どっちにしろ侵入者はぶっ殺してやるけどよぉ。神様信仰してりゃこの俺、アルベルト様は何だってしていいのよ!シャーヒャヒャハェ!」

 修道服に身を包んだ、いかにもヤバそうな男。その修道服にもパサパサした茶色い斑点が所々付着しており、こいつが何をしているかを暗示している。
 金髪を揺らし、碧眼を光らせながらバトーは仲間たちの一歩前に立つ。

 「俺がやろう。この狭さだと一人で戦うのが限界だ。二人は階段まで下がってくれ」

 バトーは敵の大剣に対して細身の剣だ。
 敵は広角が引きちぎれそうなくらいの満面の笑みを披露している。修道服を着崩しており、中に真っ赤な服にすさまじい量の銀色の首飾りをつけている。
 左右の目に二つずつある瞳孔がバトーたちを睨み付ける。
 
 「俺はなぁ、お前らみてぇな侵入者を何人もぶっ殺してンだ。最近は雑魚ばっかりでよぉ!ノミのほうがまだいい勝負を仕掛けてくんだよ。お前らもノミ以下かぁ!」

 バトーは全く恐れる様子もなく言い返す。


 「俺はお前に値踏みされるほど、安くはないし、井の中の蛙に負けるほど落ちぶれてもいない」

 「そうかい!そうかい!面白くなってきたぁ!シャヒャヒャヒャ!」


 敵は剣を取り出した。赤い呪詛が垂れ流しになっており、不気味に光っている。

 バトーに切りかかった。バトーは剣を使って攻撃を受けようとしたが、一瞬にして剣がどろっと溶けてしまった。

 「何っ!」

 「俺の呪詛は剣を介して触れた金属を溶かす。一見地味だがお前みたいな剣使いにはサイコーに相性がいいんだぜぇ!」

 横になぎはらわれた剣がバトーの服を切った。アルベルトはそのまま、何回も剣でバトーを突いていく。バトーの腕が、足が、胴が切り裂かれていく。
 狭い廊下の床と壁に赤い斑点が出来ていく。

 「ぅぐっ!あが………ヌア゙ァ゙ッ」

 「てめぇは女装してキャバクラにでも働いてた方がいいんじゃないか?なんっつって、シャハハッ」

 バトーはかわす一方で反撃に出られていない。それでも、行き絶え絶えで氷の魔法をアルベルトに放った。本来なら敵を凍らせるはずの冷気を受けているはずなのに、アルベルトはケラケラと笑うだけだった。それどころか股間狙いの蹴りまで繰り出され、冷や汗をかく。

 「んー涼しいねぇ。魔法無効のパラレルファクターだぜぇ!ほらほら、このままだと死んじまうぞ?シャーッハッハッハ」

 「……このサイコ野郎が」

 一方的な死合いが展開された。決して小さくない血溜まりが出来ていき、それを金色の髪の毛が彩る。
 バトーは追い詰められながらも必死に頭を回転させる。知恵と勇気でこの場を乗りきらなければ、この先の戦いを生き残ることは出来ない。
 仲間は狭い廊下のせいで、バトーの加勢に入れない。
 バトーはなすすべもなく壁際に追い詰められてしまった。

 「俺に魔法は聞かない。剣も効かない。死ねぇ!!」

 剣を弾く音とドスッという鈍い音が響き渡った。

 『水よ……我が手に集いて刃と成せ!』

 「こっ氷の剣ッ!?クソッ!無抵抗なヤツをいたぶるっつうのが楽しいのによぉ」

 バトーの手には水筒で作られた剣が握られていた。その先はアルベルトの肩に突き刺さっている。
 氷なら鉄でないから敵の剣に触れても溶けない。魔法で作ったのではなく、水を制御し凍らせて作った物だ。素材自体は純粋な水であり、魔法由来ではない。アルベルトの魔法無効のパラレルファクターは効かない。

 「それで勝ったつもりか?女顔!」

 肩から伸びた氷の剣をアルベルトは手から血をにじませて引き抜ぬいた。あまりにも強引な手段にバトーも一瞬唖然とする。アルベルトはすかさず反撃に出た。
 一見力任せに見えるが、確かな技術を用いた剛剣。それをバトーは剣で受け流すようにさばいていく。バトーの氷の剣はか細く頼りないのにも関わらず、折れず、刃こぼれもしない。
 バトーは身震いしていた。今まで魔物や自分を女と間違えていざこざを起こすような輩や、はたまた国レベルで問題を起こすような敵とも戦ったことがある。
 しかし、アルベルトに至ってはそのどれとも違った。勝つためにはありとあらゆる手段をこうじ、弱者をいたぶることを楽しみとする人間のクズ。その上技術は世界有数という異形すぎる存在だった。
 怖くないと言えば嘘になる。体の痛みが精神を萎縮させる。だが、今バトーが倒れれば仲間を危険にさらしてしまう。逃げるわけにもいかないし、野放しに出来るような奴でもない。
 それに、こいつよりもヤバイ戦闘狂を相手にしていつも修行しているのだ。勝てないはずがない。バトーはそう、自分に言い聞かせた。闘技場で拍手喝采を受ける戦友の姿を思い浮かべると、自然と心の乱れが収まった。
 落ち着きを取り戻したために、バトーの剣術がキレを増す。バトーがだんだんとアルベルトを押し始めた。

 「くっ……あいつとの練習がこんなところで役に立つとは……」

 「お前、割といい腕してんだな。まあ、俺様には足元にも及ばねぇがなぁ!」

 バトーの視界が突然真っ暗になった。なにかで目潰しをされたのだ。生暖かいぬめっとした感触から、直感的にそれが血液であることを悟る。

 「上品に戦っているようじゃあ!俺にはあの世で修行しようが勝てねぇぜ!シャハハハハッ!」

 アルベルトが止めを刺そうとした瞬間だった。犯罪者とはいえ剣術の達人である彼があろうことか転んだのだ。ありえない光景に仲間も唖然とする。

 「床がッ! 氷ってやがる! ふん、だが無駄な抵抗だったなぁ!」

 アルベルトは滑らかな動きで立ち上がると同時に、顔もとを狙った。
 そのとき、バトーは丁度目をぬぐっていた所だった。反射的に右腕で顔をガードする。大剣がバトーの右腕を切り裂いた!

 「ア゙ァァッ!!痛つっッッ!!」

 「これでもうお前の利き腕は使えねぇ。そして、俺の剣は利き腕じゃない方の手で捌けるほど軟弱じゃねぇ!死にな」

 容赦なく振り下ろされる剣。だが、バトーは左手に現れたもう一刀の氷の剣で受け流した。驚愕するアルベルト。
 バトーは地面に滴る血液中の水分を利用したのである。

 『出よ、我が聖なる刃!〈氷斬剣〉!!』

 アルベルトの胸を大きく切り裂き止めを刺した。死んではいないものの、戦闘続行は不可能な傷だ。

 「悪いな、俺は双剣使いだ」

 右腕を押さえながらアルベルトに背を向ける。仲間に傷薬と呪詛で治療を受け、患部を包帯で保護した後、その場を後にした。幸いバトーの受け方が上手だったため、切り傷が綺麗で治療は楽だった。今後の戦闘にも支障は無さそうだ。
 
 「まさかこんな、クズみたいな剣士がいるとはな……。だが腕は一流か。惜しいな」

戦闘曲を考えてみる

 私は小説を書くとき何も見たり聞いたりはせず、電車の座席か家で思い付いたときに書いています。
 ただ、小説やキャラクターを考えるとき音楽や映像作品を参考にすることはわりとあります。今日はそのなかでも戦闘の時に流れそうなものに限って、独断と偏見をガンガンにいれて紹介しようと思います。あくまでお遊びなので、笑い飛ばす位の気持ちでご覧くださいませ。
 (最初の1分試聴していただくだけで充分雰囲気はわかります)

 

youtu.be

 『ひな祭りss』でのエアリスの戦闘シーンにて参考にした曲。戦闘意欲すら奪う圧倒的なコーラス。倒しても甦る。消滅させても次がくる。怒濤の戦闘にぴったりのイメージだと思う。
 原作のスターウォーズの曲のなかでも有名っぽい曲。この曲をバックにライトセイバーぶんまわすダースモールがマジでかっこいい。

 

youtu.be

 解剖鬼の戦闘シーンにて参考。ドスの効いた低音と不気味さが解剖鬼のイメージにあってる気がする。メスを片手に血を浴びたコートを揺らしつつ、ゆっくりと歩いていくイメージ。
 あのブォーーン!っていう低温が好きです。
 メタルギアVの曲でゾンビ擬きと鉱物人間を相手にするときに流れるBGM。半分ホラー。

 

youtu.be

 チュリグのハサマ王が戦闘するときに流れていそうなBGMだと思った。コーラスが絶望感を煽る。短いけど、ハサマ王ならこの曲が鳴り終わるまでに敵を瞬殺してくれるはず。
 人型ロボットが殺りあうアーマードコアというゲームより抜粋。そういう意味ではエアリスの方がイメージ的には合うかな?

id:hazukisan

 

youtu.be


 クレスダズラのアルマ・ユマさんの戦闘を書くとしたらこの曲をイメージする。必中必殺の攻撃って実際どんな感じなのだろうか。
 何?画像がマリオ出典だから明るい曲じゃないかって?聞いてみて。なんかこう……違うから。

 (id:haru1792)

 

youtu.be


 グランピレパの魔王スヴァルドの戦いを書くならこの曲。フツーに強そうな曲を選んでみた。この曲をバッグにルビネルから同人誌を買ってほしい。

 

youtu.be

 ドレスタニアのガーナ王が無双するならこんな曲でどうでしょう。テンポよく、重々しく、相手にしたときの勝てなそう感がよく出てる。
 悪魔城ドラキュラのラスボスドラキュラの曲。

 id:nagatakatsuki

youtu.be

 リリィちゃんが戦う時に流れそうなBGM。不安定さを出すためにあえて独創的な曲を選んだ。後半の転調がすごい。うん、イメージとあっているかどうかは別として強そう。

 毛糸のカービィの曲だけど、普段のカービィのイメージである明るさは0。

 id:yokosimamanako

youtu.be

 アンティノメルのダンテが戦いそうなBGM。ピアノメインの静かな曲。記憶を失って、哀しみを背負いつつ戦うようなイメージがぴったり。安直な選曲だけど許してくれ。
 キングダムハーツより。

 id:poke-monn

youtu.be

 ルウリィドのサラトナグさんが戦うようなBGM。今までとすんごい差だけど気にすんな。爽やかなコーラスがサラさんの植物を利用した生命力溢れる戦いかたにマッチしてる気がする。
 志方さんの曲を探したら偶然見つかった曲。二分からのさびに注目。

 id:o_osan

 

 今思い付くだけて大体これくらいですかね。我ながらひどく歪んだ選曲ですね(汗)

 

 

ルビネルの願い PFCSss10

ルビネルの捜索願い PFCSss

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/28/091650

ルビネルの手術願い PFCSss2

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/05/31/172102

ルビネルの協力願い PFCSss3

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/01/083325

ルビネルへの成功願い PFCSss4

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/02/153244

ルビネルの豪遊願い PFCSss5

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/03/075127

ルビネルの修行願い PFCSss6
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/04/224102

ルビネルの施行願い PFCSss7

http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/07/175035

ルビネルの決闘願い PFCSss8
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/14/220451

ルビネルとセレアの死闘願い PFCSss9
http://thefool199485pf.hateblo.jp/entry/2017/06/15/210343


こちらのssの続きになります。

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Self sacrifice after birthday 10



 「ここが、その場所か。ずいぶんとまた美しい場所だ。キスビット国にこんな場所があるとは」

 ガーナの言葉に偽りはない。辺り一面空色の花に覆われている。所々白い花の円があり、同じく白色の蝶が舞っている。

 「どちらが空だか見分けがつかんな」

 私はペストマスクを上に動かし、快晴の空を見上げた。

 「門出としちゃ粋な計らいですぜ。もっとも、見送りがセレアを除いてゴツい輩ばかりですが」

 老人が焦げ茶の帽子に手をかけてニヤリと口をつり上げる。

 「もし不快だったらわらわが『かっ飛ばす』からな」

 笑顔で物騒なことを言う、あの修業のあと数分で完全復活したセレア。年寄り三人組は、ハハハと言いつつそれぞれ獲物に手をかける。私含め、ばりばりの警戒心を微塵も表情に見せない辺り、化け物揃いの面子である。
 私と同じく、黒い髪とコートをはためかせながら本日の主役が微笑む。

 「フフフッ!ありがとう。肩の力が抜けたわ」

 清々しいほどの笑顔だった。おめかしして大好きな女友達と出かける的な雰囲気だ。やけに落ち着いているのは修業の賜物だろう。
 たった一ヶ月とはいえ、闇の世界でトップクラスの実力者であるガーナ王と老人の元で修業し、よく動くサンドバックこと私を毎日ボコボコにしていたのだ。冷静沈着を地で行く二人に教え込まれたお陰で、身体能力だけではなく冷静さに加え推理力や観察力、判断力も洗礼されている。
 私は知っている。図書館に引きこもって必死に知識を蓄えるルビネルを。老人とガーナ王の教えを素直に受け入れ、それを実践しようと一日に数千回技をかけ、研きあげていたルビネルを。血ヘドをはきながらも何度でも立ち上がり私に立ち向かっていくルビネルを。そして、最後には私を打ち倒して、満足げな顔で私を見下ろしたルビネルを。
 ルビネルの中にはどんなことがあろうとも対応出来るだけの基盤はもうすでに築かれている。だからこそ、ルビネルは死地へ向かうという異状であり得ない状況でも普段通りなのだ。
 たとえ、寿命四日でも……。

 「そろそろ予言の時間ですぜ」

 白い花の円のうちひとつが発光し始めた。光はやがて、扉のような形に姿を変えた。周囲の気流が変化し、まるで換気扇に煙が引き込まれるかのように、光に向けて空気が流れていく。恐らく別空間に通じる穴のようなものだろう、と私たちは推測した。

 「どうやら、あれが占い師の言う『腕』らしいな」

 敵の能力に唯一対向することの出来るルビネルが先陣をきり、その後老人・ガーナと続き後方をセレアにカバーしてもらう。陣形を組み、『腕』に飛び込むチェックを済ます。
 よくよく考えると頼りになることこの上のないメンバーだ。生粋の策士であり、どんなことがあろうとも決して油断なく隙なく勝利を狙っていく老人。冷徹非情でとても頭が切れる上、一度放つと千日は燃え続ける業火━━レヴァテインという秘技を持つガーナ王。戦闘能力はもとより、再生能力を持ち何度粉砕されようと甦るセレア。そして、鬼の怪力と再生能力、妖怪の呪詛という本来なら不可能な組み合わせの力を持つルビネル。

 「ここで足踏みしていても仕方ない。行くぞ!」

 ガーナ王が私たちを鼓舞するために叫んだ。

 「さようなら、解剖鬼さん」

 ルビネルはゆっくりと光の扉に入って行く。光に包まれた後ろ姿は神々しく、彼女がまるで女神か何かのように錯覚する。消え去る直前で振り向き、笑顔で私たちのことを見つめつつ向かっていった。

 最後の最後に名前を呼ぶとは……泣かせてくれる。

 私は……ここで帰りを待つ役だ。出口を確保しておくために最低一人は信頼できる誰かを残しておく必要がある。私は居残りを買って出た。もうすでに戦いの次元は私の実力を遥かに越えており足手まといになるからだ。小説や漫画ではよく『かませキャラ』というものがいるがまさにそれだろうな、と自嘲する。

 私が居残り役に手を挙げたとき、唯一哀しげな顔をしてくれたな。

 「帰りを待っているぞ、ルビネル」

 彼女の背中に私は手を振る。

 私は今までルビネルの主治医をしてきた。風邪があれば薬を処方したし、健康の相談があればのってあげた。ただ、それは決して彼女を戦地へ送り出すためのものではない。ルビネルの拳で誰かを傷つけさせるために行ったのでもない。彼女の健やかな成長と、希望に満ちた人生のために私が出来る最大限の手伝いだった。
 ここまで来て、まだ私の心は揺れていた。後悔、その二文字が私の頭を支配して離れない。

 ……と、悲嘆にくれている私を三人の声がたちきった。

 「なっ!そりゃあないですぜ!」

 「これは、どうなっている?」

 「扉がきえたじゃとぉ!」

 開いた口がふさがらなかった。ルビネルがくぐった際に扉が消滅していたのだ。

 「まずいな。ルビネルにつけた呪詛式発信器も沈黙している。転送の術を使える者は?」

 ガーナ王が老人に言った。

 「ダメです。さっきから試しているんですが、術の痕跡を探しても何もねぇ」

 「ちょっ……ちょっと待てぇ!じゃあルビネルは単独で『奴』と戦うのか!?っていうかどうやって戻るんじゃあ?!」

 ガーナが苦虫を噛み潰したような表情をしている。そんな様子を見かねて私は口を開いた。

 「待とう。当初の予定通り、私がここでルビネルを待つ。ガーナと老人は出来ることをしてくれ。短期間とはいえ、私たちで育て上げ自信をもって送り出せると太鼓判を押したような奴だ。必ず帰ってくる。それに、私たちが信じなければ誰が彼女の力を信じてあげれるんだ」

 「そうですぜ。悲観する前に出来ることをしておきましょう。俺はとりあえず部下たちに指示を出してきやす」

 老人が顔をあげて部下の元へと歩いていく。

 「そうだな。人の力というのは侮れん。それに、他者と協力していたとはいえ、私でも不死者に一太刀浴びせることができたのだ。彼女に出来ないはずがない。それにこのゲートは一方通行ではあるが、ルビネル側にこの場所に戻るための扉がある。その証拠に、門のあった場所からわずかばかりに気流が流れ出ている」

 含み笑いを浮かべつつガーナも老人と共にこの場を立ち去る。
 ドレスタニア図書館にこの現象についての記述があったのだ。そして何より、ガーナはルビネルのことを信じている。

 「わらわは……どうすればいい?子供だからこういうとき何をすればいいのかわからん」

 「好きにすればいい。気をまぎらわしてもいいし、ガーナ王や老人に協力してもいい」

 「そなたは?」

 「待ち続ける」

 「そうか。お主が待つなら、わらわは迎えにいくととしよう」

 セレアが空の彼方へ消えていった。ダメ元で世界中を探索するらしい。
 一応、一週間程度の備蓄は用意してある。信じて待つしかない。
 信じていれば奇跡はきっと起こるはずだ。
 ほぼ丸腰でノア教本堂から逃げ出すときも、犯罪者は生きては出られぬとされるチュリグで逃亡していたときも、蛾の化け物に丸のみされたあげく意味不明な奴にとりつかれた時も、遥かに格上であるエアリスが群れをなして襲いかかってきた時も、私は常に自分を、そして仲間を信じてきた。そして、何度死にかけようともありとあらゆる手段を用いて生き残ってきた。
 私はいかなる状況でも『必ず生き残る』と信じ続け、常に最大限の努力をしてきたからだ。生を諦めるなどという言葉は私には存在しない。

 その執念を叩き込んだ彼女もまた、地を這いずり回ってでも生きて帰ってくるはずだ。

 私は花畑を見渡した。空色と白色の花。
 そうだ、帰ってきたら花飾りでもプレゼントしよう。私のアンダーグラウンドなら、植物を傷つけることなく花を摘むことが出来るはずだ。
 私が花で作られたリングを手に持つ姿をみたら、ルビネルはどんな反応をするのだろうか。あまりのギャップに、あの笑顔をもう一度見せてくれるに違いない。


 「頼んだぞ、ルビネル」




 私は花畑で座り込み、ただひたすら祈っていた。




 日が沈み、日が登り、そしてまた日が沈んだ。蝶がとまったり、イモリがコートの上を這いずり回ったりしたが、全てほっといた。手に花の冠を持ったまま、私は一切動かなかった。一日に数十分ほど風呂に入る時間を除き、私はずっとルビネルを待ち続けた。

 老人になんと言われようと、目の前でセレアが泣きじゃくろうと、ガーナ王が悲壮めいた目で私を見つめようとも、動かなかった。

 私は花の冠のかわりに握られた、紅色の手帳をボーッと見つめながら、何日も何日も待ち続けた。

 そして、一ヶ月が過ぎたころ……私は全てを理解し、立ち上がった。

 私は何度となく見直したページをもう一度開く。








『私は晴れ晴れとした気持ちです。まるで、一点の曇りもない晴天がどこ待ても続くよう。

私が帰らないことをどうか、赦してください。

ことをなし得なければ、愛する人の手によって、さらに多くの人がこの世を去ってしまいます。だから私は行くのです。

遺品は全て売ってお金にして父と母に渡して下さい。この先十年も二十年も親を悲しませるのは辛いですから。

書くことはまだまだありますが、思い付くことは感謝の言葉だけ。父、母、従姉、私を支えてくれた友達や先生、最後までついてくれた仲間。

私がみんなからもらったものに対して、月並みの感謝の言葉では到底言い表せないけれど━━ただ、ただ『ありがとう』。一言に尽きます。


ありがとう


ありがとう』




 ルビネルの動脈血と脊髄液に心筋細胞が混じりあった液体。それが大量に付着し、固まった手帳を閉じた。

 いつものことじゃないか。人は唐突に死ぬ。事故で病で自殺で。そして私は幾度となく自殺志願者を安楽死させてきた。
 だが、何故だろうか。何でここまで胸が痛むのだろう。胸が引き裂け正気を失いそうだった。

 気がついた時にはすでに、全身を震わせながら泣き叫んでいた。声帯が破壊され、喉から血を吹き出した。濁り拳からは血が滲み、手袋のなかに血だまりが出来る。

 私は愚か者だった。逆らおうと思えばいくらでも逆らえたはずだ。彼女の思いを踏みにじり、全員から恨みや憎しみを買おうとも彼女を止めるべきだった。
 私が彼女を冥界へと手引きしてしまったのだ。

 後悔先に立たずというが……頭で理解しようが納得できん。とりあえず、動くんだ。

 彼女の遺してくれたこのメモ帳には、奴の特徴や弱点が詳細に記述されている。ルビネルが私たちに進むべき道を示してくれたのだ。ルビネルの、誕生日後の自己犠牲を無駄にしてはいけない。

 空色の花畑が目に焼き付いている。目を閉じてもあの花畑の幻影が浮かぶ。

 紅色に花畑の空色が混ざりあい、混沌とした色調を呈するメモ帳を懐にしまい、私は一歩踏み出した。

ルビネルとセレアの死闘願い PFCSss9

ルビネルの捜索願い PFCSss

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ルビネルの手術願い PFCSss2

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ルビネルの協力願い PFCSss3

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ルビネルへの成功願い PFCSss4

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ルビネルの豪遊願い PFCSss5

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ルビネルの修行願い PFCSss6
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ルビネルの施行願い PFCSss7

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ルビネルの決闘願い PFCSss8
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⬆こちらのssの続きになります。

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Self sacrifice after birthday 9


 私と老人そしてガーナはそれぞれワイバーンにまたがり、固唾を飲んで向かい合う二人を見守っている。

 全員の視線の先には二人の少女。片や黒髪に黒コート。片や銀髪に白いワンピースに、ランドセル型の飛行ユニットが目をひく。

 老人はカルマポリス呪詛式通信機を取り出した。私たちもそれに倣う。老人のつれてきた部下たちによって、二人の様子が脳内に直接送られてきた。視界内の物体を正確に追える妖怪と、その妖怪の視界を周囲の人間に共有する精霊の加護だ。

 「二人とも、出来れば俺たちの視界の範囲で戦って下せぇ」

 二人は頷くとそれぞれ臨戦態勢に入る。セレアの右腕が銀色の液体と化し、全く別の形に変形していく。最終的にセレアの右腕はガトリングガンに変形した。銃口から無数の弾丸が射出される。
 実は、セレアの体は液体金属で出来ている。全身のうち三ヶ所を自在に変形出来るのだ。今のところ判明している変形出来る部位は、肩から先と太ももから先、そして背中だ。
 ばらまかれる銃弾に対して、ルビネルは縦横無尽に空中を動き回り避け続ける。追撃に撃たれた二発のミサイルもペンで易々と迎撃した。

 「手術前に比べて動きが明らかに良くなっている。動体視力や判断力もかなり上がっているようだ。しかも肉体が鬼と化しているお陰で呪詛も無理がきくらしいな」

 冷静に分析するガーナの声が無線機から聞こえた。

 ルビネルはさらにエアリスに接近すると、ボールペンを乱射する。セレアは避けようとするも、ボールペンの追尾能力が高くなかなかふりきれない。

 「ほぉ、少しはやるようじゃの?」

 セレアの背中の飛行ユニットが瞬時に巨大化した。セレアを優々と隠す程の大きさだ。三角形の飛行ユニットは、足元にバーナーを装着した黒い凧のように見える。

 「あれは何ですかい?」

 「セレアが高速飛行するときの形態だ。速度は速いが減速しにくいのと、曲がりにくいのが欠点だ。また、高速飛行中にダメージを受けると停止せざるを得ないという弱点もある。液体ではあるが金属だ。過冷却されると凍ってしまう」

 ふむ、というガーナ王の声が割り込んできた。

 「随分と詳しいのだな」

 「半殺しにされたから研究した。本人と一緒にな」

 セレアは体をのびーっとして、日向で横になっている猫のような姿勢になった。万歳をして顔を上に向けている。飛行ユニットが猛烈な業火を吹き出したかと思うと、セレアは私の視界から消えた。いつのまにか、飛行するルビネルの後ろをとり、ガトリングガンを連射している。
 ルビネルはジェットコースターが如くシャトルループを決めてセレアの背後を取りに行く。負けじとセレアもルビネルの背後を狙い続け、両者きりもみしながら空中を高速移動する。だんだんとセレアとルビネルの距離が縮まり、ルビネルが追い詰められていく。

 「まるで鳥獣の戦いですぜ。人型の妖怪がする戦い方じゃねぇ」

 「ペンだけでよくぞここまで出来るものだ」

 「片手だけしか使ってないな……。セレアは背中の飛行ユニット含め、全身のうち三部位を変形出来るはずだ」
 
 とうとうセレアとルビネル、追うものと追われるものの関係が逆転した。急旋回でセレアの背後をとったルビネルは、無防備なセレアの背中にボールペンを投げ込んだ。
 セレアは飛行形態を解くと、ガトリングガンを剣に変え、ボールペンを叩き落とす。
 呪詛により、強度が増したボールペンは簡単には壊れない。弾かれたボールペンは完全に破壊されるまで、まるで磁石に引きつく金属のようにセレアに食らいついていく。

 「右腕だけでペンの嵐を防ぐとは」

 ガーナ王の言葉に私は頷く。実際にはガーナは他のワイバーンに乗っているので、彼から私は見えていないが。

 「当然だ。セレアは片腕だけでソラやライスランドの先生、クライド、バトーの二刀流……他にも様々な達人たちとわたり合っている」

 ボールペンだけでは埒があかないと考えたのか、とうとうルビネル本体がセレアに突撃した。セレアの頭上から回転しながら強烈な裏拳を叩き込む。
 さすがのセレアも左手を使わざるを得なかった。肘を曲げて、ルビネルの裏拳を受け流した。ルビネルは攻撃の手を緩めず、受け流された反動を利用して、後ろ蹴り、回し蹴り、横蹴り、と流れるようにラッシュをかける。
 必殺の一撃はコンクリートすら砕くとされる鬼の筋力。そして、それをマッスルスーツのように補助する全身に隠されたペン。
 蹴る瞬間には足に仕込んだペンを操作し、蹴る向きに動かすことで攻撃の速度を加速させている。運動量は速さの二乗に比例するから、加速による影響は手数だけでなく、打撃の威力にも貢献している。クォルの大剣を受け止めるセレアの剣でも防ぐのは容易ではないはずだ。

 「鬼の再生能力で呪詛の肉体への負担を無視出来るし、逆にペンを操る呪詛で打撃を強化できる。予定通りですぜ」

 異なる二種族の力を同時に、それも高出力で、扱えるものなどこの世には殆ど存在しない。単純な戦闘力だけで言えば、かなり上位の存在になったはずだ。もっとも、その代償が大きすぎて釣り合っていないが。

 「セレアの方もルビネルの動きを読み、力を受け流し最低限の労力で攻撃を防いでいるな。お前の戦況報告によれば、セレアは回復力にものを言わせて防御などせずに相手を叩きのめすとのことだったが……」

 「数々の強敵と戦ったことで学習している。前と動きが同じなわけがない」


 じりじりとセレアが押されていく。両手をフル活用してボールペンと拳を受けつつ、剣撃をくりだしているようだが、このラッシュはセレアにも厳しいらしい。前半とは売ってかわってルビネルのペースだ。

 「ふむ。打撃の強さは鬼の中でもトップクラス。じゃが付け焼き刃の格闘技術に加えて、近接戦闘そのものの経験が浅いから生身で言えば、ソラや紫電といったプロには一歩及ばない。呪詛は汎用性が高い上にそれなりに強力じゃが、EATERやハサマといった規格外の強さではない。二種族の力を合わせて、ようやく強者に勝てるか程度の実力じゃ」

 不穏な通信が入った後、セレアは両腕を採掘機についているドリルのような形に変形させ、ダメージ覚悟で突進した。なんとか避けたものの、突然の出来事にルビネルは一瞬無防備になった。その隙をつき、セレアは腕をさらにヒモのように変形させルビネルの体に巻き付ける。

 そのまま、高速飛行しつつ前方から後方に向けて暴風の呪詛を発動。向かい風にルビネルを叩きつける。かまいたちがルビネルの背中を切り裂いていく。
 そして止めと言わんばかりに、スクリュードライバーの流れに持ち込んだ。海面にルビネルが打ち付けられる。あの早さでは地面に叩きつけられるのと同じだ。普通の妖怪ならまず生きてはいないだろうが……


 「……お主はよく頑張った。武芸者でもない、一般人であるお主が短期間で人としての限界を越えた。素晴らしいと思う。じゃがな、もうわかったじゃろう?お主がこの期間でいくら努力しようと一線を越えることは出来んのじゃ。あと二年、恵まれた師に従事すればよかったものを……」




 「本当にそうかしら?」




 海から水柱が建った。その頂上から人影が一直線にセレアヘ向かっていく。

 ルビネルは拳を腰まで引いている。ためをつくり、必殺の一撃をセレアヘ食らわせるつもりだ。
 突如として浮上したルビネルにセレアは少し驚いている様子だ。両腕を交差して防御の構えに移る。
 
 ルビネルの拳はセレアのガードに阻まれてしまった。

 「おしかったのぉ、ルビネル」

 「いいえ?」

 ルビネルの拳がセレアのガードをぶち抜き胸部を打った。その瞬間、無数のペンがセレアに突き刺さる。
 腕を失いガードの出来ないセレアに対して、拳とペンの連打が襲いかかる。セレアの肉体がボロ雑巾のようにほつれて、原形を失っていく。

 「及第点……じゃな」

 ルビネルがラッシュを止めたときには、セレアは宙に浮かぶ銀色の水滴と化していた。


 「ほう、あれをくらってまだ戦えるんですかい?」

 老人の疑問にガーナ王の丁寧な解説が付け加えられた。

 「鬼に伝わる技術であるパンプアップだ。全身の筋肉に血流を送り込むことで、一時的に筋肉を膨大させる技術。それによって衝撃への耐性が増加する。さらに背中に仕込んだペンを操作することで、海面に直撃する寸前で速度を弱めた上、受け身をとった。咄嗟にしてはなかなかの判断力だ」

 ガーナ王の言葉に少しだけ安心した気がした。これなら、ルビネルは敵を倒して帰って来るかもしれない。

 「相変わらずえげつない汎用性ですね。ボールペンの呪詛。まあ、セレアがどっからどう見ても本気を出していなかったのが気になりやすが、まあいいでしょう。俺は自信をもって彼女を推しますぜ」

 老人も満足げに笑った。彼らの様子を見て、私はようやく覚悟を決めた。

 「ルビネル、今の気分はどうだ?」

 「……落ち着いてる。全ての感覚が研ぎ清まされて、全身が闘いに対して、適応しているような気がする。初めての感覚だわ。もう、体の動かしかたや特性も理解した。次はこんな無様な闘い方はしない」

 「そうか……。お前たちがそう言うのなら……私も腹をくくってルビネルを送り出すことにしよう」